「ユニちゃん、ユニちゃん!?」
「ちょっと、どうしたのよ!」
「やっぱり、負けちゃったの……!?」
「ど、どいてくださいです!」
女神候補生が狼狽える中、コンパが前に出てユニの体を軽く診察する。
「………」
「コンパさん、ユニちゃんは……!」
「……大丈夫です。少し怪我はしてますけど。多分、気絶しているだけです」
「良かった……」
ネプギアが胸をなで下ろす。
命に別状はないみたいだ。
「う………」
「ユニちゃん!?」
ユニが呻いて目を覚ました。
力が入らないようだが、ネプギアのことはしっかりわかっているらしい。
「ネプギア……なんで、アンタが……」
「とりあえず、教会に運びましょう」
「わ、わかりました」
「い、いらないわよ……いたっ」
「無理しちゃダメ!今、支えるからね?」
ユニがネプギアの肩を借りて立ち上がる。
「い、いらないわよ、別に……」
「強がらないの。それより、誰の仕業?アンタを負かすなんて、とんでもない相手のはずよ」
「ま、負けてない!まだ負けてないわよ!だって私、まだ死んでない!」
「……はあ。スミキが聞いたら卒倒しそうなセリフね」
アイエフのその一言にユニが押し黙る。
なんだかんだユニの中でもスミキは大きい存在らしく、言い返すこともしないが負けたことを肯定もしなかった。
「それで、何者なの?」
「そうよ!ユニちゃんを負か……その、気絶させるなんて、そんじょそこらの相手じゃ無理よ!」
「不意打ちとか、された……?」
「……違う。ブレイブ・ザ・ハードとか、言ってたわ。マジェコンヌのクセに、やたらと正々堂々としてた」
つまり、ユニは正々堂々と戦って敗北したらしい。
それだけでもとんでもない相手だということがわかるが……。
「ブレイブ・ザ・ハード?……なんか、似たような名前のヤツを思い出して鳥肌が立つわね」
「私も、やな感じ……」
「アレはトリック・ザ・ハードですよ?名前が違うです」
「でも、名前は確かに似てるわね」
「……ギョウカイ墓場で戦った敵……その名前も確か……」
「ジャッジ・ザ・ハード……だったっけ?」
「はい」
「じゃあ、そいつもマジェコンヌ四天王の1人ってわけ!?」
「何よ、そのマジェコンヌ四天王って……」
「ジャッジは私が戦って……歯も立たなかった相手」
「でも、トリックは私達が倒したのよ!」
「ぶい……」
「私達全員でかかってようやくよ。それに、夜だったからこそでしょ」
浮かれている2人をしたためる。
「アンタ達……それを倒したの?」
「なんとかね。でも、スミキさんもボロボロになるくらいの相手だったし……」
「………そっか……」
「とにかく、街に戻って休むです。こんなところじゃ、治る傷も治らないですよ?」
「あ、そうですね。じゃあ、ユニちゃん」
「………うん」
ユニの心に植え付けられた敗北の傷は、なかなか大きいようだった。
ーーーーーーーー
教会にユニを預け、コンパを除いた4人はラステイションの街を歩いていた。
教会の中にずっとお邪魔するわけにもいかないし、それに理由がもう1つあった。
「その、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「ありがとう……」
《や、そんな改まって言われても……》
ミズキとの通信が回復したのだ。
そういうわけでミズキは3人にお礼を言われていた。
「いいんじゃないの?ホントならもっと感謝されてもいいくらいよ」
《僕は大したことしてないよ。トリックを退けたのは、君達なんだし》
「いいのよ、素直に受け取っておきなさい。洗脳を解いたのもアンタだし、ネプギアを成長させたのもアンタなんだから」
《はあ……。まあ、いいけど……》
なんだか納得していないみたいだったが、強引に認めさせる。
「あの、執事さん、手は?」
《手?ああ、大丈夫だよ。……っていうか、執事さん?》
「あ、えっと、スミキさん」
《……いや、執事さんでいいよ。なんだか、呼び慣れてるでしょ?》
少し、スミキの声からはがっかりしたような雰囲気がした。隠してはいるものの、だ。
「やっぱり、昔、そうやって呼んだことある……?」
《……かなり昔ね。まだ2人が小さかった頃だから、覚えてないんじゃないかなあ》
アイエフとコンパからしたらその乾いた笑い声は痛々しい。わざとらしい声もだ。
《それで、話は少し聞いたけど……ユニが?》
「相手はマジェコンヌ四天王だって話よ」
《それは……。仕方ない、とも言えるけど、ユニはそれじゃ納得出来ないよね》
トリックがあれだけの魔法と武器を命中させても死にはしなかったのだ。
さらに圧倒的な実力。
ユニが負けるのも仕方ない……というより、そもそも1人で戦える相手じゃないのだ、マジェコンヌ四天王は。
でも、だからといって負けてもいいというわけじゃない。
「た、大変です大変です〜っ!」
「コンパ?」
《どうかしたの?》
「あ、あれ?通信、回復したんですか?」
《ああ、うん。ごめんね、心配かけて》
「いえ!良かったです!」
「……で、どうかしたの?」
「あっ、そ、そうでした!あの、私、ユニちゃんの看護してたんですけど……!」
コンパだけはユニを看護してもらっていたのだが……。
「ちょっと目を離した隙に、何処かへ行っちゃって!」
「え、ええっ!?」
《探さなきゃ、だね。まさか、また挑みに行って……なんてことはないと思うけど》
「手分けして探しましょう。私は東、コンパは西へ」
「私達は南を探すわ!」
「じゃあ、私は北に!」
《僕も機体を使って探すよ》
6人はそれぞれ、別の方角へと走り出した。
ーーーーーーーー
………もう、プラネテューヌのみんなには事情を話した。
あとは用意された機体に乗るだけ、なのだけれど………。
「…………止まらない」
手が真っ赤だ。
血でベトベト、固まった血は赤黒く固まってしまう。
しかし、それでもミズキの意思など介せずに口から血が垂れた。
「マジェコンヌ四天王がいるかもしれない、か……」
あのトリックすら、強さは恐ろしいものだった。他の四天王もトリックと同じ実力だと考えるべきだろう。
そんな相手と本気で戦闘するようなことがあれば……。
「死ぬ、かも」
吐き出した弱音は案外すんなりと音になった。
みんなに会わないまま死ねないという気持ちと……このままみんなが自分のことを思い出さないというのなら、それも別に構わないという気持ちが揺らぐ。
「………でも、僕のことを覚えていてくれている人がいる」
だから、死ねないじゃない。
だから、死んでも誰かが語り継いでくれるという方向に思考が傾いた。
「ただじゃ死ねない。必ず守り切って……助けて……それからだ」
ミズキの視界がスサノオのモニターに入れ替わっていった。
ーーーーーーーー
「………」
ラステイション北、ゾーンオブエンドレス。
その奥地も奥地、そこにある段差に腰掛けているところどころに包帯や絆創膏を貼られたユニがいた。
私は、負けた。
みんなは勝った。
その事実がユニの体を押しつぶしていく。
言い訳はいくらでも出来る。けど、そんなことしても自分は許せない。
前だってネプギアに負けた。
リーンボックスで再会した時は、強くなったつもりだったのだ。新しいこともできるようになったし、自分の力が上がった気がした。
けれど、その時にはネプギアも新しい力を身につけていた。
そして、マジェコンヌ四天王を破るほどにまで。
「……何やってるんだろ、私……」
自分のしてきたことはなんだったのだろうか。それなりに努力したつもりだった。悔しくって悔しくって、強くなろうとした。
けど、私の強さはあんなヤツですら打ち砕けない。
「本当に、何やってたんだろ、私……あんなヤツにも、勝てないで……」
私が背負っているのは何?
こんなくだらない惨めさばかり。
ほんの少し涙が出てきた。
それが抑えられなくなりそうになった時、ユニの耳に慌ただしい足音が聞こえた。
「いた、ユニちゃん!」
「………ネプギア……」
顔を上げると、息を切らして立っているネプギアがいた。
「みんな心配してるよ、早く帰ろう?」
「……心配しなくてもいいのに、私のことなんて……」
「そんな、寂しい事言わないでよ」
「私なんて、いてもいなくても変わらないじゃない。同じよ、負けたヤツが何人いたって、そんなの……」
「ユニちゃん、それは……!」
「ほう?こんなところで女神候補生に出くわすとはな」
「っ、誰っ!?」
ネプギアが声のした方向にバッと振り向くとそこには剣を携えた巨人が立っていた。
「俺の名はブレイブ・ザ・ハード……」
背中には巨大なキャノン砲とウイング、胸には黄金の獅子。
「マジェコンヌ四天王の1柱だ!」
「アンタ、あの時の……!」
「ブレイブ……じゃあ、ユニちゃんが負けたって言うのは……!」
「無駄な殺生は好まぬ……尻尾をまいて逃げれば、今この場は見逃してやろう」
「逃げるわけには、いきません!ブレイブ・ザ・ハード、アナタは私達が倒します!」
「ふん、その意気は良し。だが、お前の隣の小娘はそうは思ってはいないようだぞ?」
「…………」
「ユニちゃん……!?」
「どうするつもりだ?貴様との決着は既についている。力量差もわかったはずだろう」
「………戦、う。私は……勝たなきゃ……」
「フッ、そんな抜け殻のような戦意では、足を引っ張るだけだぞ?」
「ユニちゃん……!」
ユニが変身をするも、その目に戦意は宿っていない。負けることがわかって戦うような、義務感だけで戦っている目だ。
「かかってこい。今度は怪我では済まさんぞ!」
(ユニちゃんを守らなきゃ……!)
ネプギアも変身し、4枚の翼を生やしたAGE2形態へと変身する。
「また、新しい姿に……」
「ユニちゃん、退いて!今のユニちゃんじゃ……!」
「………」
「来ないのならこちらから行くぞ。勝負は既に始まっているっ!」
ブレイブが背中のジェットを噴射して、ネプギアに急接近した。
(速いっ!)
「ふんっ!」
「きゃああっ!」
咄嗟にH-M.P.B.Lで受けたが、ブレイブの太刀は重かった。
ネプギアは受け止めきれず、吹き飛ばされてしまう。
「うっ、くっ!」
「戦う意志のない者は……」
「ユニちゃんっ!」
「………」
「この場に不要っ!」
そのままブレイブは剣を振りかぶり、ユニに狙いを定める。
しかし、ユニは動こうともせず、その剣をただ見上げているだけだ。
(私は……不要……)
「ブレイブ・ソードッ!」
「ユニちゃんっ!」
その瞬間、次元の扉が開いた。
「っ………え?」
「ぬうっ!?」
ユニに刀は当たっておらず、その寸前で止められている。
その太刀を受け止めていたのは……。
《ユニは……やらせない……っ!》
「俺の剣を、受け止めるとはっ!」
剣を構えたスサノオだった。
そしてスサノオの腹部と肩部の発射口が開き、目の前にビームの球体を作り出す。
「馬鹿なッ!?」
《食らえっ!》
それがゼロ距離でブレイブに発射される。
しかし、寸前で見切ったブレイブは急速に後退する。
「ビームの、球体か!しかし!」
ブレイブは球体のビームーートライパニッシャーーを一刀両断。
真っ二つに割かれたトライパニッシャーはブレイブの後方の地面にぶつかり、爆発する。
「……やるな」
《ふーっ、怪我はない、ユニ?》
「アンタ……なん、で……」
《なにが、なんでなの?》
「私なんて、守らなくてもいいのに!いてもいなくても、変わらないし、弱いし、負けたし……っ!」
《………》
「お姉ちゃんを越えようと、頑張ってたのに……!無理なことだったのよ、最初から!私には、何も、できない……!だから、私のことなんて守らなくてもいいのっ!」
こらえきれずにユニの目から涙が零れていた。
畳み掛けるように感情をぶつけるユニは、いろんな感情でごちゃ混ぜだ。
しかし、スミキは……ミズキは、その中からユニをいとも簡単に見つけ出し、すくい上げる。
《君がいなくなったら……ノワールが悲しむ》
「っ!」
《ノワールだけじゃない、ネプギアだって……みんなが悲しむ。僕だって悲しい》
「じゃあ……じゃあ、なんだって言うの!?役立たずの私は、どうすればいいのよ!何もせずにいるだけだなんて、私は耐えられない!」
《心配しなくても、君は戦えるよ。とても強い》
「強くなんかない、だって負けたもの!」
《今は負けても、君はいつか勝てる》
「いつかっていつよ!?」
《きっとすぐさ》
スサノオは右手に追加装備のH-M.P.B.Lを持っている。
腰に携えるのは強化サーベル、シラヌイとウンリュウ。
《僕の名前はクスノキ・スミキ。ブレイブ・ザ・ハード!僕と勝負しろ!》
「その姿……トリックを退けたというのは貴様か?」
《クス、いかにも》
「……面白い!存分に剣を振るわせてもらおう!」
ブレイブがスサノオに向けて踏み込んだ。