しんしんと雪が降り、常に街が雪で化粧をする街、ルウィー。
美しさと静けさを兼ね備えたような肌寒くも暖かな街。
だが、そんなルウィーは今。
「ねえねえ、お姉ちゃん!執事さんまだ⁉︎」
「もう、時間10分も過ぎてる……!」
「……私も待ちわびてる。けど、さすがに……」
ピュオオオオオオ!
「この吹雪じゃね……」
ルウィー、天気。猛吹雪。
「昼には止むってテレビで言ってたよ!」
「それに、連絡もない……!」
「私も電話はした。ラステイションは出てるらしいから、ルウィーに向かっているのは確かよ」
「じゃあなんで来ないの⁉︎」
「この吹雪じゃろくに前も見えないし……迷ってるのかもしれないわね」
「仕方ないけど……残念……」
「あるいは、ミズキに限ってないでしょうけど……」
遭難。ないし、凍死。さすがに救神の英雄が雪に負けましたでは笑い話にもならない。
多種多様な性能を持つと言われるガンダムのことだ、悪天候にも耐えるガンダムくらいあるはず。
そう思っているとパソコンが光って音を立てた。着信の音だ。
「執事さん⁉︎」
「多分。……もうすぐ門の前に来るらしいわ。迎えに行ってあげて」
「は〜い……!」
届いていたのはメール。遅れてごめんとも添えられてある。
ブランは『大丈夫、気をつけて来て』と返信してから玄関へと向かった。
ロムとラムは元気に走って玄関へと向かっていた。
門の前に到着したところでちょうど大きな門が音を立てて開かれた。
「執事さんおそ〜い!15分のちこ……く……?」
「だ……れ……なの……?」
玄関を開いた先にいたのは全身を真っ白い雪で包んだ雪男。
ロムとラムはつい最近見たミステリー番組を思い出す。
雪男は人間を食べてしまうのだ!そして食べられた人間は、骨すら残らない……!
「ロム、ラム………」
「きゃあああ呼ばれたぁぁぁ!」
「来ないでぇぇ………!」
ロムとラムは泣きながら後ろにダッシュ。ちょうどやって来たブランに抱きついた。
「どうしたの、ロム、ラム……」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆゆゆき!」
「おとおと、おとこ……!」
ロムとラムが震えながら指をさす。その先には確かに雪男と言える風貌の者が立っていた。
「………まさか……」
ブランはハンマーを取り出す。と言ってもピコピコハンマーレベルのミニサイズだ。
そしてロムとラムをその場に置いて雪男へと近づいて行く。
「ブラン………」
「………やっぱり」
コン、とブランがミニハンマーで雪男の頭を叩く。すると雪男を包んでいた雪はバラバラと崩れ去り………。
「……ロム、ラム。お風呂入れてきて」
ミズキがいた。
「寒い、よ、ブラン……」
「………気の毒ね」
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「はぁ〜………生き返る……」
ミズキが温かいお茶を飲んで溜息をつく。
「何をしたらあんな雪男になれるのよ」
「吹雪だって聞いたから早めにラステイションを出たんだけどね。ひたすら歩いてたらああなっちゃった」
結局ラステイションでは2人と昼寝をした後教会でご飯をご馳走してもらった。たくさん話をしてから寝て、吹雪だというニュースを聞いたので早めにラステイションを出たのだが吹雪を舐めてた。さすが主人公。駆逐艦だからとバカにしてた。
「執事さん、逃げてごめんなさい……」
「ごめんね……」
「ううん、こっちこそごめんね。泣かせちゃった」
ミズキはカップを置いて2人の頭を撫でた。
「それで、どういう予定なの?外とかに遊びに行く?」
「いいえ、ずっとこの教会にいていいわ。午前中はロムとラムに預ける」
「本当⁉︎」
「遊んでいい……⁉︎」
「ブランはどうするの?」
「私は残った仕事を片付けるわ。終わったらまた……しましょう」
「わかった。無理はしないでね」
仕事に追われた状態では安心して読書などできない。
ブランは1人残されたものの……決して孤独感や疎外感は感じず、この後に残された楽しみに想いを馳せた。
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そしてミズキはロムとラムに部屋に連れ込まれていた。
「執事さん、遊ぼう!」
「遊ぼう……!」
「今日は何するの?またオセロ?」
「麻雀……とか……?」
「麻雀⁉︎」
「あのね、私の得意技は嶺上開花なのよ!」
「咲いた!それを咲かせられるの⁉︎」
「私はね……国士無双十三面単騎待ち……!」
「得意技であってたまるか!冗談じゃない点数が持ってかれるよ⁉︎」
「むぅ。じゃあシャ○バ!」
「シ○ドバ⁉︎」
「執事さん……ワガママ……!」
「いや、僕がしばらく会わない間に2人は何を覚えたの⁉︎」
「仕方ないよ、ラムちゃん……。我慢してババ抜きしよう……?」
「仕方ないわね!我慢してあげるわ!」
「僕が悪いの⁉︎」
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ブランが仕事をしていてもドアの向こうからはしゃぐ声が聞こえてきていた。だがブランはいつものように怒る気にはならなかった。
その声も今は止んでいてブランは静かに執務に集中できていた。
パソコンのエンターキーを押す。仕事、終了。
ふぅ、と息を吐いて椅子にもたれかかる。
その机に静かに紅茶が添えられた。
「ブラン、お疲れ様」
「……ありがと……」
一緒に置かれた砂糖を少しだけ混ぜて紅茶を飲む。おいしい。
「2人は……?」
「部屋にいてもらってる。もう昼ご飯の時間だよ」
そう言われて時計を見ればそんな時間だ。
「……ミズキが作るのよね?」
「クスクス、バレてるか」
ブランが得意げな顔で言うとミズキもバツが悪そうに頭を掻く。
「食べ終わったら、わかってるわね……?」
「もちろん。……本を読もう」
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ロムとラムはいっぱいになったお腹をさすって教会内のとある扉の中を覗いていた。
本がいっぱいある場所。絵本や簡単な本は全て2人の部屋に置いてあるのでこの部屋にあるのは難しい本ばっかり。字だけの本ばかりだ。
だから2人はここに寄り付くことはないのだが今日ばっかりは事情が違った。
2人の目線の先にはただ座って背中合わせになって本を読んでいるブランとミズキがいた。
2人ともさっきから音も立てずに本に向かっていた。
(ちぇ、つまんな〜い!本読んでるだけじゃない!)
(でも……楽しそう……)
小声で会話する。
するとチラリとミズキがこっちを見て微笑んだ。
(バレた!)
(逃げろ〜……!)
2人はたったかたーとドアの前から逃げる。
それからミズキはまた本に向き直った。
「……………」
「……………」
じんわりと温まっていく空気はここが雪国であることを感じさせない。
特にブランはミズキにもたれかかっていて、背中から温もりが伝わるのでなおさらだ。
だがそれほどリラックスしているのにもかかわらずやっぱり本には集中できない。進まないし、頭の中に入ってこない。
それでもよかった。ただミズキの息遣いが近くで感じられれば。
ああ、もしかしたら私は本を読みたいんじゃないのかもしれない。近くでミズキを感じていたいだけなのかもしれない。
「ブラン」
「……なに……?」
唐突に名を呼ばれる。慌てて目線を本に戻したのは内緒だ。
「ごめんね、ブラン。それと、ありがとう」
「……気にしてない。私も謝らなきゃいけないし、感謝しなきゃいけない」
助けたのは事実だが、それ以上に助けられたのも事実。本来感謝すべきなのはブランの方だ。
「……私は、こうしてるだけで癒される。満ちてく。……ミズキは、どう?」
「……僕も、温められる。この時間好きだって、あの時も言ったよ」
顔は見えないがニコリと笑っているのはわかる。
ブランはなんだか胸がほわほわするのを感じた。たまらなく嬉しいのだ、私は。好きなこの時間が共有されていたとわかった。
「私、本が読みたいんじゃないと思う……。こうしてミズキが感じられていれば、本はなくてもいいんだと思う」
「……そうかもしれないね。こうしてブランの鼓動を感じられてれば、本はいらないのかもね」
そう言われてブランはさらに胸が熱くなるのを感じた。
ブランはパタンと音を立てて本を閉じる。ミズキも同じように本を閉じた。
「私……もっとずっと、ミズキを感じていたいわ……」
「いいよ、ブラン。遠慮なんかしなくたって」
静かな空間でブランがミズキの方を向く。
そしてブランは背を向けたままのミズキに抱きついた。
胸と腹、それに腕や顔にもミズキの温もりが広がっていく。ミズキを感じる。ブランはそれがたまらなく幸せだった。
「ブランを感じるよ。凄く、温かい」
「私も、ミズキを感じる……。鼓動が、わかる……」
ミズキの左胸の鼓動がブランの体に染み渡っていく。
ブランは自分のトクントクンと早鐘を打つ鼓動はミズキに伝わっているのだろうかと思った。
「今日は眠らないわ。だって、もったいない……」
「うん。いつまででも僕を感じていていいよ」
男の人に抱きつくのなんて初めてで。
でもこの胸の高まりと安心感はミズキ以外では感じられないものだと思うから。
このまま私とミズキの境界線がなくなって溶け合い、温もりを分かち合って1つになれたらな。ブランはそう思った。
そして、ミズキも同じならいいな、とも。
宮永ロム、宮永ラム。
次なる目的地はリーンボックス。