幻想殺しと電脳少女の幻想郷生活 作:軍曹(K-6)
長い長い夏が終わって、上条達は普通の日常に戻る事ができた。
とは言っても、相変わらず彼は部屋に引きこもっていた。
「・・・・・・あー。平和だ。静かだ。いいね」
家には誰もいない。誰かが訪ねてくる用事もない。今日一日は自由という訳だ。
上条が意気揚々とキーボードに手を伸ばした時、一階からチャイムの音がする。
(・・・・・・居留守使おう)
無視することにした上条だが、連続でチャイムが鳴る。
「・・・うるせーなー・・・」
文句を言いつつ動かない。いつか諦めるだろうとたかをくくっているからだ。
そんな上条の思惑とは裏腹に、外から聞きなれた声がする。それも大きな声で、
「おーい! いるんでしょー!? この貴音ちゃんが自ら足を運んであげてるんですよー? 出て来なさーい! 出て来なかったら罰金よ罰金!」
「お前はハルヒか―――っ!!」
「おっ、やっぱりいた」
「あ・・・・・・」
思わず突っ込んでしまった上条だったが、もう遅い。少女は早く下りて来いと言わんばかりに手をブンブン振っている。
渋々玄関に降りる上条。玄関の扉を開けると、少女が飛び込んできた。
「さあご主人! お久しぶりです!」
「・・・・・・オマエ、そっちのキャラなの?」
「やだなぁ。事情を知らない人の前と、ご主人と二人きりの時だけですよぅ」
「それはそれで・・・。で? なんのようだ?」
「うっわー。つまらなかったら送り帰す的な目ですねェ。安心してください。今回はご主人に良いものを持ってきましたから」
「・・・・・・いいもの?」
「これですっ!」
そう言って貴音が取り出したのは、一冊の本だった。見た目からしてまるで魔道書のような感じだった。
「これ、良いものか?」
「良いんじゃないですか? ほら、ちゃちゃっと右手でぶっ壊しちゃってください!」
「それが目的か・・・・・・」
「そうですよっ!」
「まあせっかく来たんだ。もてなしてやるよ」
「あ、悪いですねぇ」
リビングに移動した上条はそう言って貴音にお茶を出す。
「それでですね。これはある本屋さんで貰ってきたんですけどね? 何でも異世界への扉。だとか」
「はっ。嘘くせぇな。何だよそりゃ」
「まあ実際に封印を解いてみなくちゃ話にはなりませんけどね」
「触らねぇからな」
「えぇー!? 見たいのにぃ!」
「やだよ。俺まで巻き込まれるじゃん」
「それが良いんですよぅ! ご主人の不幸だ! が久しぶりに聞きたいんですよ! 何もかもが元通りになってから、ご主人不幸って言わなくなりましたからね!」
「そりゃそうだろ・・・。呪縛から解放されたんだ。不幸なんておちおち言ってられっかよ」
「カゲロウデイズではあんなにカッコよかったのに、随分とヘタレですねェ。アヤノちゃんに会いたくなかったんですか?」
「アイツは親友だからな・・・。馬鹿やってるのがスゲェと思えたんだ。だけどもう必要ないさ。お前らと出会って、カゲロウデイズを経験して、この頭でもダチと馬鹿やれるって分かったからな」
「ご主人・・・」
「だから俺はヘタレじゃねェ」
「それでは開きましょう!」
「おうっ! って開かねェよ!?」
「ちぇっ」
「ちぇっ。じゃねーよ! はぁ全く・・・。一回だけだぞ」
「わぁい!」
上条は一度恐る恐る左手で本を持つ。隅から隅まで見た所、本の片側が日記の留め具のようなもので固定されている訳でもないのに、開かないという不思議なものだった。
装飾は綺麗で、引き寄せられるようなそんな魅力があった。
そして上条はその本の表紙に右手で触れる。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・おい?」
「あれー? おかしいですね」
「おかしいですね。じゃないだろ! 普通にこうやって開かないって試したのか!?」
「当り前じゃないですかっ! え?!」
上条がページのある方に触れた途端。
何かが砕けるような甲高い音が部屋に響き、本が一気に開く。見開きページが光を放ち、部屋を明るく照らし出す。
「な、何だよこれ!」
「すごいっ! すごい! 魔道書ですよご主人っ!」
「・・・マジか・・・」
そして、一気に上条と貴音の体が引き込まれかけた。他の家具などは何ともないくせに、ご丁寧に肉体だけが吸い込まれそうになる。
「ちょっ! なんとかならないのかよッ!」
「無理ですよー!」
抵抗も空しく、上条当麻と榎本貴音はその世界から姿を消した。
そして本はパタリと自らを閉じると、机の上に落ちる。そして、光の粒子になって消えていった。
短くていいんです。次回から書きたかった本篇です。