幻想殺しと電脳少女の幻想郷生活 作:軍曹(K-6)
「―――――ありがとう―――――」
そう、聞こえたのは気のせいだったのか。ここの所、ありとあらゆる場所・状況で嫌と言うほど聞いた少女の声で感謝の言葉が伝えられた気がした。
「・・・・・・ッ」
気がつくと、上条はその拳を強く握りしめていた。
「・・・当麻」
「・・・・・・慧音」
「助かったよ。何故彼女がああなったのかは分からないが、人里の住民は皆君に感謝している」
上条が少し周りを見渡すと、数十にも及ぶ人里に住む人間が彼らの周りに集まっていた。
「当麻お兄ちゃんありがとう!」
「・・・いつもの事だが本当によくやってくれた」
「・・・流石、博麗の巫女の代理だな」
「ありがとう」
―――ズキリ。と、上条は自分の体からそんな音がしたのを聞いた。
「・・・・・・いや、別にいつも通りの事をしただけですから・・・」
―――何故、感謝スル? アナタ達モ彼女ト仲良ク過ゴシテイタハズナノニ、彼女ヲ殺シタ上条当麻ニオ礼ヲ言ウノハ何故?―――
分かるわけがない。それは、上条がいつも目を背けてきた事だったからだ。だが、一度しっかり見てしまった以上、理解できなくても正体不明の感情に上条当麻という少年は蝕まれることになる。
「・・・やっと見つけた。終わったの?」
「・・・・・・ああ。見ての通りだ」
霊夢は上条が一瞥した方を見て終わった事を確信する。黒く焦げた人間だった事がかろうじて分かる塊を見て。
宴会が行われることはなかった。異変ではなかったと判断され、その解決が祝われる事はない。
「・・・まぁ。一人の人外が死んで、それをみんなで酒の肴にするというのはあまりにも不謹慎じゃからのう・・・」
「・・・・・・・・・・・・ッ。クソッ」
「こんな事を言うのも何じゃが、あまり自分を責めすぎるなよ。あるじ様」
「・・・ああ」
「あるじ様は最速でなおかつ最善の手を取ったのじゃから」
「・・・ああ」
*
「・・・ハァ」
「元気がないですね。オジャ魔木さん」
「人を日曜八時にやってそうなアニメみたいに呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「きゃみまひた!」
「わざとじゃないっ!? ・・・・・・ハァ」
「・・・本当に元気がありませんね。安心院さんのことですか・・・?」
「・・・・・・だったら何だよ」
「導くのは
「・・・それでも、無理なことはあるんだよ」
*
「・・・・・・っと!」
「ご主人。ここ最近一心不乱に修行してますよね。何かあったんですか?」
「・・・・・・ちょっとな」
「もしかして、安心院さんのことですか?」
「・・・・・・・・・」
「沈黙は是。です。まさかまだ引きずって、後悔してるんですか?」
「・・・・・・」
「・・・あぁ、もう。ご主人は褒められたことをしたんです。もっと誇っていいんですよ!!」
「・・・・・・ッ」
▽
―――そして何日か過ぎたある日。家の縁側で青空を見ていた上条の体からほんの数秒、魂が抜けた。
その異変を感じ取った霊夢・紫・貴音・萃香は慌てて彼の体を確認しに駆けつけた。
住居の裏に回り込み、そこにいたのは眼に恐ろしく負担がかかるという神々の義眼を開き、幻想紋の形を変え身体中に浮かび上がらせた状態で莫大なエネルギーを常時使用しながら、優しく微笑む上条がいた。
「・・・とう、ま? 何してるの?」
「お。霊夢。元気そうだな。紫も貴音も、慌てて。どうした?」
「え、いや・・・特に何も無いんだけど」
「そういや・・・随分久しぶりか。・・・元気してたか? ・・・それとも現実では時間が経ってないっていうご都合主義展開か?」
「・・・・・・ご主人は一体・・・自分の身に何が起こったのか理解しているんですか?」
「ん? おう」
上条は世間話の噂に頷くぐらいの軽さで返事を返す。その態度に何かを感じ取ったのか貴音は一息で上条との差を詰め、目の前で問いただす。
「じゃあ何が起こったのかちゃんと説明してください!」
「ん。了解」
そうして上条は話し出した。自分の身に何が起こったのかを。
「お前等の態度を見る限り、俺の体から魂が抜けたのはほんの一瞬だったみたいだな。だけどその間に俺は無限に等しい時間を過ごしてたんだよ」
例えるなら“夢”と上条は言った。
夢の中で数日過ごしても朝起きたらそんな事はなかった。という体験は誰しもがした事があるだろう。だが、それはあくまで比喩であり、彼が体験したのは魂分離の平行世界移動。
それは言うなれば
「「「5億年ボタン・・・?」」」
『何もない空間で5億年間一人過ごす』という苦行のような状態。だが、その空間から戻ってきたら記憶は消され、百万円がもらえるというもの。ボタンを押した回数だけ5億年を経験するし、更にお金がもらえる。
それより、上条当麻は何故。
「ご主人は・・・一体何年過ごしたんですか・・・・・・」
「あー・・・確か―――
この後の上条の言葉で、その場の時間が止まる事になる。
―――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ?」
たっぷりと沈黙を挟んだ後、口を開いたのは貴音だった。眉をつり上げ上条を睨んで。
「い、今なんて言ったの?」
「いや、言葉通りだけど。それだけの年月生きたんだよ。結構長か―――」
「なんで正気でいられるのよ?!」
「え、いや―――そんな変なことか?」
「変に決まってるでしょ! って言うかありえないわ! 当麻アンタ頭おかしいの!?」
元からおかしいかどうかは別として、彼は現在おかしくはなっているようだ。四面楚歌で攻められ続けた上条はへらへら笑って。
「でもさ。そういう事ってもうどうでもよくね?」
「・・・・・・・・・何が言いたいのよ」
「だって、ここは幻想郷だろ?」
「そうよ。それが何?」
「だからさ―――
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
「そんな幻想郷に長い間
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
答えられない。というより、完全にただの人間ではなくなった上条当麻に何も言えなくなった。というのが正しいだろう。幻想郷に住むどの妖怪よりも精神年齢ではあるが、年を取ってしまった。彼はそんな状況で誰よりも落ち着き払っていた。
「・・・ご主人。大丈夫ですか・・・?」
「ん? 大丈夫大丈夫」
―――何も心配は要らねーよ―――
そう言った彼の言葉は心から信じたいのに、限りなく薄っぺらでまったく響いてこなかった。