幻想殺しと電脳少女の幻想郷生活 作:軍曹(K-6)
上条は今回の異変の根本的原因を作りあげたであろう山の神様に会いに妖怪の山を訪れていた。
「・・・そもそも俺は、山の神様自体記憶が曖昧なんだが」
『・・・それもそうですね』
《あるじ様は傷心しておったからの》
山の途中で上条は歩くのが面倒臭くなったようで、八咫烏を召喚して飛んでいく。
「あら、この寒い中参拝に来たのですか? うふふ。私もここでの挨拶の仕方を学びました。この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」
「誰からそんな挨拶を学んだか知らんが、最初は普通に挨拶しろよ」
上条は目の前の巫女少女、早苗と軽く対峙する。
「行きますよっ!」
「面倒くさいなぁ」
早苗が自信満々にはなった弾幕。それを上条は右手で全てかき消した。
「!? そ・・・れは!?」
「お前が“外”から来たなら知ってるんじゃないか? 上条当麻という“人間”が持つ異能の右手のことぐらいさぁ!」
「まさか・・・・・・ッ幻想殺し!」
「知ってるみたいだなぁ!」
「かっ」(勝てるわけない! 弾幕全て打ち消されるなんてチートすぎ!)
そんなこんなで上条は普通にそこを通してもらった。
「どこに居るんだ? その馬鹿」
『神様を馬鹿呼ばわりって・・・。相変わらずですねぇ』
『あの地獄鴉の言う事が本当なら、今回の一連の騒動は神奈子の仕業に決まっているわ。地底進出でも企んでいたのかしら?』
「んなこと俺は知らねぇよ」
「あのーちょっと良いですか? この神社の人を誰か見ませんでしたか?」
上条はその声に振り返ると、そこにはどこかで見たような少女が立っていた。
「あー、見てないな。悪いけど他当たりな。俺はこの神社は詳しくないんでね」
「そっか、それは失礼しました。もしかして留守なのかなぁ」
「本殿の方とかは見てきたのか?」
「うん。もぬけの殻だったわ」
「はあ・・・無駄足か。この世で無駄なことは何もないって言うが、今こうしてることが無駄だと思うね。でもま、可愛い子に会えたからよしとするか。お前、名前は?」
「私は古明地こいし。しがない参拝客よ。わざわざ地底から出てきたってのに神様が見つからないなんて・・・・・・」
「古明地・・・・・・。さとりの家族か?」
「お姉ちゃんのこと知ってるの?」
どうやら似ているだけのようだが、彼女。こいしはさとりの妹らしい。
「ふーん、もしかして貴方! お姉ちゃんとおくうを倒したという人間?」
「そんな事もあったなぁ」トオイメ
「山の神様には会えなかったけど、こんな所でそんな人と会えるなんて。なんてついているのかしら!」
「・・・・・・もう帰って良いかね? いや、帰してもらえないんだろうなぁ」
「何を独り言してるの? 私は姉と違って心は読めないのよ。ちゃんと聞こえる言葉でお願い」
「・・・へぇ。お前、さとりの目を閉じてんのか。ならあんな事は起きないか」
「何だか判らないけど準備できた? 良いこと教えてあげる。お姉ちゃんは絶対に私には勝てないの。何故なら、私は「読む事の出来ない無意識」で行動できるから。無意識に潜む弾幕。それはお姉ちゃんも見た事ない弾幕よ!」
「へぇ。無意識ねぇ。じゃあちょっと枷を外してみようかな」
そう言った上条の目からは、電流が迸っていた。
「いっくよー!」
『!? 消えた!?』
「よっと」
上条は後ろに跳びながら両手を強く叩き合わせる。そして一度目を瞑り、次に目を開いた瞬間。近くの空間を拳で叩き潰していた。
「きゃっ!」
『『!?』・・・な、何を』
「エコーロケーション。コウモリなんかが使う空間把握術だ。どうやらお前は人の無意識に入り込んで感知できなくなるようだが、音の歪みからどこに居るかはすぐ分かる」
「へぇ・・・。凄いね!」
「まぁ、もっともそんな事しなくても俺には
「あ、それ聞いたよ! 何でも見える目だよね! あー厄介だなぁー」
「本当にそう思ってるか?」
「うん。だって、私のことも問答無用で見てくるんでしょ?」
「なんなら俺の視覚情報だけ全裸に剥くこともできるが」
「変態!」
「少女になじられる俺。我々の業界ではご褒美です」
上条は棒読みでそれを口にする。
「でも、厄介なだけだよね!」
「だろうな。だが、それを持ってるのが普通の人間だったらの話だろ?」
上条とこいしの激突は一瞬で終わった。
「はぅうぅ~」
「あっはっはっ!」
(小学生ぐらいの女子を相手に、本気でケンカをして、本気の居合い払いを決めた末に、本気で勝ち誇っている男子高校生の姿がそこにはあった。ていうか、俺だった)
「・・・・・・帰ろ」
上条は帰るために守谷神社の参道の階段を降りていく。
(・・・・・・・・・しっかし。疲れたなぁ・・・そろそろ残業手当が欲しいな)
▽
さて、語り部が書き手ではなく、俺になったところでこれからを少しだけゆっくりと語っていくことにしよう。
その少女は博麗神社の参道の階段を俺とは逆に降りてきていた。その少女とは、初め魔理沙情報で俺の元に回ってきたのだった。その内容は遺脱して可愛らしい少女が外からやってきたというものだった。その容姿が故なのか、人里でもまあまあ人気者らしい。
実際俺が遭遇した時は全く、これっぽっちもそんな感想を抱くことはなかった。何故なら出会い頭にぶん殴られたからだ。
俺が彼女に何故殴られたのか。それは追々機会があれば話すとして―――とりあえず、目の前から降りてくる少女。忍野扇のスカートの中を見ることに挑戦してみようと思う。
「・・・上条先輩。交差点の信号が全て赤になる瞬間があるのをご存じですか?」
「なんだそりゃ。業者さんに点検でもされる時か? というか、こっちに来てから信号なんて見てないな」
「いやいや、もっと頻繁にあるんですよ。上条先輩だって毎日のように見ていたはずです」
「毎日のように・・・・・・。いや、そんなもん見た憶えはねーぞ。つーかそんな現象が日常的に起きていたら、交通事故で大変だ」
「あちこちで交通事故を起こさない大変にしないために、そんな幻想を日常的に起こしているんですよ。分かっていませんねぇ、この愚か者は」
何故だろう。彼女に罵倒されると嬉しく感じてしまう。言っておくが俺はMではない。例え霊夢や魔理沙、貴音に言われても俺は嬉しくはないだろう。
だがどういう事か、目の前の少女の罵倒はすっと入ってくる。例えるなら胃もたれを起こさない感じだ。
「いやいや、種を明かせば簡単な話なんです、上条先輩。縦の信号が赤になってから、横の信号が赤になるまでの間に、どの信号にも必ず三秒のタイムラグがあるんですよ。同時に変えたら、慌てんぼうの運転手さんが先走ったときに、交通事故が起こる可能性が高くなってしまいますからね」
「三秒・・・・・・? 瞬間じゃねぇじゃねぇか。三秒単位で瞬きする奴なんていねぇだろするとしてもコンマ数秒の話だ。それともお前はアレか? 三秒を一瞬ですとか言うタイプなのか?」
「揚げ足を取らないでくださいよ、性格が最悪ですね上条先輩。全てが静止する、交差点における空白の三秒間と言ったところです―――逆に信号がすべて青になる瞬間なんてものはありません。それこそ業者さんのチェックでもない限りは。私が設計者なら、構造上そんな事ができないようにシステムを組み上げるでしょうね。誰だって危険よりは安全の方が良いでしょう」
「まあ、そうだな。でも、何だったか、俺が知る限り黄色で加速してその空白の三秒間を駆け抜ける車が多い県があるはずだが」
「話が飛んでますよ上条先輩」
いけない、いけない。思わず話をそらせてしまった。どうも長い話は苦手なんだよな。
「ああ。悪い。・・・何だっけ。ああ、危険よりは安全が良いって話だな。そんなの当たり前だろ。改まって言うことじゃねぇ」
「いや改まって言わせてください、これは結構面白い話なんですよ、上条先輩。危険を示す赤信号で世界が満たされた時こそ、いつよりも安全な時間であり、逆に安全を示す青信号で世界が満たされた時は、世界の何処よりも危険な場所が出来上がってしまうと言う矛盾―――危険信号というのは度を越してしまえば安全地帯を作り、その反面、安全信号が度を越してしまえばただの無法地帯を作り、三秒どころか一秒だって存在することは難しくなるのです」
「そりゃ、お前。赤は危険って分かってるから全員が危険な目に遭いたくなくて、安全を求めるからそこには万人が求める安全が出来上がるって事だろ?」
「例えが分かりづらいです。でもその通りです。頭が良い癖に例えは下手ですね、上条先輩は」
「お褒めにあずかり光栄の至りだよ」
彼女の罵倒が褒めているように聞こえたのは俺の耳がおかしいのだろうか。
「褒めてません、皮肉です。青信号を渡る時にまるで神様に守られているような気持ちでいる人ばかりですけれど―――実はそんな事はないんですよね。単にリスクが半分に減ってるだけです。全部が青よりはちょっとマシというくらいの話でしかないんです。危ない目に遭いたくなかったら、横断歩道を渡らないければ良いんですよ」
「んなこと言い出したら、変質者に会いたくなければ外に出ないようにしましょうとかと一緒のレベルだろ? そもそも歩道を歩いていても、酔っ払いや居眠り運転の車が蛇行して突っ込んでくる可能性がゼロじゃないだろ?」
「ええ。ゼロじゃありません。でもだからこそ、そんな事を言い出すべきなのですよ。誰かが、たとえば私が、言い出すべきなのです。世の中というのがどんな危険な場所なのか。世界は平和で、夢と希望にあふれていて、救いに満ちていて、人と人は愛し合うために生まれてきて、仲良くするべきで、子どもには幸せになる義務があるとか―――そんなことをぺちゃくちゃ陶酔しながら言っているから、簡単に足元をすくわれるんです。戦地の子供たちはたとえ教育を受けていなくとも、もっとしっかりしていますよ。少なくとも、人生に対しては貪欲です。彼らの目には、青信号ではなく赤信号ばかりが映りこんでいますからね」
「平和な国で馬鹿みてーに生きる権利って奴が、人間にはあると思っていたがね。その為に数千年かけて進歩してきたんだから」
「それは日本独自の考え方ですよ。この国における宗教と言っても良いでしょうね。断言してもいいですけれど、日本なんて国は千年後、存在していないと思いますよ」
「そんなもんどこの国でも同じだろ。同じ体勢で千年持つ国なんかねーよ。歴史の教科書を読むまでもない、当たり前のことだ」
もしかしたら千年以上続く国があるかもしれない。世界の一部の国から見れば、日本は今でも倭国らしい。これは千年以上続く国と言えるのではないだろうか?
「そう、当たり前のことです。日本は滅びるかもしれないし、世界は滅びるかもしれない。そんな当たり前のことから目をそらして、定期預金とかしているから笑えるんですよ。泣き笑いですけれど」
「で?」
「はい?」
「で、結局、お前は何が言いたいんだよ扇ちゃん。相変わらず要領を得ない奴だ。外見は全然似てないけれど、そういうところはお前、叔父さんにそっくりだぜ」
「あんな人に似ていると言われても嬉しくありませんね。名誉毀損で訴えたいくらいです。ですがここは生憎の幻想郷。法律などないので仕方なしに特別サービスで褒め言葉として受け取っておきましょう。いえね、私は注意を促しているんですよ。ほら、よく言うじゃないですか。夢は見るものじゃなくて叶えるものだって―――でもそれって逆でしょう? 夢は叶えるものじゃなくて見るものって言うのが本当のところは本当でしょう? 将来なりたいものを夢見ているうちは楽しいけれど、それをいざ叶えるとなれば、地味で、あるいは無駄に終わるであろう努力を、毎日淡々と続けなければならないという地獄のような生活が続くわけなんですから。どうしてそんなことをしなければいけないのですか、馬鹿馬鹿しい。妄想しているだけで人は十分幸せになれるというのに」
「経験者は語るっていうことになってしまうけど、努力は基本人を裏切らないっていうだろ? あれは限定的にだけど本当なんだよ。努力した量と成果は比例する。質も同様に。だから、妄想して幸せになるより夢を叶えて幸せになる方が、圧倒的に幸福度が高いからじゃねーのか?」
「そんなことは絶対にありません」
「ないのかよ」
あっさり否定されてしまった。少し悲しい気がする。
「ありません。ないのです。誰もが憧れる、将来そうなりたいと望む、まあロックスターでもスポーツマンでも、漫画家でも社長でも、何でも構いませんが、そんな人間の実生活を想像してみれば明らかです。彼らが好き勝手生きていると思いますか? そんなことは絶対にないでしょう。雇い主との関係に気を遣ったり、順位や格付けに振り回されたり、スポンサーにへこへこしたり、ファンに媚びを売ってみたり、辛いことばっかりですよ。夢を叶えるというのは、イコールで夢のつまらなさを思い知るという意味です」
「夢を叶えれば叶えるほど、周囲との関係性に気を付けなくちゃいけなくなるってか? 性格の悪いひねくれ者の言いそうなことだな。好きなことして生きてる奴もいるんじゃねーの? 夢を叶えてさ」
「好き勝手に生きて、周囲の人間から疎まれながら、嫌われながら生きている奴の話ですか? そんな人間に、誰がなりたいと思いますか? そんなくだらない人間になることが、夢を叶えると言うことですか? むしろ真逆でしょう」
「あー・・・・・・真逆だな」
「ですから、上条先輩。子ども達には夢を叶えた人間をブラウン管越しにスナック菓子を食べながら眺める方が辛い思いをして色んなしがらみにとらわれながら、楽しい夢を世知辛い現実に変換する作業に邁進するよりもずっと能率的に幸せになれると、教えて上げるべきなのです。義侠心を発揮するべきなのです。夢を見るのは絶賛いいけれど、夢を叶えちゃあ駄目。そう言って回るべきなんです」
「確かに扇ちゃんの意見はもっともだ。でも、夢を見た子どもは叶えたくてしょうがなくなる。そうなりたいって望んだら叶えたくなるのが子どもだろ? 失敗して夢を叶えられない奴もいるだろうな。でもそれは他人の話だろ? 俺達に何の利害もないじゃん。いちいち首を突っ込むことか?」
「冷めてますねぇ。上条先輩。でもあなたのそういうところ、嫌いじゃあないですよ」
そう。これが忍野扇。俺の目の前に居る少女で、何を考えているか正直よく分からない子だ。俺の神々の義眼でも正体を見破ることが難しく、面倒くさくて放置している。
結局、今回のことで扇ちゃんは何が言いたかったのだろう。三秒間、交差点の信号が全て赤になる。という信号にまつわる雑学を教えて褒めてもらいたかったのかもしれない。よく分からない子だ。でも、そんな彼女との関係をとても楽しんでいる俺がいる。この事実は変わらないだろう。