幻想殺しと電脳少女の幻想郷生活 作:軍曹(K-6)
プロローグ 忍野扇という少女
安心院なじみという少女が居なくなってから数ヶ月。唐突に現われた少女である扇ちゃんにうつつを抜かす俺を最低だとなじってくれて構わない。でも、これだけは言わせてほしい。彼女との時間は嫌じゃない。むしろ心地が良くておかしくなりそうなんだ。
良く言えば癒やし、悪く言えば―――
―――とてつもない依存性のある“麻薬”だ。
実際俺は彼女にもう半分ほど依存してしまっている。なぜ、そう言いきるのか。それはこの前の会話から少ししたある日のことだ。
「上条先輩。色々とお久しぶりです」
「色々と・・・って、この間会話してからそんなに日がたっていないだろう?」
「あ。っと、そうでしたね。感覚的に上条先輩と再会するまでの時間がとてつもなく長く感じていました」
・・・もしかして彼女は俺と会話したことを忘れていたのではないだろうか。だからこうやって好意的に受け止められる言葉で誤魔化しているのでは。いけない、いけない。彼女との会話の最中にはよく彼女の言葉の裏を探そうとしてしまう。神々の義眼で思考が見えないとこんな感じなのか。もう遠く昔のことだから忘れていたよ。
「そんなことより上条先輩。本日はこんな所で何をしておられるのですか?」
「ん? あぁ、あそこに見える空飛ぶ船」
「あ。ドニですか」
「いや、違うから。・・・・・・話が進まないからおいておくとして、あれに宝物目当てで釣られた馬鹿共が飛び出していったから俺は独りで散歩中だよ」
「なるほど一人ですか」
「ああ」
「よく分かりました。上条先輩は一人を独りとか言ってしまうイタい人だったんですね」
「何を納得してるんだよ!」
ホント、扇ちゃんと喋ってると無駄に疲れてくる。もしかして彼女は俺を振り回して遊んでいるんじゃないだろうか。
「上条先輩。聞いてますか?」
「ん? ごめん扇ちゃん。聞いてなかったよ」
「人の話を聞くこともできないなんてまったく愚かですねぇ。その点私は聞き上手ですよ」
「聞き上手って・・・誰かからそう言われたのか? 君は話を聞くのが上手いねって」
「はて? 誰から言われたかなんてどうでもいいことでしょう。そこに
確かに、誰かに聞いてもらう。と言うことは一種の安らぎになるだろう。辛いこと腹立たしいことがあった時、そういう場面では必ず全てを吐き出した方がスッキリすることの方が多い。誰だって経験はあるのではないだろうか。枕を口に当て大声を出しながらベットの上を暴れまわったなんて事。
「満足・・・できるか」
「ええ。街中で、と言っても現代日本ではとてつもなく数が減りましたが、近所の奥様方が開く井戸端会議がいい例です。人伝に聞いた根も葉もない噂話を肯定してほしくて話をしに行くでしょう? それが話した相手に、眉唾だ。とか、信じられるかそんな物。なんて言われるとイラッとくるでしょう? それもそのはずです。聞いてくれるだけでいいのに反対意見なんか聞きたくないのに、評論家ぶって意見してるんじゃない。って話なんです。実際、批判と批評は違うと言いますが、否定されている時点で相手にとっていい気分はしないですよね。自分は意見が否定されていい気分の人はどこにも居ません。それとも上条先輩。あなたがその第一人者ですか?」
「そんな訳ないだろ」
俺だって扇ちゃんの言う通りただの人間だ。誰より大人ぶってても人間は成長しない生き物だ。いるだろ? 三十過ぎても六十過ぎても子どもっぽい大人。高校大学に入って落ち着き払った雰囲気をまとう同級生はいるか? ああ言うのって心の中で大人っぽい俺/私かっこいい。なんて思ってる。これは扇ちゃんと俺は同じ意見で一致した。
「で?」
「はい?」
「人間の心理状態の話をしに来たわけじゃないだろ? というか、俺達は合う度合う度議論をしてないか? いい加減普通の会話もしてみたいんだが」
「いいじゃないですか。私達の関係がこうあるだけで、別に特別な関係というわけじゃありません」
「でもな・・・扇ちゃん。君との話はまるで現代文で評論文を読み解いてるみたいだ」
「いいじゃありませんか。考査中と違って時間はほぼ無限に存在するんですから。一見無駄に見える議論もいつか役に立つかもしれません。先人も言っているでしょう?」
「・・・・・・本題は何だい? 扇ちゃん」
「話があっちこっちへ飛ぶから一気に距離を詰めてきましたね上条先輩。普通の人間にやると怒られますよ」
「はいはい」
「それではお望み通り本題に入らせてもらいます。上条先輩、あなた何か悩んでませんか?」
「はい?」
目の前の少女はなんと言った? 俺が悩んでる? いつそんなことを思ったのだろう。感情を隠すことを含め様々なことは全てしていないように見えるほど習得しているはずだ。普通の少女である扇ちゃんに見破れるとは思えない。
「いやだなぁ、上条先輩。そんな怖い顔しないでくださいよ。あなたが言ったんですよ? 俺にだって悩み事はあるって。そういう人って現在進行形で悩んでいる人が言うことでしょう?」
「・・・ああ。確かに」
言ったか? 俺そんなこと。でも、まあ扇ちゃんが言うんだから俺はそんな事を言ったんだろう。言ったから扇ちゃんに推理され、俺は悩んでいるなんて結果になった。
「で。俺が悩んでいたらなんだって言うんだ?」
「悩みがあるなら私が聞いて上げますよ。と言っているんです」
「余計なお世話だ」
大体、俺が何か悩んでいたとして、何故君に話さないといけないんだ扇ちゃん。なんて、口が裂けても直接彼女に言ったりはできないな。彼女は善意で言っているのにそれを拒絶するような言葉は少なくとも今の俺には言うことができない。人を傷付けるのが怖いって、おれはハリネズミか何かかよ。
だが、俺のそんな思いは扇ちゃんの次の言葉で無駄になった。
「何故話せないんですか? もしかして、お前に話す必要はない。なんて格好付けてます? 要りませんよそんな物。捨てちゃってください。情けないだけですから」
「―――は?」
驚くほど冷たい声が出た。それはこの先一生、目の前に居るような普通の少女に対して出してはいけない声色だと思う。だが、その時ばかりは俺の精神が持たなかった。
「ふざけんな。俺が格好付けてるだけ?」
「ええ。そうです。あなたは愚かにも周りの人に自分の苦悩を隠して、一人で生きてる俺かっこいいとなってる愚か者です」
言い返せない。先程自分で否定した人種に自分がなってること、言い返したくても言い返せない。おかしい。彼女との話は議論のようだと俺が例えた。まさしくその通りだ。彼女には何故か感情論が通用する気がしない。おそらく感情論で喋っても彼女は軽く流してしまうだろう。
だが、例え感情論でも。例え情けなくても言い返さなければ気が済まなかった。
「―――だったらどうしたんだ」