防衛大学校の劣等生   作:諸々

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SS-02 司波小百合

小百合は牛山との会談を終えほっと一息ついた。

これでようやくあの女の息子を追い出すことに成功した。

奴はあの女の息子にふさわしい人間離れした能力を持っていた。

私から龍郎さんを奪い、好きでもないのに子供を作り、そのくせ気に入らないからと言ってきつく当たるあの女。

私はあの女の息子が入社した時のあの女の目を忘れられない。

自分が生んだ息子を見る目じゃない、人間を見る目ですらない、ゴミか何かを見る目だった。

私は四葉の本当の恐ろしさをこの時初めて肌で感じた気がした。

奴の能力は会社にとっては良い事なのかも知れないが、労務管理の点では最悪だった。

各部門のバランスが全く取れない、第一、第二開発部は不満が渦巻いていた。

それを利用して今回の事を画策した、秘かにシルバーに不満を持っていた人たちも味方になってうまくいった。

以前から持ちつ持たれつの関係だった青木氏との約束は上手く果たせたと思う。

資金もそれなりに入った、これで漸く四葉の影響から逃れられるかもしれない。

最悪FLTを辞めることになっても、龍郎さんと二人なら大丈夫だと思う。

長かった、本当に長かった。ようやくここまで来た。

 

ここで今までの出来事をしみじみと思い出す事に。

龍郎さんと初めての出会いは3歳の時、あの魔法師遺児保護施設での事だ。

入所してきた時彼は鳴り物入りだった。サイオン保有量が多いとして大いに期待されていた。

だが本人は至って気さくで私はいっぺんに好きになった。だけど当時はライバルがすごく多かった。

それが変わったのは7歳の時、彼は魔法がうまく使えないことが分かってきた頃からだ。

そして10歳の頃には保護施設のお荷物になってしまっていた。

その頃は私も魔法師としてはパッとせず、最下位争いを繰り広げた時もあった。

そして私たちは付き合うことになる。

当時は傷を舐め合うような関係だった。

同期の人達は徐々に貰われて行き15歳の頃には私達だけになっていた。

運命の魔法科高校の受験、私は補欠合格、彼は不合格になった。

その時は、魔法師への道を断たれた彼は保護施設を出ると聞かされた。

保護施設に所属している私たちは半ば強制的に別れさせられる事に。

魔法師でいられないことになった彼はどうするつもりなのか非常に気になったがそれまでだった。

現在非魔法師の就職は非常に厳しい。

100年前に比べて職業が非常に少なくなったからだ。

AIとロボットと3Dプリンターで当時有った職業の大半が置き替えられた。

20年続いた戦争もそれを助長したらしい。

戦争で多く人手を取られ置き換えが加速した。

昔は商品の精算にも人が使われていたし、工場にも人がかなりいたらしい。

今ではとても信じられない事だが、データを集めて統計処理して出版する事にも人を用いていた。

今では小学校のプログラミングの初等の課題でしかない。

それで十分できる内容だがこれも結構な人手をかけて行っていたらしい。

大企業も会社経営は同族だけで十分対応できるので、外部の人間はごく限られた人しか採っていない。

孤児院出の非魔法師にまともな就職先なんかは無いはずだが、この時龍郎さんは何も言わなかった。

3年間私なりに必死に努力したが、才能の差は大きく大学受験はあきらめることに。

だがこの後運命の出会いが待っていた。

就職活動中に偶然?彼のことを知ってしまったのだ。

彼は当時はまだ弱小の魔法関連部品メーカのFLTに居た。

そこで私は迷わずFLTに就職した。

同時に保護施設を退所し余計な柵も無くなった。

私は知りたかった、なぜあの時別れなければならなかったのかを。

開発部門に所属した私とは部署が違っていたため会うだけでも長い時間がかかった。

会って話ができてからも彼はなかなか口を割らなかった。

だけど話を聞いたときはショックで寝込んだほどだった。

亡国の四葉、死の魔法師に囲われていたなんて。

高校受験の失敗もわざとだそうだ。

彼は真面目に受けても合格できたかは判らなかったと笑っていたが。

次期当主の姉の婿という事だが、実際は種馬だ。

保護施設との取り決めで、表の身分が必要になりFLTに送り込まれた様だ。

四葉に貰われて行って行方不明になったでは流石に保護施設としても外聞が悪いらしい。

ただそんな訳だから彼には権限がほとんど無く、いわば飼い殺し状態だった。

だけど保護施設育ちの私たちに、国家権力より強い存在に逆らえる訳も無かった。

当初は非常に慎重に付き合っていたが幸いというべきか四葉はほとんど干渉してこなかった。

私たちに対する干渉は子供が生まれてしばらくすると全くと言っていいほど無くなった。

そこで本社のそばにマンションを手配してそこに泊まるのを仕事の都合と言う事にした。

当初は時々だったが次第に増え兄妹が中学に入る頃にはほとんど入りびたりになった。

やっとあの女(人の心を全く理解しない人型の化け物だ)が死んだときは心底ほっとした。

そしてあと半年であの二人も高校卒業、基本扶養義務も無くなる。

年齢的に子供は難しいかもしれないが、頑張ってみるべきかも。

漸く奪われていたものが少しは取り戻せるかも知れない。

 




2次創作を読むと、どうしても深雪側からの記述が多い様に感じます。
そこで小百合さん側からも書いてみようと思いました。
オリジナル設定を付けていますが上手く書けたかな?
こう考えるとこの物語では割と純愛なのか?

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