防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-16 五輪勇海

真由美の三者会談は実質二者になり場所も変わる事になった。

真由美お気に入りの紅茶専門店、食事は出さないと言う硬派な店だ。

マスター(女性)一人で切り盛りしている事もあり食事時は営業していない。

その空き時間を借りている。(十文字君を真似たようだ。)

食事は真由美が弁当を作ってきている。

その理由は話題作りの為だ、流石に鈴音の質問だけでは苦しい。(年上のプライド的な意味でも)

そしてあの達也君と会話の弾んだ生徒会室を再現させるのが目標だ。

幸い深雪さんのお弁当は味も含めて(おかず交換で)良く知っている。

おそらくあの時深雪さんが作ってきた弁当、あれが達也君の好みだろう。

真由美はそれを目指し日々研究中だ。

 

達也は真由美と二人でいるとあの生徒会室を思い出すようになっていた。

香りは記憶と結びつきやすい、弁当の香りが助長しているのだろう。

三年生になり科の違いが更に顕著になり、昼食時間がますます合わなくなった。

またトーラスシルバー関連で夕食も深雪と一緒にとる事が少なくなった。

こうしてこの時間はある意味達也が心安らぐ時になったのだ。

 

 

都内某所、五輪勇海はあの女医の報告を受けていた。

勇海の顔色はすぐれない、やがて報告は終わった。

この場にはもう一人いる、眼光鋭いスーツ姿の男だ。

「結局失敗という訳だな。」と勇海。

「と言うより結果を見ると彼、司波さんの足元にも及びません。

良い人でもけっかは半日程しか持ちません、だけど回復には3日かかります。

いかに十師族が規格外か分かる結果ね。」

「我が兵士たちとて精鋭のはずですが。」不快そうな男。

「澪さんのサイオン圧が高い事を言っています。

兵士の方々は戦略級魔法師の澪さんより強いのですか。」と女医。

「失礼しました。」と男。

「他にグラムデモリッションの使い手はいないのか?」と勇海。

「使えるだけならあと数人いますが、いずれも前回紹介した者たちより劣ります。

政府挙げて調査しましたがこれ以上の人材は民間含めて現代魔法師にはいませんね。」

「打つ手なしか・・・」

「七草真由美嬢の奥の手もあと一回ですしね……

先ほど現代魔法師といいましたが?」と女医。

「ええ古式の方にはまだ声をかけてはいません。

古式の方には条件をきっちり決めないといけませんから。」

「条件とは何だ?」

「やってもらう事の正確なイメージですね、それにより報酬を決める形になります。

ですがこれまでの事を考え合わせるとそれなりの方となります、週一は論外と考えてください。」

「…もうこれしかないか、七草殿に連絡して真由美さんを呼ぼう。」

 

7月のはじめ達也は真由美から呼び出された、またあの少女に会って欲しいと。

あれからしばらくたっている、あの時の術はもう解けているはずだ。

達也はこの呼び出しの理由を次の二通りだと考えていた。

まず一つ目はあの術をもう一度かけて欲しいだ、これはよほどの事が無い限り断るつもりだ。

二つ目は最後のお別れ、ちょうど真由美が呼び出された様に。

どちらにせよ初めて会った時の様にICUに入っているだろう、気を引き締めて会う事にした。

(達也は感情が薄いだけで全くない訳では有りません。)

そこは横浜に出来た病院の離れのような場所だった。

渡り廊下を通り隣のビルへ、そこはガラス越しに見て200平米ほどの部屋だった。

そこにはベットが一つと達也が見たことが無い機械が至る所にあった。

会ってみると意外な事に少女はベットにこそいたが普通に話が出来そうだった。

流石の達也も一瞬混乱する、その隙をついてではないが少女が達也に話しかける。

「お兄様、やっとあえました!!」

「お兄様?」達也は首を傾げた。

「真由美さんから達也様はこう呼ばれると喜ぶと聞きました。ダメ、でしょうか?」

「先輩!」達也は真由美を睨みつけた。

「頼まれて仕方が無かったのよ…」下を向きながら真由美は言った。

「大変熱心に指導してくださったんですが。」真由美が嬉々として教えてくれたと明かした。

そう、彼女の『お兄様』は深雪のそれとそっくりだった。

長い事身近で聞いてきただけの事はあり真由美の指導は完璧だった。

「そうよ、でもそう呼ばれるのが好きなのは間違いないでしょう?」そっぽを向いて真由美が言った。

「それで、あのう、ダメでしょうか?」

「…かまわない、好きに呼べばいい。」少し考えて達也は言った。

そう長く会う事もないと考えての事だが、今となっては懐かしい『お兄様』の言葉に惹かれたのも有る様だ。

「有難う御座います、お兄様。………」

少女主導で会話が弾む、真由美、勇海、女医は静かにそれを見守っている。

やがてドクターストップがかかる、少女はベットで静かに横になる。

「これで俺の用事は終わりですか。」と言って席を立とうとする達也。

「いえむしろこれからが本番よ。」と真由美は言い放ちやってほしい事を説明する。

達也はそれを静かに聞いていたが「お断りします。」と言った。

「なぜ?さっきまであんなに楽しそうに話していたお友達を助けてあげないの。」と真由美。

「流石に二回話しただけの人を友達と言うには無理が有ります。

それに前回これっきりと約束したはずでは?」

「2年前の放送室前であなたが言った事を覚えているかしら?

あの時の達也君の言葉通りならかまわないんじゃないの。」

「それは行為者が約束した場合でしょう、先輩が破るのは勝手ですが俺がやる理由にはなりませんよ。」

「あら私が頼んでいる事は前回と違う事よ、それでもダメ?」

「だけど要約すると前回の行為の改良してくれという事でしょう、お断りします。」

「どうしてダメなの?」

「俺は彼女の傍に常についている事は出来ません。

結局彼女の苦痛を長引かせる事になるだけです。」

「…深雪さんじゃないからか。」

「そうですね。」

真由美は難しい顔でしばらく考えていたがやがて真由美が猫なで声で言った。

「達也くーん、ちょっと思い出したことがあるの、そこでお話しましょ。」

部屋の隅へ達也をつれていった。

残された3人には会話の断片が辛うじて聞こえるだけだった。

「………コンペ………図書室………京都………バー………うそつき………」

 

しばらくすると一緒に出てきたが、達也はうんざりした顔をしていた。

「それで俺は何をすればいいんですか。」

だがしかしそこは達也、時計を見て次の言葉を付け加えた。

「今から三時間です。それ以上はばれます。」

「ばれると?」

「氷の彫刻が2体」

「…しょうがないわね。」少し間をを置き体をぶるっと震わせて言った。

話がついたと見るや、女医は小走りで駆けていった。

 

女医は隣の機械のコンソールに来たようだ、インターホンから声がする。

「準備完了、まずは前回と同じことをしてみて、ただし全部戻さず少しだけにして。」

「了解しました、では始めます。」

 

1回目の計測が終わった、初めの解析には20分程度かかった。

女医が感心しながら言った。

「こんなに精密にサイオンをコントロールできるなんて。

パラメータを変えることは出来るかしら。」

「感覚的なものでよければ。」「じゃあお願い」

 

1時間が経過した。「ストップ、少し休憩」いきなり女医がそう言った。

「どうかしたのですか?」真由美が訊ねた。

「データのバラつきが大きいの。何が原因かと思ってね。」

その言葉に真由美がひらめいた。

「達也君、遮蔽物の影響があるの?」

「それとサイオンセンサーが影響しているようです。

こちらは彼女との間にある事が問題ですね。」

真由美と勇海の頭に?マークが乱立する中、女医が要約した。

「遮蔽物、つまりこのガラスや服なんかのことね。

それとセンサーとの相対位置が問題なら、自分との距離を小さくすればいい。」

「つまり」真由美が恐る恐る聞いた。

「ぶっちゃけると、裸で抱き合えば、ばらつきを少なく出来るわけね。」

真由美は顔を真っ赤にし、勇海はオロオロと歩き回った。

その時澪が言った。

「私は構いません。もうあんな苦しい思いをしなくて済む可能性があるなら、何でもします。」

これを聞いて勇海は、「ロビーで待ってるよ。終わったら呼んでくれ。」と言って出て行った。

「売店にアイマスクが有るから買ってきて」女医は真由美に言った。

真由美はあわてて走り出た。

みんなバタバタしていて、澪のつぶやきを聞き逃していた。

「……お兄様になら何をされてもいいのに……」

 

真由美が帰ってきて、一緒にICUに入った達也は、ベットの前で立ち止まった。

「どうしたの?」

「このままベットに入るんですか?」

「先生!!」

「おんぶかだっこ、彼女に決めさせて」達也はアイマスクをつけベットに跪く。

彼女が達也にささやき、いわゆるお姫様抱っこの体制になる。

「興奮しすぎているからちょっと待って」と女医。

やがて静かに女医が言った。

「興奮しすぎて、気を失ったようね。はじめてください。」

裸で抱き合う二人の様子を、頬を染めながら真由美は見つづけていた。

 

とりあえず時間切れで終了し勇海を呼んだ。

「これで1か月ぐらいは持つんじゃないかしら。」女医。

「1か月もあれば、きっと代わりの人が見つかるわよ」真由美。

ジト目で真由美を見て言った。

「これ以上させたいなら上に話を通してください。

残りの1か月、できれば彼女のしたい事をさせてあげてください。

思い残す事がないように。」

この時も達也は、少女が『戦略級魔法師 五輪澪』とは気付かなかった。

 


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