防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-17 九校戦へ向けて

旧FLT社開発第3課のビルの一室に達也と牛山はいた。

「大体状況は整理できましたか。」と牛山。

・ストックオプションを全社員に発行、株の売却益を資本金とする。

・旧3課所属の資材(ビルや開発設備)の譲渡益と飛行魔法関連の権利と今回の損失を相殺する。

・本社機能は当面FLTが代行する。

・その間新規CAD開発はFLTと協議する事。

FLTとの覚書は要約するとこうなる。

「で新会社のCEOには私が成る事にしやした。

今回の騒動、結局何もできやせんでしたからせめて次こそはと。」

「やっていただけるなら助かりますが大丈夫ですか?」

「AIの補助もありやす、当面は大丈夫でしょう。」

「よろしくお願いします。」

「で社名は『トーラスシルバー』で初仕事はシルバーホーン独立記念モデルでOKですね。」

「ああそれでお願いします、それと完全思考型CADの部品在庫はどうするつもりでしょうか?」

「それですが、サンプルを出したとこからちょこちょこ注文が入ってきてます。

当初の計画からは大幅に少ないですが数年もすれば在庫は履けると思いやす。」

「ならそれもOKか、なら株の流出先は判明しましたか?」

「へい、それは正式に株式への転換手続きに入りましたので。

どうやらどこかの投資家の様ですね、そして経営に関してはすぐに手を出すつもりはないとの事です。

適格検査(反社会的勢力や外国の資本が入っていないのかなど)に時間が掛かりますから具体的にはその後ですね。

ある程度結果が出た段階で会いに行こうと思ってます。」

「どのぐらい流れたかは分かるか?」

「転換手続きを見ると4割を超えているようですね。

ですが御曹司、先ずはうちらが確保している分を転換しねえといけやせん。

流石にそれだけの大金は御曹司にも難しいでしょう。

会社経営を頑張って少しづつ転換するしかないですぜ。」

「…それしかないか、他には?」

「トーラスシルバーの秘密はどうしやしょう?

これも私が表に出たほうが良いでしょうか。」

「CEOを兼務しないのなら出来るかも知れないが、現状は無理だろう。

差し迫った事情がある訳では無いから現状のままで良いと思う。」

「了解です、最後にFLT社から引継ぎの為に仮にでも経理責任者と営業責任者を決めて欲しいと言われました。

そこでどちらかを御曹司に担当していただきたいと思っています。

この二つなら実務はAIがやるんで学生の兼任でもなんとかなるでしょう。

ただし、各々の職種の要件が他のメンバーでは満たすことが出来ません。

御曹司には釈迦に説法かもしれやせんが一応解説しますね。

まず経理責任者、これは基本機械の御守りですね。

政府から認定されたソフトを適切に管理する事が求められますね。

故意にソフトを改変したりアップデートをサボらなければ基本OKです。

ですが何かあった時には金銭面での責務を負う可能性が有ります。

ですから責任者の財政的な基盤が必要です、口の悪い奴は『担保』だと言ってますね。

次に営業責任者、これは他社の経営者とのお付き合いですね。

今は大体の経営は一族で行っていますから社交力とでも言う力が必要不可欠です。

相手になめられない事が必須です、家の格や本人の強烈な実力が要ります。

これまた『鹿鳴館』や『貴族の遊び』と言われていますね。」

「その二択なら経理だろう、俺は四葉の当主の息子と公表されてしまっている。

通常の交渉はおそらく不可能だろうからな。」

「やっぱりそっちですかい、で問題は営業です。

幸い期限は特に言われませんでしたが、なるべく早いほうが良いでしょうから。」

「…それなんだが今度会う投資家に頼んでみてはどうだ。

投資家なら企業家には伝手が有るだろう、なんなら学生をインターンとして受け入れても良いだろう。

そこそこの企業の子息ならいいトレーニングになる、またその彼に仮でない者を紹介してもらうのもアリだろう。

それに投資家側も子飼いの人間がうちに入っている方が何かと都合が良いだろうからな。」

「さすが御曹司、ではその線で話しておきます。」

 

「奥様、魔法師協会からこんな物が届きました。」と手紙を差し出す葉山。

その手紙を読んで真夜は言った。

「どう言う風の吹きまわしかしらね、九校戦への招待なんて。

しかも先生と同じ特別待遇、まさか学生の前でスピーチをしなければならないのかしら。」

「流石にそれは無いかと思われます、今回は奥様のご子息とその婚約者が出場される最後の大会。

師族会議の重鎮に一度ぐらいは見に来てくださいと言う事ではないかと。」

「協会はそれで良いけどホテルは軍の管轄のはず、春の沖縄の件は鼻薬が効きすぎたかしらね?

念の為に少し調べておいてちょうだい。」

「かしこまりました、では出席という事でよろしいですね。」

「ええ研究も一息つく頃だし丁度良いわ。

…そうだ帰って来たらそろそろ達也さん達の式の準備をしないとね。」

「ですが奥様、春の様に横槍を入れられないでしょうか?」

「大丈夫よ、政府は書類が整っていれば受理しないわけにはいかないから。」

「ですが師族会議の方は?」

「それも大丈夫、春の件は不興を買うのを覚悟して提案した一条家、それに当時実力者だった七草家が賛同した。

そして議長があの先生だったからこそ提案できた話よ。

一条殿には妥協したし、七草と九島は失脚したわ。

そして今の議長は新米の二木殿、四葉に逆らう気概も力もありはしない。

それに今の次席は十文字殿だけれども世代交代したばかり、さすがにこの時期に自分から波風を立てないでしょうから。」

葉山は静かにお辞儀をして言った。

「奥様、常々不思議に思っているのですが何故、十師族の方々は兄妹婚にこだわりが有るのでしょうか?」

「法律違反なんだから当然なのではないかしら。」

「十師族の方々の遵奉精神を疑ってはおりませんがそれ以上の何かを感じます。

それに戦争中の研究所ではそれこそなんでもアリでした、婚姻に関しても。

何故今更兄妹婚程度にこだわるのでしょうか、1世代程度なら影響は誤差の範囲内です。」

「そう、確かに研究所では何でもありだった、但し”ほぼ”が付いていたの。

当時研究所では兵器の開発をしていたわ、だから不確定要素は出来るだけ排除したかった。

そう、なんでもありの少数の例外、それが兄妹婚。

兵器として生み出された私たちの数少ない人間らしい所、それが兄妹婚で生み出されていない事なの。

だから研究所出身者にとっては禁忌となっているの。

だけど人によってはまだ試していない可能性でもあるみたいね。」

「なるほどそういう事でしたか、教えていただきありがとうございます。」

 

渡辺摩利は千葉家の近くの駅前にいた。

春にシュウからは一応の説明があったが感情は別だ。

『千葉家を継ぐための修行をする、だからしばらく会うことは出来ない。』と。

パートナーとしては彼を信じて待つのが正しいんだろうけど…

今千葉家の最寄り駅にいないのはそれを考慮しての事だ。

(決してエリカに会うのが嫌なわけではない!…)

道場での知り合いにシュウの様子をそれとなく聞いてみたが答えは要領を得ないものだった。

曰く、修行をしている所を見たことは無い、手数にバラエティが無くなり前より弱くなった気がする。

だんだん良くない評判が広がっている気がして摩利は気をもんでいた。

今日も真由美の誘いを断って一人悶々としていた。

その時シュウからメールが有った。

 

千葉修次は追い詰められていた。

今も父から修行の成果について叱責を受けていた。

父から言われた『迅雷斬鉄』、この技は自分とトコトン相性が悪い。

おまけに修行を他人に見せるわけにはいかない、よって他人に意見を聞く事も出来ない。

3ヵ月で一応形にはなったがそれだけだ、完成には長い時間が掛かるだろう……

今日はそれに加えてある物を渡された。

見合い写真とプロフィール、いわゆる釣書だ。

微妙に年齢が高いので兄貴のをそのままスライドさせたんだろうと思う。

技の習得に時間が掛かるなら、有力者の娘を娶って後継者として身を固めろと言われた。

このままでは不味い、あのクソ親父の思惑通りになる、と思い反抗したが一蹴された。

『武家なら言いたいことが有るなら実力で示せ、示せたらお前の話を聞いてやる。』と。

何を示せばいいか聞いたら『それはお前が考えろ、俺が納得できるモノをだ。』と言われた。

それからはいわば親父の愚痴が続いた。

司波達也に兄貴を倒されエリカも一蹴、道場の面子は丸つぶれだ。

兄の事は殉職として警察に文書が残っている、またエリカの件は道場の人間は薄々気付いている様だ。

俺も去年護衛対象だったのに先に倒されてしまった。

こちらは文書にはなっていないが、担ぎ込まれた時に親父に一通り話は通っている。

軍や警察に影響力がある千葉家だが、その地位は永遠に盤石ではない。

他の流派や道場の追い上げは厳しい、だから親父も婚姻で強化を図りたいと思っているのだ。

これはもう一つだろう、『司波達也を倒す』今考えられる事ではこれしかない。

あのくそ親父を黙らせるには正式に試合をして倒すしかない、どうすれば良いのかを考える事に。

 


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