防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-02 深雪たちのいない沖縄

「司令、お久しぶりです。」と敬礼しながら風間は言った。

「おう久しいな、最後に会ったのは何年前かな?」司令は椅子から立ち上がって風間に握手を求める。

「はい、あの時以来ですから4年程ですね。」

指令は部屋に入ってきている秘書官に頼み込んだ。

「済まない知り合いだ、少しの間二人にしてくれないか?」

「…仕方が有りませんね。」と言って秘書官は出て行った。

「レコーダもOFFでお願い。」司令はそう付け加えた。

司令はゆっくりと椅子に戻り端末を操作した、その間風間は敬礼のままだ。

司令が風間に向き合ったのを確認するや否や風間は切り出す。

「司令!」

言いかける風間を指定は手を挙げて制し言った。

「風間、佐伯は元気にしているのか?」

「はあ、今も精力的に仕事をしておられます。」思わぬ返事に戸惑う風間。

司令は再度立ち上がり窓から外をのぞきながら言った。

「風間、俺がお前達を佐伯に託したのは、奴の理念に共鳴したからだ。

だから今回の作戦も精査することなく通した。」

沖縄の夜景を見ながらここでしばらく言葉を区切った。

「なあ風間、やはり奴らの力を借りんとこの国を、この沖縄を守れんのか?

ここに奴らはいない、我々ではまた蹂躙を許してしまうのか?」

オフレコでと頼んだのにも関わらず具体名をぼやかした。

さすがに軍人であっても人に頼んだオフレコを信じるほどのバカではなかったようだ。

沖縄は十師族の手が及んでいない、逆に言えば十師族嫌いが集まる場所でもある。

ここで司令は風間に向き合う。

「佐伯やおまえは本土の奴らに染まってしまったのか?

俺を説得したあの時に言葉は嘘だったのか?」

101部隊の創設理念は、『十師族によらない戦力を作る。』だ。

その十師族の四葉を今回の作戦に加えている風間はこの問いに答えられない。

しばらく重い沈黙が続いた。

司令は再び窓の外へ目をやる。

「なあ風間、あの時の話は実現不可能な夢まぼろしだったのか?」

風間は直立不動で無言のままだ。

沖縄基地司令は当然ながら軍を陰で操るかのような十師族の在り方に否定的だ。

そして風間は101の隊長になるまでここ沖縄にいた。

だから風間や真田はその後佐伯にスカウトされた事になる。

「俺の質問に答えてくれないか?」

この問いに答えられない風間は「失礼しました。」と言って出て行かざるを得なかった。

去り際に指令が言った。

「兵が必要なら言え、いくらでも用意してやる。」

 

3月28日陳祥山は最終打ち合わせに臨んだ。

「ではこれより最終打ち合わせを行います。」と風間。

陳祥山は手を挙げて言った。

「司波殿が居られませんが現地集合ですかな?」

「彼等は今回は参加しない。では始めるぞ…」

陳祥山は風間の副官(初めての打ち合わせにはいなかった。)の表情の変化を見逃さなかった。

この後陳祥山はこの話題には触れなかった。

 

西果新島就航記念パーティーは大きな問題もなく無事終了した。

ただ一人壇上で演説中に倒れた事だけだった。

その一人もすぐに病院に搬送され命に別状はなかったとあとで報道されただけだった。

それとこれは問題ではないが一大スポンサーである北山家のご子息、ご令嬢が土壇場で欠席だったのは非常に残念がられた。

特にそろそろ適齢期のご令嬢は閉鎖的な学校(一般人からすると)に通われている事が知られている。

この機会に是非とも繋ぎを付けたいと思っていた家は多かったから。

この件で大きな影響を受けたのは雫の友人枠で出席するはずだったほのかだ。

仕方なく北山夫妻の知り合いという事で出席したのだが、最初のあいさつ回りで緊張の為ダウン、その後風邪を発症する事になる。

(大臣、元大臣クラス、大企業の社長などが続々挨拶に来る。

夫妻との関係を色々聞かれる事になり気の休まる暇がなかった為だ。)

 

陳祥山と呂剛虎は高速艇で帰国の途にあった。

任務は達成された、だが二人とも無言で向かい合って座っている。

やがて陳祥山は重い口を開いた。

「上尉、今回の任務は無事完了した。成果から見れば完璧と言って良い。」

「はい。」

「いずれ日本は調伏せねばならない。」

「その通りです。」

(彼らも面子が不要と考えている無い訳では無い。)

「今回の作戦で日本軍の力量はだいたいわかった。」

「はい、ですが…」

「分かっている、『四葉』だろう。タンカーの調査の結果は?」

タンカーも当然大亜連合から盗まれた物だ、それなのに防衛システムが動かなかったというのは納得できない。

つまり大亜連合の軍船の防衛システムが全く機能しなかったとなれば別の意味で大問題だからだ。

四葉と強調して陳祥山は言った。

「調査しましたが船の防衛システムに異常は見当たりませんでした。

全く機能しなかったとの捕虜の証言と矛盾します。

何らかの術を受けて操られていたものと推測します。」

ある意味当然の事だが呂剛虎はかつてのリーナと同じ勘違いをした。

「という事は精神魔法が。仕掛けられたタイミングは分かるか?」

「タンカーのオペレータ達は上陸した形跡は有りません。

オーストラリア工作員を経由して感染したのではと推測します。

あの工作員は単独でいろいろ嗅ぎまわっていたようですから。」

「あのオーストラリア工作員ががキーなのは奴の証言から分かっている。

だとすれば初会合からわずか数日で補足したという事だ。

恐るべき索敵能力、アンタッチャブルは未だ健在という訳か。」

「…ではあの兄妹は。」と呂剛虎。

「敵を釣る餌だろう。これまで極端な秘密主義を取って来た奴らだ。

それに現当主はまだ若い、今急に高校生の次を公開する合理的な理由が思いつかん。

『あの四葉』の次だ、諜報に携わっている者なら食いつかずにはいられんだろう。」

「ではどうすると?」

「何もせんよ、四葉に関しては。」

「何も、ですか?」

「そうだ、少なくとも今はな。

もとより四葉はアンタッチャブル、今までと何も変わらん。

『火中の栗を拾う』を我々が行う必要は無いだろう。

今度は奴らの番だ、ベラルーシへの義理も果たせるだろう。」

「はっ。」

「帰投したら部隊の再編だ、失われたモノはあまりに大きい。

忙しくなるぞ、今のうちに覚悟しておけ。」

「はっ、何とも頭の痛い事です。」

陳祥山はどこからか白酒と杯を取り出して二人の間に置く。

「だから今宵は此度の作戦の勝利を大いに祝おうではないか。」

「はっ、お供させていただきます。」呂剛虎は酌をしながら言った。

この後、船上は大いに盛り上がった。

 




魔法師殺しの『ゲートキーパー』を大亜連合に公開しませんでした。
その為、二人が世界中の魔法師から直ちに攻撃される事はなくなりました。

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