防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-23 千葉家(3)

達也は寿和と戦った時の格好で(ただし銃は無しだ)で千葉家を訪れた。

CADはシルバーホーン2丁を用意、完全思考型は念の為使用していない。

ナイフは二丁、右手にナイフ、左手にはCADで臨む。

(予備のナイフは腰のベルトに磁石を使用して柄がベルトについている。

CADはホルスターに。)

そこで待っていたのは、修次と早苗だった。

「今回は私が立会人を務めさせていただきます。」早苗が言った。

二人は、その覚悟を表すように白一色の着物を身に纏っていた。

修次は手に刀を持ち達也に一礼した。

その刀は達也には見覚えが有る物だ、それは横浜事変で寿和が持っていた刀だった。

一同は、設えられていた会場へ移動、約10メートル離れて両者は対峙した。

早苗が間に入って宣言した。

「勝利の条件は、相手に負けを認めさせることのみ。他に条件はありません。」

静かに時間が過ぎ、やがて早苗は壁際に移動し再度両者を見つめてから宣言した。

「初め!」

開始早々、いきなり修次が仕掛けた、早い。

だが寿和と大差がない速さ、つまり対処は可能だ。

達也は、相手が仕掛けてくることは予想していたので、『圧斬り』をまとったナイフで受け止めた。

魔法力の違いからか力負けしたのは達也の方だった、右手のナイフが軋みを上げる。

達也は後ろに跳び退った。ただし空中にある間に飛行魔法の応用で軌道を変え追撃をかわした。

流石の修次もこれには対処が出来ず逃がしてしまう。

場所を入れ替え対峙する二人、今度は達也が術式解体を放とうとしたが相手の動きが速いので有効になりにくい。

十分な量のサイオン流を相手にぶつけなければ魔法をキャンセルさせることは出来ない。

仕方なく回避を選択、この状態ではサイオンを練る余裕はない。

この事態に修次は内心驚愕していたが、不敵に笑った。

打ち合うこと数回、達也は修次の動きが、まるで演武の型の様であることに気が付いた。

これを利用して達也は修次の動きを先読みして、刀を躱し左腕をナイフで切りつけた。

だが今度は達也が驚く番だった、切り裂けなかっただけでなく達也のナイフが真ん中から折れ飛んだ。

達也は瞬時に理由を悟ったが、一瞬の隙を突かれてしまう。

わき腹から胸にかけて浅く傷を負った達也は、自己修復をキャンセルした。

効かなかった理由は寿和と同じだろう、刀とともに修次自身も単一の存在になっていたからだった。

修次が使用した魔法は迅雷斬鉄、驚くことにこの半年でものにしていたらしい、さすが麒麟児と言われただけのことはある。

さらに打ち合うこと数合、達也の傷からは血が静かに流れている。

達也はナイフをCADに替えたが防戦一方の状態に追い込まれた。

この状態になっても修次は、冷徹に必殺の技を繰り出していた。

 

円の動きで一撃離脱を繰り返す修次、達也の服に切り傷が増えてゆく。

何十回と繰り返されただろうか、修次がわずかに軌道を変えるその瞬間、達也は両腕をクロスし修次へ突き出した。

すると不快なサイオン波動が達也から放たれた。

壁際の早苗も思わず膝をつく中、術式解体にも耐えた修次の魔法がキャンセルされた。

型通りしか動けない魔法破られたことで、動作は一時停止し達也の攻撃を避けられなかった。

そして左腕に達也以上の深手を負う事になった。

達也が吼えた。「千葉修次、こんな付け焼刃の魔法で俺は倒せないぞ。

得物も合っているとは思えない、本来の戦い方をして見せろ。」

達也は修次の魔法を何回も見ていて、修次の魔法に不自然なタイミングでわずかに魔法の乱れが感じられた。

それは武術の型の乱れと一致していた。

これはあの時に寿和の使用していた魔法だが、その時にはこんな事はなかった。

それもう一つ考えることが有る。

伝え聞く修次の戦闘スタイルは、剣術にとらわれない多彩なバリエーションが特長のはず。

だが今は片通りの動きしかしていない、それに前に見た時は小太刀を使っていた。

これらを合わせると、今修次が使用している技は寿和つまり千葉家の技と当たりをつけたのだった。

今修次が使ってる刀は千葉家の秘剣だろう、壊すと後が怖い(エリカ?)。

秘匿しなければならない『分解』を軽々しく使う事は出来ない。

修次がこの技を使ってくる可能性はあると思っていたが、いきなり使ってくるのは予想外だった。

 

修次は持っていた刀を早苗に渡し、代わりに20センチほどの角棒を受け取った。

そこに付いているボタンを押すと刃が飛び出してきた。

「そうだったね司波達也君、千葉家の人間としてではなく僕個人としてお相手しよう。

防衛大特殊戦技研究科…いや今はただの千葉修次、いざ参る。」

そしてそれまで静止していた修次が、いきなり達也の目の前に現れ得物をふるった。

達也は横っ飛びでそれを躱す、だが躱しきれていなかったようだ。

CADを持った左腕を浅く切り裂かれた。

さっきと違い修次のスピードは段違いだ。

達也もこれまでに見たこともないレベル、つまりまともには対処できない。

道場が狭いのか、多大な魔法力が必要なのかは分からないがこのスピードは攻撃時のみだ。

防戦一方に追い込まれる達也、左腕に傷が増えていく。

この攻撃に右手のナイフはもはや役立たずだ、修次もそれを狙っているんだろう。

修次の攻撃は続く、この攻撃をする修次もすごいが、初見でこの攻撃に致命傷を負わない達也も尋常なレベルにはない。

攻撃が数十回に及び互いに息は上がってきた。

呼吸の乱れは修次、左手の傷は達也の方がダメージが多いようだ。

遂に達也の左手がCADを支えられ無いかのようにブレる。

この隙を見逃さず攻撃を仕掛ける修次。

だがこれは達也の罠だった、達也は修次の魔法発動を読み取り、術式解体を放った。

修次はつんのめりたたらを踏んで止まってしまう。

間髪入れずに達也が右のナイフを振るう、とっさに修次は怪我を負った左手でガードした。

傷口が開き鮮血が噴出し、修次の左手は完全に使い物にならなくなった。

修次が多々良を踏んだのは、自己加速術式を発動直前に吹き飛ばされて頭がついて行かなかったのが原因だ。

俗に言う止まったエスカレータ現象、止まったエスカレータはただの階段のはずなのに上手く登れないと言う奴だ。

達也が右手のナイフを修次に向かって突き出して言った。

「その技はもう見切った、負けを認めるか?」

エレメンタルサイトで技の発動は分かるがそれを教えるわけにはいかない。

「未だだ!」修次はこう叫んで立ち上がる。

三度二人は対峙する。

互いにゆっくりと反時計回りに回っている。

隙を見いだせないのかなかなか仕掛けようとしない。

時間だけが過ぎて行くが傷が重いのは修次の方だ。

達也の方はほぼ血が止まっている様だが、修次は床にシミを作り続けている。

そろそろ限界だろうと達也が早苗をちらっと見た。

その時修次が仕掛けた!!

 


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