「では行ってくる。」達也はちらっと深雪を見て言った。
「いってらっしゃいませ、達也様。」ようやく半年たって、『兄』と呼ぶことが少なくなった深雪であったが、
だが最近は達也がなんだか遠くなったような違和感を感じていた。
ただし何がおかしいか明確にできなかった。
達也は2月のあの件以来、深雪に対してリソースを大きく割くことはなくなっていた。
それと去年の年末にかけての悲壮感、婚約者になった後の何かに怯えた様子から比べると
最近の様子はごく些細でしかないため、この深雪の気持ちに気付く事はなかった。
むしろ環境が激変したため何が正しいのか分からないのが正解かもしれない。
達也はもやもやした気持ちを押し殺し土浦基地へ向かう、九校戦も終わり久々の訓練だと気を引き締めてかかる。
深雪は変な考えを振り払うように頭を振り、リビングに戻った。
しばらく何も考えないようにぼーっとしてると不意に電話があった。
「御当主様からです。音声回線なのですぐ出てほしいとのことです。」
あわてた様子で水波が入ってきて叫ぶように言った。
深呼吸の後「おはようございます、『叔母様』」と丁寧に深雪は電話に出た。
「おはようございます深雪さん。
ちょっと確認したいことがあるので来てもらえないかしら?」
「本家へですか?何時でしょうか?」
「横浜支部へ今すぐ、午前中に帰れると思います。」
少し考えて深雪は「それでは御伺いします。」
「20分後に迎えを寄こします、それでおいでなさい。」
本来ならそろそろ入試準備をしなければならない時期だが、政府は2月のデモを重く見て(ボストンの二の舞になりたくない?)
魔法科大学の見直しをきめ近日中に詳細を公表するする予定、だからそれを確認しないと本格的に準備出来ないのだ。
横浜支部へ到着、深雪を見るなり受付で「四葉殿は第5会議室にいらっしゃいます。」
悩みを抱えている深雪は特に気にすることなく第5会議室に入った。
「お久しぶりです『叔母様』。」と声をかける。
「お久しぶりね深雪さん。今日は午後から臨時師族会議があるので確認したいことがあります。」と真夜が問いかけた。
「わかりました。」と何を質問されるのかと不安を押し隠しながら深雪は答えた。
「達也さんとは仲良くやっていますか?」
「はい、今まで通りですが。なぜ今そんな事を?」小首をかしげながら深雪は言った。
その軽い言葉に真夜は少しだけ考えるそぶりを見せてから質問を続けた。
「では水波ちゃんとは上手くやっていますか?『ボディガード』としてはどうですか?」
「二月のテロの時のように、キャストジャミングを使われなければ大丈夫だと思います。
でもなぜそんな質問を?」
「今回の議題が二月のテロで有耶無耶になった、達也さんとの婚約の件なのよ。
婚約して半年、さすがにいつまでも達也さんを『ボディガード』扱いはまずいと思うの。
口さがない人はどこにでもいるものですからね。」
「たしかにそうですね。」ガーディアンと呼ばないことに違和感を感じながら深雪は答えた。
「ではそのように、葉山さん。」真夜の言葉に、葉山がお辞儀し端末を操作した。
「叔母様、師族会議で何が問題になっているのですか?」質問に答えが無い事に少しムッとしながら深雪は答えた。
「表面上は言うまでもないことだけど血が濃い、四葉内の婚姻より師族間の方が望ましいと言うところね。」
「法律上は問題無いと思いますがそれではなぜ揉めているか解らないですね。
では表面上でない物とはは何ですか?」深雪が考え込みながら答えた。
「その辺は十師族間でバラバラね。
老師は、九校戦で達也の力を見て深雪と達也が結びつくと四葉の力が強くなり過ぎて
十師族の一つ上の存在になることを危惧していた様でした。
これは十師族をまとめる立場なら当然なのかも知れないけれども。
後は高校に入ってからのいろいろな事件で達也の異能が公になった事でその力を取り込みを考えているみたいね。
最後は単純に親馬鹿よ。」
「みなさんそのような考えだったのですか。」少し落ち込みながら深雪は答えた。
「前回はそんな感じでしたね。
こんな極個人的な事が議題に上がったのはまだ九島家は健在で、パワーバランスを憂いていたのは老師とあと一人ぐらいでした。
ですから私はそんな理不尽な事に対抗する為に九島家と結託していた存在を追求しました。
そして私の告発を受け九島家が十師族を離脱、結託者も力を失いました。
そして私の推薦により七宝家が十師族入り。
敵は力を失い味方も増えた、この時点で深雪さんを達也さんのただ一人のお嫁さん候補にするつもりでした。
が結局テロで有耶無耶になってしまいました。」
真夜は自分が二人の婚約を成就させるべく努力したことを強調した。
「そうでしたか。」残念そうに深雪は答えた。
「ところで深雪さん、高校入学前に約束したこと覚えているかしら?」唐突に真夜は言った。
「何の話でしょう。」うろたえながら深雪は答えた。
「達也さんが高校生の内は目立つことは避けることよ。
深雪さん、あなた入学早々派手に動きましたね?
でなければ二科生が入学早々風紀委員はおかしいでしょう。」
「申し訳ございません、ですがなぜ今頃それを問題に?」首をかしげながら深雪は答えた。
「解らないかしら、もし達也が目立っていなかったら、今回の様に婚約が問題にならなかった事を。」
深雪ははっとした。
「そう、もし目立っていなかったら批判は今とは逆に達也の能力不足一点に絞られていたでしょうね。
十師族の次期当主の伴侶としてふさわしいのうりょくがない、ってね。
それであれば、その時点で達也さんの能力を解放すれば事は済みました。
後で能力がありすぎるという批判は、見る目のなさを暴露するようなものだもの。
そして何事もなく婚約は認められたでしょう。」真夜は少し間を開けた。
「結局深雪さんは私の言う事を聞いてくれませんでした。
これが貴方たちの婚約の妨げになってしまいました、まさに『親の心子知らず』ね。」
そして深雪の短絡的な行動が婚約の流れを阻害した点を指摘。
深雪は深くうなだれた。