防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-29 嵐の前(4)

真夜は静かに語りだす。

「当初の計画はこんな物だと内では推定しているわね。

まず一校の新入生歓迎週間で二科生の少女が、一科生の男子ともめる。

この裁定では魔法を使用した一科生がより重く罰せられる事になるわ。

一科生は喧嘩両成敗を主張するも聞き入れられない、これで一科生の不満が高まるわけね。

この対立は九校戦準備期間に爆発する、その生徒が選手に選ばれた所為でね。

九校戦にかこつけて恩赦された一科生、当然二科生は不満を募らせる。

そして再び対立、今度は生徒会の目の届かない所で対決する。

そもそも中学以前からできる剣道と高校から始める剣術、そして剣術は魔法と複合するのが基本。

結果的に魔法無しでは剣術に勝ち目はない、追い詰められれば魔法を使わざるを得なくなる。

そして哀れ二科生の少女は重傷を負わされる事になる予定だったのよ。

責任を取って風紀委員長は更迭、教職員推薦で3年生の委員が暫定で委員長に就任したでしょう。

たしか彼は横浜事変でかの国に操られたんだったかしら、論文コンペの警備情報は駄々漏れになるわね。

この状態で九校戦、大会中の事故で生徒会長は親友を失う事になる、死ぬかどうかは時の運ね。

失意の中で公約通りに最後の生徒総会、生徒会の一科生枠撤廃を上げるわ。

だけど重傷を負わされた女子生徒が壇上に上がり会長の無能を糾弾、総会は最悪の結果となる予定。

ケガをしたかわいそうな女子生徒、二科生までもが反対し圧倒的多数で否決。

一科生と二科生の融和は夢と消え、次期会長選挙は有効投票がわずか数%になったはず、事実上不信任ね。

無効票は会長をなじる言葉であふれている予定になっていたわね。

そしてケガを負わされた女子生徒は元生徒会長に公開討論会を要求する。

日時は論文コンペの日に実施される予定ね、コンペも二科生はあまり関係ないですからね。

その時はモノリスコード優勝の為に十文字殿達一高の主力、教師たちは論文コンペに出払っている状態。

ここで本来は司一達は襲撃するはずだったのよ。

論文コンペは無頭竜の全面的支援を受け、ゲリラのみで実行されるはずだった。

国籍不明なゲリラと我が国の軍隊と交戦し膠着状態になる。

運が悪いことに『たまたま』居合わせた化学薬品満載の貨物船が山下埠頭沖で戦闘に巻き込まれ爆発、

有毒ガスを十数キロにわたりまき散らす事になる予定だった、運悪く横浜支部は巻き込まれてしまう。

この事件により政府の監視の目が横浜に集中、そして艦隊への対応が遅れて艦隊の侵攻を許す事になってしまう。

大雑把にはこんな感じね。

あなたが捕まえたデータ窃盗実行犯たちは、この混乱を利用して有用なデータを取る予定だった。

一般兵やゲリラでは協会のデータは手も足も出ないでしょうから。

『些細な事では』一校の生徒がテロリストに拉致され行方不明になるわね。

危うく連れ去られそうになったケガをした生徒の身代わりになった事になる予定だったようね。

この混乱の中では、『首魁の娘』であっても易々と本国へ連れ去られるでしょうね。」

「その後は」深雪はぶるっと体を震わせた。

「恐らく私が一番よく知っているんでしょうね。」微笑みを浮かべながら真夜は答えた。

 

「でもなぜ連合はそんなことを。」深雪が首をかしげながら聞いた。

「かの国でも、30年たって再分離独立派が台頭してきているようね。

彼らの主張は、『連合は実力ではなく漁夫の利を得ただけ。』もっともな意見ね。

それで実力を示そうと、沖縄戦を仕掛けてきたが惨敗し、ますます勢い付かせることになった。

そのため今度は、実力+αが求められることになったわけね。」

「その+αが」深雪がつぶやいた。

「かの事件の再現、自分たちはうまくやったと主張したかった様だけれども、予想を大幅に超える大敗北。

この事実から目をそらすために近々軍事行動をする構えだけれども、状況が変化した場合はそれを口実に撤収するでしょう。」

深雪は衝撃の話に茫然としている、そして真夜はそれを見てさらに爆弾発言をする。

「深雪さん、他人事の様に聞いていますね。」

「えっ」

「狙われたのは『首魁の娘』、本来は十師族筆頭の四葉の娘、つまりは深雪さん、貴女がターゲットのはずでした。

私達が貴女の存在を世間から隠していたからあなたは守られたのよ。

私達は狙われている、その事は私が一番分かっているわ。

状況が続いているかぎり今後も『首魁の娘』は狙われ続けて行く事でしょうね。」

 

「聞きたい事はこんなところね、深雪さんも次期当主なんだからこれからは本家に気軽に来てくださいね。

それと約束を反故にした罰は何か考えておきます。」

深雪は恐縮して退出しようとした。

「そうそう最後に確認したい事がありました。

達也さんと婚約して半年以上経ったけれど、『婚約者としては』仲良くなったかしら?」

流石にこれは何を聞かれているのかは分かった様だ。

「いいえ」深雪は苦渋の表情と声で答えた。

「そう」真夜は答え、深雪はそのまま部屋を出た。

 

真由美は当初嫌々だった。

盗み聞きをしている事が分かってその思いはさらに強まったのだが。

だがそこで話された驚くべき事に体の震えが止まらなくなった。

「真由美、気分がすぐれないなら部屋で休んでいなさい。

十文字殿、そろそろ協会へ行く時間ですね。」

その言葉に克人は真由美をちらっと見たが何も言わなかった。

 




「実はあの事件は裏で誘拐が計画されていたのよ」
「「「な、なんだって!!!」」」

次は来週金曜日に更新予定です。

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