防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-30 師族会議

臨時師族会議が始まった。

横浜支部には三矢、四葉、五輪、七宝、七草、十文字が集まっている。

京都本部には一条、二木が、六塚と八代は自宅から出席している。

議長役の二木舞が口火を切る。

「まずは四葉殿、おめでとうございます。

ご子息の達也殿、九校戦で見事な活躍でした。」

各当主の反応はそれぞれだった。

それを一瞥して真夜が優雅に一礼して言った。

「有難う御座います、これで不肖の愚息も次期当主の伴侶として認められるでしょう。」

さりげなく予防線を張る真夜。

「その様に謙遜されずとも達也殿の能力はずば抜けています。

私の娘婿でも全く問題ありませんよ。」この五輪勇海の言葉に一部から笑いが起きる。

「戦略級魔法師の婿とは大きく出ましたな、ですが五輪殿の仰る通りその位の価値はありますぞ。

ですがもっと早くそれを知りたかったですな、知っていれば二年前の茶番劇はしなくて済んだでしょうに。

どうですかな?十文字殿、二年前は丁度貴男が対応したんでしたね。」と三矢元

「大した手間ではありませんよ。」

「流石十文字殿、高校レベルでは手間にもなりませんか。」と元。

「ですが四葉殿、あえてお尋ねしたい。

彼は貴女の息子であるるはず、だが彼は十師族ではないと言った。

その真意をお聞きしたい。」克人は目に力を込めて真夜を見た。

「『十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在。』」真夜は声を少し張って言い、ここで言葉を区切った。

克人はその言葉に少し顔をしかめる、それを確認して真夜は続ける。

「達也は二科生として第一高校に入学しました、ですから魔法師としては頂点にはなりえません。

当然我が家でも十師族の扱いはしていません、聞かれれば十師族とは答えさせませんでしたよ。」

「であれば二年前の会議でご子息と表明しても良かったのではないですか?」やや語気を抑えて克人が重ねて聞いた。

あの時の真由美の言葉を思い出したのだろう。

真夜は妖艶に微笑んで答えた。

「その時は私も息子とは知りませんでしたから。

先代のプロジェクトだったそうですが魔法力が無いと分かった時点で放棄されたようです。

四葉としては放棄しましたが姉はそのまま育てていたという次第の様です。」

真夜は嘘は言っていない、二年前達也が息子である事は知らない。

(そんな事実はないから知らなくて当然だ。)

「達也殿についてはまあ良いでしょう、ですが次期殿についても秘密にしていた点はご説明いただけますかな四葉殿。」と弘一。

「七草殿、その辺は各家の自主性に任せるべき事柄でしょう。

それにそれは今回の件に直接関係が有るとは思えませんが。」と克人。

その言葉に少し考えるそぶりを見せる弘一、真夜は優雅に微笑んでいるだけだ。

ここで議長役の舞が口を挟んだ。

「そろそろ会議を始めましょうか、出席者の中には忙しい方もいますからね。

今回の議題はあらかじめお伝えした通り四葉殿のご子息、達也殿についてです。

では発案者の七草殿、お願いします。」

「有難う御座います議長、では失礼して説明を。

話しは簡単、私の娘を達也殿の婚約者にしていただきたい、という事です。」

「その件に関してはお断りします。」と真夜。

「何故ですかな、一条殿には許可していたではないですか。」

「達也は四葉の次期当主の思い人、相思相愛の関係なのです。

四葉の端くれの達也は、次期当主の願いをかなえるべきだと思いますから。」身分差を強調する真夜。

「流石に時代錯誤では無いですかな?」

「あの二人は相思相愛ですから問題ありません。」

「ほう、相思相愛ですか…中学の同級生に話を聞きましたがそんな感じでは無かったそうですよ。

良く言えばお嬢様と奉公人、そんな関係だったそうじゃないですか。」二人の過去を調べたと言う弘一。

「十師族としての魔法力は有りませんでしたから四葉に残るには必要だと姉は判断したんだと思います。

ですが二人はそれを乗り越え、魔法科高校入学の頃には仲良くなっていたはずですよ。

十文字殿は高校で見てきたと思いますけど。」克人を見て真夜が言った。

「…確かに仲が悪かった印象は無いですね。」と克人。

「ですがそれはあくまで男女の関係ではなく、兄妹としてだと下の娘からは聞いていますよ。

四葉殿、現在あの二人はひとつ屋根の下に同棲していると聞いていますが。」

「ええ学校の許可の下でですが。」

「では二人の関係はどこまで進んでいるのですかな?」

「七草殿、流石にそれは聞き過ぎでは。」身を乗り出して七宝拓巳が言った。

「いえこれは重要な事なんですよ。」弘一は拓巳をチラッと見てから大きく手を振り話を続けた。

「もし感情の赴くままに男女の関係になってしまったとすれば、次期殿としての資質を問わなければなりません。

『激情に任せて行動する』これがいかに危険かは我々は2月に思い知ったのですから。」

この言葉に拓巳は静かに着席せざるを得なかった。

そしてみんなの視線は真夜へ向かうのだった。

「…深雪さんは節度を保っています、それが学校との約束ですから。

それに繰り返しになりますが二人の結婚は国法にのっとった正式な物ですから。」憮然とした表情で真夜が言った。

「『両性の合意に基づいてのみ』ですか、ならば四葉殿、二人ではない貴女にもとやかく言う事は出来ないのでは?」

皮肉を込めて弘一が言う。

真夜と弘一以外は苦笑している、それが建前である事は明らかだからだ。

苦笑が収まった所で弘一が続ける。

「それでは二人の思いが激情にかられるほど強くない事が確認できた所で更に質問です。

先ほど確認しようとした事ですが、『司波深雪嬢』の事を我々にも隠していましたね。」

「七草殿、その件は今回の件と関係が無いのではとの指摘があったばかりですが。」今度は六塚温子が発言する。

「…その件は姉の教育方針だったとしか言えませんが。」と不思議そうに言う真夜。

「いえその事自体を責めている訳では有りませんよ、教育方針はそれぞれですから。

ですがそれに派生する問題は有りますね、先日私の娘がこんな事を言い出しましてね。

『司波兄妹、あれは運命の二人だ。』と。」

他の参加者は意味が分からない様子だ、少し間を開けて弘一は続けた。

「ははは、私もそれを聞いた時はそうでした、でも娘に詳しく聞いてなるほどと思いましたね。

で娘の言い分を要約するとこんな感じでしょうか。

・二人は四葉の関係者、だがそれを公表することは出来なかった。

・現実問題として家族の事を公表せずに結婚を前提とするお付き合いは出来はしない。

・そして秘密であるため周囲には四葉の関係者もいない。

・よって二人は結ばれるしかない運命にあった。

と言う訳です、どう思われますかな八代殿。」

突然話を振られた大学講師の八代雷蔵は少し戸惑うそぶりだったがハッキリと答えた。

「なるほど、事実上選択肢が無かったという訳ですか。」雷蔵は少し顔をしかめていた。

「おまけに彼はボディーガードまがいの事をさせられていた様ですね。

事実2月のテロ事件で彼は私の娘ごとその役目を果たしています。

娘たちの話によれば彼はあの日一条殿のご子息と同じように早くに学校を出たそうです。

ですがなぜか彼だけが娘たちの危機に駆けつけたそうです。」

「典型的なつり橋効果による意識誘導ですね。」雷蔵はさらに顔をしかめて言った。

真夜は何も言うことが出来ない、反論するには達也の秘密を明かさねばならないからだ。

流石の真夜も今回は負けを認めるほかなさそうである。

「ここで私からの提案です。……」

 




この会議の結果はしばらく後で判明する予定です。
(旧作とは変更していません、ですから旧作の読者には今更かも知れませんが)

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