五輪勇海は満面の笑みをたたえ東京の別邸に帰宅した。
『弘一殿は凄い、四葉相手に一歩も引かずにあんな条件を引き出した。』
そう思いながら勇海は澪に報告した。
喜んでくれると思っていたが澪の言葉は違っていた。
「あーあ、やっぱり真由美さんにはかなわないのかな。
でもズルいな、真由美さんは私の欲しい物をみんな持ってる。
健康、自由そして素晴らしいプロポーション、そしてお兄様まですべて。
これからは真由美さんにお願いし続けなきゃならないのね。」
この言葉に勇海は愕然とした。
真由美にお願いするという事は即ち七草弘一にお願いする事。
彼の能力は今回の件でも明らか、だが信用できるのか?
二月の件でも彼は暴走した、信用していいものだろうか?
達也君の事を頼む為には今の所ずっと頼み続けなくてはならない。
その間彼に逆らう事は難しくなるだろう。
帰って来た時のテンションとは真逆に考え込む勇海。
その時とある知らせが届いた。
会議を終えた真夜は車の中で葉山の報告を聞いていた。
「…という訳で今回の件は統合幕僚会議直々の指示であろうと思われます。」
「予想通り軍の最上層部ですか、灼熱のハロウィンの件が漏れたのかしら?
それにしては動きが変ね。」
「その可能性はないかと、他に考えられる可能性としては一つしかありません。」
「分からないわね、それは何?」
「五輪でございます、統合幕僚会議に影響力が有るのはあの家だけでございます。」
真夜は九校戦で会った事を思い出した、あの時は達也をほめていた。
「確かに九校戦では達也さんの事を気にしている様だったけれど、それだけでこんな事を引き起こすかしら?」
「確かに動機は調査しても出てきませんでしたが他にはないかと。」
「……連絡を、直接会って真意を確認するしかないわ。」
四葉殿から連絡が有った、九校戦での話がしたいと。
(十師族間での会談は会議を通す必要がある為の方便だろう。)
澪にそれを話すと真夜と会いたいと言いだした。
相手から会談を持ちかけて来たんだし大したことは無いだろうと澪の同席を許可した。
だがそれはとんでもない考え違いだったと真夜と会った瞬間勇海は感じ取った。
『極東の女王』歴戦の軍人がテレビ会議でさえ死の覚悟をする相手、それが本気になっているのだ。
東京の別宅の応接室で真夜と目が合った途端に勇海は動けなくなった、まるで石になってしまったかのように。
立ったまままるでにらみ合うかのような真夜と勇海。
その均衡を破ったのは澪の叫ぶような言葉だった。
「真夜様お願いです、私にお兄様、いえ達也様を下さい!」
予想外のその言葉に真夜はあっけにとられ、勇海は呪縛から解放された。
「どういう事かしらね、達也さんと結婚したいと言うのかしら?」電動車いすに乗った少女に問いかける真夜。
「いえ私はお兄様と家族になりたいんです、お願いします。」と頭を下げる澪。
ここでようやく再起動する勇海。
「どうぞお掛け下さい。」そう言って説明を始めた。
真由美の紹介で達也の術で命を取りとめた事、代わりの術者を探したが居なかった事。
勇海はしどろもどろになりながらようやく説明した。
ここで真夜は納得いったのか鋭さを引っ込めた。
「四葉の直系たるお兄様にご負担をお掛けすることは出来ません。
ですが家族なら…その為ならどんな事をされてもかまいません。
お兄様との間に子供が出来ても四葉家にはご迷惑をおかけしません。」
過度のプレッシャーから解放された勇海も追従する。
「それは構わない、この子を預けるんだからそのくらいは面倒を見よう。
なんなら持参金を付けても良い、それにもしもの時に今度は味方になりましょう。」
ここで真夜は考えた、師族会議の不利を挽回する方法を。
「達也さんと結婚する必要は無いのね?」真夜は尋ねた。
「はい、それで構いません。もちろんそうなってくれれば一番良いのはもちろんですが。」と少女が答えた。
達也の婚約者候補は今の所深雪を除くと七草真由美だけだ。
深雪が引き離された今、二人っきりになってしまうことは出来れば避けたい。
それと五輪の協力も魅力的だ、十文字の取り込みは失敗したし。
七草への牽制と保険にちょうどいいかもしれない。
「持参金は必要ないわ、当面は達也を後見人にしましょう。
そしてうちのもう一人の婚約者候補になりなさい。
ですから四葉には何らかの形で早期に来てもらう事が条件よ。」
「!!!お金は私の預金が有るので大丈夫。
あぁ、まさに生まれ変わってお兄様と結ばれる、夢のようです。」
「そうだったね、手続きなんかはこちらでもできますから。」
「では…」
次回更新は22日の予定です。
旧作をご覧の方は分かると思いますがほぼ新規、書き溜めが無くなりました。
このエピソードは旧作では書かれてはいませんでしたが、このぐらいは分かっていましたよね?
(長いと文句が出ていましたからこのぐらいは余裕で分かりますよね。)