防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-42 藤林響子(2)

次の日、響子はクライアントの少女に会いに行った。

自動車のナビに指定された数字を入力しぼんやりと外を眺める。

少女が大物の関係者なのは間違いない、だが苗字は聞いた事が無い、厄介な相手かも知れない。

それで到着までは想定できる状況でのシミュレーションをして過ごした。

そうこうするうちに付いたようだ、車止めを降りて受付に紹介状を提示する。

すると5階の一室に行くようにアナウンスが有り奥のエレベータが自動で開く。

ここのセキュリティはかなりハイレベル、受付の大きさから人が常駐している様だ。

指定の時間にはまだ余裕が有るからか部屋には誰もいない、ただモニターが見ろと言わんばかりに置いてある。

しばらくそこで待っていると突然モニターに驚くべき光景が映し出された。

 

全裸の男性らしき人物の後ろ姿が映る、周囲は様々な機械が所狭しと並んでいる。

場違いなような質素なベットに近づいていく男性、音声は無く映像のみだ。

そこに寝ている人(女性?)をやさしくお姫様抱っこする。

そして彼女の腕が男の首にかかり体が持ち上がり男の肩越しに顔が見える。

クライアントの彼女だ、やや頬を紅潮させてうっとりと目を閉じている。

その光景は響子には強烈だった。

勿論響子は軍で男の裸を見た事が有る、だが軍務の最中であり見て見ぬふりをしていたのだった。

何の準備もなくこのような映像を見せられるのは、藤林家のお嬢様として育てられた響子にとっては衝撃的だったのだ。

ゆっくりとカメラは二人の周りをまわりだした、予想された事だが少女も全裸の様だった。

ただし男の顔は見えない様なカメラワークになっている。

カメラが回り少女の顔が見えるたびに歓喜の表情になっていく、それにつれて響子の頬も赤くなっていく。

当然だが二人はそういう事をしている訳では無い、男の手は背中と太ももから変わってはいない。

いつの間にか響子はボーっとしていた様だ、突然のノックにビクッと体を震わせる。

「どうぞ。」と少し慌てて言った。

白衣の女性が入ってきて言った。

「初めまして、軍から派遣されてきた方ですね。」

響子は彼女に見覚えがあった、光宣の治療で相談した相手の内の一人だ。

だが響子が会ったのも一度きりだし名前も覚えていない、だからこう答えた。

「こちらこそ、家政婦派遣会社から来ましたキョウコと言います。」と派遣会社の名刺を差し出して。

その名刺には名前欄にカタカナでキョウコとだけ書いてある、プライバシー保護やトラブル防止などの為だ。

(キャバレーなんかの源氏名と同じ理由だ。)

「おかしいですね、確か軍の方が来て下さると聞いていますが?」首を傾げる女医。

「元です、ごく最近まで軍に所属していました、再就職斡旋でこちらに。」

「ちなみに除隊理由をお聞きしても?」

「…花嫁修業です。」響子は咄嗟にこう答えた、強く心に残っていたのだろう。

女医は納得したように何度も頷いて言った。

「だったら良かった、なら映像の方はご覧になられましたよね。」

「えぇ。」あの映像を思い出して少しだけ頬を赤らめる響子。

「あれは彼女の治療なんです、軍の方なら慣れているはずなんで最初から見せたほうが良いと思って。

後で問題になっても困りますし、だったら初めに見せて誤解を生まない方が良いですから。」

「了解しました!」立ち上がり軍隊式敬礼をする響子、もちろん気恥ずかしさを誤魔化すためだ。

その行動に女医は驚いた様子だった。

だが内心では今は軍人ではない彼女にすべての情報開示は出来ないと思っていた。

「では此方から質問です、私がお世話する彼女はどんな方なんですか?」と響子は質問した。

「実際に会われれば分かると思いますが、外見通りの可愛らしい方ですね。」

この曖昧な返事に響子はこれが機密案件(訳アリ)なのだと改めて思った。

この後女医から響子の能力に関する質問が続いたが、女医のポケットから電子音が鳴り響いた。

「起きたようですね、呼んできますので少々お待ちください。」と言って女医は出て行った。

この時間響子はこの任務について考えていた、貴重な魔法師を一人つけるには少し大げさな気がする。

別の何か裏が有るのではないか、そう考えていた。

女医が電動車いすを押して少女を連れてきた。

「初めましてキョウコさん、軍を寿退社されたと聞きました、おめでとうございます。」

「軍ですから退官だと思いますよ。」と笑いながら女医が言った。

この時響子は愛想笑いをしながら訂正をしなかった、詳しい事情を話さないといけなくなるからだ。

それから響子は少女と話をした、女医の言う通り外見通りの少女だった。

そこでもう一つの任務である少女の恋愛成就の為お相手について聞いた。

お相手はさっきの映像の術師の男性(通称お兄様)で現在の彼女の後見人。

そして彼女も彼の婚約者候補の一人だが強力なライバルがいるらしい。

ライバルとは身体的コンプレックスもあり、自分は愛人でもかまわないと言っている。

彼が居なかったら命が無かったかもしれない様で、かなりのめり込んでいるみたいだ。

その愛情は響子にはまぶしいものだった、決まった婚約者と何も考えずに結婚するものと思っていた。

5年前の婚約は何だったんだろうと考えさせられたのだ。

最後にいつから来てくれるか聞かれたが、10月初めあたりになるだろうと答えた。

すると女医からもう少し早くならないかと聞かれたので、派遣会社と相談すると答えておいた。

 


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