FLTで一夜を過ごした達也と深雪だが依然わからずじまいだった。
完全思考型CADに関するあらゆる事が止まっている、ただその事実だけしか分からなかった。
管理部は専権事項と守秘義務を盾に一切の情報を開発第3課に開示しなかった。
牛山は昔のつてを頼って何とか聞き出そうと会社を出て行った。
午後にFLTで集まる約束をして達也はもう一つの件を片付けるした。
翌日、達也と深雪は困惑していた。
朝10時、駅前の喫茶店で達也は、仏像さながらに拝み倒されていた。
「レオもういい、俺も忘れていたんだから。」達也はそう言い、深雪は困った顔で微笑んでいた。
「でもようエリカが…」
「それはエリカの冗談だ。」達也は内心苦笑いしながら言った。
「わざわざご持参いただきありがとうございます。」深雪が、話はこれで終わりとばかり言った。
レオは恐縮しながら帰っていった。
「お兄様、これから如何なさいますか?」
「中途半端な時間だしな。帰ってきた荷物もそれほど大きなものでもない。
この辺をぶらぶらして、約束通り2時ごろFLTへ行こうと思う。深雪、お前はどうする。」
「お兄様がお嫌でなければ昼食までご一緒させてください。」
「嫌なんてことはないよ。それじゃ行こうか。」
昼食場所を探していると、雫とばったり出会った。雫は航を連れてきていた。
「ごめんなさい、パーティーに招待できなくて。」会うなり雫はそう言った。
「仕方が無いさ、娘が誘拐されそうになったんだ『親なら』警備態勢の整っているこっちに送り返すのは当たり前だろう。
『企業人としては』家族で招待されたのをドタキャンするのは大問題かもしれないが、『親として』の心情は十分理解できる。」
と達也は言い深雪も頷いた。
「でも北山家としても招待出来なくて。」
「それこそ無理だ、テロ事件から一か月しか経っていない。
北山家と四葉家が親密な関係だとアピールする事は危険すぎるだろう。」
達也と深雪は自分の親なら構わず出席させただろうと思っていた。
その言葉に雫も笑顔を見せて「デート?」とからかってきた。
達也は笑いながら「違うよ、俺は午後から一人で野暮用だ。そうだここらで落ち着いて食事できる所を知らないか?」
「じゃあ一緒に食べよう。」
「いいのか?」
「いいよ、航もいいよね?」
「うん」店に人数変更を連絡した。
「ところで雫たちは何をしに来たんだ?」
「航の中学の入学祝を探しに。」
「今春中学に入学します。」航ははにかみながら答えた。
「まあ、それじゃあ私たちからも何かプレゼントしないと。」と達也に向き直って深雪。
「そうだな何か考えておくよ。」と達也。
雫は、達也をみてボーとしている航をつついた。
「あ、ありがとうございます。」あわてて航は言った。
店の個室に入り、席に着くと達也の荷物を見て雫が言った。
「達也さん、それって九校戦の。」
「ああレオが使った武装一体型CAD『小通連』だ」
「何?」航が不思議そうな顔をしている。
「そうだな一言で表すと、魔法力がそれほどなくても使えるCADだ。」
『魔法力がなくても使える』の言葉に、航は俄然興味を示し身を乗り出して聞いた。
「どんな物なの?」
「実際に使っている所を見た方がいいよ。」雫が航の端末に九校戦の画像を呼び出した。
「すごい、かっこいい。」航は大興奮で画像を見ている。
その様子を見て、達也と深雪は顔を見合わせ頷きあった。
「ちょっと電話をかけてくる」達也は部屋を出て行った。
「御曹司、ちょうどよかった、今メールしようとしてたところでさー。ところで何の御用で?」
「こちらは大したことじゃありません、そちらの件からお願いします。」
「例の件、今本社で経営会議に掛っているようです。
ですから情報が入るのは早くても夕方以降になるかと。
今の身分じゃ経営会議に出席出来ないんですよ、出世しなかったことがこんな所で響いてくるとは、思いやせんでした。」
「では夕方にメールしてください。
俺の要件は、一昨年の夏にお願いした刀型のCADの件です、あれの処理はどうなっていますか?」
「…思い出しやした、廃棄予定品を流用したやつですね。
ちょっと待って下さい今調べます。……経理関係は少額のためとっくに処理済、権利関係は、御曹司の名前で登録されてます。
そして、去年の年末に最終的に廃棄処理されていますね。何かあったんですかい。」
「いや、知人のプレゼントにしようかと思って。」
「それなら御曹司のご自由に。」
「では夕方に。」
部屋に戻って雫に耳打ちした。「この近くでCADの調整ができる所はないか?」
「あるけどどうして?」
「あれを調整して、航君にプレゼントしようかと思って。」
「この後用事があるんじゃ。」
「夕方以降に変更になった。」
端末を操作して雫は「この後予約しといた。」と言った。
「あと仮想端末は有るか?」
「航が持ってるよ。」
「ちょっと貸してくれ。」
あの懐かしいチュートリアルをその端末に入れた。
食事を終えて、その場所に行くと、そこは電子機器の総合ショップで、CADの調整室とトレーニングルームがあった。
調整器で航の魔法力を確認した。
一般人よりはましだが、とても魔法科高校へ入学できるレベルではなかった。
「これで使い方を覚えて。」先ほどの仮想端末を渡し達也が航君に言った。
航が覚えてる間に、調整を終えてトレーニングルームに移動した。
「それじゃ始めてくれ。」
「はい」たっぷり2秒かけて指定位置に上昇した。
「軽く振り回してくれ」
2年前と同様に上手く動作している。
「もうすぐ戻ってくる、準備して。3,2,1」
「できたー」航君は大喜びだ。
「じゃあ今度は間隔の変更だ、柄尻のスイッチで、変数モードにしてためしてくれ。
距離が変数になっていることを忘れずに。」
航君は、距離を変えながらなかなか器用に振り回している。
「なかなか上手いじゃないか」達也の声に照れる航君。
それを深雪と雫は微笑ましく見守っている。
じゃあ最後に実戦的な物をやろう。動く的に当ててくれ、当てるだけでいい。」
航君は気合を入れて臨んだが、今度は空振りが目立った。
どうも距離感がつかめていない様だ。
「ストップ、少し休憩だ。雫、店長を呼んでくれないか?」
「分かった。」
「何かありましたか?北山様。」店長が入ってきた。
達也が事情を説明して良い補助具がないかを聞いた。
少し考えたのち、店から小さな眼鏡型の器械を持ってきて言った。
「これは視覚障碍者向けの距離計です。マニュアルはこちら。」
達也はそれを読んで言った。
「調整モードが使えそうだ、光学マーカーまでの距離が解る。」
距離が分かった航は今度は順調に的に当ているようだ。
「プログラミングできるタイプはないの?」雫が言った。
プログラミングは小学校の必修科目、魔工技師にあこがれている航は当然得意科目だ。
「ございますとも、これなどはいかがですか?各種センサー内蔵でかなりのことは出来ます。お値段は5万円です。」
「それを1台家へ届けて。」
「ありがとうございます。ならば先ほどのものは、サービスでお付けいたします。」と言って店に帰って行った。
帰り際に航君を呼び、達也は言った。
「このCAD『小通連』を俺たちからプレゼントしよう。
だが忘れないでほしい、これは単機能でもCADなんだ。
そしてこれを使う君は立派な魔法師だ、その責任と覚悟を持って行動してくれる事を望むよ。
具体的なことはお姉さんに指導してもらいなさい。雫、頼めるな。」
「うん解ってるよ。航、ビシビシ鍛えるからそのつもりで。」
「はい」この時航は、達也のことをかっこいいと強く思った。
雫たちと別れてしばらくぶらついていると、メールがあり概要が判明したとのこと。
「状況が掴めない、幸い午後には水波が帰ってくる。
今日は帰れないかも知れないから、戸締りをしっかりして休むんだよ。」
「……、何か解りましたら、ご連絡ください。」こう言って深雪は帰って行った。
FLT第3課に入ると、牛山が待っていた。「御曹司、これを」と言いながら、電子ペーパーを渡してきた。
一通り読み終えたのを確認したのち言った。
「この事件が発端のようです。」電子ペーパー上の三面記事を指差した。
題名は『連続窃盗犯逮捕、やはり魔法師だった!!』
こちらの北山夫妻は子供たちの安全を優先して東京へ帰してしまいました。
その意味では夫妻の性格は原作と少し違っています。
小通連は小説版を想定しています、アニメ版だと航君は振り回せないでしょうから。
次はSS、佐渡の話でちょっとだけ出てきた話です。