防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-52 光井ほのか(3)

泣き笑いの雫、彼女を抱きしめるあるいはこの場から逃げ出せばすべてが終わる、ほのかはそう感じていた。

「ほのか…」もう一度雫は言う。

「…めない。」

首を傾げる雫。

「あきらめない!あきらめたくない!!」

「無理だよ、今のままじゃ深雪はおろか七草先輩にも勝てないよ。」

「それでも!」運命にあらがうように激しく首を振って拒絶するほのか。

にらみ合いほのかと雫、その均衡を破ったのは潮だった。

「ほのかちゃん、では具体的にはどうするつもりなんだい?」と潮が口をはさんだ。

「具体的?」ほのかは何も話さない、代わりに雫が聞いた。

「そう、例えば戦闘だ。沖縄の件を考えても彼と戦いは切り離せないだろう。

ほのかちゃんが戦う姿を私は想像できないからね。」

そう言われてこれまでの事を思い出すほのか。

達也と共に戦ったのは吸血鬼事件での青山墓地での事ぐらいだった。

ピクシーを共に戦ったことを潮に話した。

「なるほどねーー人形か、なら24時間貼り付ける事が出来るか。」と潮はうんうんと頷いた。

「でも家の方はどうするつもりなの?

四葉の当主でもあり彼の母親、あの東洋の魔王の四葉真夜」ここで紅音はぶるっと体を震わせる。

少しだけ真を開けて紅音は続けた。

「彼女を納得させられるものをほのかちゃんは持っているのかしら?

真由美さんと比べるとね、あっちは一校の生徒会長で家も十師族の雄の七草家。

ほのかちゃんはこれをはねのけるだけのものをもっているのかしら。

ビジネスで有名な北方潮の娘の友達『だけ』じゃあ全然足りないと思うんだけど。」と『だけ』を強調する紅音。

「それは…これから何とかします。」

「ほのか、私たちこれから受験、高校で出来なかったのに大学で人脈を作るのは難しいよ。

高校と違い講義は自分で決める、お目当ての人が取る講義は分からないよ。

それにほのか、達也さんと同じ講義を受けるの?

ついていける?

達也さんなら初級をすべて飛ばして上級の抗議を受けるんじゃないの?

それは他の有力魔法師も同じ、達也さんと一緒では無理だよ。」

ほのかは難しい顔をして黙り込む。

「ほのか、去年はあきらめたでしょう、今回も…」と雫。

「違うよ雫、京都の時は次が有ったんだよ。」雫の言葉をさえぎってほのかが叫んだ。

「だったら次の人で頑張れば・」

「達也さんが良いの!達也さんじゃなきゃダメなの!!」またも雫の言葉をさえぎって言うほのか。

「半年以上もグズグズしてたから強力なライバルが現れたよ。」

「これから頑張る!」 

「今からじゃ死にものぐるいで頑張っても届かないかもしれない。」

「だったらそれ以上頑張るだけよ。」

「本当に?」

「本当だよ。」

「ほんとに本当?」

「ほんとに本当だよー!」

「…言質は取った。」ぼそりと雫は呟き満面の笑顔になった。

ここで潮がほのかに声をかけた。

「ほのかちゃんの覚悟はしっかり聞いたよ。

その心意気や良し、私が力になろうじゃないか。

ただしそれには条件が一つあってね。」

「条件?」

「彼、司波達也君を我々に貸して欲しいんだよ。」

その言葉に首を傾げるほのか。

「我々はこれまで魔法とはほぼ無縁で事業を行ってきた。

それは魔法師が少数派だったからだね。

でも魔法師はその需要により多産傾向だ、非魔法師が少子化が著しいのと対照的だね。

それにくわえて第一世代と呼ばれる人たちが続々誕生しているから今後は大幅な増加が期待できる。

そこで我々も本格的に参入をする事にしたんだよ。

そうすると彼、司波達也君の技術はぜひとも欲しい、我が社で働いてほしいという訳さ。」

その言葉に納得し深く頷くほのか。

「その第一弾として司波達也君のCAD『小通連』を製品化した。

お蔭さまで売れ行きは好調だ、ほのかちゃんをその会社の幹部にしてあげるよ。

うちの会社の幹部だ、あの四葉でも無下には出来ないさ。」

それを見て潮は部屋を出て二人の大柄の女性を伴って戻って来た。

二人に女性はほのかを挟む形で立つ。

ほのかはいきなりの展開についていけなかったが、潮の言葉にだんだん顔を引きつらせる。

「ほのかちゃん、そこで働いて社会的地位や人脈を作ってもらうつもりだから。

だがまずは研修だ。

君のお父上にもすでに話はついている。

娘が是非にと望むのなら、どんなにつらく苦しい事でもかまわないとの事だ。

どうもうちの魔法師は感覚派で、魔法の事を上手く伝えられないみたいだからそちらも期待しているよ。」

若干二名が視線を逸らす。

「覚悟を決めたほのかちゃんなら何も問題はないさ。

上手く行けば一日2時間ぐらいは寝られるかもしれない、これから頑張ってね。」

「そんなの法律違反じゃ」

「研修は労基法対象外だよ、それとインターンシップ制度を併用するから受験にも影響しないつもりだ。

ああそうそう、死にものぐるい以上の努力するんだから一日一時間で良いか、まだ若いんだしね。」

がっくりうなだれたほのかは二人に脇を抱えられ潮とともに部屋を出て言った。

ドナドナされたほのかに雫はそっと祈りをささげた。「頑張れ!」とつぶやきと共に。

 

部屋に残った二人、紅音が雫に尋ねた。

「ほのかちゃんへのテコ入れはあれで良いとして、肝心の婚約についてはどう介入するつもりなの?

婚約者候補の締め切りに関しては特に聞いてないけど、逆にいつ締め切られてもおかしくないわよ。」

「それについては考えがある。」と言って雫は説明した。

「なるほどね、それなら何とかなるかの知れないわね。」

得意気になる雫、だが紅音の次の言葉に顔を引きつらせる。

「これでほのかちゃんの事は一段落したわね。

なら雫、次はあなたの番ね。

全くこの年になっても好きな男の子の一人もいないなんて……」

さんざん説教された後、紅音のお願い(命令?)を聞く事になってしまった雫であった。

 

小通連の状況はこの時点ではこうなっている。

通称3Dチャンバラと言われて予想を超える大ヒットになっている。

理由は以下の通り。

まず第一にこれがCADだという事だ、つまり9割引きの対象に該当するので非常に安い。

第二に使える人が予想以上に沢山いたことが挙げられる。

これは達也のアイデアで先端部に追加で硬化魔法を加える事で物を運搬できるようにしたため用途が広がったためだ。

これは潮に見せられた資料映像からヒントを得た物だ。

これによりマジックハンド的な用途も追加される事になった。

この場合は戦闘時の様に一秒以内の必要はなく、演算規模もいらない。

この所為で戦闘魔法師としては失格な人間も使用可能になった。

達也が効率化を進めた事もあり約四割ほどの人間が何らかの形で使用可能になったのだ。

非魔法師は魔法に反発してはいるが一方で魔法を使いたいというニーズが確実に有る。

(でなければ魔法科高校の受験があんなに盛況な訳は無いし、合格者がエリート意識を持つこともない。)

この流れに追従する企業が出始め潮は広告など販促活動を活発化させ始めていた。

 


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