防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-57 正体不明の攻撃

どことも知れない一室、男は椅子に座ってくつろいでいる。

「博士、ターゲットが所定のポイントに到達しました。」スピーカーから流れてきた。

博士と呼ばれた男は縦横高さ約3メートル筐体に取り付けられたシートに座る。

男が座ると同時にシートは筐体に吸い込まれた。

「データリンク確認、地形スキャン開始……完了。

さあ始めましょうか。」

 

「艦長、作戦許可出ました、タイミングはお任せしますよ。」

「分かった、では手筈通りに行うぞ。」

 

男達が乗っているのは潜水艦の様だ、様だと言うのは一般的なものと形が違っているからだ。

まず目につくのはそのフォルム、まるで魚雷の様な円筒形をしている。

それにスクリューや舵に相当する物もないようだ、真紅郎が分からなかったのも頷ける。

寒冷化は軍にも様々な影響を及ぼしたが、一番被害が大きかったのがロシア、現在の新ソ連の海軍だった。

海が凍結し港から出られない、そんな状態がきわめて長時間続き事実上無力化してしまったのだった。

そこで海軍は新造潜水艦を計画した。

一応砕氷潜水艦のカテゴリーになるが機構は全く別物だ。

形はほぼ完全な流線形、フレミングエンジンと当時まだ許容されていた原子力機関を搭載した画期的な物だった。

ただその革新性の為大戦初期に間に合わなかった。

この船に携わった人間にとっては不幸なことに完成と原子力機関の禁止が重なってしまう事に。

この船は原子力機関の巨大なパワーに完全依存の形でまとめ上げられている。

おまけに寒冷化が改善の方向に移行した事により極秘計画は完全に破棄されることになった。

まだ若くつぶしのきく連中はまだよかったが、この艦専用になってしまった艦長たちは行き場を失った。

結局戦争が終わると同時に軍から放り出され、失意の日々を送ることになってしまった。

そんな男の息子に5年前ある極秘任務が下ることになる。

大亜連合と歩調を合わせある島を占領。

そこへ新ソ連軍が乗り込み秩序を回復、治安維持を理由に居座る作戦だ。

島を占拠までは順調だった、そして実効支配して領土に組み込む。

前回と同様に計画は上手く行くはずだった。

だが肝心の沖縄で大亜連合はあっけなく敗退。

それで全てが狂ってしまった、治安維持部隊を送り込む口実が無くなったのだ。

男の息子は味方が来ることを信じて一か月近く籠城の後、自爆して果てることに。

新ソ連は佐渡占拠事件の関与を否定、その陰で実行犯を脱走兵つまり犯罪者に仕立て上げた。

親子そろって非国民、国の恥さらしだと非難される事になったのだ。

 

「炸薬爆破確認、港湾内はあちらの注文通り水浸しです。」

「良し、続けて催涙ガス弾発射、追い立てろ。」

 

「艦長、氷に閉じ込められました。」

「ほう。」軽い驚きと共に艦長はそう呟いた。

「予想よりずいぶんと早いですが想定内です。本艦の妨げにはなりえません。」

「そうだな、この船はこの事態の為に作られたものだからな。

エンジン全開、こんな俄作りの氷なぞ本艦には効かん。」

 

艦長の言葉通りやすやすと氷山を抜け、お返しとばかりにミサイルを放つ。

「流石に今回はちゃんと援護してくれているみたいですね。」建物の周囲の爆発を見ながら機関長が言った。

「そうでなくては我々では魔法師を相手にはできん。

ミサイルも無限ではないのだから。

このままプレッシャーをかけ続けろ、追い詰めるんだ。

ただしやりすぎるなよ。」

「了解です。」

「この後はおそらく奴らはあれを使う、使い終わった時が本番だ。

希望の後の絶望、その時が楽しみだ。」

「はい残ったセンサーでこちらがモニターしているとは思わないでしょう。」

「証拠は残らないんだろうな。」

「ええ、内部はハッキングのみです、機械のモニタしかできませんがそれで十分でしょう。

外部はゴムボートから望遠で監視しています、何かあれば爆破して海の藻屑です。」

 


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