防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-59 ある男の物語(2)

土浦基地を出発した達也、ループを描きながら上昇し西へ進路を取った。

ほぼすべてオートなので達也自身は暇だった。

ここで達也はあえて深雪の事は考えないようにしていた。

半年たっても深雪との関係をはっきりさせられなかった、トーラスシルバーの問題があったにしても。

達也としては今回の事は深雪との関係を先延ばしにする絶好の機会でもあったのだ。

トーラスシルバーとしてはそろそろ臨時の営業担当が決まると牛山CEOが言っていた。

筆頭株主の投資家の紹介で、やはり有名経営者の子弟らしい。

CEOから接待を依頼されている、その内容を考えながら達也は過ごした。

そして順調に進み日本海に出た達也、船に注意しながら進んだ。

なぜなら船の探査装置に引っかかるとレコーダーに記録が残り後々厄介な事態になりかねないからだ。

事実真田から海上では船を見つけると、アルバトロスのレコーダーをOFFにして回避してくれと頼まれている。

海上では風を遮る物が少なく陸上と比較してデータの優位性が低いと説明されたのだ。

順調に海上を飛行していた達也だが、突然アルバトロスのレコーダーをOFFにした。

 

機械の中で男は送られてくるデータを見ているが、時折何か操作をしている様だ。

「博士、魔法攻撃です、ニブルヘイムの様で船体が凍結してしまいました。

予定よりかなり早いですがいかがいたしましょう?」

「…では派手に登場させなさい、それでプレッシャーを与えるとしましょう。

少々怪我をさせてもかまいません、通常弾の使用も許可しなさい。

予定通りに逃げ込んだら攻撃停止、こちらで蒸し焼きにします。

装置の空調を停止、余分な換気口を閉鎖してください。

丁度良い頃合い気にが付くはずです、観測は引き続き行うように。」

「了解しました、あちらにもその様に伝えます。」

「予測を超えてきましたか、これは期待が持てそうですね。」と小声で一人呟いた。

 

「艦長、随分早いですが例の装置が動き出した様です。」

「これもまた想定済みだ、問題ない。」そう言いながら艦長は難しそうな顔をしていた。

艦長は内心舌を巻いていた。

さっきの氷山を作った魔法といい、こいつらは我々の予想を上回っているのは間違いない。

たかが高校生と侮っていたつもりはない。だが日本の魔法師の実力は想像を超えるものだ。

「我々は、あれが無くともすでに時代遅れの産物だったのかもしれん。」とつぶやいた。

 

「艦長、そろそろあちらの発射準備が整ったようです。」

「ここからが本番だ、早く回避し過ぎないように注意しろ。

前哨波を検出してからでも本艦の性能なら回避はぎりぎり間に合う。

タイミングを合わせてあちらの装置をモニターしている事を気づかれる事の無いように。」

「分かってますよ、ランダムパターンでの回避で良いですよね。」

「そうだ、あくまで偶然に回避できたと思わせろ。

希望を与えてからのから絶望のほうがより効果的だ。

あと少ししたら射線上に入るぞ、あちらのモニター範囲のチェックは済んでいるのか?」

「大まかには済んでいます、ですが油断は禁物です。

さっきの攻撃はかなり正確だったように感じます、何か他に計測手段があるかもしれません。」

「了解した、奴らはまだ出てきてはいないな?」

「監視カメラにはその気配はありませんね、それに中で操作しているとのデータがあります。」

「よし、では指令通りに。」

「はい」

艦長はこれは覚悟を決める必要があるかもしれないと思った。

 

「どうだ?」

「はい、ギリギリで回避しました、相手は偶然回避できたと思うでしょう。」

「そうか、あと何発か回避した後わざと受ける、いけるな?」

「理論上はですがね。」

「それでいい、その時になったら合図する。」

「了解しました。」

 


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