防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-61 ある男の物語(3)

「博士、状況は我々の想定以上のペースで進行しています。

実行部隊から作戦変更の打診がありますが、いかがいたしましょうか。」

「話を聞こうじゃないか。」

……

 

「耐えられるのかね?」

「こちらでも計算しましたが安全マージンは取れそうだと報告を受けています。

ただあのシステムだけはブラックボックスですが、テスト結果からは耐えられるようです。」

「…では許可をお願いします。」

「了解しました。」

博士と呼ばれた男は余談なく送られてくるデータを注視している。

そして頭の片隅でこう考えていた。

『それにしても早い、いや早すぎると言って良いレベルですねこれは。

これは当たりかも知れませんね、良いデータが期待できそうです。

旧大戦のスクラップ一つで貴重なデータが取れると思うと心が躍りますね。

両者ともせいぜい頑張ったあがいてくださいね。』

 

 

「艦長、相手は予定通り中性子ビームで攻撃してきました。」

「で、ビームのデータはどうだ?」

「若干予測より性能が良いですね、ですが想定を超えてはいません。

何とか躱し続けることは出来そうですね。」

「…何発か躱したらわざと当たる。」

「何故ですか?」

「予定より相手の対応が早い、このままでは追い詰めることが出来そうにない。

のらりくらりと躱してじらした挙句に終盤でビーム攻撃を受けて無事なのを見せつけるんだ。

機関長、奴らはあと何発打てる?」

「発電機に残っている燃料を考えると8発程度かと。」

「なら6発目にしようか、いけるな?」

「それでしたらOKです。

ですが最終目的の攻撃、あの地形をも変えてしまうあの攻撃に関しては未知数ですがね。」

「あれは海中、つまり我々には直接攻撃できないのではないかと推測されている。

物質エネルギー変換には正確な照準が欠かせないと予想される、成層圏監視システムでも海中を正確に認識できないからな。」

「ですが海面で放たれても影響は免れないのでは?」

「だから俺一人で行くはずだったんだがな。

脱走兵扱いになっている息子の名誉回復が出来るのなら、大戦中に一度も戦闘に参加しなかった臆病者の命など不要だ。」

「なるほど、、私も参加していませんから丁度良い。

では後方にも連絡しておきます。」

 

新ソ連の計画では5年前の事件はこうなっていた。

・軍を脱走した一団が佐渡を占拠。

・沖縄で手いっぱいの日本は佐渡にまで手が回らない。

・新ソ連の軍隊が脱走兵の捕縛に出動する。

・脱走兵を捕縛の後に治安維持を名目に佐渡に居座る。

だが沖縄戦が早期に収束したことで作戦は崩壊、艦長の息子は見捨てられたのだった。

 

「4射目が終了、本艦の機能に問題はありません。」

……

「加速器起動確認しました。」

「…回避、その次はわざと当たるぞ、そのつもりでいろ。」

「了解しました。」

だが艦長の期待は裏切られることになった。

甲高い警報音が鳴り響く。

「なんだ?」

「外部中性子モニターの警報です。直撃を受けた模様。」抑揚のない声で返事が返ってきた。

「バカな、回避したはずではないか?」

「少々お待ちください、確かに本艦は回避に成功して射線からは外れています。

ですが直撃を受けたのは事実です。」

「……つくづく予想を裏切ってくる連中だな。

で、本艦に影響は?」

「ソーサリーブースターは正常に作動しました。

本艦への影響は軽微、ですが奴らの能力は明らかに想定を超えています!!」

「…仕方が無い、急速浮上の後入り口を塞ぐ、念の為バンカーバスターも準備しろ。」

「はっ」

その時再び警報が鳴り響いた。

 


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