浮上を開始したとたんに再び鳴り響く警報、そしてアナウンスが流れる。
「原子炉の異常が検出されました、炉心緊急停止を実行します。
航行停止します、バッテリーで15分間航行可能です、戦闘海域から離脱してください。
繰り返します…」
「機関長、どうしたんだ!」
「今調べています、ログを見ると炉心の中性子センサーが反応したようです。」
「…今は暴走してはいないんだな?」
「状態をチェックします…異常は確認できません、手動にて緊急停止解除します。
……艦長!原子炉停止和解除できません、制御棒が元に戻りません!!」
「そんなバカなことが有るのか?
入ったのなら出せるはずだぞ。」
「信号は原子炉までは行っています、が動いている気配がありません!
原子炉内部の故障の様です、ドックに行かないと修理が出来ません。」
「…今我々に出来る事は?」
「セオリー通りとすれば浮上して救難信号を出し救助を待つ、ですかね。」機関長は肩をすくめて答えた。
薄暗い部屋の中で静かに時が過ぎる。
状況を監視している男にも変化は感じられない。
すると突然スピーカーから少し慌てた声がした。
「博士、相手の攻撃が直撃した様です。」
「全体として進行が速すぎますね、実行部隊に警告を。
もっと追い詰めないと術を使ってくれないでしょうから。
それとまだ相手の政府には気づかれてはいませんね?」
「はい、今の所その様な兆候は確認できていません。」
「…では何か・」言いかけた時に慌てた声がした。
「博士!!、エマージェンシー受信しました!」
「…現状報告を。」不機嫌そうに言う。
少なくない時間過ぎて返答が来た。
「はっ、炉心緊急停止装置が誤動作した模様。
原状復帰を試みていますが原子炉内部での故障らしく復帰は絶望的です。」
「このままで作戦は実行可能ですか?」
「…無理ですね、あの船は原子炉が動作している事が大前提ですから。
所詮実用テストの為に作られた機体ですから内蔵バッテリーでは浮上するのが精一杯でしょう。」
「せっかく良い所まで行ったと言うのに…この事は上に報告しておきますから。」
最後を冷酷に言い放ち装置から出て行った。
そして証明が落とされ非常灯の明かりだけになる。
足元だけをほのかに照らす、それゆえ闇がいっそう強調されているかのようだった。
「艦長、作戦失敗と連絡が…」
「…そうか。」
その時潜水艦が方向を変えゆっくり沈んでいくのが二人には感じられた。
それまでと打って変わって穏やかな雰囲気の二人、まるで喫茶店で話しているかのようだった。
そして穏やかな時間は過ぎ去る。
一発の銃声(実際には二発同時だったが)と共に日本海に沈んでいった。
男は息子が何を思ってあの作戦に関わったかは知らぬままだった。
息子が望んだのは”父の名誉回復”だった。
それを知らぬままだったのは、果たして悪い事だったのだろうか?
それは神様にもわからない事かも知れない。
真紅郎の努力は確かに届いた、だがそれが結果につながったのだろうか?