防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-76 新発田家

深雪の三校での暮らしもあっという間に終わった。

この時深雪は『一条将輝を適当にあしらいうまく乗り切った』と思っていた。

決定的な言質も取られず悪感情も抱かれることもなかった。

ついでにはなるが三校の前田校長とは良い関係が築けたと思う。

私のことを気に入ったのか色々と便宜を図ってもらった。

そして何より佐渡の件、いつも私を見守っていて下さる達也様の『愛』を感じられた。

今回もピンチの時に助けてもらった。

どんなに離れていても繋がりを確信できた気がしたのだ。

比べるべきではないのかも知れないが、一条将輝では物足りない。

隔靴掻痒、痒いところに手が届かなくってイライラが募るだけだった。

やはり私には達也様、深雪は改めてそう思ったのだ。

最近の深雪には珍しくウキウキした気分で帰宅すると一通の手紙が届いていた。

水波からそれを受け取り読んだ深雪はかすかに顔をしかめた。

「いかがいたしましょうか、深雪様。」と水波。

「…会いましょう。手紙で和解は済ませているけれど一応は部下なのだし。

それでスケジュールは大丈夫?」

「はい、明日は移動の予備日でしたから丸一日空いています。」

「ではその様に。」

 

翌日の午後、深雪は新発田家に来ていた。

深雪は昼食を外で取った後に来ている、ちょうど午後のティータイムに合わせての事だ。

当然のように上座に深雪、その背後に水波が控えている。

新発田家側は当主の理、次期当主の勝茂それと堤姉弟だ。

微妙な緊張感を漂わせて時間が過ぎてゆく、そしておもむろに新発田理が口を開いた。

「この度は当家にご足労いただき・」

理の言葉をさえぎり深雪が氷のような口調で言った。

「美辞麗句は結構です。和解はなったと思っていますから単刀直入に用件を伝えてください。」

四人は顔を見合わせる、やがて勝茂がゆっくりと口を開いた。

「このたび我々は深雪様の配下となった訳ですが、我らがやるべき仕事は何で御座いましょうか?

ご当主様から深雪様の配下に任命されましたが、仕事内容までは伺っていません。

ご当主様にお尋ねしても深雪様に聞くようにとしか仰っていただけませんでした。」

真夜の話題に深雪が食いついた。

「お義母は他に何か仰ってはいませんでしたか?」

「はい、『この件は深雪の次期当主としてのトレーニングと考えています、よって私からの指示は有りません。

どのような結果になろうと、それは全て深雪が負う事になります。』との事でした。」

「他には?」

「しばらくは達也殿と別れて暮らす事になる、とだけです。」

その言葉を聞き考え込む深雪。

しばらく居心地の悪い沈黙が続いた。

そこで勝茂が耐えられなかったのか口を開く。

「深雪様、ご興味が御有りだと思い達也殿の近況を調査しています。ご覧になられますか?」

その発言に深雪は食いついた。

「そ、そうですね。確かにちょっと気になります。

ですがどうやって?達也様の目を誤魔化すことは出来ないでしょう?」

「監視カメラ、街頭カメラ、店の公開カメラなどとSNSなどの画像を集めました。」と奏太。

「そうですか、ではお願いします。」余裕を見せて深雪が報告を促す。

そこには達也と真由美のあの暴露デートの場面が報告されていた。

……

………

深雪が目に見えてそわそわしだす。

「深雪様?どうかなされましたか。」と琴鳴。

「いえ、少しお義母様に御用を思い出しました。」

「そうだったんですか、奏太あとどのくらいですか?」琴鳴は奏太にささやいた。

「この後もあんまり代わり映えはしないから省略しても良いんじゃないか。

でももう一人の方はどうする?」奏太はコッソリ琴鳴にささやいている。

「もう一人?」それを聞きとがめて深雪が言った。

「深雪様は未だご存じありませんでしたか。

現在達也殿はご当主様が選んだその方と付き人と合わせて3人で住んでいるようです。

そのもう一方の女性は法律上達也殿の被後見人となっています。

同じマンションには七草真由美嬢も暮らしている様ですね。

そのマンションは協会の所有物で流石に内部の事は分かりませんでした。」

「……三校に行っていましたから…ではもう一人の方を見せてもらえますか。」内心を押し隠して深雪が言った。

……

 

危険、きけん、キケン、、、画面のあの少女の達也様を見る目をワタシは良く知っている。

電動車いすに乗っている事からして展開は容易に想像できてしまう。

深く考え込んだ深雪の様子に理が言った。

「当主様と会談は通信ならば当家でも出来ます。専用回線ですから防諜対策も万全です。」

「私事ですので私一人でお願いします。」すかさず深雪が言った。

 

 

「ご多忙のところ恐れ入ります。」と恐縮した態度の深雪。

「貴女は私の息子『達也』の婚約者、おまけに当家の次期当主よ。

そんな風に遠慮することは無いわよ、それに今新発田家にいるのねそれは良い傾向ね。

それで今日は一条家に関する報告かしら?」

「それも有りますが、達也様の近況についてです。」

真夜は妖艶な笑みを深めて言った。

「達也さんの近況に何かあったかしら?」

「ええ真由美さんとの件です。

同じマンションに住んでいるなんて私は何も聞いていないんですが?」勢い込んで聞いた。

真夜は優雅に首を傾げて言った。

「ああその事ですか、七草真由美嬢は婚約者候補の一人だと言ったはずですが。

確かに今は協会斡旋のマンション内に一緒に住んでいますね。

あの策謀好きの七草殿が強力に押しているのですからその位は予測の範囲内でしょう。

達也さんと深雪さんと引き離し真由美さんが婚約者候補としての機会を与える事が求められているのですから。

それに表面上お互い婚約者候補なのですから近くに住むのはおかしな事ではありませんよ。

それとも真由美嬢が何か達也さんにしましたか?

まさか無理やり関係を迫ったとかでしたら抗議しないといけませんが。」

「いえ、そこまでは…それより私は何も聞いていないんですが。」

「新発田が仕事をしなかったのですか?」鋭い口調で真夜は言った。

「いえそんな事は…」

「では具体的に新発田にどう指示しどんな結果を得たのですか?」真夜は口調を崩さなかった。

「…何も指示していません。」

「……当主は主体的に部下に的確に指示しなければなりません。

生徒会長をした経験で分かっていなかったのでしょうか。

例えば去年の九校戦のキャンピンクカーの件、部下に丸投げで満足いく結果が得られましたか?」

「…いいえ…」

「……今後の深雪さんに期待しましょうか。

で、他に聞きたい事はありますか?」冷たい口調で真夜が言う。

「あの達也様の被後見人の少女、あの方は?」

「あーあの子、ちょっと訳ありのお嬢さんなの。

でも安心して、あの子は誰かさんと違って達也さんとの結婚を第一条件にはしていないのよ。

達也さんとの繋がりだけあれば結婚はしなくても良いって言ってるの、かわいいわよね。

もちろん達也さんと結ばれたいという思いは持っているし、その思いは本物ね。

達也さんのお嫁さんの選択肢が足りないと言われたのなら、こちらで用意しても良いでしょう?

もちろん四葉にとっての保険的な意味合いもありますよ。」最後は小さくつぶやいた。

「でも追加の婚約者なんて…」

「あら、深雪さんは達也さんが七草のお嬢さんと二人っきりの方が良かったかしら?

新居は横浜事変での功績で協会が得た物だから、功績のあった真由美さんが自由に使って問題ないそうよ。

と言うより協会、つまり弘一殿が用意したんでしょうから。

今は玄関は別、つまりはお隣の様だけれどもね。

でもハイセキュリティマンション、住民以外は入ることはできないわよ。

二人きりで住んでいるビル、そしてそれが婚約者同士なら実質的には同棲扱いになってしまうわね。

こう聞いても達也さんが真由美さんと二人っきりの方が良かったのなら、そう手配しなおしますが。」

「いえ、そんな事は決して…」身を乗り出して深雪は言った。

「では問題ありませんね。他に何か質問は有りますか?」

「ではあの付き人は?」

「あのね深雪さん、軍が達也さんを放っておくはずがないでしょう。」真夜は言った。

この言葉に深雪はうなだれた。

確かに軍があれほどの力を放置するのは考えられないし、響子の能力をもってすれば入り込むのはたやすい。

それにどうせ監視を付けられるなら能力の分からない他の監視員よりよっぽど良いだろう。

しばらく沈黙がその場を支配した。

「では一条家に関する報告を。」更に冷たく真夜は言った。

……

……… 

「そう、深雪さんは『一条家とは』中立を選んだのね。

あえて困難な道を選ぶ、当主としては必ずしも褒められた事では無いかもしれませんが、それも有りでしょう。

その心意気に応じて私からは手を出す事を今後は控えましょうか。

二木、三矢、五輪、八代、十文字、残りの五家の内どこにするのか、すべては深雪さんに委ねます。

この調子で頑張ればきっと良い当主になれるでしょう。

最後に一つ、監視の目はどこにでもあります、不用意に達也さんとの接触は避けなさい。

コッソリ会っている事がわかってしまうと期間の延長されるかもしれないから。」

こう言い残して通信は切れた。

 

通信が終了しても深雪は真夜の言葉を凝り返し考えていた。

真由美の件は非常に残念だが認めるほかない。

達也様と仲良くなるなら一緒に住むのが一番良いのは体験でも明らかだ。

そして私が同じ立場なら迷わずそうするだろうから。

そして今私が無理やり乗り込んでもこの事態は改善されないだろう。

更に引き離されるかあるいは期間の延長、も、もしかしたら達也様が真由美さんと同棲と言う事態もあり得る。

ありがたいことにお義母様はこの事態にも手を打ってくださっている。

被後見人の達也様を見るあの目は以前の私と瓜二つだが、結婚を望んでいないと言うのを信じるなら仕方が無いだろう。

真由美さんは強敵だ、生半可な相手では牽制にすらならないから。

でも不安は拭えない、新発田に引き続き監視をさせる必要があるだろう。

それと同時に思いだした事がある。

『六塚、七宝以外の味方を二家作れ』と言われた事を。

言われた時はあまりにも急展開ですっかり忘れていた。

新発田の言う仕事はこれの事だろう、ここでもお母様は先手を打ってらっしゃったのだ。

自分には自由に動かせる味方が少ない、改めてこの時そう思った。

実力ある学友は達也様絡み、例外は泉美ちゃんだけど七草家。

達也様の事は今はなるようにしかならない。

すべてはお義母様の手の内、そして今何よりも優先すべきは四葉の当主の座を手に入れる事。

それが叶えば達也様と幸せに暮らすことが出来る、この時深雪はその事を強く確信した。

その為にはまず今動かす事の出来る新発田家との話し合いをしなくては。

 

再び新発田との会合、深雪は事の顛末をほぼ全て開示した。

伝えなかったのは達也との関係、実の兄妹だという事は流石に伏せた。

その上で十師族内に味方を作れ、と言う真夜の言葉を伝える。

「…なるほど、そういう訳でしたか。」と理は満面の笑みで答えた。

「何が分かったのですか?」深雪が鋭く言った。

「はい、深雪様が当主となられた暁には他家との折衝は必須項目です。

現在我が四葉に好意的な六塚、七宝に加えあと二家が味方となれば合わせて五家、議長を除くと過半数を抑える事になります。

となれば多少の無茶も通すことが出来ましょうし、逆に今回のような他家からの無茶な事も無くなるでしょう。

会議とは戦争に似ています、力を持つ者達の場合は特に。

力があるなら命令すればいい、会議をするという事はそういう事でしょう。

失礼ですが深雪様は他の十師族の方々にはあまり知古は無いでしょう、うちは七草とは違いますから。」

深雪は真由美が既に将輝や光宣、響子などと知り合いだったことを思い出い頷く。

「今回、一条とは縁を結ばれたご様子。

残り一家、我々も全力でサポートいたします。

ところで深雪様、どの家にターゲットを絞りましょうか?」

「???、ターゲットを絞ればとは?」

「先ほど戦いに例えましたが、戦いにおいてはことわざに有るように相手の情報は最重要事項になります。

『敵を知り』と言う奴ですね。

ですが我々は黒羽と違い諜報を得意とはしていません。

二兎を追う者は一兎をも得ず、と昔から言われております。

ですから残り全家の情報を集めるのはいささか非現実的かと。」

「…それに関しては後日改めて相談しましょうか。」一条の事を隠して深雪は言った。

「分かりました。ですがなるべく早くお願いいたします。

ことわざに有るように『兵は拙速を重んじる』ですから。」

兵隊が早い事は良い事だろうと思い深雪は頷く。

「ではそのように。」と理は言った。

 

深雪を送り出した理はにやりと笑みを浮かべて言った。

通信室の防諜対策は万全だ、ただし外部からに限るが。

「あきらめるのは少々早かったかもしれん。

もう少し情報を集めるとともに、早急にあれを封じ込める策を練らねばならんかな。

ただ真夜様の真意がハッキリしない、今はまだ私一人の胸にしまっておこうか。」

 

真夜は葉山を呼び出した。

「我が家に侵入してきたお嬢さんは?」

「情報を精査しましたが本人の証言に嘘はないようでございます。

七草家が本格的に動き出したと見て良いでしょう、いかがいたしましょうか?」

「とはいっても今こちらから直接は問題だわ。」

「ではかの者の要求を呑んでみてはいかがでしょう。

遺伝子的に達也殿を裏切ることは無いでしょうから。」

「それで大丈夫かしら?

こちらの要求は聞いてくれそう?」

「真由美嬢に反発していますから誘導できると思われます。

達也殿への紹介状を餌にすればより確実でしょう。

こちらは推薦するだけで主体は達也殿にすれば他家への言い訳になりましょう。」

「流石は葉山さん、それでお願いしましょう。

この後呼んでくださいな。」

 

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