防衛大学校の劣等生   作:諸々

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抜けがありました、フラグを踏み抜きました。
一部追加です、物語に影響はないので二度読む必要はないと思います。
すみませんでした!!!

読者の皆様、残暑厳しいですがお体を大切に。



00-87 リベンジ(2)

当日三組の婚約者たちはそれぞれ時間帯を分けて達也と相対する事になった。

先ずは午前中真由美の番、だが達也の隣でふくれっ面だ。

それは目の前に座るコスプレ組の所為だ、達也がこの時間にあわせたのだ。

街中の喫茶店、男一人に美女三人、秘かに他の客から注目を浴びていたのだった。

 

 

この数日前、リーナはヤミと会っていたが何時ものリーナとちょっと違っていた。

ヤミはそれに気が付いていたが先ずは仕事を優先した。

「リーナさん、なにか?」業務連絡を終えてからヤミが言った。

「えーっと…」言葉を濁すリーナ。

「何かありましたか?

ご当主様から貴女のサポートを任されています、何でも相談していただいて結構ですよ。」

「すぅーーはぁ、なら言うわね、もうすぐ乙女の祭典のあれよね。」

「あれ?ですか。」

「そう、バレンタインよ、深雪の真似をするのなら避けて通れない筈よね。」

リーナは二年前のチョコを渡すことが出来なかった、そのリベンジを考えていたのだった。

文弥はその言葉に内心引きつった、この件は全く考えていなかったからだ。

文弥自身はバレンタインにいい思い出が無かった、それも有ってすっかり忘れていたのだ。

だが確かにリーナの言う通り深雪姉さんの真似をするなら何もしないのは不自然すぎる。

それでも文弥は躊躇している、達也兄さんにバレンタインチョコを渡す事は一線を超える気がして。

「で、どうなの?

深雪なら何か凄い事をしていそうなんだけど…」リーナは最後に顔を赤くして尻すぼみに言った。

文弥もそれを想像して顔を赤くする、暫くフリーズしていたが唐突に叫んだ。

「ダメ、それだけはダメですよ!!!」

「えっ、深雪ってそんなにすごい事をやってたの?」ヤミの反応に驚くリーナ。

「…いえその……」ますます顔を赤らめるヤミ。

「ま、まあ良いわ。

とりあえず普通にチョコを渡しましょう。」

「ま、まあそうしましょうか。」

そうして文弥が選んだ物は……

 

 

「で、達也君、、どういう事????」目尻に怒りマークが見えるかのように真由美が冷たく言った。

「昨日彼女達から渡したい物があると連絡を受けました。

先輩は彼女達と会う時には乱入してきますから、どうせなら一緒にと思いまして。」

「うっ」その言葉に思わずうなる真由美。

「お話は済んだようですね、では私から達也兄さまへ。」と言って深雪(偽)はラッピングされた袋を達也に渡した。

ジト目で睨む真由美の前で達也はラッピングを丁寧にはがす、後で文句を言われないようにだ。

『激甘チョコ、義理にも本命にもお勧め』そう書かれた個別パックの多数のチョコが入った大入り袋のお菓子だった。

(カカオ分少な目なのでチョコレートとはよべない)

これは文弥の葛藤による妥協の商品だ、切羽詰まった文弥は義理の文字に飛びついたのだった。

怒っていた真由美もパッケージの義理の文字を見て矛を収めた。

その所為か雪の持ってきた物は真由美はスルーした。

それは二年前渡しそびれた物と同じ物であり、見事リーナはリベンジを果たしたのだった。

(ちなみに文弥の渡したチョコは義理の場合はばらして個別に渡し、本命はそのまますべてを渡すと言う仕様。

後でリーナからそれを聞かされた文弥は恥ずかしさに悶絶する事になるのだった。)

 

 

コスプレ組は達也にチョコを渡すとすぐに帰って行った。

気を取り直して真由美は達也にチョコを渡した、二年前とパッケージも匂いも同じ物を。

そしてニコニコ顔で真由美はあの時の様に達也にそれを目の前で食べる事を強要したのだった。

達也にはそれが服部にトラウマを与えた例のアレだと分かっていたが、あの時と同じ笑顔で迫る真由美に逆らえずに食べる事になった。

 

真由美は実家の台所である物を作っていた。

それは二年前の苦いだけのチョコと色も匂いも同じだが、食べるとほろ苦い甘さのビターチョコという物だった。

実家の料理長の手も借りて真由美は理想とするチョコを完成させたのだった。

これを食べさせて意外な甘さに驚く達也を見たい、これが真由美の考えた計画だった。

 

覚悟を決めて一つ口に運ぶ達也、それを真由美はわくわくした目で見つめている。

だが真由美の予想に反し達也がそれを食べ終わっても期待した反応は帰ってこなかった。

真由美はさらにもう一個達也に食べさせたが達也の反応は変わらなかった。

さすがに不審に思った真由美はチョコを一つ自分で食べてみる事にした。

『苦い!!!』真由美が食べた感想はそれだった。

おかしい、料理長と考えたレシピは真由美も試食した物だ、念の為固める前も試食して確認している。

あの時は…唐突に真由美は思いだした。

固める時に香澄ちゃんが呼びに来た事を、そしてこの苦いチョコの作り方を香澄に教えた事を。

そして香澄ちゃんは達也君に反感を持っている、正確には真由美と達也の付き合いに大反対しているのだ。

繋がった、香澄ちゃんがチョコをすり替えた。

バレンタインに私が誰にチョコを渡すかなんて考えればすぐにわかる事。

「ごめんなさい。」真由美は達也に謝った。

「えっ」この苦さに耐えれば良いと思っていた達也は真由美の言葉に困惑の声を上げた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」真由美は繰り返し謝る。

真由美の目からは涙がこぼれている、それを見た達也は思わず声をかけた。

「真由美さん、何があったんですか?

ちゃんと説明してくれないと何も分からないですよ。」

真由美は泣きながらぽつりぽつりと事情を語りだす。

ここで達也はようやく理解することが出来たのだった。

だが真由美はすすり泣きを続けたままだ、喫茶店の他の客がこっちを注目し始めている。

達也は事態の打開策を模索するため周囲を見回す、そこには文弥のチョコがあった。

「先輩、口を開けてください。」達也はわざと真由美を先輩呼びをした。

「何度でも言うけど真由美Y!」真由美の話の途中にチョコをそっと差し入れた。

最初戸惑っていた真由美だったが、その甘さが口に広がるにつれて驚きをあらわにした。

「すみません先輩、ですが俺にとって先輩と呼べる人は貴女だけなんですよ。」

その言葉に真由美は泉美の『真由美お姉さま』を思い出しいたずらっぽく笑って言った。

「なら今日だけね、ほらあーんして。」

そして激甘チョコを達也の口に放り込んだ。

達也は真由美にされるがままそのチョコを食べた。

「甘い!」達也にはその甘さも苦手のようだった。

その様子を見て真由美はさらに笑顔になって達也に次々あーんを繰り返した。

達也はそれに渋々応じていたが一方で真由美が笑顔になった事を喜んでもいた。

達也もお返しとばかりに真由美の口に激甘チョコを放り込んでいく、このままだと全部食べさせられそうだったから。

やがてチョコはすべてなくなり真由美は上機嫌で帰って行った。

 

こうして二人は丸く収まったのだが、店にいた他の客にはそうではなかった。

三人の美女からチョコをもらい最後に残った一人が泣き出す、何も知らない傍から見ればまさに修羅場だ。

この件はバレンタインの珍事としてネットをにぎわせる事のなるのだった。

 

 

美輪はキョウコを連れてと都内にある高級チョコレート店を尋ねていた。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」店員が訪ねてきた。

「予約していた物を受け取りに来ました。」美輪が答えた。

「それではこちらへ。」そう言って店員は店の奥へ案内した。

メイドっぽい響子には店員は誰も声を掛けようとはしてこない。

手持無沙汰な響子はショーケースの中をのぞいてみた、そこには一粒数千円と言うチョコレートが並んでいた。

中でも響子の目を引いた物はショーケースの隅にあったとあるチョコレートだった。

そのチョコは値札が裏返っていて売り切れている様だったが、響子の気を引いたのはそのキャッチコピーだった。

『100年食べられるチョコレート、100年(愛が)無くなりません。

全世界で1000個限定(シリアルナンバー付)』

100年愛が無くならないと言うフレーズに心惹かれ響子は見入っていた。

 

美輪は商談を済ませてキョウコを見た、そして響子の注目している物について店長に聞いた。

「あれはなんでしょうか?」

すると店長が物腰柔らかく答えた。

「あれは去年から始めた100年チョコレートですね、特殊な製法とパッケージングにより実現したものでございます。

毎年全世界1000個限定で販売していく予定の品です、もちろん毎年デザインは変更していく事になっております。

ですが今年の分は見本の一個を除き完売でございます。」

「見本は売らないのですか?」

「ナンバーが666で忌諱されるお客様が多く、分かる方にしかお売りできませんので。」

「……ひょっとして万葉集ですか?たしか万葉集の666番は恋の歌だったかと。」

「流石でございます、古来わが日本では666は語呂合わせで『むつみ合う』と申しまして愛の番号なのでございます。」

「当たりましたか、なら私が買ってもかまいませんね?」

「もちろんでございます、クイズにお答えになられましたので半額にさせていただきます。

今後ともご贔屓に。」

 

店を出る時キョウコは美輪からチョコをもらった。

「からかったお詫びです、どうぞ受け取ってください。

婚約者の方に渡してあげてください。」

美輪はキョウコが今お金を持っていない事を知っている。

「あ、ありがとうございます。」話の展開についていけなかった響子は受け取った。

住み込みで働く響子は有る人物にそのチョコを渡した、それがのちに波乱の展開を生む事になるのだが。

 

 

ほのかはその日非常に浮かれていた、最近は睡眠時間を削って勉強の毎日だったから。

今年は達也さんにチョコを渡すことは出来ないんじゃないかと落ち込んでいたから。

雫に考えがある、と言われて待っていると雫が荷物を手に現れた。

そして雫はほのかの前にチョコで作られた円盤状の物を出した。

「きれいなチョコだね、でも直径のわりに薄すぎない?」

雫はもう一枚同じものを出して言った。

「チョコクリームサンドにする。」その言葉にほのかは頷いた。

続けて雫はチョコペンをとりだして言った。

「名前だけでも書いて。」

そのチョコには精緻な模様と達也の名前が彫られてあった。

ほのかは喜んでペンを使って名前を書いた、それを雫は満足そうに眺めていた。

 

雫はその日の夜達也と会っていた。

いつも通り達也は雫を丁寧に接待していく。

極上の雰囲気の中で雫はチョコを渡した。

「雫、ありがとう開けてみても良いか?」

「うん。」

そこにはチョコクリームを挟んだチョコがあった。

達也はそれを裏返してみて言った。

「ほのかの分は無いんだな、疑って悪かった。」そう言って達也は頭を下げた。

「達也さんの立場ならそれは仕方が無いよ。

気にしていないから早めに食べてね。」

雫は渡したチョコは表面に手書きで雫の名前が書かれているが裏面は何もなかった。

そしていつもの様に頭を撫でられて達也は去っていく。

「ほのか…」雫は思わずつぶやく。

 

ほのかが書いたそれはチョコクリームの中に隠れていた。

こうして雫は達也に気づかれずにほのかのチョコを渡すことに成功したのだった。

だがこの事がほのかと雫の関係に重大な影響を与えるのだった。

 




これで高校編は終了です。(忘れものはないよね。)
令和記念も兼ねてこんな話にしてみました。
前話の不明点はクリアーになったでしょうか?
(それともプロ読者の方たちにはバレてしまっていたのでしょうか?)
急展開の原作ではもう望めそうにない話ですが楽しんでもらえると思います。

この後、終戦記念日から隔日で旧作最後の話を投稿する予定です。
そしてしばらくこの話はお休みするつもりです。

『ミッキーマウスがしゃべるのに理由は要らない』ではない事を祈って。

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