「もー、いつまでも泣いてない。式も終わったし懇親会はこれからが本番だよ。」
金沢行きの列車の中で香澄が言った。
「香澄ちゃんはあっさりし過ぎです!これから1年間も深雪お姉さまに会えなくなるんですよ!!」
泉美は目を腫らしながら叫んだ。
「もうすぐ駅に着いちゃうよ。カルネットの人との最終の打ち合わせが有るんだから。」
泉美の言葉を聞き流して香澄は言った。
「…香澄ちゃんは情緒という物を理解してください。」
と言いながら泉美は洗面台へ向かった。
何故一高生の香澄と泉が懇親会の為に金沢に向かっているのか?
それにはこんな事情があったのだ。
様々な事情で昨年夏に三校へ行く事になった深雪、ライバル校への訪問だが以外にも大歓迎を受けた。
初っ端に校長に気に入られたのが何と言っても大きかった。
前田校長が確実に有ったわだかまりを文字通り吹き飛ばしてしまったからだ。
また深雪も表の目的の通り親睦に勤めたので、すぐに打ち解けられた事もあるのだが。
何より尚武の気風溢れる三校、深雪の魔法力の高さには率直だったのだ。
そして深雪の留守に耐えかねたように泉美は頻繁に連絡を入れる事になる。
相手が生徒会長の泉美、当然三校側も生徒会が対応に当たる。
深雪の様子を知りたい泉美、四葉家次期当主の深雪への対応に困っている三校生徒会。
両者の思惑が一致し非常に仲良くなったのだった。
そのような経緯もあり三校からの要望で、懇親会は合同で盛大にやろうと早くに決まっていた。
当然の事に三校主体で準備が進んで行く事に。
ただ何をするのかで三校で揉めた、将輝達に何をすれば喜んでもらえるのか?
それを考えた時、一番初めに思い付いたのはふがいない成績に終わったこの夏の九校戦の事だった。
この夏の九校戦、三校の生徒会は今年の夏こそ打倒一校を掲げ将輝は頑張った事を誰よりも知っている。
結果は想定外の事態により今年も優勝を逃してしまっていた。
何とか将輝にリベンジの機会を与えられないか?そう思っていた。
また三校の誰もが将輝の深雪に対する思いには気が付いている。
その中で在校生の中に思い浮かぶ光景があった、それは将輝と深雪の出会いの場でもある3年前の九校戦だ。
その中でも将輝vs達也のモノリスコード戦、九校戦で唯一将輝が敗れた戦いだ。
だがその後の九校戦の仕様変更の為、その後遂にこの二人の直接対決は行われなかった。
ぜひこの最後の機会にかなえてあげたい、それが三校在校生一同の思いだった。
だが一校側を説得する必要がある、恐る恐る一校に打診すると意外な結果が返ってきた。
一校側も非常に乗り気だったのだ、その理由は以下の通りだった。
一校の在校生はこの戦いをほとんど生で見ていなかった、入学後は録画で死ぬほど見る事になったのだが。
理由は簡単、あの時の九校戦は最強の世代の所為で一校の優勝は揺るがない、逆に言えば結果の分かった試合だったのだ。
それに対してあの時の一校の新入生で有名人と言えば森崎(笑)位で目を引く人物はいなかった。
その為一校の受験を控えた人達は、わざわざ受験勉強を捨ててまで新人戦を見に行く事はしなかったのだ。
それでも一校を受験する人では本戦を見る人はまれにはいたが、新人戦までは見る人は殆ど居なかったのだ。
それ故に現在の一校在校生であの試合を直に見たのは隅守賢人位だった。
そしてその賢人はその試合を見て感動し一校入学を決めた事はもはや有名な事実。
その感動を大いに広め、そしてそれは時がたつと共に大きくなり盛大に羨ましがられたのだった。
そして卒業生の先輩からも波乱に満ちた経過と大方の予想を覆して優勝した感動を語って聞かされていた。
そう言う訳で一校の在校生の間にはこの戦いを直に見たいという要求がくすぶり続けていたのだった。
それから奇跡のような連鎖が続いた。
まずレオのCAD、小通連の貸し出しを雫に求めた所なんとスポンサーになってくれるという話になった。
なんでもあの九校戦でのレオの活躍は小通連の格好の宣伝動画になっており、ぜひ資金提供したいとの事。
モノリスコードは競技の性質上カメラ撮影が必須(フィールドが広いため)だが学校では手に負えなかった。
だが北山家がスポンサーになる事が決まるとほぼ同時に七宝からカルネットの協力が得られるという話が舞い込む。
ここまで話が進むと三校の前田校長が動いた。
競技フィールドの整備を授業の一環としてやることを決め、瞬く間に作り上げてしまったのだ。
モノリス自体は協会から条件付きでは有るが貸出OKが出た。
かくしてリベンジマッチの幕は上がる事になるのだった。