防衛大学校の劣等生   作:諸々

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01-02 モノリスコード再び

一条将輝は内からあふれる高揚感を抑えきれなかった。

この機会を与えてくれた後輩たちには感謝してもしきれない。

卒業生という事で本来は受け身の立場のはずだがそんな事は全く気にならなかった。

「将輝、そろそろ作戦会議だよ。と言ってももうほとんど決まっているんだけどね。」と吉祥寺真紅郎。

「そうだ、奴は俺が倒す。」

「えっ、良いのかい、未来のお兄さんを倒しちゃっても。」くすくすと笑いながら真紅郎は言った。

「良いんだよ、どうせエキシビジョン、いわばお祭りだ。それにこんな事でもないともう無理だろう。

それよりジョージの方はどうなんだ。古式は秘匿が多いって言ってたはずだが。」

「んー何とかなるんじゃないかな。」にやりと笑う真紅郎。

真紅郎もまたこの機会を歓迎していたのだった。

「では行こうか。」と将輝。

 

エキシビジョン対戦は二年半前のモノリスコード新人戦の再戦だが大きく違う点がある。

深雪の行動だ。前回はべったりで幹比古やレオを呆れさせるほどだったが今回は全く違う。

対戦直前に詰所前でわずかな時間話しただけだった。

 

 

「えーー皆さん、ただ今の試合の解説の準備が整いました。

10時からお届けする予定です。視聴希望者はモニターの前でお待ちください。

解説する順番は一校モノリス前、三校モノリス前、センター広場になります。

まず各選手達からの視点からのダイジェスト、その後解説していただきます。

解説員は三校側は我らが前田校長、一校側は隅守賢人氏にお願いしています。

繰り返します…」

 

 

『一校モノリス前』ダイジェスト

 

「見つけた。」男は低くつぶやいた。

だがモニターに映る選手の視線カメラには相手選手は映っていない。

それは画面右のディフェンス側も同様だった。

ここで今回のフィールドの説明をしよう。

全体はなだらかな丘を中心とした作りでモノリス間は幅約100Mの草原。

周囲はうっそうとした森となり、草原と森林両方の性質を持ったステージになっていて一応双方に考慮した造りになっている。

ただしモノリスの周り15Mほどには木は生えていない。

モノリス攻略には生身をさらす必要がある訳だ。

ここで上空からの簡易レーダー画面が現れる。

そこにはオフェンス側が森から回り込もうとしている様子がハッキリと見て取れる。

「見えていないはずなのに変ですね?後ほどここら辺から解説していただきましょうか。」MCが言った。

ディフェンス側はモノリスの周りを巡回しているようだ。画面の端に小通連が見えている。

オフェンス側はさらに姿勢を低くしてしばらくとどまり様子をうかがっていた。

やがて回り込むように動き低い姿勢もまま大きく振りかぶる。そう彼も小通連を持っているのだ。

後ろから命中したのかディフェンス側が前のめりに倒れる。

オフェンス側で土煙が上がり、視線がさらに下がる。

両脇の土の壁が流れるように見える。ごく浅い溝のような所を滑るように移動している様だ。

後ろで轟音がする、敵ディフェンスが反撃した。上手く索敵できない為に複数回攻撃している。

ディフェンス側が確認に行く。

その隙をついてオフェンス側が攻撃するが、防がれてしまっている。

視点カメラからするとオフェンス側は腹ばいで駆け足程度のスピードで移動を繰り返している様だ。

オフェンス側は不自然な体制で小通連を振るう。良く見ると風を伴っている様だ。

ディフェンス側はその攻撃を辛うじて防いでいる。やはりどこから攻撃しているか分からないのはきつい様だ。

数回に一回程度攻撃が当たっているが倒れる気配はない。

オフェンス側優勢に進むが一瞬のスキをついて小通連の飛行片を踏みつけ自分の小通連を振り回す。

踏みつけた足を軸に地面から約20cmの所を繰り返し何度も薙ぎ払っている。

笹や下草が吹き飛び生えている木に何度も当たる音が響いてくる。

驚異的な力で半径25m程の下草などを刈り取るがどこにも相手がいない。

舌打ちをしてジャンプ、漸くディフェンス側にも状況が分かった様だ。

何らかの方法で地面を削り、その溝を正にゴキブリの様に高速移動している。

ふんづけていた小通連の飛行片はジャンプしたタイミングで回収されてしまっている。

着地と同時に溝に合わせて小通連を振るう、だが直ぐに土煙が上がる。

地下10cmほどを穴に沿って振った様だが、何故か内壁にぶつかってしまっている様だった。

ディフェンス側が見通しを確保するため地面すれすれを薙ぎ払う。

だが今度は岩に引っかかる。

その隙をついてオフェンス側が攻撃を仕掛ける。

ディフェンス側は小通連の残りの部分で辛うじて受け止めるが当然反撃は出来ない。

「くそう、やはりほとんど効かないか。将輝の攻撃を耐えただけの事は有る。

仕方が無い。作戦通りにこのままポイントを稼がせて貰おう。」小声が聞こえる。

しばらく膠着状態が続いたが、ディフェンス側が1m程ジャンプし始めた。

数回ジャンプしていたがいきなり小通連を振り下ろした。

オフェンス側が急ブレーキ、目の前に刃が現れる。

次の瞬間吹き飛ばされる、がすぐに体勢を立て直し草むらに逃げ込む。

ディフェンス側はジャンプを繰り返し敵を探している。

何回かジャンプした時に最高点にタイミングを合わせて剣がディフェンス側を吹き飛ばす。

それと同時にオフェンス側の選手がモノリス前に姿を見せるが直ぐに引っ込む。

ディフェンス側が剣を地面に突き刺し吹き飛ばされるのを防いだからだろう。

お互い攻撃し合うが決め手に欠けた。

この後小競り合いが続いたが時間切れになった。

 


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