防衛大学校の劣等生   作:諸々

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01-05 センターでの攻防の解説とその後

「いよいよこの試合の解説も最後になりました、センターでの攻防です。

まずこの戦いの始まりは前回とほぼ同じでした、この辺は省いても良いでしょう。

ではよろしくお願いします。」

「最初に一つ訂正しておく、今前回と同じと言ったが断じて違う。

将輝の同時魔法照準数が上がり今や20を超えている。」

「それは凄いんですか?」

「そうですね、ふつうは10+α程度です。

高校生で15を超えるのはかなり珍しいですね。」

「そうでしたか…ちゃんと成長しているという訳ですね。

ですが勝負の中盤からは前回と違い三校側の生徒が主に回避行動をしていましたね?」

「一校は何をした?」鋭く前田校長は言った。

「…あれはおそらくグラムデモリッション、ファントムブロー、インビジブルブリットの3CADを同時使用した魔法です。」

「…いろいろ突っ込みたい所が有るんだがまずはグラムデモリッションだ。

あの魔法はあそこまで射程は無いはずだが?」

「先輩は魔法の収束率を上げたと言っていました。それで拡散せず射程が伸びたんだと思います。」

「そうか…成長したのは将輝だけではないんだな。

では次だ、インビジブルブリットは何の為だ?」と前田。

「インビジブルブリットの役割ですか、まず第一にヘルメットのあご紐止めを破壊する事です。

そして止めが無くなったヘルメットをインビジブルブリットで頭から押し出す事です。」と賢人。

「…ヘルメットは既製品だ、軍で使用する物だけに着脱しやすくなっている、そしてあご紐で固定するのが仕様だな。

うーん、だからあご紐をどうにかすればヘルメットを脱がすのは容易なわけか。

そしてルール上、ヘルメットを取られればその選手はリタイアだ、考えたな。

頭部への直接攻撃は反則扱いになりかねんが、将輝の魔法をすべて撃ち落としたあの射撃能力なら可能か

…だが待て、何故ファントムブローが必要なんだ?

そして何故3つの魔法を同時行使する必要がある?

その困難さは想像を絶するんだが?」と前田。

「そうなんですか?先ほど同時魔法照準数の話がありましたが、それは10を超えていましたが。」とMC。

「ええ、異なる魔法を同時に発動させる事は同じ魔法を同時に発動する事とは次元が異なる困難さが有ります。

2つ同時発動でもほとんどいません。前田校長は他に誰か知っていますか?」と賢人。

「そうだなー、確かに今まで会った中では二つ同時でもほとんどいないな、そもそも異なる魔法を同時に使うという発想が無い。

それよりも発動が困難な魔法を確実に発動する事に重きを置いているからな。

…そんな事より理由はどうした。」

「それは先輩のインビジブルブリットがそこまで早くないからです。

先輩が元二科生、三校で言う所の普通科だからです。

競技用の低スペックCADではスピードが足りません。

インビジブルブリットは視認した物にかける魔法です、つまり術が発動するまで対象物が静止している必要があります。

吉祥寺選手ほどスピードが有れば必要有りませんが、先輩には相手の動きを止める必要があるんです。

ですがそれはかないませんでした、もう少し先輩に魔法力が有ればヘルメットを脱がすことが出来たんですが。」

「そういう事か…そういう事ならこちらも汎用CADを使えればあんな無様な格好をさらすことは無かった。

あの特化型にはろくな魔法を登録していなかったからな、使用できなかったのは運が悪かった。」

「いえ、先輩はこれを読んでいました。正確には予測の一つとしてですが。

ただもう少し狼狽えるかと思っていましたが、もう少しの間だけでも硬直してくれれば先輩の勝ちだったのに。」

「なるほど…」

「で、この戦いは一校側の勝ちで良いですよね?」

「そんな訳があるか、将輝はヘルメットを取られてはいないぞ。」

「ですが優勢なのは明らかでしょう。」

「……いやトータルでは三校の勝利だ。」

「…こちらの勝ちでしょう。」

「……」

「…」

……

 

「えーっと、エキシビジョンなので勝ち負けは気にしないでおきましょう。

第二試合は会場整備の都合上午後の予定です。」とMC。

 

 

 

試合前、選手控室から元一高生が出てくる。

前にいる相手を見て幹比古が言った。

「達也、先に行くよ。あんまり遅くならないようにね。」

幹比古とレオは足早に去ってゆく。

「達也様。」深雪が淡く微笑みながら告げる。

「…話をするのは半年ぶりか。

深雪、この試合はエキシビジョンだ、だから…」

「分かっております達也様。

これ以上一条家ともめるのは得策ではありません。

何より達也様がケガを負われるのは看破出来ません。」

「深雪、分かっていると思うが俺を最終的に傷つけられる者はいない。」

「それでも深雪は達也様が傷つくのを見過ごすことは出来ません。」

その言葉に達也は苦笑いをする。

「達也様?」

「いや前回の事を思い出してな。」苦みを強くする達也。

「何を思い出されたのですか?」

「もう過去の事だから話しても良いだろう。

『一条将輝を倒した事はお前が考えているより重大な事だ、十師族でないならなるべきだ。』

懇親会の後、十文字先輩からそう言われた。」

「…十師族になれとはどういう事ですか?」

「……『十師族と結婚しろ。』、と言われたよ。」

「そうですかあの時にはそんな会話が、……ちなみに誰と結婚しろと言われましたか?」

達也は一瞬言葉に詰まったが観念するように言った。

「…七草姉妹だ。」

「…そうですか……達也様そろそろ試合時間ですよ。」

達也は深雪が追及してこないのを少し意外に思ったが、頷き試合会場へ行った。

深雪は達也の後ろ姿を見送りながら真夜(義母様)の言った事(目立つ事は敵を作る)が正しかったんだと改めて思った。

そして今も私の事を思ってくれている、と深雪は強く感じた。

この半年も激動だった、達也様と成就したと思ったのも束の間また離れ離れに。

逢った事でますます思いが募るが、お義母さまの仰る通りうかつに会う事は避けなければならない。

今回達也様と会ったのは学校関連の行事だ、七草姉妹も噛んでいるし例外と考えるべきだろう。

お義母さまはその内何か方法を考える、と仰ってくれた。

だったら先ずは目の前の事から片付けよう、と深雪は思った。

 




2年半前のリベンジマッチ(笑)いかがだったでしょう。
将輝以外はそれなりに頑張ったと思います。
特に6人の中で唯一名前のない三高生(レオの相手)は面目躍如でしょうか。
あと3話、本物のエキシビジョンをお楽しみください。

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