「さて午後の試合も無事に終わりました。
午前の試合とは異なりチーム戦らしい内容ですね。
肝心の解説ですが今回はどちらも一校のOGなんですが担当分けはどのようになっていますか?」
「僕の方は、七草真由美、北山雫、光井ほのか先輩です。」と賢人。
「こっちは、渡辺摩利、小早川慶子、司波深雪だな。」と前田。
「…今日の試合はこれで終わりですよね。
何故三校側は選手を出さなかったんでしょうか?」と賢人。
「ああそれならちゃんと調べてきましたよ。
やっぱり一校側には話していないんですね。」とMCは前田校長を見るが校長はそっぽを向いた。
「どういう事ですか?」と賢人。
「大人げない人が大人げない事をしただけですね。
大人げなく生徒主体の行事に参加させろとごねたんですが、当然あえなく却下されました。
すると大人げないその人は『参加したくば私を倒せ。』と言って参加予定者を全員返り討ちにしたんです。
大見得を切って宣言した手前、他の人を出すわけにもいかず今回は棄権と言う羽目になったそうです。」
「…我が校の威信が掛かっているんだ弱い奴を出すわけにはいかん。」ボソッと前田は言った。
「…………………………………………よーく分かりました。」
「ではまずはダイジェスト、各選手の音声付でお楽しみください。」
三校側は不参加、では一校側の事情はどうだったのだろうか。
年が明けたとある休日、真由美は実家のキッチンにいた。
準備するには少し早い気もするが鈴音から発破をかけられてここにいる。
「やっぱり慣れているのが一番ね。」とつぶやきながらストッカーから数種類の砂糖と油を取り出す。
そこへどたどたと足音がする。
「お姉ちゃん!!」と言って香澄が抱きついてくるがテーブルの上の物を見て少し顔をしかめる。
「香澄ちゃん、危ないでしょ!。で、何かあったの?」抱きつかれていた真由美は香澄の表情には気が付かない。
香澄は笑顔に切り替えて真由美から離れた。
「何にも、久しぶりだったから顔を見に来たんだよ。
そうだお姉ちゃん、ちょっと知恵を貸して。」
そう言って自室の方へ真由美を引っ張って行く。
そこには難しい顔で考え込んでいる泉美がいた。
「あら、真由美姉さまではないですか、どうかされましたか?」少々疲れが見える顔で答えた。
真由美と呼ばれたことに複雑な思いだった。
2年前まではただのお姉様だった、姉はただ一人だったから。
少し落ち込んだ姉を見て香澄が言った。
「ねえ泉美ちゃん、お姉ちゃんに相談したらどうかな?」
「そうですわね、深雪お姉さまに相談する訳には参りませんものね。」小声でつぶやき頷いた。
「何でもお姉ちゃんに相談なさい。」泉美のつぶやきには気づかずに胸を張って真由美は言った。
数日後、真由美の助っ人と共に会議をする。
理由は単純、問題が難しすぎ真由美一人の手に負えなかった為だ。
真由美は当初鈴音をと考えていたが競技がモノリスという事で辞退された。
確かにあの時鈴音はモノリスコードには直接タッチしていなかったからだ。
克人は色々あって連絡しにくい、仕方なく摩利に連絡を取ることに。
既にこの春の結婚が無い事は分かっていたが、相変わらず何故か付き合いが悪い。
初めは乗り気がなさそうだったが、試合が達也君を含んだモノリスだと分かると身を乗り出す勢いで食いついてきた。
そして摩利は何故かあの九校戦で怪我をした小早川慶子を連れてきた。
真由美はその勢いにタジタジになったが相談相手が必要だったので深くは追及しなかった。
議長役の泉美が初めに現状の問題点を纏めて説明した。
「まず初めに現状を簡単に確認しましょう。
エキシビジョンモノリス実施に当たり場所は三校で準備してもらえる事になりました。
ただ観覧席は流石に間に合いませんのでカメラによるモニター観戦するしかありません。
観戦用カメラシステムを学校側に要請してみたのですが、今回だけでは用意はできないと断られてしまいました。
ですがとある一校生のコネによりネットテレビ局のカルネットの協力を得られることになりました。
なおスポンサーは北山家がバックの新興CADメーカー、小通連を発売した所です。
スポンサー側の条件は小通連を使用して欲しい事ですが、レオ先輩が使用されるのでこの問題はクリアーしています。
ただカルネットからは1試合だけではなく複数試合をしてほしいと要望が有ります。
メインの試合があっさり終わり、俗に言う尺が足りなくなる事を危惧しているみたいですね。
そしてこれが問題になっています。
モノリス自体は九校戦委員会から借りれます、ただし在校生の仕様は禁止されてしまいました。
一部の学校にだけ貸し出すのは公平性に問題があるとの事です。
ちなみに卒業生は対象外だそうです、本音は夏の九校戦への影響を心配しているだけだと思われます。
そこで卒業生の方に打診しましたが、クラブ所属の方々は対外試合はNGとの事でした。
それ以外の方は今から準備しての試合は自信が無い様で、色良い返事は得られませんでした。
それに無理にお願いしても尺になる試合ができるとは限りませんからね。
ですからカメラシステムを別にどうにかするか、何とか見栄えがする対戦選手を見つける必要があります。」
ここで三姉妹は考え込んでしまう。
摩利と慶子は頷き合い慶子が代表して言った。
「その事で提案が有るんだ。『男子』は在校生も卒業生も無理だって事だろう?
だったらそれ以外、つまり『女子』がやれば良いのさ。」
「ですがそれでカルネットの要望を満たせるでしょうか?」と泉美。
「その点も考えてあるよ、彼の妹さんと真由美が対戦すればいい。
視聴率UPの三大Bの内のビューティーだ、確実に試合内容に関係なく尺は取れるさ。」
「……確かにそうですわ。」一つ手を打ち感心した様に泉美が言った。
「ちょ、ちょっと待ってよ、私があの一校史上最強と言われる深雪さんと戦うなんて…
無理、無理よ、無理がありすぎるわよ。」横に首を振り拒絶する真由美。
「じゃあハンデとして私が彼女に付くよ。
魔法力が無いからちょうど良いだろう。」と慶子。
「でも…」
「じゃあおまけに彼のサポートを付けるのはどうだい?」と慶子。
「ですが彼自身の試合も有るんですが。」と泉美。
「流石に全面サポートはそちらに有利すぎるだろう。
作戦を考えさせるのは無しで、指定された魔法だけCADにインストールさせるならどうだい。
前回も三人の調整を半日で終わらせたんだから、彼なら大して負担じゃないだろう。」と慶子。
考え込む真由美、そこへ摩利が口を挟んだ。
「考えが有ると言うから連れて来たんだが、なるほどなぁ。
それは面白そうだ、私も参加したい、いやさせろ、絶対対戦したいぞ!!
真由美、勝負だ。」
「えーーー」
そしてこの後、その話を聞いたモノリスオタク女子とその親友が参戦する事になるのだった。