絶望の国の希望の艦娘たち   作:倉木学人

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*没ネタ2 深海棲艦と大国アメリカ*

夕張「研究といえば、アメリカ。一度は行ってみたいなー」

陸奥「どうして、研究といえばアメリカなのかしら?」

夕張「現在の研究方法の主流がアメリカ式らしい、からですね」

陸奥「ふーん。でも、今、アメリカに行くのは大変なんじゃない?」

夕張「そーですよ。今やアメリカ近海は、深海棲艦のすくつ。私たちでも迂闊に近寄れませんし。あっちの艦娘たちも苦労しているみたいです」

陸奥「(すくつ?) 国交回復はまだまだ先でしょうね」

夕張「そうだ。ダメコンを論者積みして、突撃。これだ」

陸奥「それでも、途中まで持つか怪しいのが悲しいわね」



12.Dreams Are More Precious ④

昭にとって、夕張の気持ちはわからんでもない。

誰だって、自分の好きなものを人に見せびらかし、共有したいのだ。

それが夕張にとって、研究なのだろう。

 

「でもさ。俺にどうしろと」

 

悲しいかな、誰もが研究に興味がある訳ではないのだ。

少なくとも、昭は興味がない。

 

「ただ、うん。御免なさい。聞いてほしいだけですよ。駄目ですかね」

「いいさ。俺でよければ」

「ありがとうございます」

 

そういえば、夕張がゲームをしている所を見ないのは何故だろう。

誘ってもしてくれない。

長月や青葉は付き合ってくれるのに。

 

夕張に嫌いかと聞いても、そういう訳ではない、とだけしか言わない。

ゲームの話でもできれば、少しは明るくできたのだろうが。

 

「研究って、時々よく解らなくなるんです。やっぱり博士でも何でもない、艦娘じゃ駄目なのでしょうか」

 

夕張は調子を下げ、ぽつぽつ話し続ける。

 

「ここに来る学者さんたちは、答えを求めていないと思うのですよ。ただ、自分たちが研究したいだけなんじゃないかって」

 

夕張は、研究者を職人のような人間だと思ってた。

頑固で、黙々と、自分の信念を貫き、そして、問題の答えを常に持っているような人間だと。

 

「だけど、彼らは答えを持っていなかったんです。そして、理解しようとしても、問題を解決しようとしていない。いえ、皆、人類のために研究しているって言ってはいるんですが」

 

実際はどうか。

冷静で、議論を好み、大義名分を持ち、そして、艦娘の問題の答えを持っていなかった。

夕張は彼らがあまり好きではない。

 

「今の私は彼らの、研究のための都合のよい助手みたいなものなんですよ」

 

夕張は自身が研究者未満だということを知っている。

自身は艦娘であり、どこまでも艦であり、兵士にして兵器なのだ。

おまけに夕張という艦も、彼女が敬愛する平賀譲も、既に過去の存在なのだ。

つまり、彼らとは住んでいる世界が違うのだ。

彼らは本質的に学徒であり、現代と共に生きている存在なのだ。

 

「私が要らないくらい平和になったら。また大学に行って、研究を一から学んでみたいものです」

 

だからこそ、彼らと同じになりたい、とも思ってしまう。

思い出すのは、夕張の艦娘の基となった少女の記憶の一つ。

理系に自らの活路を見出し、チェック柄の男に囲まれた大学生活。

 

そして、夕張になってから見た、研究者が主役の探偵小説。

それが夕張のささやかな将来の夢を支えている。

 

「まあ、大学は楽しいしね。俺も、もう一度、戻れたらとは思うね」

「そうですか」

 

昭も、また、大学に戻りたいと思う。

例え学ぶ必要が無くとも、将来が無くとも、あの場所は希望に満ちていたのだと思っている。

何故ならあの場所は、同じ課題を持ち、同じ絶望を持った友人が沢山いたのだから。

 

「行ってみます? 私と一緒に。艦の工学でも学びに行きません?」

「艦のことなら、少しは解るようになったし、それもいいかもね」

 

昭が思うに、艦娘の将来は、明るくないのかもしれない。

戦いの果てで負け、海の底で寝ることになるのかもしれない。

それでも、自分と同じ仲間が先にいるのだろう。

 

「ありがと」

「ん。こっちもありがと」

 

陸奥としての感覚が疼く。

戦いの中で果てることに思いがある。

陸奥の船体はあちこちに散らばり、一部はここにある。

 

自分は、仲間に成れるだろうか。

 

 

 

*絶望の国の希望の艦娘たち 12.Dreams Are More Precious ④*

 

 

 

 

「でも、大学はまだ当分先のことね。私が解体されても、それを叶えるにはまだ早いわ」

 

例え、夕張が解体されても、夕張を辞めた少女は鎮守府に残るだろう。

他の皆が戦っているのに自分だけのうのうと、大学という遊びの場に行くことは有り得ない。

艦娘たちはそれで納得するだろう。

 

「建造も、だいぶ研究が進んできているけど問題ばかりだもの。そろそろ一般に情報公開する時が、来ているんだけど」

「へぇ」

 

夕張はなんとも言えない、困った顔をしている。

なんなのだろうか。

 

「だから、これは、練習なのよ。うん」

 

そうして夕張は妖精さんの工房へと歩き出し、その入り口で中を指さす。

指先には、遠巻きながら人が見える。

 

金属の板の上に、銀髪の女性が寝かされていた。

驚くことに彼女は病院服ではなく、おそらく艦娘らしい服を着ていた。

 

「彼女は、水上機母艦、千歳ね」

 

昭は話が掴めないので、とりあえず話を続けさせる。

 

「彼女は厳密には建造艦じゃないの」

 

艦娘は、建造以外にも生まれる方法がある。

始まりの艦娘である駆逐艦吹雪も、あるきっかけで生まれたのだ。

 

「私たちは皆、建造から出来るって、思われているけど、本当は違うのよね。世間じゃ全部、建造ってことになっているけどね。彼女は、妖精さんの神隠しの犠牲者よ」

 

それを聞いて昭は顔をしかめる。

 

「妖精さんの神隠しって。どう考えてもヤバい感じしかしないんだが。俺が知っていいのか」

 

その手の話を昭は好まないと言っているのだが。

 

「神隠し自体は、どうってことないわ。一応、艦娘の中では共通認識だし。ただ、区別されていることだから、知ってほしいの。外に漏らすのは不味いけど」

 

共通認識だということで、昭は素直に聞くことにする。

 

「艦娘が出た最初らへんの頃、拉致被害ってニュースにならなかった?」

「あったな」

 

テレビで見たし、高校でも話題になった。

某国の仕業だとか、結構好き勝手に噂されていた。

 

「ある日、突然娘が何者かに、いつの間にか浚われる。これは妖精さんのせいだったのよ」

 

実際はこんなのだったが。

昭が納得できるのは、妖精さんの業故か。

 

「解ったのは、その人が失踪する時期と艦娘が突然現れる時期が一致すること。そして、艦娘の記憶をよーく辿らせれば、失踪した本人だって、ね」

 

昭は話を自分の中で飲み込もうとするが、いまひとつ腑に落ちない。

 

「そんな話を聞いたのは始めてだよ」

 

今に至るまで、噂もマスメディアも、そんな話は一切していない。

たぶん、軍関係だろうから秘密保護法でその秘密は守られているのだろう。

ただ、隠す必要があるのだろうと、疑問に思ってしまう。

 

しかし、建造、か。

なぜ、妖精さんに連れ去られるのは神隠しで、自分たちは建造なのだろう。

 

「今からがホントの、本当の本題。建造が、提督の指示で行われているって知ったら、怒る?」

 

艦娘は自然発生するが、建造はそれでも行われている。

理由は単純で、自然発生では数が圧倒的に足りないのだ。

だから艦娘は建造される。

 

「提督が? そうか。そうなのか」

 

例え、それで妖精さんの犠牲者が増えようとも、仕方が無いのだ。

艦娘が足りないなら、今度は深海棲艦の犠牲者が増えることになるのだから。

「怒っていいのよ?」

 

昭の反応は、薄味だ。

夕張はそこそこ昭を見てきたが、負の感情を表すことがないように見える。

 

「思うところはあるけど。怒っていいのかわかんなくてさ。何で、自分がとは思うけど」

 

昭は苦笑する。

艦娘が建造される理由を察することができたから。

 

自分じゃなければ良かったのに、と思う程度には昭も勝手ではある。

だが、それを口にすることはない。

誰だって、艦娘に選ばれたいとは思わないだろうから。

 

「建造で選ばれる人間の基準は、よく解っていないわ。今回は特にね。何で、昭さんが、男性が選ばれたのか。謎よね」

 

男の自分が選ばれるのは本当に想定外だった。

いつだって世の中はこんなはずじゃないことばっかりだ。

 

「殆んどランダムっぽいのよね。建造で選ばれる人間の基準って。でも、建造の基となる人間を決めることは、できるのかもしれない。今、それに向けての実験を計画中ね」

 

実験内容はこうだ。

艦娘になってもいいという人を集め、妖精さんに建造艦として使って欲しいと頼むだけ。

今までこういうことはやってこなかったので、できるかどうは不明である。

しかし、やってみる価値はあるはずだ。

 

「これが成功すれば、少なくとも、建造で人々が苦しむことはなくなる、と思う。これからの建造艦は、恐らく、希望者を募って、という形になるのでしょうね」

 

自分から進んで艦娘になりたいという人はいないだろう。

だが、国を守るため、という大義名分を掲げ、募集すればどうだろうか。

国防軍に入る人間が国防を掲げている以上、それなりに人が集まるだろう。

 

「私には、それがいいことなのかはよく解らないのだけど。まあ、室井提督は喜ぶかもね」

 

戦争はやりたい人がやるべきだと、室井提督は言った。

この実験は彼の理念に基づき、他の提督の間によって作られた計画の一環である。

 

「ただ、問題は、提督達が建造を行っていることを公表しようとしているの」

「あーね」

 

建造は秘匿すべき、という考えは昭にもわかる。

 

軍の指示で若者を拉致して戦場に送る。

現代日本の価値において、限りなくアウトである。

こんなの表沙汰にしたくないだろう。

 

しかも、それでも建造をせずにはいられないのだろう。

そうでもしなければ、この国は終わってしまうのだから。

 

「そりゃあ、まあ。私たちは、尾崎提督も憲兵がいないからって色々やってきたけども。それでも、お国のためと思って。いや、違う。何だろう」

 

国を守るためならなんだってする、という単語を思い浮かべる。

例え今の人間に憎まれても未来を守る、とは何処の漫画の言葉だったか。

 

「だから、その。悪いことをしたら、責任を取って、辞めなきゃいけないんでしょ。テレビの会見みたいに」

 

夕張はバツが悪そうだ。

 

「私が解体されるなら、まだいい。でも、尾崎提督が辞めるのはおかしいのよ。あの人は、私たちに必要なの」

 

夕張にとって、尾崎提督は希望なのだ。

自身は兵器で、兵士なのだ。

尾崎提督という上司をここで失うわけにはいかない。

 

「どうしたらいいと思う? 昭さん」

 

昭は頷き、考える素振りを見せる。

 

「俺は、正直そういうのが解らんがね。まだ、社会に出ていないガキな訳だし。社会のことは、特に上司のこととかはよく解らん」

 

正直、よく分からないというのは嘘になる。

いつだって社会はルールと上下左右の関係と空気があって、その中で何より求められるのは仲間なのだ。

そこは昭が知る限り、小・中・高・大学であまり変わらなかった。

そもそも、学校というのが社会の一形態であるのだから。

 

「ただ、陸奥としてはどうしたらいいか知っている」

 

夕張に微笑んでみせる。

 

「もっと、周りの人間を頼りなさいな」

 

夕張は顔をしかめる。

 

「でも、長月は、賛同してくれませんでした」

「長月は是非とも仲間に入れたいわね。あと、他にも尾崎提督の娘はいるでしょ? 同じような考えの娘が他にいないと?」

 

提督ごとに、所属する艦娘の特徴はある。

これはそもそも配属の方法によるものだ。

 

成り立ての艦娘は兼正提督の元に送られる。

そうして上手くいけばそのままで、上手くいかなければ室井か尾崎の提督の元に送られる。

 

「たぶん、いるでしょうね。ですけど、私」

 

夕張はあまり口が上手いという自覚はない。

おまけに、他の艦娘との繋がりは薄いのだ。

 

「私でよかったら、口添えするわよ。無論、長月の説得もね」

 

自分ではできない。

でも、他人ならできるのかもしれない。

夕張に少し、希望が見えたような気がした。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

「どうなるかしらね。無駄になるかもしれないけど」

 

相談してみたら、とは言ってみたが、限界はある。

“いろいろやった”が、軍規に触れたらアウトだ。

夕張も何かを抱えているようではある。

たとえば、トラウマなら、それを簡単に克服できるだろうか。

 

陸奥自身だって怖いものは怖いのだ。

第三砲塔の爆発も、それに類するものも、もう駄目なのだ。

USJにバックドラフトとかいうアトラクションがあったが、もうアレに入ることはできないだろう。

姉の前だって、みっともなく泣き出す自信がある。

怖いものは、克服できないからこそ怖いのだ。

 

 

でも、誰かがなんとかしてくれる、かもしれないと期待してしまう。

バカバカしいとは思っている。

 

この世に神はいない。

でも、人はいるのだ。

人に縋ろうとするのは、間違っていないはずだ。

 

**

 

私がやっていることは研究とはいえないんだって。

データを取ったりするだけなら、それは調査なんだって。

でも、何が研究かって聞いても、彼らはそれらを知らないのよ。

それっておかしいよね。

 

私は、艦娘のデータが知って、みんなの役に立てたいのだけどね。

結局、私や彼らがデータを見ても、何も変わらないんだって。

嫌になっちゃう。

 

 

 




次回は二週間後、あるいは、来月です。
たぶん、来月になるかと。


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