プロットと終わりは決めています。
が、どこまで遊んでいいか、悩ましいものです。
2016/08/27 ルビを修正
2016/10/01 飲み物を変更
2016/11/13 よくよく見たら直ってなかったのと、細かい所を変更。
「どうしたものかね」
夜、ベッドの上で寝っ転がりながら昭は独り
といっても、もう、どうすることもできないのだが。
昭にとって、独り言にはあまり縁のあるものではない。
だが、この時ばかりはどうしても耐えきれない。
昭の人生の中で何度か味わったことのある感覚。
親たちが離婚届を提出した瞬間。
3年、2アウトランナー無しの3点差、自分のはるか後の他人の打席。
まさしく詰み、というわけだ。
自分が艦娘となるのは確定事項だろう。
とはいえ、まったく何もしないのは論外だ。
武藤昭の人生は詰んだが、まだ終わっていないのだから。
*絶望の国の希望の艦娘たち 4.Black Or White ④*
「眠れん」
暫く考え事を続けていたが、一向に眠れない。
考え事をしていれば、眠れるかと思ったが。
やはり眠りすぎだし、心も体も思ったほど疲れていない。
これで寝れ、というのも酷である。
携帯で遊ぶかと思ったが、手元に携帯が無いのを思い出す。
これでは、ゲームで時間を潰すことも、連絡をとることもできない。
携帯が無いのは困る、不便だ。
起きる前に有無を言わさず没収されてしまったのが納得いかない。
無理もない話ではあるのだが。
**
「悪いけど、外部との通信は控えてくれるかしら」
「解るけど」
「本当に解っているのかしら? ほら」
そういって夕張はタブレットを昭に見せる。
新聞の見出しを開いているようだ。
男子大学生が艦娘に、という記事だ。
間違いなく自分のことだった。
ご丁寧に名前まで載っている。
「仕事が早いですねぇ」
「全く皆、話題に飢えすぎよね。嫌になっちゃう」
青葉もあきれている様だ。
夕張はため息をついた。
「家族とも連絡を取ってはいけないと?」
「そういうわけではないけど。どうしても規制しないといけなくて、携帯は没収させてもらったわ」
とはいっても、昭もここで引き下がるわけにはいかない。
人目がナンボのモンじゃい。
親とも友人たちとも連絡できないのはあまりにも辛いのだ。
せめて携帯のデータだけでも確保しなければ。
「何とかして、携帯は一回だけでも返してくれない? ロムを抜けば大丈夫でしょ」
「携帯は親御さんに返しているわよ。悪いけど、親御さんに持ってきてもらって」
昭は落胆する。
それは不味いだろう。
「もってきてもらうために伝えたいのだけど。どうすればいいのさ」
施設を一通りみたが、電話の類は見当たらなかった。
夕張自身はタブレットを持っているが、メール・通話機能はない。
施設には軍や艦娘に繋がる外線しかない。
つまり、昭には外部とのまともな通信手段がない。
これでは規制でなく禁止だろう。
したいときはどうすればいいのだ。
規制は大事だが、やりすぎはほんとどうかと思う。
そう伝えると、夕張はゆっくり頷いた。
「ごめんなさい。私から上と親御さんに伝えておくわ」
夕張も迂闊だった。
普段の建造は携帯を没収しないのだが。
この面倒くさい時期に、いらん情報が外に漏れるのを恐れた結果がこれである。
見事に対処を間違えてしまった。
**
結局、夕張が親との面会を手続きしてくれることになった。
日付は未定だが。
誰かと連絡できることに、安心できた。
もしかして、何もアクションを起こさなかったら、誰とも連絡を取れず、寂しく艦娘になっていたのだろうか。
用心しないと馬鹿を見る羽目になる。
まあ、今回は上手くやれたので良かった。
これからも上手に催促していくとしよう。
とはいえ、文明の利器を手放すことになったのは痛い。
通信機能ははく奪されようとも、早く返してもらわなければ。
友人たちの連絡先も、大切な思い出も、全部あの中に入っていたのだから。
今のところ使えそうな連絡手段は、夕張のタブレットだろう。
本人曰く軍用で、色々と通信アプリの導入に規制がかかっているらしいが、何かしらの抜け道はありそうだ。
何かできそうだし、最悪、話のネタにしてこれから他の交渉に使ってみよう。
周りを見渡す。
月は綺麗で、加古はグースカ寝ている。
加古の寝相は悪いようで、おみ足が見えている。
話しかけても会話は期待はできないだろう。
昭は、夜の病院を探検することに決めた。
そうしてブラブラしていると、第一目標を発見した。
「ん? まだ起きているのか。良い子は早めに寝るんだな」
そう、長月である。
皆から頼られている小さな軍人は、話し相手としても適任だろう。
「無理だって。あんだけ寝たんだし」
建造艦が夜中に起きて、というより若者が夜中に活動するのは当然だ。
早く寝ろというのは建前だったりするので、長月もあまり気にしていない。
「まあいい。で、なんだ。私に用か」
「まあね。昼間、青葉や加古たちと兄弟の話をしてさ」
長月がまず思いつくのは、自分たち睦月型駆逐艦。
艦娘としては現状、卯月、水無月、夕月がいないが、自慢の姉妹たちだ。
「兄弟かぁー。そうだな、兄弟はいいものだ」
そして、同じ艦の中の家族たち、家族としての兄弟たち、長月になる前の家族たちの微かな記憶。
辛いことや苦しいことも沢山あったが、どれもこれも美しくも悲しい。
「そうかそうか。では、立ち話をするなら、少し場所を動かそう」
移動しながらさっきの話をする。
「でだ、兄弟と仲が良いのか」
「まあな。親は離婚したけど、姉さんとは未だに繋がりがあってね」
「家族構成については見て知っている。綺麗な姉だったな」
「ま、ポンコツだけどね。でも自慢の姉だよ」
そうして移動した先は、病院の体育館のトレーニングルーム。
サンドバックやランニングマシン、運動マットと簡単な運動具が置いてある。
ちなみに、施設内に自販機はここの傍だけにある。
「何か飲むか」
「ん、ミルクティーで」
長月はカエルのガマ口を取り出し、自販機に500円玉を入れ、紙パックの緑茶とミルクティーを選ぶ。
昭にミルクティーを手渡ししてから、自身の飲み物をとる。
二人が飲み物を口にしてから、長月は再び話しかけた。
「そういえば、今の内に聞いておきたいことはないか」
もう一度問いかけてみる。
「夕張も一回聞いたが。ひとまず落ち着いて、思う所もあるだろう。私に聞いてみたいことはないか。私も応えられる範囲で答えよう」
昭も色々言いたいことはある。
さて、どれをどう切り出そうか。
「では、質問を変えるか。私たちの対応に満足しているか」
「うん?」
満足しているかと言われれば、ぶっちゃけ不満だ。
丁寧な対応をしているが、隔離病人のようで気に食わない。
何より、外部との接触がとりにくいのがそれだ。
「私たちは君たちを保護するために、全力を尽くすつもりでいる。よりよい生活のために、改善してほしい所があったら言って欲しい」
この質問は答えやすい。
長月は、ここら辺が上手い。
相手が最初から譲歩をしているので、こちらからの提案をしやすい。
「やっぱり携帯がないのが辛いなあ」
「通信機か」
長月は苦笑する。
頭に夕張のワタワタした顔を思い浮かぶ。
「まあ、夕張を悪く言わないでやってくれ。アレも上からの命令に従っただけだ」
長月としても、この状況はあまり良くないと感じている。
外部からの眼が怖いからといって、外部への通信手段を絶ってしまうのはいかがなものか。
もっと我々は上手く立ち回れない物か。
「全く、いつの世も自粛、自粛とままならぬものだな」
「全くだ」
とはいえ、長月は提督を含め、上層部が無能ではないことを知っている。
酷く批判をするつもりはない。
「まあ、通信が大事なのはわかる。電気技術の遅れで我々も、大分痛い目にあってきた。今後、この病院にも公衆電話を設置することになるだろうな」
「そうしてくれると皆助かるさ」
恐らく公衆電話を設置しても、たいして変わらないのかもしれないが。
お金を没収されてしまえば、それでおしまいである。
だが、少しはマシにはなるだろうか。
「やっぱ、もっと皆と繋がりたいしさ。俺もやり残したことが一杯でさ」
長月の顔が曇る。
「そうだな」
空気が濁る。
こうなるのはわかっていた。
だが、昭としてはそこだけは譲れない。
「建造は我々の責任だ。我々は全力を尽くすつもりだ」
長月は、建造に納得している。
しているが、だからといって建造艦をないがしろに扱うつもりはない。
建造艦は、人として最善の扱いを受けるべきであろう。
長月は建造艦を、全力をもって看取るべきだと考えている。
少なくとも、長月は兼正提督から仕事を自分から引き受けたのだから。
「皆と連絡もとれると」
「もちろん。要望にはなるべく応えるつもりだよ。まず、提督とかけあってからになるが」
昭としては、あまり信用できるものではない。
ただでさえ、軍部は情報を秘匿している。
「ままならんものだが。どうか、この現実を受け入れて欲しい」
軍が信用されていないことは、長月も解っている。
随分、我々に対する評価は、変わってしまったものだ。
昔はもっと格好良いものだったはずなのだが。
これも時代というものか。
「艦娘になることだって、事故のようなものなんだろう」
「ああ」
昭としては艦娘になることに理解も納得もしていないが、受け入れてはいるのだ。
少なくとも彼自身は。
「だから、残された人生を、悔いのないようにしなくちゃな。そうして生きた後は、まあ、未来ある者のためにでも生きようかね」
長月は、未だに自身に宿る歴史に思いを馳せる。
かつて、お国のために、と身を尽くした日々。
あれは、本音だったのか、建て前だったのか。
両方にも思えるが、まあ、これの理解はされまい。
しかし、昭の言葉は、なんとも言えない言葉だ。
「未来ある者のために、か。今の子は、そんな言葉を使うのか」
長月に昭の気持ちは解る由もない。
だがそれなりに青年は、賢明で前向きのようだ。
不都合な真実を知っても絶望はしないだろう。
「隠しても無駄だろうから言っておくよ。艦娘になると、それまでの記憶は思い出しにくく成る。そうなったら、もう、基には戻れない。いや、もう既に手遅れだが」
人間は容易く忘れる。
エビングハウスによると、人間の脳は忘れるようになっているという。
だから、艦の記憶を流し込まれ、昔のことを思い出せなくなるのも仕方のないことなのだろう。
「残り15日だ。君が、完全に艦娘になるまでな。それまでにやることを済ませておくがいい」
勉強して忘れないように工夫はできるが、それでも気休めにしかならない。
結局はせいぜい、そんなことがあったな程度になってしまう。
妖精さんは決して人間にとって都合のよい存在ではないのだ。
彼に与えられた、建造艦としてはかなり長い時間。
昭が彼としての余生をどのように過ごすのか。
長月としては、自分の時より遥かに長い時間が悦ばしくあった。
どうせ運命は変わらない。
あの戦争が初めから負けが決定していたように、この青年が艦娘になることは決定している。
ならば、絶望でなく、希望を見てほしいものだ。
絶望したまま人を死なせてたまるものか。
**
艦娘は神秘である。
その正体は誰にもわからない。
誰も艦娘を理解することができない
誰も艦娘であることを止められない。
だからこそ我々は艦娘に挑むのかもしれない。
解らないことを解らないままでもいい。
ただ、だからといって、ないがしろにするつもりはない。
我々にはそういう仕事が残っている。
できないことがあるのなら、やるべきことを済ませるだけで。
次回は9月1日から。
①~④までを投稿予定です。