絶望の国の希望の艦娘たち   作:倉木学人

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たまにこの作品、自分でも書いてて嫌になってきます。

自分の理想とはいったい…うごご、ってなる。

上手にギャグを書ける人が羨ましい。


6.Close To You ②

呉鎮守府の一角に、夕張のプライベートな自室がある。

建造ドッグにも夕張の工房があるが、こっちは極めて私用なことに用いている。

 

といっても、最近は両方の部屋の物が混ざって、どっちがどっちか解らないようになっているのだが。

まあ、そこはいいだろう。

加古がドッグを去ったあと、夕張はテレビを見てゆっくりしていたのだ。

 

すると携帯の着信音1が鳴った。

見慣れぬ番号だ。

 

「はいはい」

 

夕張かどうかを聞かれる。

 

「え、はあ。私ですが」

 

なんやかんや話をされるが、左派の御誘いだった。

 

「そういうのは相手の立場を見てから言ってください。では、失礼します」

 

色々と突っ込みどころはあったのだが。

まあ、うん。

 

「どうして、私の電話番号がわかったのかしら」

 

そこは気になる所である。

電話番号は無料サイトの会員登録ぐらいにしか使ってないはずだが。

 

考えていると、ノックの音が聞こえる。

誰だろう。

尾崎提督なら、事前に連絡を取るだろうし。

 

「どうぞー」

「お邪魔しまーす」

 

青葉だった。

何時ものように元気を前面に出している。

 

「どうしたの?」

 

どうしてここがわかった? とは言わないが、何用だろうか。

 

「遊びに来ました」

「帰って。忙しいのよ」

 

青葉は、困ったように笑う。

リラックスに忙しいんですね、わかります。

 

「や。冗談ですよ。昭さんのことで報告したくて来ました」

「ふぅん。で、あの後どうだった?」

 

夕張として、二人に何が起きたかは気になるところである。

ただ、青春の一ページを見せられるのは勘弁だったが。

 

「あの二人はキャッチボールをしていたのですけど。その。その中で突然、加古さんが取り乱してしまって」

 

夕張はそれを聞いて、納得したようだった。

 

「へえ。何でそのタイミングで取り乱したのかしら」

「あんまり驚かないんですね」

 

青葉としては、夕張がもっと驚くかと思っていたのだが。

 

「まあ、伊達に建造艦を見てないわよ。明るく振る舞っていたけど、加古は恐らく我慢の限界だったのでしょうよ」

 

夕張も、合間合間であるが、加古のことを見ていたつもりだ。

加古は昭が来ると伝えられる前と伝えられた後で、大分態度が違っていたのだ。

 

「武藤さんと青葉が来るまで、窮屈がっていたのよ。武藤さんの前の建造艦とは仲が良くかったからね」

 

加古が仲良くできない相手とは。

青葉は、加古の暗かった様子を知らないので、何ともいえない。

 

「そうなんですか。まあ、そしたら加古さんが、自力で自分を奮い立たせていたみたいで」

「奮い立った?」

「自力で立ち上がったんです」

 

それを聞くと、夕張は感心した。

そんな健気さが加古にあったということは、夕張にも知らなかった。

駆逐艦を護衛につけても、元気にならなかったのに。

 

「それは凄いわね」

「そうですよね」

「そして私は分かれた後に、思う所があって、昭さんと加古さんについて話をしていたのですよ」

 

加古がここを出てから、青葉は二人で話をしていたのか。

何を二人で話していたのだろうか。

 

「そしたら彼は、自分もああ成るんだろうし、ああ在るべきだって言ってました」

「どういうこと?」

「私には理解できませんが。建造を理解して、それでも前向きでいようとしていましたね」

 

建造のプロセス。

理解できないまま、理解したくないまま艦娘に成る者も多いが、昭は理解できていた。

そして、受け入れているようだ。

 

「そう。良かったじゃない」

 

夕張としては嬉しい限りだ。

戦艦の弩力で暴れる、なんてことがないようで本当に良かったと思う。

 

「これで本当に良いのでしょうか」

 

青葉は建造について反対である。

建造のプロセスを理解したくないし、受け入れたくない。

建造について不満を漏らさずにはいられない。

 

「知らないわよ」

 

そして、夕張は当然の反応を返す。

夕張は普通の艦娘より、建造について理解もあるし、興味もある。

 

だからこそ、建造を肯定している。

考えを変えるつもりは今のところない。

 

このことでもう話すことは無いと、気まずい沈黙が支配する。

 

「それはそうと、青葉。貴女も室井提督に言ってくれないかしら」

「はい?」

「室井提督、疲れてるでしょ。休ませなさいよ」

 

室井提督が疲れていると言われても、青葉にはそう見えないのだが。

 

「そうなんでしょうかねぇ。言われてみれば、そうですけどー」

 

心当たりはある。

どうやら室井提督は“まとも”ではないと判断されているようである。

青葉たちにとっては、あれほど“まとも”な人間も中々いないのだが。

 

ちなみに、室井提督が提督に向いていないというなら同意見である。

室井提督がいなくても鎮守府は回るだろう。

 

「尾崎提督と兼正提督には私たちから言っているし。兼正提督が納得しているから。いいでしょ?」

「そうです、かー。そうですね」

 

とはいえ提督を失う訳ではないのなら、許容できる。

彼が提督であるというだけで、青葉たちは救われてきたのだから。

温泉旅行でも行って休んでほしい。

 

「しかし、この時期に貴女を派遣したのも謎なのよねぇ。室井提督から本当に何も言われてないの?」

 

かつて夕張から既に一回された質問である。

 

「ですから、護衛についての仕事の説明と、建造を見つめて理解して来い、とだけしか言われてませんよ」

 

室井提督は青葉たちのことを理解している。

が、その逆はできていなかったりする。

 

「それだけ?」

「それだけですけど」

 

青葉たちにとっても、室井提督は結構な謎であったりする。

 

「室井提督は何を考えているのかしら」

 

 

 

*絶望の国の希望の艦娘たち 6.Close To You ②*

 

 

 

室井提督が夕張の元を訪れる前の時。

呉鎮守府での話。

 

「室井のところから、護衛が来ることになった」

「はあ」

 

夕張は尾崎提督と話をしていた。

 

「正直、いらんとは思うが。あー、仲良くしてやれ」

「誰なんです? その護衛の艦って」

 

室井提督は整った優男であるが、尾崎提督は無精髭のオッサンである。

上層部からの評価として、兼正、室井、尾崎の三提督の中で、尾崎は一番の下っ端と見られている。

 

「重巡青葉だよ。見たことあるだろ?」

「青葉、ですか」

 

とはいえ、艦娘が現れた初期の、激戦の期間から軍に残っている男だ。

多くの犠牲を出しながらも、重要な作戦を成功に導いてきた点で彼は提督である。

 

艦娘たちからは多少怖がられたり舐められているが、信頼は厚い。

三提督の中では間違いなく、一番“できる”提督である。

 

「まあ、そんな嫌そうな顔をすんなよ。アッチにも気をつけるよう言っておくから、仲良くしろ」

「まあ、提督のご命令とあれば」

 

ところで、平時の上司に求められる素質というのは何だろうか。

部下に恵まれるカリスマだろうか。

自分より上の上司から愛されることだろうか。

この提督はそれらを持っていない。

 

とはいえ、尾崎提督は無能ではないのだ。

が、完璧でもない。

能力を持っているが人望が無い人間であるが故に、一番苦労している提督である。

 

「ところで、アッチに何かあったんですか?」

「何がって、なんでだよ」

 

さて、会話をメインに戻していこう。

尾崎提督の呉鎮守府は、これまで散々建造をコントロールしようと躍起になってきた鎮守府である。

そして、現在建造ドッグが機能している唯一の鎮守府である。

 

当然、建造ノウハウは担当の夕張が一番持っている。

だからこそ夕張は思うのである。

 

「男性が艦娘になるからって、気にしすぎだと思うんですよ。それに武藤さんを直接見てみたいだなんて。何の意味があるのでしょうか?」

 

実のところ、尾崎提督も前半には室井提督に同感である。

尾崎提督は女性が艦娘になることに納得していただけに、男性が艦娘になることに驚いていた。

 

だが、後半には夕張に同感である。

悪いが、室井提督の艦が建造を見ても、何かが変わると思えないのだ。

青葉は多少勉強してから来るそうだが、さて。

 

それでもどこまで理解してから来るのやら。

 

「まあな。それについては俺も同感だが。アイツにとって、何か気に障ることだったのだろうよ」

 

何かまでは尾崎提督にもわからない。

室井提督とは長い付き合いだが、室井の建造の思い入れは理解できなかった。

ただ、アイツはそういう奴である、ということが確かである。

 

「何なんでしょう。室井提督って」

 

夕張の発言がトゲトゲしい。

夕張を人見知りする子であるとは思っているが、ちょっと嫌いすぎではなかろうか。

もっと柔軟に対応をして、人間関係を保って欲しい所だ。

 

「何だ。嫌いなのか」

 

夕張は躊躇いがちに答える。

 

「まあ」

 

尾崎提督はこの時、さすがに教育を間違えたかと思った。

かつて夕張は、兼正提督のところで人間・艦娘関係が上手くいかないでいた。

そこを尾崎提督は、スカウトしたのだ。

艤装のデータに興味を持っていたため、建造に関して一任させてみた。

 

結果、夕張は多大な功績を上げることになった。

しかし、彼女の中にくすぶっていた気持ちが悪化し、人格が歪んでしまったように思える。

 

「そうか。お前ならアイツを案外気に入ると思ったのだが」

「どういう意味ですかね。それ」

 

夕張は訝しんだ。

尾崎提督はそれを受け流す。

 

思うに本来夕張は、室井提督が面倒を見るべき艦娘であったのかもしれない。

だが、夕張は尾崎提督の艦娘である。

自分が責任をもって面倒を見るべきなのだろう。

 

室井提督についても、認識を正してやるべきだろう。

 

「まあ聞けよ。アイツは言って何だが、理想主義者だ。世間の目なんか気にせず、その先に破滅が待っていようとも、それでも人間や艦娘のために頑張れるのがアイツなのさ」

 

純粋で清い考えなのだろう。

そして、それに賛同するものがいる程度には、実績がある。

 

「よく解らないんですが、それっていいことなのでしょうか」

 

夕張には魅力的に思えない。

尾崎提督も、それがいいとはおもえない。

だが。

 

「本来はそうあるべきなんだろうさ」

 

尾崎提督は知っている。

夢や気合いで食っていくのは難しすぎる。

だが、夢や気合いがないと、やっていけないことも事実だということを。

 

「兼正提督が言うには、艦娘を扱っていくには、アイツみたいなのも必要、らしい」

 

艦娘は、ただの兵器以上のものを持っている。

科学の理解を超えている存在だ。

 

ただ解っているのは、提督を信じ、従っているという事だ。

 

 

彼女らを従えるためには、夢や希望が必要だ。

それを裏切り、“誤射”された提督を見たこともある。

 

「お前に与えてあげるべきだったのは結果でなく、理想だったのかもしれんな」

「でも、提督、私は」

 

軽巡洋艦夕張。

5500t級の火力を3000t級に収めようとした、ロマンの詰まった艦である。

ただ、夢を追い求め、妥協してきた部分も存在する艦である。

 

特に艦娘になってからは、それを噛みしめる日々だった。

艦娘として現れた極端な性能を、かつての上司、兼正提督は扱えなかったのだ。

だからこそ、夕張は孤立し、落ち込んだ。

 

尾崎提督としてはそんな夕張に、新しい価値を与えてやりたかったのだが。

 

「なあ。思えば、俺らは酷いことをしてきたんじゃないのか」

 

建造は非情で残虐な行為である。

多くの若者たちが人としての自由を失い、海へと飲まれていった。

 

この呉鎮守府は、そんな建造を何とか理解しようと努めてきた。

鎮守府初期の混乱の時期に、人権を踏みにじってきたこともある。

 

建造を率先して行ってきたこの鎮守府は、どんな報いを受けても仕方ないだろう。

 

「俺もお前も、それを自覚しないといけないんだよ。俺たちは恨まれているんだってさ」

 

実は、大したことはしていないのかもしれない。

 

言われたことをしただけだ。

全ては妖精さんがやったのだ。

どうせ誰も止められないのだ。

 

それでも、恨みを買うには十分なのである。

 

「だが、過程がどうであれ、常に結果が求められるのが俺たちなんだ。アイツの考え方は甘すぎるのも確かだ」

 

とはいえ、誰かがしなければいけない仕事なのだ。

艦娘はどうであれ、必要になってしまったのだから。

 

もう自分たちは引き返せないのだ。

消えない罪を背負ってしまった。

 

これも全て、自分たちが望んだことであった。

 

「兼正提督はアイツがお気に入りだからなあ。まったく。世の中上手くいかないことばっかりだ」

 

自分はいいことをしていない。

でも、自分は必要とされているのだ。

 

果たしてそう思っていいのだろうか。

いざとなった時に切り捨てられるのは、自分たちである。

 

「やっぱり、私は尾崎提督がいいです。私をちゃんと見てくれるのは、提督しかいないから」

 

夕張には何が何だかわからない。

提督とデータだけが、自分を支える頼みの綱なのだ。

 

夕張にはもう、選択肢は残っていない。

あとは自分の道を信じ、突き進むだけである。

 

「そう言ってもらえると、こっちとしても有りがたいがね」

 

夕張や尾崎提督はどうなるのか。

生きている限り、希望はあるのか。

あるいは、犯した罪は消えずに。絶望を生み出すのか。

 

答えは、誰も知らない。

何せ、そんなものを誰も、求めていないのだから。

 

 




次は明るい話を書いてます。

あと、夕張の話は9話辺りにまた書きます。

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