「俺、もっとこの世界にいたい」
「・・・え?」
2人の剣士と整合騎士、人界軍と暗黒界軍、そしてガブリエル・ミラーとPohとの長き戦いは1人の少年とその仲間達により終わりを告げ、
アンダーワールドと呼ばれる1つの世界には一時の平穏が訪れた。
まだ夜が明けぬ宵闇の中、アリスと呼ばれる少女は小さな村のはずれにひっそりと佇む教会で祈りを捧げていた。
叔父と呼び慕い、闇黒神ベクタに扮したガブリエルを相打ちまで追い込んだ人界最強の騎士ベルクーリ、
自らを師と崇め人界軍に向けていた攻撃を一身に受け散っていった騎士エルドリエ、
そして記憶なき幼き頃、
ーまだ私がアリス・ツーベルクという少女だった頃ー
連れ去られてしまった自分を取り戻す為に世界の掟に反旗を翻し戦ってくれたもう1人の英雄ユージオ、
死んでいったもの達はこれだけではない。
この戦いでは多くの血が流れ過ぎた。
今ではずいぶん笑顔を取り戻したキリトだが、世界を救った英雄も、友を失ってしまった喪失感と無力感で、半年間精神喪失状態に陥ってしまっていたのだ。
平穏を取り戻したとはいえ、世界に残った傷跡は大きく、惨たらしい。
大規模な術式の神聖力確保の為に大地は乾き、水は枯れ、食料も満足とは言えない。
だが、アリスは絶望していなかった。
きっとこの世界はもっと良い世界になる。
アリスはそんな確信を抱いていた。
それはとなりにいる一人の少年とその仲間達のおかげと言っても過言ではない。
キリトはわたしを呪縛から解き放ってくれた。
仲間達は暗黒界軍と戦い、そして敵であった暗黒界軍とともに、この世界を守ってくれた。
彼らには感謝してもしきれない。
そんな彼らに報いる為にも、世界の復興を成し遂げねばならない。
キリトもこの世界にしばらく留まり復興を支援してくれると言ってくれた。
どこまでこの少年はお人好しなのか・・
そう思いながらアリスは閉じていた碧眼を開き、教会の窓から見える空を見上げた。
全てを吸い込んでしまいそうな暗い空。
キラリと星が瞬いたように見えた。
不意にふふ、と笑みがこぼれた。
(おまえの心の中に光る一番星は、一体誰なのでしょうね)
なんてくだらない事を一瞬考え、アリスは彼の待つ自宅へと帰っていった。
復興の日は近い。
そして、
時は過ぎ。
1人の剣士がリアルワールドへ帰る前の日の夜、ベッドに腰掛ける私に
剣士キリトはこう言った。
「俺、もっとこの世界にいたい」
一瞬の沈黙
「・・・え?」
私は驚いた。そして憤った。キリトにではない。
不覚にもその言葉に喜んでしまった自分にだ。
彼はこの世界、アンダーワールドの住人ではない。
この世界のもっと外側、リアルワールドなる世界の人間なのだ。
リアルワールドには彼の家族、友人、そして唯一無二の恋人、アスナがいるはずだ。
この世界で暮らすということは、現実世界に別れを告げるということだ。
そんなことは許せなかった、許せるはずがなかった。
「おまえは外の世界の人間でしょう!リアルワールドへ帰りなさい!おまえのようなよそ者がいてもこの世界に混乱を招くだけです!」
本心ではなかった。心が悲鳴をあげている。
もっと一緒にいたい。彼を我が物にしたいという醜く汚い感情が胸を叩く。
今が戦闘中だったら、きっと心意のこもらぬこの斬撃(ことば)を見抜かれてしまうだろう。
私は必死に怒りをあらわにした。この感情に気づいてほしくはなかった。
「ありがとう。アリスはやっぱり優しいんだな」
「っ!」
見抜かれていた。どうして?どうしておまえは気づいてしまうのですか・・・
「な、なにを・・・」
「俺のことを気遣ってくれているんだろう?」
「なにをバカなことを言っているのです!私が優しい?おまえを気遣う?半年寝たきりで眼でも曇りましたか!?私は公理教会が整合騎士、アリス・シンセシス・・・っ!?」
ふと、目の前が黒く染められた。ふわりと夜空の香り。抱き締められている?そう身体が気づいたときにはもう、私の心は決壊していた。
「離しなさい!おまえは、おまえは外の世界の人間です、、!おまえのその言葉はっ!リアルワールドの人間達を裏切ることにっ、、なるんですよ?」
「ああ、わかってる。だから俺は俺の、、っ」
胸に淡い痛み。
「聞きたくないです!バカ!バカバカ大馬鹿者!おまえなんて!おまえなんて、、嫌いです、、だいっきらいです、、」
暴力による拒絶、原始的な他者への拒絶、だがどう見てもキリトの胸をポカポカと叩いているだけだ。これでは暴力というより、甘えている子供だ。
しばらく、キリトの胸を叩き続け、ようやくそのリズムが途切れ始めたころ、頭に優しい感触。
髪を撫でられる心地よさが私を眠りへと誘う。抱擁はどこまでも広がる夜空のように広く、優しく私を、包んで・・
「・・キリ・・・ト・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アリス?」
無防備に俺に身体を預ける少女に声をかけた。返事はない。
「最後まで話を聞いてもらいたかったんだけどなあ」
スースーと静かな寝息を立て眠る畏れ多い整合騎士サマに軽く悪態をついていると、
『・・やくん!桐ヶ谷くん!聞こえてるっスか?今結城さんと桐ヶ谷くんの状態を見に、、あれ、、お邪魔だったっスか?』
この世界の生みの親、ラースの比嘉タケルから通信が飛んできた。
「お疲れ様です比嘉さん。アスナもそこにいるんですか?お邪魔?」
『・・・キリトくん?なにしてるのかな?』
比嘉さんもアスナも様子がおかしい。一体どうしたというのか。
ようやくこの状況に合点がいった。
若い男女が同じ屋根の下同じ部屋のベッドにいる。勘違いされても仕方がないだろう。
『説明・・・してね?』
急激に体が冷えていくのがわかった。これも心意の力なのだろうか。
だが彼は何度となく死線をくぐり抜けた剣士なのだ。
ここは腕の見せどころだろう。
そして、世界を救った黒の剣士は、
「い、いや、、アスナ。これは、その、違うんだ!俺が寝たきりのときからアリスとは同じ部屋で寝ててっ、、」
思いっきり墓穴を掘った。
『へえーそうなんだぁ。半年間も一緒にねぇ』
「す、スミマセン!」
もうこうなってしまってはどうしようもない。
世界最強の黒の剣士も、血盟騎士団副団長兼未来のお嫁さんには敵わないのだ。
『・・もう、しょうがないなあキリトくんは。今回は許してあげる。あ、今回も、かな?』
そういって微笑む最愛の人。
「善処シマス・・・」
かれこれ出会ってから二年余り、彼女のほあんほあんした笑顔に救われたことは何度となくあった。今回もアンダーワールドにしばらく残る事を伝えたときも、いつもの笑顔で送り出してくれた。
「ごめんな。いつも俺のワガママで振り回しちゃって」
『ううん、いいの。だってキリトくんはいつだって誰かのために一生懸命なんだもん。わたしはそんなキリトくんを応援しようって決めたの。その誰かがいつも女の子なのがちょっと心配なんだけどね?』
俺が彼女に勝てることは一生なさそうだ。
「おっしゃる通りです・・。アスナ、いつもありがとな」
『どういたしまして!』
「なあ、あのこと、良かったのか?本当に」
『・・うん。だってキリトくんがそうしたいって決めたんでしょ?だったらわたしは背中を送り出すだけだよ!アリスさんにも伝えたの?』
「いや、伝えたけど伝えられなかったといいますか、それでこの状況になってしまったといいますか・・」
『そうなんだ。帰ったらじっくりとお話、聞かせてもらうからね?』
「ハイ。」
どう説明しようか迷っていた矢先に、
『お取り込み中のこと申し訳ないっスが、本件に入ってもいいっスか?』
横から助け舟がきた。
「あ、スミマセン比嘉さん。それでどうなりました?」
『はあ・・サービス残業中にとなりで夫婦喧嘩を見せられるこっちの気持ちも考えて欲しいっス。とまあ冗談はさておき、こっちの準備のほうはオーケーっスよ。いまのところフラクトライトも安定してるっス』
「ほんとに何から何まで本当にありがとうございます比嘉さん。」
『なーに、いいってことっスよ!ジブン達が心を込めて創った世界のためなら、たとえ火の中水の中、アサルトライフルの銃弾の中っス。正直うまくいくか不安っスけど』
「俺のフラクトライトにはアスナ達やロニエ達、そしてアイツの想いがギッシリ詰まってますから。きっと大丈夫ですよ」
そう、俺の心は一度壊れてしまった。だが、アスナ、スグ、シノン、そしてユージオが俺の心を蘇らせてくれたのだ。だからこそ、これ以上心配をかけるわけにはいかない。
『そうっスよね。桐ヶ谷くんなら、きっと大丈夫っス。じゃあジブンはこれで失礼するっス!時間倍率を10倍に戻しておくっスよ』
『おやすみキリトくん!』
「ああ、おやすみ・・っていうのも変な感じだな。そっちはまだ昼過ぎだろ?」
『うん!ここに来る前にしののんとご飯食べてきたの!しののんもこっちに来たがってたけど、どうしても外せない用事があるって帰っちゃった』
「そっか、そっち帰ったら話聞かせてくれよな」
『うん!じゃあ切るね!今度こそおやすみ!』
プツンという電子的な音の後、静寂が訪れた。
視線を窓の外に動かすと、もうずいぶん夜は深くなっている。結構話し込んでいたみたいだ。
「さて、アリスにもちゃんと説明しないとな」
「・・・なにをですか?」
「っ!」
思わぬ声に驚きながら腕の中を見ると、二つの宝石のような碧眼が、俺のことをじっと見つめていた。
「起きてたのか?」
「ええ。キリトがペコペコと謝るあたりで目が覚めました」
一番見られたくないところを見られていたようだ。
「そ、そうか。起こしちゃってごめんな」
「いえ、わたしの方こそ気づかないうちに眠ってしまいました。すみません。」
「いや、いいんだ。」
「ありがとうございます。・・・ところで、お前はいつまでわたしを抱きしめているつもりですか?」
それもそうだった。
アリスが寝てからもずっとこの体制のままだった。
「うわっごめん!」
あわてて両手を離したが、腕の中の少女が離れる気配はない。それどころか、少女の方から俺の背中に手を回してきた。
「・・まぁ今日はこのままでいることを許可しましょう」
予想外の返答
「・・ありがたき幸せ」
「ば、バカ!別におまえじゃなくても良かったのです!ここにおまえしかいなかったからそうしたまでのことです!」
「わかったよ」
そうして俺もまた、少女に身を預けるようにベッドに横になった
「本当にわかっているのですか・・?・・まあいいでしょう。ところで先ほどの話ですが」
「ん?ああ、じゃあいまのうちに話すよ。さっきの話の続きになるんだけど・・」
「はい、聞かせてください」
「俺は、俺のフラクトライト・コピーをこの世界に置いて行くよ」
「フラクトライト・コピー?」
聞き慣れない神聖語。
「そうだな。ようは俺の分身をこの世界に作るってことだ。」
「そんなことが可能なのですか!?」
「ああ。一応理論上は可能らしい。そんでリアルワールドにいる俺にも情報が届くようにフラクトライトをリンク・・じゃなくて接合?してもらおうと思ってる。」
「もう訳がわかりません」
「まあ確かに、自分がもう一人いるって変な感じだろうな」
「不安は無いのですか?」
「そうだなあ。リアルワールドだと自分のドッペルゲンガー、つまり分身に会うと死ぬ、なんて言われているからなあ」
「っ!そんなことはさせません!おまえはわたしが守ってみせます!」
途端に少女の眼差しが真剣になる。
「でも俺を殺すのも俺だぞ?どっちを守るんだ?」
目の前の少女が一瞬ぽかん、とした顔をする。
「ど、どっちも守るんです!わたしは公理教会が整合騎士、アリス・シンセシス・サーティですから!」
「頼もしいなあ」
「当然でしょう!おまえが床に伏している間、看病し続けたのは誰だと思っているのです!」
「そうだな、感謝してるよ。ありがとうアリス」
そう言ってまた少女の綺麗な金色の髪を撫でる。
「おまえのその性格、なんとかならないものですかね・・・」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもありません!!わたしはもう寝ます!」
少女は俺に背を向けて黙り込んでしまった。
心なしか耳が赤いように見える。
そんな暑いかな、と思いつつも俺も寝る為に目を閉じる。
「本当に・・・」
「え?」
「・・・本当にわたしに感謝しているなら、そのまま頭を撫でていてください・・今日は寝つきが悪いです!!」
「ええ・・?あんなにスヤスヤ寝てたじゃないか・・・」
「・・・何か言いましたか?」
「ナンデモアリマセン」
今日も夜は明けていく。
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とりあえず今回はここまでです!
初投稿なもんでなにかアドバイスなど頂けたらと思います!
それでは、ありがとうございました!