江戸のお姫様はふつくしい!? 作:匿名
それでは、どうぞ。
「あれ、二人とも課題なんかやってていいんですか?部長はともかく、いつも真面目な仁科ちゃんまで…」
俺は二人にそう問い掛け部屋の中に足を踏み入れる。廊下とは違う、清涼感がある空気が俺達を包み込んだ。
「今年はいとこの課題を手伝っていて自分のがあまり進まなかったもので…でも、もう部活開始ですよね。すぐに止めます。」
「私も、以後気を付ける…」
仁科ちゃんは理由を述べて手を止め、藤井部長はすんげ―聞き取りにくい小声で呟いた。まぁ二人共切羽詰まるのも分からなくはない。俺だって現に課題に追われているし、何より夏休みの期間が短い事が最大の原因だ。他の地域は8月一杯夏休みがあるのに、何故かうちの学校は8月の20日前後で終わってしまうのだ。何故だ。マジ勘弁してくれ。
そんな事を考えている間に副部長である和也は前の教壇に立ち、部活の進行を始める。俺は椅子に腰掛け、それに耳を傾けた。
「え―っと、今日集まってもらった理由は分かるな?文化祭の出し物が俺ら技研だけ何ちゃ決まっとらんからや。それで夏休みを返上してまで出し物を決める訳だが…何か案はあるか?」
出会った時と変わらない讃岐弁バリバリの口調で部活を執り進める和也…否、副部長。俺も始めの頃は何て言ってるかの解読に悩んだものだ。今は全員慣れているが。
「はい、生駒センパイ。」
「ん、仁科。何かあるんか?」
授業を受けているかのように律儀に挙手し、仁科ちゃんが喋り出す。彼女は入部してきた時から真面目な性格で、俺達が奇行をした際には的確にツッコミを入れてくる。髪型はショ―トボブで、まさに優等生といった出で立ち。結構前に所属委員会を聞いてみたら、案の定校風委員だった。
「案としては、技研の名にあるように技術関係の発表をしてはどうかと考えています。具体的には、文化祭のある秋辺りに合わせて、これからの季節に使われそうな家電の特集などをしてはどうかと…」
「仁科、商売熱心なのは是非褒めたいが…そういうんは文化祭にそぐわんから却下で…」
和也がそう言うと仁科ちゃんは顔を赤面させながら椅子に座る。どうやら家が家電用品店を経営しているらしく、出し物と銘打ってウチの家電を売り込む…そういうつもりだったらしい。真面目の中にこんな感じの抜けている所があるから可愛らしいのだが。
「他は何かあるか?え―っと、じゃあ松冶。勿論考えてあるよなぁ…?」
いやらしい笑みを浮かべながら当ててきやがってコノヤロウ。しかし指名された所で当然案なぞあるはずもなく、俺は狼狽えた。
「いや、いきなり当てられて出てくると思ってんのかお前は。ちょっと考えさせてくれないと無いよ。次回ぐらいまで」
「そんなんやったら二学期始まってまうわ!今出せよ?」
「だからある訳ねぇだろが!」
俺達が二人でギャーギャー騒いでいると意を決したように手を挙げる人が1人いた。それは超引っ込み思案で有名な藤井部長だ。あの人から挙げるなんて珍しい。俺と和也は小競り合いを止め、意見を聞くべく部長の言葉に耳を澄ます。
「あの…その…… ダム、行きたい…」
『だ、ダム?』
俺達は声を揃えてオウム返しする。今、部長はダムに行きたいと言った。何故ダムをチョイスしたのかさっぱり分からないが、その理由を確認すべく再び部長が言葉を発するのを待つ。
「別に、私がダムに興味あるとかじゃなくて、その…ダムがあって…そこに行って…」
今、部長は頑張って自分なりに説明しようとしている。その努力は認められて然るべきだが、ちょっと俺達が低脳すぎて理解出来ない為仁科ちゃんに意訳してもらう。
「えっと、『折角の文化祭の発表だから、ここら辺の地域でも有数の大きいダムに夏休みを利用して出向き、そこでの出来事や学んだ事を纏めたらどうか』です。」
「ダムねぇ…、俺はいいと思うけど、お前はどう思う?和也」
「うーん…俺も妙案やと思うけどなぁ…部費で足りるんか?」
「去年は主立った活動をしていないから部費が繰り越されて余っているので問題無いらしいですよ?」
確かにこの人数で行くとなるとそれなりにお金は掛かるだろうが、部費が余っているなら仁科ちゃんの代弁通り問題無いだろう。というか去年の部費が使えるほど余ってるってどれだけ活動してないんだこの部活。支給してくれた生徒会が可哀想である。
「しかし、ダム行くって言ってもここから近いダムって何処なん?」
「ここら辺ダムって割と多くありますよね。小滝ダムとか、八倉ダムとか…」
「まぁ、発表のネタになる所っつったら、白沢ダムしかないよな…」
「白沢ダム…あぁ、ここら辺そんなんあったな。」
「確かにあそこなら標高が高いですから、避暑もできますね。」
白沢ダム。それは、この街から程近い渓谷に位置する日本でも有数の大型ア―チ式ダムである。稼働し始めた当時は純粋に発電用として使われていたようだが、近年そこまで行く為の道が整備され観光地としても注目されているという。最近では何かのアニメの聖地にもなっているようだが…何はともあれ、完成までかなりの労力と資金を費やしたと言われているし、発表のネタとしても夏休み最後の思い出としてももってこいだろう。
「じゃあ、そこに行くか…」
と和也が言おうとした時、俺の背後、部室の入り口の方から声が聞こえて来た。
何か物凄く聞き覚えがある声がし、まさかと思い振り向くと、そこには。
「ちょっ、築山ちゃん押さないで…胸当たってるよ…」
「でもこうしないと中が見えない…ん?」
俺は声の主の元に寄っていき、扉を一気に開け放った。寄りかかっていた壁がいきなり無くなった事により、対象はバランスを崩し部室の中へなだれ込んで来る。そして俺は驚き怒りとを込めてこう言った。
「な・ん・で~…あんたらが部室にいるんだよ!築山さん!姉ちゃん!」
「し、主君~…そんなに怒らないで…」
「い、いや~…だって築山ちゃんが『主君出掛けちゃったの?私も一緒に付いていきたい!』って言ったから。」
「だからってマジで連れてくる事があるかバカ姉貴!こっちは学友の手前なんだぞ!?」
「わ、悪かったよ…でも、さっきのダムの話、どういう事?」
「話を逸らさないでよ……部活の皆で夏休み中に白沢ダムに行く事になった訳なんだけど、それがどうかした?」
「あ、それだったら私も付き合おうか?保護者はいた方がいいと思うよ。」
…何故だろう、この人が保護者と言ったら不安な響きしか残らない。
「ダムって何?私も行きたい!」
築山さんは築山さんで部活動の事に食い付いてきた。そんな様子を、和也と仁科ちゃんはどうしたら良いか分からないと言う目で見つめており、部長に至っては部屋の隅で膝を抱えていた。皆面食らっているので、取り敢えずこの状況を説明する。
「あ―っと…この和服着てる人は俺のいとこの築山さんで、こっちの人がうちのバカ姉。」
「ちょっ、そんな紹介しないでよ―。責めて名前だけでも… あ、私は松ちゃ…松治の姉の雪平涼華です。宜しくね。」
「私は主君のいとこ…なのかな?築山です。宜しくね!」
自己紹介が不服だったか、自分で付け足す姉。築山さんも倣って自己紹介し、二人は状況を飲み込み始めた。
「雪平さんに築山さん、ですか…私は仁科日和です。宜しくお願いします。」
「俺は生駒和也です。宜しくお願いしますー。」
「うんうん、和也君の方は何度か会った事あると思うけど、部活の人は初めてだね。…で、そこの隅っこでじっとしている人は?」
「あ、この人はうちの部長の藤井桃代さん。人と関わるのが苦手だから、そっとしといてあげて?」
「へ―、桃代さんって言うんだ?何か私達の時代みたいな名前だけど、宜しくねっ!」
「ひ、ひぃっ…」
話を全く聞いていないバカご先祖様は放っておき、姉に問い掛ける。
「ところで姉ちゃん、保護者って言ったね?という事は…付いてくるつもり?」
「当たり前じゃん。勿論、築山ちゃんもね。」
「だよなぁ……二人はそれでもいいのか…?」
「俺はそれでもええぞ。こういう行事は人が多い方が楽しいからな。」
「私も賛成です。夏休みの思い出は出来るだけ皆で共有した方が良いかと思います。」
「…だとさ。ウチの部員の厚意に感謝しろよ?」
「はいはい。んじゃ参加も決定した所で、我々は帰るかねぇ。これ以上居座ると松ちゃんは迷惑だろうし。」
「引き際は良いのな。まぁ早めに退散してくれ…。」
そう言い築山さんと姉を部室から出させる。築山さんはまだ居たそうだったけど、これ以上居座られると本当に堪った物ではないのでお引き取り願った。
「さて、予想外のメンバーが増えた訳だが…顧問の先生は許可してくれるのか?」
「正直分からんけど…まぁ出来るだけ粘ってみるわ。色々計画とか練らなあかんし。」
「そうですね。想定外の事態ではありましたが、行動の時間割等は私と部長の二人で製作しますんで、ご心配無く。」
「サンキュウな仁科。さ―て松治、まずは俺と一緒に交渉してもらおか?」
「……やっぱ俺なのな。」
こうして、今日の部活で決まった文化祭の発表ネタ探し兼夏休み最後の思い出作りは、予想外の2人を交えて進行していくのだった。
いかがでしたか?どうやら夏休みを返上してダムに観光(とネタ集め)に皆で行くらしいですね。作者も交ぜてくれぇ―!(笑)。
次回より白沢ダム巡り編、スタートです。
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