江戸のお姫様はふつくしい!? 作:匿名
それでは、どうぞ。
『そんでな、俺が文化祭の事チラつかせたら、二つ返事でOKしてくれたわ~』
「まぁ、先生も焦ったたろうしね…んじゃあ、後は各々の準備だけなのか?」
『あぁ。今さっき仁科から連絡もらったけん、メ―ルで送るわ。後は実行に移すだけやな』
「ありがとうな。そんじゃ、おやすみ。」
『おう。しっかり寝とけよ?』
「遠足の前日かっての。じゃな」
俺はそう言い、電話を切った。何の電話だったかと言うと、「顧問の許可も得られて、大方の計画も完成したから明日にでもダム巡りは決行しよう」という内容の和也からの電話だった。
白沢ダム巡りが行われると決まったのが3日前の部活。そこから俺達技研は着々と準備を進め計画を立て、何とか夏休みが終わる前までに余裕を持ってダム巡りを決行出来そうだった。
「主君、何を独り言をブツブツ言ってたの?」
「いや独り言じゃないですよ。これは『電話』って言って、遠くの人と話が出来る機械なんです。」
「へえ、そんな凄い機械があるんだ!私も持ってたら、お柴ちゃんと話せたのにな…」
「お柴ちゃんって誰ですか…」
「ん?京の都に居る友達。私が都に行った時に仲良くなったんだけど、今行ったら会えるかな?」
「今から京都って…そんな所に行くより、ほら。ダム巡りの計画が出ましたからしっかり目を通しておいて下さいね。」
そう言い、仁科ちゃんらが製作した計画が表示されたスマホの画面を築山さんに見せた。築山さんはそれに相槌を打ちながら読んでいき、最後まで読んだ所でだいたい理解したらしく大きく頷く。
「ふむふむ…うん、この通りに動けばいいんだね?了解したよっ!」
「頼みますよ。もしはぐれたりしたら大変ですから。」
「ふっふっふ、私はそんなに安易に死亡旗を立てたりはしないよ!」
…この人なら本当にその死亡旗とやらを回収しに来そうで怖い。なので当日はしっかり行動を監視して置こう。別に変な意味ではなく。
「お、ダムの計画来たの?何々…『夜分遅くに申し訳ないです。ダム巡りは明日決行致します。行動細案は以下に記した通りです…』って、この子すっげ―律儀じゃん。履歴書とか一発で通るよ絶対。」
そう言いながら先程まで寝転んでいた姉もスマホの画面を覗いてくる。この人は今の職場に就く際に、履歴書を20回程度書き直させられた偉業ならぬ異業がある。どうしたらそんな書き直しを食らうのかと問い質したいが、俺もそうならないように気を付けないと。
「まぁ、今見てもらった通り、明日はそういう日程だから。今日は俺も早めに寝るとするよ。」
俺はスマホの電源を切り二人にそう言う。姉はいつも通り「おやすみ~」と言いTVに向き直ったが、築山さんは何故か物足りなさそうに俺が二階に上がるのを引き留める。
「え―、まだ酉の刻(22時)だよ?もうちょい起きてようよ~…」
「そんな事言ってたら明日寝不足で楽しめる物も楽しめませんよ?今日は築山さんも早く寝て下さい。姉ちゃんもね!」
「は―い…」
「へ―い」
そう2人の返事が返って来たのを確認してから居間を出る。階段を上る途中で、俺は自分も明日のダム巡りを楽しみにしていたという事に気づいたのだった。
◆◆◆
ピピピピッ ピピピピッ
俺はいつも通り鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ました。アラ―ムを止めるべく時計に手を伸ばすと、時刻は6時きっかりを指し示していた。
今日は朝食を作る必要がないのでゆっくり服装を整えていると、自室の扉がガチャリと鳴る。しかし扉は開かず、少しすると外から「開けてよぉ~」という声が聞こえて来た。
「はいはい、今開けますよ…」
半ば飽きれ気味に扉を内側に引く。その向こうにはやはり築山さんが立っていた。
「いや―、
「…まぁ、今は和室以外は大体こんな感じで開きますから気を付けて下さいね。」
「は―い。ところで主君、今のこの格好、どうかな?」
築山さんはそう言うとクルリと1回転して見せる。彼女はいつもの和服を着ているのではなく、姉の物であろう薄い桃色をしたパーカ―にシックなジ―ンズを穿いていた。身に付けている物が洋服になっただけでいつもの清楚な印象が違って見え、少し可愛いと思ってしまう。
「その、いつもと違って、良いと思いますよ…」
「えへへー、私こういう服着るのは初めてだけど、似合ってるようで良かった…」
そう言って築山さんははにかむ。姉が着ても何の魅力も感じない服を着こなすとは、やはり根本的に何かが違うのだろうか。主に胸の大きさとか。
「な~にを考えていたのかな~松ちゃん?」
「うぉっ、姉ちゃんか。ビックリした…」
廊下を通りかかった姉にいきなり話し掛けられ驚いてしまう。声色が少し不機嫌そうだったが、胸についての考えを読まれたのだろうか。あれでも結構気にしてるみたいだし。
「はぁ、二人共準備できた?そろそろ和也君が来る時間じゃないかな?」
「そういえばそうだな。下行くか。」
姉はそれ以上問うてくる事はなく話題を切り替える。和也の事だが、どうやら俺達と合流するらしく、今朝家に来る予定なのだ。連絡された時間が迫っていたので居間で待っていると、案の定時間ピッタリに玄関の扉が開いた。俺達3人は揃って出迎える。
「おはよう、和也。」
「おう、おはよう松治。雪平さん、今日は宜しくお願いしますわ。」
「うん、こちらこそ宜しくね。じゃあこれで全員揃ったみたいだし、そろそろ出るかな。」
「あれ、あの二人はどうしたの?まだ居ないよ。」
「あぁ、仁科ちゃん達だったら
「その待ち合わせも昨日の『電話』とやらで済ませたの?便利だねぇ…」
まぁ確かに、電話の登場により遠方の人との連絡の取り合いは簡単に出来るようになった。俺達も毎日のように使っているが、昔は情報伝達は飛脚で人の脚とかだったからなぁ…そう思うと、今という時代はつくづく便利だと痛感する。
「って、松治何ボ―っとしとるん。もう雪平さんが車出してくれたで?早く乗ろや」
「え?あぁ、ゴメン。」
また考え事をしてしまっていた。ダムでは俺も迷子にならないように気を付けないとな…
って、姉が車を…?
「姉ちゃん?いつの間に免許取ってたの…」
「ん?今年の5月頃に取ったよ?まだ若葉だけどね」
暫く車庫にしまいっぱなしだった軽自動車の後ろを見やると、予想通り黄色と緑色のツ―トンカラーのマ―クが貼り付いていた。
…大丈夫なのか?こんなのに3人も乗って。
「あ、松ちゃん今大丈夫かなとか思ったでしょ?心配はない、私はこれでも教習所で豆腐屋と言われたんだからね!さ―乗って乗って~」
この人に心配無いと言われる程心配がこみ上げてくる。てか何だよ豆腐屋って。
まぁ乗らなければ目的地にも着かないので、一応後部座席に腰掛ける。すると隣に築山さんが乗り込んで、不思議そうに狭い社内を見回す。
「こんなのに乗って、何をするの?」
「う―ん…江戸時代で言う
「そっか―、変わった駕籠なんだねぇ!」
まぁ構造は全く違うが。百聞は一見に如かず。実際に見てもらった方が早いだろう。
「よ―し、ベルトは締めたかな?じゃあ発車しま―す」
姉がそう告げると車はゆっくりと動きだし、公道に出てどんどん加速していく。良かった、運転の腕は普通のようだ。
「な、何コレ…速すぎじゃん!」
築山さんはそう言いながら目を輝かせて窓から外を眺める。まぁ今まで見たことのない速度で景色が過ぎ去って行くのだから、驚くのも無理はない。
「あれ、築山さん車乗った事ないんすか?」
和也が助手席から不思議そうな口調で聞いてくるが、それはできればツッコんで欲しくない所だった。
「あ―、築山さん田舎から出てきたから、こういうのにあまり触れたことがないんだよね…」
「へぇ、そうなんや。」
「ちょっ、私田舎者じゃないよ?ちゃんと江戸に居たんだから…」
「今はそういう事にしといて下さい。ボロが出るとマズいんですよ…」
「何をコソコソと…まぁええわ。」
そんな会話をしている間にも辺りの景色は山道に変わり、俺等は仁科ちゃん達が待つ鹿島沢駅へと向かうのだった。
いかがでしたか?
今回は向かう所までで終わってしまいましたが、次回からは本格的に回っていきます。作者も本腰入れて書きますよぉ。
次回は和也くんの趣味も分かる…かも。
感想をお待ちしております。