江戸のお姫様はふつくしい!?   作:匿名

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忘れ去られているかも知れません。佐渡山創です。
更新が滅茶苦茶遅れて、申し訳ございませんっ!



お姫様とダム巡り ~白沢ダムの魅力を知る~

「お―い主君、早く早く!」

「元気ですねぇ…そんなに急がなくたってダムは逃げませんよ。」

 

俺は今、築山さんと二人でレストハウスから繋がる外階段を下っていた。ちなみに目的地は展望広場だ。

え、何で俺が築山さんと二人で行動しているのかって?

事の発端は、朝食の時和也に「これからどのように行動するのか」と聞いた所、

 

『うーん、適当に二人とかで組んで散策したらええんやない?』

 

と言っていたからだ。まぁ、二人で行動するとなると当然彼女が着いてくる訳で、俺は築山さんとダムを散策する事になった。

別に嫌ではないが、トラブルが起きないかと少し心配ではある。

 

「主君、何をボーッとしてるの?私先に行っちゃうよ―」

 

築山さんが手を差し出しながら呼び掛けてくる。

 

「え、あぁすいません。別に先に行ってて貰っても構わなかったんですけどね?」

「…どうして主君は私との手繋ぎフラグ(旗)を立つ前からへし折ろうとするの?折角二人きりになれたのに…」

「俺は状況に惑わされはしませんよ。さ、行くんならさっさと行きましょう。」

「…剣山のようにツンツンだねぇ。ま、そこがいい所でもあるんだけどね―。」

 

しかし、こういう事をサラッと言われると俺も多少はドキッとする。もう少し自重して欲しい物だが。

俺はそういった気持ちを悟られないように気をつけつつ、築山さんの先を行くのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「おぉ……こんな場所だなんて、知らなかったよ―!」

「確かに、近くで見ると凄い迫力だな…」

「す、涼しい―!」

 

俺達は、白沢ダムが誇る観光放水に圧倒されていた。展望広場は、ダムの堰堤(えんてい)がよく見渡せるように造られており、間近で迫力満天の放水を鑑賞できる。ここは高地なので涼しいが、飛んでくる水しぶきが更に清涼感を引き立てていた。

 

「こんなに綺麗な景色なら、絵師を連れてくれば良かったねぇ…」

「え、絵師?何でですか…」

「いやー、この美しい景色を絵に描いて残して置けば良かったなぁって思ってさ。」

「…要するに記念撮影みたいな物ですか?今はカメラがありますよ。」

「へぇ、写真機(カメラ)って皆持ってるんだねぇ。じゃあ早速撮ろうよ!」

 

何故江戸時代前期の人がカメラを知っているのか。確かカメラが国内に入ってきたのは幕末だった筈だが。

まぁ、分からん事は後で質問するとして、とりあえず写真を撮ろう。俺はスマホの撮影機能をONにし、放水をバックに満面の笑みを浮かべている築山さんの写真を撮った。

しかし彼女は撮影が終わったのに一向に動こうとせず、笑顔のまま固まっている。ひょっとして昔のカメラと同じで、撮影には数分掛かるとでも思っているのだろうか。

 

「…あの、何で動かないんですか。撮影はもう終わりましたよ?」

「………。え、もう終わったの早すぎない!?どういう仕掛けなのソレ!?ねぇねぇちょっと見せてよ!」

「いや知りませんよ!そんなに知りたいならキャ◯ンにでも行ってきたらどうですか!」

 

矢継ぎ早に繰り出される質問に答えるのが面倒臭くなったので、答えはカメラ会社に聞いてもらいたい物だが。あ、この場合ケータイ会社のa◯とかソ◯トバンクとかか。違うか。

 

「むー、主君のケチ!」

「んな事言わないで、いつかケータイ買ってあげますから落ち着いて下さいよ!」

「……え、ソレ、買ってくれるの…?っていうか売ってるモンなの…?」

 

…今、俺はしてはいけない約束を交わしてしまったのではないだろうか。まぁ、生活して行く上でいずれ必用になるだろうから良いか。姉にそこまでの稼ぎがあるかは謎だが。

 

「まぁ、そのうちですが……」

「ホントに!?えへへ、主君ありがとう!」

 

築山さんはそう言い、何故かいきなり俺の腕に抱きついて来た。服越しだが彼女の胸の感触がふにゅん、と伝わってきて、顔が一瞬にして熱を帯びるのが分かる。

 

「っ!?ちょっ、いきなり何するんですか!?」

「へへ…さっきは手繋ぎを拒否されたけど、こうして私から近づけばいいよねぇ。攻める時は敵の懐に!ってね!」

「公衆の面前で、こんなっ…」

 

こうやって抱き着かれるという体験を殆どした事がない俺にとっては不可抗力だ。どうしようもない。小さい頃に姉にされた事はあったがまな板だし。

 

「あ、あっちの建物なんだろう?ちょっと行ってみよーう!」

 

俺はそのまま築山さんにズルズル引きずられて次のスポットへと向かう。

着いた先は特設の会場のような建物で、自由に出入りができるようだった。パンフレットを見て確認すると。

 

「ここは…記念館みたいな所ですね。ダムの歴史とかが分かるみたいですよ。」

「へぇ~、どんな風にここが出来たのか気になってたんだよね。」

「それは丁度良かったじゃないですか…って、そろそろ腕を離してくれません?周囲の視線が…」

 

俺はやっと左腕に力が入ったので、築山さんのホールドをふり(ほど)く。さっきから密着されっぱなしなので周りの視線が痛いのだ。主に男性からの。

 

「え―、もうちょっとくっ付いていたかったのにぃ。私は周りとか気になんないよ?」

「俺が気になるんですよ!…ほら、中入りましょう。」

 

建物内は少し暗く、壁にはパネルが掛けられ、奥ではドキュメンタリーと思しき映像が流れている。特設にしては良く出来ているな、ここ。

 

「ふんふん…こ、こんな事があったんだ…」

 

築山さんは先程とは打って変わってパネルに興味津々だった。俺もなんとなく資料を眺めていよう。

しかし、俺は文化祭の発表のネタ探しをする為にダムに来ていた事を思い出した。これは学習した体にしとかないと怒られそうだな…和也ではなく仁科ちゃんに。

築山さんが集中している内に、俺は役に立ちそうな部分を適当に抜粋して纏めた。

 

「よし、こんなもんかな。」

「主君~、だいたい読めたからもう行かない?結構苦労したんだねぇ、ここ建てるの…」

「まぁ、江戸城の建設に比べたら易しい物じゃないですか?」

「江戸城、か…」

 

築山さんはそう呟くと少し寂しそうな表情を浮かべる。何か良くない琴線に触れてしまっただろうか。

 

「あ…なんかすいません、寂しいですよね?」

「え、ううん、全然そんな事ないよ!私は、この時代で主君と出会えた事が幸せだからね!」

 

いきなりラブコメチックな台詞をブチ込んできた築山さん。油断するとすぐこういう事を言ってくる…

そのまま調子に乗ってくっ付いて来ようとする築山さんをグイッと退け、俺は足早に特設会場を後にした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

俺達二人は見れる所は全部回ったので、とりあえずレストハウスの前まで戻って来ていた。

築山さんとダムに関する問答を繰り広げていると、聞き慣れた讃岐弁が俺の耳に届いた。

 

「あ、おったおった。おーい、松治ー!」

「おっ、和也も来たのか。もう一人は…仁科ちゃんか?」

 

あの二人だけという事に俺は少し驚いた。てっきり俺ら二人以外はまとまって行動していると思ったが。

 

「ふー、色々見て回ってきたけん、少し疲れたわ。」

「私はまだ動けますけど…あ、松治センパイ達は何かメモして来ましたか?」

「あーうん、一応ね。」

 

言えない。途中まで忘れていたなんて。それに比べて仁科ちゃんは始めから忘れずにしっかり調べているようだった。ノートを見せて貰うと、文字が多すぎて吐き気がしてきた。どんだけ書いたんだよ。

 

「よくこんなに書けたね…」

「途中で細谷センパイに会いまして、いろいろ訊きましたから。」

「細谷?あいつも来てたのか…」

「おう、おったでアイツ。また取材やと思うけど。」

 

細谷はうちのクラスにいる、所謂情報通みたいな奴だ。まぁ特筆には値しないので紹介は割愛する。

細谷、モブキャラ。以上。

 

「それよりさ…皆、お腹空かない?」

 

築山さんが自分の腹に手を当てながら言う。もうそんな時間か。小腹空いたなぁ。

 

「確かにそうやなー。うどんあるかな?」

「私も、頭を使ったら少しお腹が空きました…」

「じゃあ昼飯にするか。姉ちゃん達にも連絡しとこう。」

「やった―!ご飯だ!」

 

前から思っていたが、俺はここに来たからには食べたい物がある。それを皆にも食べて貰いたいと思い、こんな提案をした。

 

「なぁ皆、カレー食べたくないか?」

「カレー?うどん食いたいけど、まぁええぞ。」

「カレーって何?」

「別に良いですけど、なんか微妙ですね…」

 

俺は只のカレ―ではないぞとアピールする。

 

「そうかぁ…皆も食べたくない?『白沢ダムカレー』。」

 




出ましたダムカレー。あれは美味しいですよ、多分。
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