第一話 百合の開花
あなたのお名前を教えてほしいな~
私は…乃木若葉だ。
わっ、おんなじ苗字だ~
お前の、先祖だからな。
じゃあ、若葉先輩だね~
先輩…か。
ねぇ、もっとお話ししたいな~
「…また、同じ夢か…」
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LOCATION:讃州中学校、勇者部部室
樹「今日も雨ですね…」
友奈「最近ずっと雨だよね。外にも出られないし、体がなまっちゃうよー」
樹「私も雨ってちょっと苦手で…じめじめして…私の場合、湿気で寝癖がもっと悪化しちゃうので…朝直すのに困っています」
風「樹は寝相が悪いからなおさらよね~」
樹「うぉ、お姉ちゃん!それはみんなには言わないでって…」
風「あっはは…ごめんね。帰りにコンビニで焼肉味のアイス買ってあげるから」
樹「マジっスか!?やったっス!5本!5本がいいっス!」
風「…5本か…」
犬吠埼樹がこのような口調になってしまったのはごく最近のことである。
半年前…樹は満開使用による散華の影響により、一時的に声が出せなくなっていた。
しかしレオ・バーテックス討伐後には供物が戻り、樹の声帯は再び機能するようになった。
現在は他に異常もなくすっかり元通り…というわけにはいかなかった。
樹はあまりにも長期間発声をしていなかったせいで、自身がどのような口調をしていたのか…それを忘れてしまったのである。
それゆえに、今の樹の口調は安定していない。
以前の可愛らしい口調に戻るときもあれば、急に大人びた冷静な口調になることもある。
もっとも多いケースは、語尾に「っス」と付けるパターンである。
なぜ、よりによって「っス」という口調なのか…たしかに、その片鱗は見られた。
勇者部5人で合宿をした夜、樹は姉の話題に対して「この話10回目っス」とスケッチブックに記している。(『結城友奈は勇者である』第七話 牧歌的な喜び より)
声帯に異常があるわけではない。口調の問題なのだ。
しかし姉の風をはじめ、勇者部内には樹のそういった変化を気にしている者はいない。
乃木園子に至っては、元からそういう口調なのかと認識されている。
○○には若干、気にしている様子が見られるが…
東郷「うーん…」
樹「みもりんさん?どうしたんスか?あ、それって女の子が融資屋になって借金から世界を救う、今話題のスマホRPG!『幽鬼ユーナは融資屋である』通称『ゆユゆ』!」
東郷「むっ…」
樹「…あ、すいません。私もやってるんでつい…何か困ったことでもあったんスか?」
東郷「樹ちゃん、そうなのよ…このゲームって今イベントやっているじゃない?そう、借金返済イベント。それに合わせてガシャキャンペーンも更新されているわ…それで今回追加された、この期間限定でガシャから排出されるSSR『ユーナちゃん』(ボイス付き)がものすごく欲しくて…でも、何回引いても出ないのよ…」
樹「このキャラ、友奈さんにそっくりっスねぇ…課金とか、したんですか?」
東郷「今回のガシャだけで…3万円…」
樹「ひょぇーーーっ!(笑)」
※神世紀の3万円は西暦の貨幣価値に換算すると、30万円以上である。
東郷「…SSRの的中率は1%…それにSSRの数は現在20種類以上もあるから、一点狙いが難しいことくらい…わかっているわ…でも、今回のキャンペーンは新規『ユーナちゃん』的中率3倍よ!?それなのに3万円使った私の手元には他キャラのSSRが6枚も…こんなの絶対おかしいわ…」
樹「みもりんさん…いいじゃないスか!目的のものは出なかったとしても、デッキは強化されたんスよね?SSR『南郷さん』とかSSR『メガロポリス』とか、スキルレベル上げて融合したら強いっスよ!今回は縁がなかったと思って…」
東郷「だっ、ダメよ…!限定SSR『ユーナちゃん』(ボイス付き)が手に入る機会は、今回が最初で最後…ここで退くわけには…いかないわ!」
樹「復刻を待ちましょうよー!」
友奈「東郷さん?呼んだ?」
東郷「ゆ、友奈ちゃん」
友奈「あー!東郷さん、ダメだよ!また課金なんて!お金は無限じゃないんだよ?」
東郷「で、でも…SSR『ユーナちゃん』(ボイス付き)は今回しか…」
友奈「ゲームだけがすべてじゃないよ!お金の使い方にもいろいろあるんだし、視野を広げればもっと楽しい使い道だって見つかるよ!」
東郷「友奈ちゃん…」
友奈「東郷さん…わかってくれた…?」
樹「ふぅ…」
東郷「ご、ごめんなさい!…それでも、それとこれとは…違うの!」
友奈「東郷さーん!?」
東郷「出るまで回せば必ず出るわ…!」
友奈「あああ…東郷さんが壊れた…」
風「…東郷、大丈夫かしら。最近、ぼた餅しか食べていないみたいだけど…」
樹「そうなんスか…」
東郷「うわああああああ!!!!!!」
風「!?あれは…」
園子「あ~きっと年齢制限に引っかかったんだね。最近は未成年の課金のし過ぎを抑えるために、ゲーム側が対策として未成年者はひと月3万円しか課金できないようになっているんだって~」
樹「大変っスねw」
風「大人気ゲームだしね…って乃木!いつからいたのよ」
園子「さっき来ました~にぼっしーと」
夏凜「あんたたち…何やってんのよ…」
友奈「あ、園ちゃんに夏凜ちゃん。もう清掃委員の仕事は終わったの?」
夏凜「ええ。パパッと終わらせたわ」
園子「にぼっしーは、まさに完成型勇者って感じだね。掃除に関しても、テキパキとしていて~…とっても手際がいいんだ~」
夏凜「ま、まぁね。園子がスローペースじゃなければ、もっと早く終われたんだけど」
園子「にぼっしーが私の分もやってくれたから、私は楽だったよ~」
夏凜「丁寧なのはいいけど、あんたは遅すぎるのよ…」
東郷「くっ…こうなったら裏ルートで課金制限の解除を…」
風「はーい、みんな揃ったわね!本日は部長であるアタシから、お話がありまーす!」
東郷「え?」
友奈「風先輩、話って?」
夏凜「前から言われていたわよ。今日は全員で集まって話す日だって」
樹「そうでしたっけ?」
風「本日、勇者部一同に集まってもらったのは他でもありません!」
夏凜「もったいつけちゃって」
園子「(何を話すのかな~)」
風「文化祭も無事に終わったことだし、そろそろ来年度の新部長を決めようと思うのよ。ほら、アタシは3年生だからもう引退しなくちゃいけないでしょ。それで、次の部長を友奈、東郷、夏凜の誰かにやってもらいます。それを今日決めるわ」
園子「うわ~」
友奈「あれ、園ちゃんは?」
風「乃木も候補にはいたんだけど、乃木はまだ入部したばかりだし、ここのことよくわからないんじゃないかって思ってね。それで候補から外しておいたんだけど…あれ、もしかして乃木もやりたい感じ?」
園子「あっ…いえ~…大丈夫です~」
風「あー…ごめんね、勇者部全体のことなんだし、やっぱ乃木にも話しておくべきだったわ…うむ…今からでも乃木を候補に…」
園子「大丈夫ですよ部長~私はまだわからないことだらけですから~」
風「そ、そう?…んじゃ、さっそく決めましょう。樹、そこにある鞄持ってきて」
樹「んしょ…はい」
風「サンキュー樹んぐ」
東郷「こっ…これは…!」
夏凜「麻雀?」
友奈「麻雀だぁー!」
風「…来年度の勇者部新部長は、麻雀で決めます!」
第一話、完