LOCATION:讃州中学校、勇者部部室
若葉「園子が最近まで、大赦で祀られていたことは…他のみんなも知っているな?2年前の戦いで満開を繰り返し、散華した園子は大赦内で生活していた。そこでの生活は特に不自由はしていなかったようだが、園子は1つ疑問に思うことがあったそうだ。
“なぜ大赦がもう戦えなくなった勇者の面倒を看ているのか…?”
当時、大赦は立派にバーテックスと戦った園子を…勇者として褒め称えた。今後の生活はすべて我々が面倒をみる…立派にお役目を果たしたのだからと言って…
だが、実際は違っていた。園子が大赦で生活させられていた本当の理由は、今の勇者が暴走したとき、それを止めるための役割…大赦への反乱を防ぐために飼われていた…!つまり園子は、大赦の安全装置だった。常に大赦からの監視を受け、身体も満足に動けない…言うならこの2年間、園子は缶詰状態だったのだ」
東郷「(そのっち…)」
若葉「園子はいつも1人だった。話し相手がいない園子には吐き出し口がなかった。現勇者を呼び出す方法を思いつくまでの、園子の数少ない楽しみは…小説と、麻雀だった」
樹「…へぇ」
若葉「当然、園子の対戦相手は大赦の人間だ。人の心を読むことに優れている園子にとって、素人相手に勝てることはたやすい。麻雀は、園子が大赦にひっそりと対抗できる楽しみになっていった。調子が良い日には夜通しで麻雀をしていたこともあった」
風「寝不足はお肌に悪いのに…」
若葉「園子が麻雀をしていた理由は、ただ楽しい…それだけではなかった。園子は、ある時期からひそかに金を賭けていたのだ。大赦の打ち手は、断りたくても勇者の頼みだから断れない。大赦の人間は園子にとって暇つぶしの相手であり、絶好のカモでもあった。賭け金も日ごとに上昇し、園子はこの1年間で莫大な利益を得た」
友奈「(園ちゃん…どうして…)」
若葉「…これが1年前のことだ。その頃の園子は、もう普通の麻雀では満足できなくなっていた。賭け麻雀以外打たなくなった。金銭感覚も麻痺し、家が建つような大金も平気で賭けるようになり、日々勝ちを積もらせていった…」
東郷「(たしかに…5000円のチュンカードなんて大金、通常の人間がホイホイ出せるものではないわ…)」
樹「逆に言うと、それは大赦の打ち手も相当な金持ち揃いだった…ってことっスよね…」
若葉「最初は遊び半分だった大赦も、大金を賭けるようになれば話は別。そんな園子を放っておくはずがなかった。しかしそこでの園子は神のような存在であり、さらに現勇者が暴走したとき、それを止める役割も担っていた。だから、あまり機嫌を損なわれても困る。
そこで大赦が思いついたのが、園子の祖先であるこの私…乃木若葉の霊魂を呼び出し、園子の魂と共存させて園子を制御することだった(安全装置を制御するなど…ふふ、滑稽だな)」
友奈「若葉先輩の魂を呼んだんですか?」
若葉「祖先の言うことであれば大人しくなるだろう…という安直な考えのようだ。しかしそれは案外うまくいった。話し相手ができて嬉しかったのか、麻雀の回数も徐々に減っていき、園子は以前の自分を取り戻していった。小説執筆も捗るよ~って言っていたっけ…
私がこれまでの園子のことを知っているのも、園子が話してくれたからだ。いろいろな話をした…勇者のこと、うどんのこと、友達のこと…それで、最近まで私が園子と一緒に暮らしていたわけだが…」
樹「変わったんですね。あの日から」
若葉「そうだ。あの日、友奈たちがレオ・バーテックスを倒してから状況が変わった。その戦いの後、どういうわけか2年前の戦いで散華した部位がすべて戻ってきた園子は、完全復活状態。枷が外され、本来の力を取り戻した園子は、もはや私の力だけでは制御しきれず、再びあの頃の園子に戻ってしまった…というわけだ」
東郷「なんてこと…せっかく供物が戻ってきたのに…」
夏凜「………zzz(寝ている)」
若葉「今の園子は、見た目おとなしいが、実際は一種の暴走状態…私の助言も聞かず、自制が利かなくなっている…今までは私が、園子の暴走をなんとか抑えていたのだがな…すまない」
樹「…それで、今に至るというわけですね」
若葉「…今日園子が、樹に麻雀を挑んだのは他でもない。この勇者部の中で今後、最も力をつけるであろう樹を倒し、この勇者部の顧問になるつもりだったのだ。まぁ、今日樹と勝負はせずとも、後々は何かしらの方法で勝負を仕掛けるつもりだっただろうが…正直な話、樹との対戦中においても私はまだ迷っていた。園子に味方すべきなのか、それとも止めるべきなのかを…だが、力なき私にはどうすることもできなかった…そう、園子が私の力を使い、精神が逆転するまでは…!」
樹「………」
若葉「そして、ここまでの勝負を見てわかった。樹は初心者ながら…園子にも負けない何かが…圧倒的才能がある…!樹なら…園子に勝てるかもしれない…!園子を救えるかもしれない…!そう思った…」
風「ちょ、ちょっと待って!」
若葉「?」
風「…乃木が…園子が、そこまでやろうとしている理由は何?勇者部を乗っ取って、どうするつもりなの?それで樹が…アタシの妹が…狙われる理由は…一体何なの?」
若葉「…わからない」
風「え?」
若葉「園子がなぜ、こうなってしまったのか…原因はわかる。それは時間を…取られたからだ。本来であれば普通の女の子として生きていける時間を…!奪われた…!2年間…ずっと…1人で…やつらの…バーテックスと…散華のせいで…!」
風「…っ!」
若葉「…四国をバーテックスから守り抜くことが勇者のお役目。それは園子もわかっていた…人類のためだと。園子は…優しい子だ。苦しいときも、いつも笑顔で…だが、散華したこの2年間は…辛酸に値した。園子はもう、肉体的にも精神的にも限界だったのだ。散華から解放されたことで、その積もり積もった鬱憤が爆発し…こんな事態を…!そうだ。私が来たところでなんら変わりはしない…!私は結局…救えなかったっ…!あのときも…!」
友奈「そっ…それは違います!」
若葉「友奈?」
友奈「若葉先輩は、立派にお役目を果たしていたじゃないですか!園ちゃんと一緒にいるっていうお役目を!だから、こんな事態になったのは若葉先輩だけのせいじゃありません!もし先輩がいなかったら、園ちゃんは今よりもっと…もっとひどい事態になっていたはずです!」
若葉「友奈…」
友奈「だから責めないでください!自分を!」
若葉「(…ああ…やっぱり友奈だ。友奈。お前はここにはいなくても、そこにはいるのか)」
友奈「…先輩?」
若葉「…ありがとう友奈。救われたよ…」
友奈「先輩…わかってくれたんですね…」
若葉「…だが、なぜ園子が勇者部を乗っ取ろうとしているのか、そして何をしようとしているのか…それは私にもわからない。聞き出そうとしても、うまく誤魔化される。園子のことだから、何か目的があるのだろうが…」
風「じゃ、じゃあ、それで樹が狙われる理由は…?」
若葉「それは…」
樹「ふふ…それはなんとなく、私にもわかりますよ。若葉先輩…あのとき…そのっちさんが、なぜ嶺上開花で勝負を決めにきたか…あなたにはわかりますか?」
若葉「…いや?あれは単に、園子が勝てる確信があったからだと」
樹「それでも、新ドラが乗らなければ私をとばすことはできません。つまり不確定。ではなぜ、そのっちさんがそんな賭けに出たのか…それは、勝負を早めたかったから」
若葉「…?ああ、そうだろうな」
樹「勝負を早く終わらせたい…そう思うそのっちさんの気持ちの要因は、どこにあるのか…それが問題です。ですが、答えは簡単。それは『恐怖』という感情…」
若葉「恐怖?」
樹「人は恐怖にはおそれをなすものですよね。そのっちさんの考え、私にはよくわかります。負けたくないから、勝ちたい。勝って早めに勝負を終わらせて、早く恐怖から解放されたい。だから私を倒そうとする…一刻も早く。そう、そのっちさんが何に対して恐怖していたのか…それは私でした」
風「樹に?」
樹「うん」
若葉「(たしかに、園子はおそれていたのかも知れない…樹の将来性を…突き詰めればそれは、樹の言うように、『恐怖』していたということか…)」
風「で、でも樹は麻雀に関しては初心者…」
樹「私が初心者だからこそ、得体の知れない何かを私から感じたんじゃないっスかね?」
若葉「(自分で言うかそこ…)」
風「ビギナーズラック的な」
東郷「違うと思います」
樹「そのっちさん本人は気付いていないでしょうが…私に対する殺意…焦燥…それを生み出す『恐怖』を消すために、あのとき嶺上開花をして、勝負に出た…」
若葉「だが結局は削り切れず、勝機を逃した…というわけだな」
樹「はい。つまりここ一番で、私の揺れない心が勝った…そういうことっス」
風「(樹…大人になって…お姉ちゃん嬉しいッ!)」
樹「若葉先輩の頼み…受けてあげてもいいっスよ。ですが私からも、若葉先輩にお願いがあります」
若葉「お願い?」
樹「次からの勝負を東風戦に…連荘有りの4ゲームで、終わりにしてもらいたい」
若葉「なん…だと…!?」
第十話、完