犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第十五話 夕顔の角度は

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

樹の四暗刻オープンリーチ…!

果たして、樹の狙いとは…?

 

 

園子「(まずいよまずいよ~!イッつんは流れを失いつつあると思っていたのに…ここで四暗刻なんて…!イッつんに四暗刻をあがられちゃったら、今までコツコツ稼いできた20300点差…これが一発でひっくり返っちゃう…!)」

 

 

園子手牌…

{二三四五六八八} ポン{九九横九} チー{横八七九} ツモ{西}

 

 

若葉「(意図的かどうかはわからないが、あの場で差し込まれなかったのはラッキーだったな)」

 

園子「(うん。でも問題ないよ。{二-三-五-六}が出たとしても満貫止まりだし、役満になっちゃう{四}が出たとしても、私は頭ハネで止められるし~)」

 

若葉「(そ、そうなのか。私の時代には頭ハネではなくダブロンが基本だったからな。うっかり忘れていた)」

 

園子「(さて、問題はゆーゆ…もしゆーゆが{四}を持っていれば、それを差し込まれて終わりだ…それを阻止するには~………)」

 

若葉「(…園子?何をする気だ?)」

 

園子「フーミン先輩。この麻雀、オープンリーチに振ったらどんな手牌でも役満なんていう…そんな取り決めはしていませんよね?」

 

風「え?…ええ。そんな決めはないわ」

 

園子「(なら…差し込んじゃえ…!)」

 

若葉「(あれ…おかしいな。オープンへの意図的な差し込みは、西暦では役満扱いだったはず…たしかに、神世紀に移行してから300年余も経過しているうえ…麻雀自体、ローカルルールの多いゲームだ。多少ルールに違いが見られても不思議ではない…が、それを考慮したとしても、同地域にこれほどまでにルールの差が表れるものだろうか?)」

 

園子「?」

 

若葉「(………考えたくはないが、西暦から神世紀にかけて何らかの文化的・社会的・宗教的変化・革命が起こったに違いない。現に、西暦の日本では宗教の信仰は自由だった。だが、園子たちの住む神世紀では信仰の自由すらない。なぜなら宗教がたったひとつしか存在しないからだ。

それは神世紀では普通なのかも知れない。だが、我々西暦時代の人間から見ればこれは異様…これも大赦によるものなのか?やはり西暦から神世紀に移り変わった300年前に何かが…何か黒い革命が起こったとしか思えん)」

 

園子「(………ま、いっか…)」

 

若葉「ぶつぶつ」

 

園子「ん~、これかな~?{二}」

 

樹「…え?」

 

 

ざわ…

 

 

東郷「{二}…!?こ、これは樹ちゃんの{四}以外のあたり牌…!まさか、これも樹ちゃんの狙い?」

 

夏凜「そう。まさか樹も本気で四暗刻をあがれるなんて思っちゃいないはず。本当に樹が欲しかったのは、絶対に出ないと思われていたサシウマ相手からの直撃…この四暗刻は言うなら、この{二}を園子から引き出すためのものだったのよ…!」

 

東郷「で、でも夏凛ちゃん?そのっちだってお馬鹿じゃないわ。樹ちゃんの手、オープンリーチ一発三暗刻で満貫8000点止まり…逆転する跳満には、裏ドラを乗せる必要がある…」

 

夏凜「きっと樹には、裏ドラへの読みがあるのよ」

 

東郷「裏ドラが乗れば樹ちゃん。乗らなければそのっち…ということね」

 

夏凜「ええ。これは園子にとっても、危険な賭けだと思うわ」

 

 

しかし、園子…

 

 

園子「(ふふふ…期待しても無駄だよ。今回のドラ表示牌は、偶然私が積んだヤマ…私が積んだとき、裏ドラにあたる下の段には索子が多めだった。私の記憶が正しければ、あの位置の牌…あの裏ドラにあたる牌は{1}…!萬子と筒子と字牌で構成されているイッつんの手牌にドラは乗らない…手は満貫止まり。私には届かない…!)」

 

 

園子クラスがその気になれば、自分が積んだ牌の位置を記憶するくらいなんでもない。

事実、このときの裏ドラ表示牌は{1}…園子の読み的中…!

 

 

樹「………」

 

園子「どうしたの?はやく裏ドラめくりなよ~」

 

樹「寝ぼけるな。続行っスよ。ケチな点棒拾う気なし…!」

 

園子「…は?」

 

 

ざわっ…!

 

 

東郷「うぃ、樹ちゃん…!」

 

夏凜「樹…!まさか本気で…」

 

樹「本気と書いてマジと読むくらい本気っスよ。そのっちさんは今、手を崩してまで私に差し込んできた。この取引が成立すると勝手に思い込んで、闘う手を降ろしてきたってことっス…つまり、今のそのっちさんの手は闘う形になっていない」

 

東郷「そ、そうだとしても…裏ドラ…」

 

樹「…みもりんさんの言う通り、裏ドラが乗ればこの勝負…逆転できるっス。でも、そうだとしたら…何か妙なことに気付きませんか?」

 

東郷「妙…?」

 

樹「よく考えればわかります。そのっちさんは私のオープンリーチに対して、逆転される可能性があるのにわざわざ差し込んできた…しかもリーチ一発も付くこの巡目で差し込んできたのです。ということは、そのっちさんに裏ドラへの読みがないということ…それもかなりの高確率で」

 

夏凜「(たしかに…樹の言う通り冷静に考えれば、園子のことだし…あり得なくはないわね)」

 

樹「今までの戦いからわかるように、そのっちさんの戦術はマイペースでオーソドックス…そして合理性を重んじる性格。ですから、自分が圧倒的に優位な場面でこんなイチかバチかの勝負はしてこない。それを考えれば、あの{二}…客観的に見ずとも、あれはミエミエの差し込み。勝ちへの確信から放たれた…罠…!枯れた考え…」

 

園子「うっ…」

 

樹「なら、進みましょう…そのっちさんが退いた分、前へ…この四暗刻で…刺す…!」

 

 

空振る園子の思惑。樹の妥協なき戦い。

樹は、じわじわと園子に迫る…!

 

 

園子「(四暗刻オープンリーチ…それだけでも考えられないのに、私からの差し込みを見送るなんて…たしかに、裏が乗らないと逆転はない。裏ドラへの読みが、本当にないってこと…?つまりイッつんは、本気で四暗刻を引きあがる気…!?)」

 

夏凜「…まぁ、樹の考えもわからないわけじゃないわ。裏ドラ自体、狙って乗せることは不可能だし…通常の麻雀でも乗る可能性はかなり低い。それなら、ツモあがりに賭けてみるのもいいかもね…」

 

東郷「で…でも、もしあがり切れなかったそのときは、そのっちからの直撃…つまりは逆転の機会を逃したという最悪の結果だけが残るわ…この局、もしそのっちの方が先にあがってしまったら、それこそ取り返しのつかないことに…樹ちゃん…!」

 

 

園子からの差し込みを見送ったことにより、それ以降は{二}以外のロン牌…当然{四}が他家から出たとしてもロンではあがれず、すべてフリテン扱いとなる。

つまり、風や友奈からの差し込みでもあがることはできなくなった。

樹は、ツモあがりにすべてを賭ける…!

 

 

数巡後

 

 

園子「(萬子が引けなくなった…イッつんに無理に差し込んだことで、順調だったツモに影を差したのかも…ここまではイッつんの思惑通り…)」

 

樹「{二}」

 

園子「(今度はツモあがりを見逃した…あくまで四暗刻狙いか…)」

 

友奈「{④}」

 

園子「(手出しの{④}…もうすぐ流局だし…ゆーゆも張ったかな?このオーラス、親はゆーゆだから、あがられても流局テンパイになっても連荘は確定…またイッつんとぶつかることになる…)」

 

 

次巡、園子のツモ。

{三四五六八八⑤} ポン{九九横九} チー{横八七九} ツモ{六}

 

 

園子「(来たぁ…!理想の{六}!これでテンパイ復活…{六-八}のシャボ待ち!盛り返した…!さぁ、後悔させてあげるよ~その馬鹿げた闘牌…!)」

 

 

園子は手中の{⑤}を切り、テンパイ。しかし…

 

 

園子「{⑤}~」

 

 

ロン…

 

 

園子「え?」

 

友奈「白一盃口ドラ1、5800点だよ」

{四四778899⑥⑦白白白} ロン{⑤} ドラ{⑦}

 

園子「…!」

 

 

友奈への振り込み。

園子は樹にのみ注意が行っているため、必然的にサシウマ相手以外へのガードは弱くなる。

前局でもその弱点を突かれ、風に8300点を振り込んでいる。

 

 

若葉「(周りが見えているようで、見えていない…友奈の捨て牌…直前に捨てられた{④}の側などもろ本命…強気にテンパイへ向かったのはいいが、逆に墓穴を掘ってしまったな…一体どうしたというんだ…園子、お前の麻雀のステップはもっと軽かったはずだ)」

 

園子「(…いや、これはこれでいいんだよ)」

 

若葉「?」

 

 

このとき、園子は心底震えていた。樹の強運、友奈の強運に…

友奈の手牌…一見単なる凡手だが、その中にキラリと光る{四}2枚。

樹の四暗刻成就のキー牌、その最後の2枚を友奈が握っていたのである。

 

 

園子「(イッつんに差し込まなかったら負けていた…危ない危ない…ふふ、でも今回ばかりは私の強運が勝ったよ。勝負は次局…まさに九死に一生だよ~)」

 

若葉「(悪運強いな…)」

 

東郷「(さすがよ友奈ちゃん。やっぱりゆうみもね。これで点差はさらに縮まったわ…!)」

 

 

園子は友奈に5800点を振り込み、63400点、樹は変わらず48900点。

その差14500点。樹は園子から満貫を直取りするか、跳満をツモれば逆転である。

 

 

 

第十五話、完

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