犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第十六話 向日葵白昼夢

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

樹と園子…その熱く長い闘いも、いよいよ終焉を迎えようとしていた。

 

 

園子63400点、樹48900点。

東四局オーラス一本場。親は再び友奈。ドラ{中}

 

 

園子手牌…

{四七八③③④⑤⑥⑨99中中}

 

 

園子「(うーん、あまりいい配牌とは言えないかな。どうせならもっと早くて軽い手がよかった…でも、今そんな我儘は言っていられない。私が振り込まなくても、イッつんに跳満をツモられたら負けるんだ。私も攻めないと…!)」

 

 

樹手牌…

{二二①⑧⑧⑨388白南北北}

 

 

東郷「(最悪の配牌ね…テンパイできるかどうかも怪しいわ。対子が多いのが唯一の救いとはいえ、このオーラス…樹ちゃんの手が遅いとなれば、そのっちも本気で攻めてくる。この重い手からどうすれば、そのっちが振り込むような満貫手になるの?時間的にも、この局で勝負を決めるしかないのに…樹ちゃん…!)」

 

 

しかし、落ち込んでいても始まらない。この最終局面で樹…攻める…!

それは園子も同じ。曲げずに、まっすぐ攻める…勝つために!

ここぞという場面で、勝つために決して曲げてはいけないもの。

 

樹は天賦の感性。園子は自身の経験。

2人とも、己を信じる心…それを決して曲げない。

己を信じられずしてどうして敵に打ち勝てようか。

樹も園子も、共にそういう流れを感じている。

 

 

5巡後

 

 

友奈「{⑧}」

 

樹「ポン!」{横⑧⑧⑧}

 

若葉「(あの鳴きに、あの捨て牌…筒子のホンイツかチンイツ。まずこれが本線だろうな)」

 

園子「(…どうかな。イッつんのことだから、これが囮ってことも十分あり得るよ。決めつけるわけじゃないけど、他の色にも注意は払うべきだね…)」

 

若葉「(そうだな。しかし、鳴きが入った手への振り込みはさほど痛くない。手が高くなりにくいからな…鳴きを入れたうえで、ある程度点数を高くしようとするならば、役はかなり限定されてくる。それか、ドラを抱えるかだが…)」

 

 

しかし次巡…

 

 

園子「{二}」

 

樹「ポン!」{二横二二}

 

園子「(えっ?)」

 

樹「…ふふふ…」

{■■■■■■■} ポン{横⑧⑧⑧}{二横二二}

 

 

ざわっ…

 

 

園子「(筒子の染め手じゃなくて、対々和なの…?通常、対々和で満貫を狙うのなら一色に染めるかドラを絡ませることは必至…今の鳴きで染め手の線が消えたってことは、ドラ抱えのようだね。もうドラの{中}2枚は私が使っているから、イッつんの手には多くても{中}が2枚…もし2枚とも持っていれば、トイトイドラドラで満貫…)」

 

 

しかし次巡、園子のツモ。

{八八①③④⑤⑥⑦799中中} ツモ{中}

 

 

園子「(3枚目の{中}…!これでイッつんのドラ2枚の線も消えた…ってことはイッつんの手は対々和のドラ{中}単騎待ち!満貫以上を狙うのなら、これで決まりか…よしよし)」

 

風「{白}」

 

友奈「ポンっ!」{白横白白}

 

 

友奈、風の{白}を鳴き、{中}打。

 

 

園子「(ゆーゆも役牌抱え…この局もあがりに賭けているようだね。今の鳴きでゆーゆが切ったのは{中}。これで私の手牌と合わせると4枚目…イッつんの手にドラはない…)」

 

 

さらに園子、友奈の{中}をカンせず見送る。

自分がまだテンパイに至っていないこと、そして樹に新ドラが乗る可能性があること。

この2つがカンを見送った大きな理由であるが、それよりも園子は樹に自分の手の内が知られることをおそれた。最初からスピードのみを考えている園子にとって、テンパイに進まないうえ、手牌を晒すことになる鳴きは極力するべきではない。

 

 

園子「(怖いのはイッつんの満貫直撃か、跳満ツモだけ。カンをして無理に新ドラを増やす必要なんてないよね…それに捨て牌には{東}と{發}が2枚ずつ、そしてゆーゆの{白}鳴き…これでイッつんの翻牌抱えの線も消えた…ますますいい流れだよ~)」

 

風「{8}」

 

園子「(来たっ~!これを鳴けばテンパイ!)」

{八八③④⑤⑥⑦799中中中}

 

 

園子がチーと宣言しようとした、その瞬間…

 

 

樹「…ポン!」{88横8}

 

園子「(え…?)」

 

 

樹手牌…

{■■■■} ポン{横⑧⑧⑧}{二横二二}{88横8}

この鳴きで…樹再び甦る…!三色同刻…!(三色の同じ数字を刻子にする)

※鳴きはチーよりポンが優先される。

 

 

園子「(まさか…!この土壇場で三色同刻って…たしかに、三色同刻と対々和を絡めれば4翻折れるから、ドラや翻牌を使わなくても満貫に届く…つまりイッつんは、単騎待ちってこともあり得るのか…)」

 

若葉「(…いや。それはないな)」

 

園子「(え?)」

 

若葉「(見ろ。自分の手牌を…)」

 

園子「(…はっ!{八}…!)」

{八八③④⑤⑥⑦799中中中}

 

 

園子「(…そうだった。{八}はすでに私が2枚対子として使っている…ということは、今イッつんの手牌に{八}の暗刻はない。あったとしても、こんな形…{八}と何かのシャボ…つまりイッつんの三色同刻も、私がこの{八}を切らなければ完成しない…)」

 

樹手牌予想

{八八西西} ポン{横⑧⑧⑧}{二横二二}{88横8}

 

 

ふふふ…

 

 

園子「(日和ったかな?やっぱりイッつんの悪魔じみた強運も下り坂なんだ…肝心要の{八}、そしてドラの{中}も私に流れてくるようじゃあ…ふふ。この勝負、むしろ流れは私かな?ドラ抱えも、翻牌も、三色同刻の芽も消えた今…おそれることはない…怖いのは満貫の直撃だけ。それに届かないとなれば、容赦はしないよ~)」

 

友奈「{9}」

 

園子「ポン~」{99横9}

 

 

この鳴きで、園子テンパイ。理想形。{②-⑤-⑧}待ち。

{八八③④⑤⑥⑦中中中} ポン{99横9}

 

 

園子「(ついに、ついにイッつんに引導を渡すときが来た…♪振り込んでくれなくてもいい…私がツモっても、勝負はつく…)」

 

東郷「樹ちゃん…」

 

樹「大丈夫っスよ。みもりんさん…勝負の綾は、まだわからない」

 

 

園子の鳴き直後、樹もテンパイ。

 

 

東郷「(このツモでようやくテンパイね…でもこの手、張ったはいいけど安手。直撃を取ったとしても逆転には届かないわ…樹ちゃん、本当に何か策があるの?)」

 

園子「(わっしーのあの顔…イッつんも張ったね。ふふ、でも大丈夫…向こうの手は満貫に届いてないんだ。それはイッつんと私だけが知っている事実…ビシバシ行かせてもらうよ~)」

 

樹「(どうっスかね…この世には、良かれと思っていたことがすべて裏目…保証書がすべて紙屑になることもままある。つまり、世の中は早々そのっちさんの思い通りにはいかないということ。こう見えて逆転の道はあるんスよ…そのっちさんを追い抜ける、別ルート…!)」

 

 

次巡、園子のツモは{北}…

 

 

園子「(生牌の{北}か…{北}は役牌でもイッつんの風牌でもない。仮に振ったとしても対々和のみの2000点止まり。大丈夫大丈夫…)」

 

 

何の気なしに{北}を河に放とうとしたその刹那、園子に電流走る。

 

 

園子「(…ビリリッ!待って…これは…)」

 

若葉「(…なるほど。この{北}は通常怖くない牌…だがこれを打った場合…ある条件が3つ重なれば、満貫出費もあり得る…!)」

 

 

まず園子が{北}打…

これを樹があがれば問題なし。対々和のみの2000点。

問題なのは、この{北}に対し樹が大明槓をしてきた場合である。

大明槓後、嶺上ツモで引きあがれば対々和+嶺上開花で3翻。

そして真におそろしいのは、カンしたことにより追加される新ドラである。

新ドラが1つでも乗れば、樹の満貫が成立。(対々和なのでドラは2つ以上乗る)

前回園子が行った大明槓の責任払いという隠し技。それが今度は、園子の責任払いとなる…!

 

しかし、もちろんこれは非常に薄い確率。

まず樹が{北}をカンし、嶺上でツモり、さらに新ドラを乗せるという、3つの関門を潜り抜けた末に辿り着く奇跡…

 

 

若葉「(普通はそこまで考える必要はない…速攻で切り出してもいい牌だ…だが、園子はおそれている…そう。やりかねないからな…犬吠埼樹だけは…!)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

最終局面。園子もまた追い詰められていた。それは、樹に対する恐怖。

通常の確率では計れないことを可能にしかねない。そんな危険を感じさせる…

それが、犬吠埼樹という存在…

 

 

園子「(安全を追うなら、ここは4枚在処が知れている{中}あたりで回すべきなんだろうけど…それはあまりにも弱い打ち回し。それにここで流しても、次局でイッつんがあっさりと跳満をツモるかも…カンしてからの新ドラ乗りなんて、そんな心配すること自体間違っている…私は三面待ちなんだし、ここは強気で行くべき。そんな当たり前のことはわかってる…わかってるけど………イッつんだけは、常識では計れない…!)」

 

若葉「………」

 

 

園子、長考。

この勝負が始まって、初めて手が止まる。

しかし熟考の末、ついに決断。

 

 

園子「{北}…!」

 

樹「………カン!」

 

若葉「(来たっ…!樹は本当に、あの3つの関門を突破する気なのか!?)」

 

園子「………」

 

 

このとき、意外にも園子に動揺はない。

なぜなら、園子はすでに樹封じの秘策を右手に秘めていたからである。

園子が右手で{北}を切る際、{中}も手中に抱えていた。

もし樹がカンをしてきたのなら、その嶺上ツモと{中}を早業ですり替える。

友奈の捨て牌には{中}がある。園子の手牌の暗刻と合わせれば4枚。

つまり樹が{中}で待っている可能性はない。完全な嶺上開花潰し。

園子の{北}打は単なる強気の勝負ではない。万が一に備えての保険付きであった。

 

 

園子「(ふっふ~ん~…あのとき以来だよ…私にイカサマを使わせるなんてね…)」

 

若葉「………」

 

園子「(今だっ…!)」

 

若葉「(………ボソ)」

 

園子「っ…!?」

 

 

………なよ…

 

 

樹「…そのっちさん?」

 

園子「でも………」

 

風「…乃木?」

 

友奈「…園ちゃん?」

 

園子「…いや。なんでも…ない………よ」

 

樹「…これで4副露。さて、嶺上ツモ」カン{北横北北北}

 

園子「(ツモるもんか…!)」

 

東郷「うっ…!樹ちゃん!」

 

樹「………ツモ!」

{南} ポン{横⑧⑧⑧}{二横二二}{88横8} カン{北横北北北} ツモ{南}

 

 

そのまさか、嶺上ツモ…!

 

 

園子「くっ…!」

 

東郷「来たっーーー!うわああああああ」

 

夏凜「あああ安心するのはまだ早いわ、東郷。問題はここから…」

 

風「対々和に、嶺上開花…これに新ドラが乗れば、満貫…」

 

樹「新ドラ…めくってくださいっス。友奈さん」

 

友奈「う、うん…ドキドキするね…それっ」

 

 

樹と園子。その勝負の命運を分かつ、新ドラ表示牌…

 

………それは{東}!つまり、ドラは{南}…!

 

 

園子「はぁうん…!」

 

友奈「どっ、ドラが頭…!ということは…!」

 

東郷「嶺上開花&トイトイドラドラ!満貫…!決着が着いたわ!うわああああああ」

 

夏凜「勝ったーっ!勝ったんだーっ!(大泣き)」

 

風「すごいわ!すごいわ樹ぃいんー♪」

 

友奈「やったね樹ちゃん!」

 

園子「………ん。私の負け…だね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:???

 

 

「………ここは?」

 

 

 

第十六話、完

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