LOCATION:喫茶店内
園子「…あっ、イッつん~こっちこっち~」
樹「ちわっス」
園子「こんにちは☆」
樹「キョロキョロ…」
園子「…どうしたの?座りなよ~」
樹「…何スかこの店は…ひどい客層っスね」
樹入店。
入店後、樹はすぐに察した。店内の雰囲気…その異様さに。
照明は薄暗く、カーテンは閉ざされ、そこに一般客は皆無…そして園子のテーブル席以外は、すべて神官たちが占領している。つまり今この場にいるのは、樹を除けば大赦の人間のみという状況。
樹「どこを見渡しても神官だらけ…決して良い気分とは言えないっスね」
園子「いや~ごめんね。この人たち、私のファンね」
樹「ファン…?」
園子「追っかけってやつ?常に私を監視していたいようだから…モテすぎるのも困りものだよね~まぁ、気にしないでよ。普通の人に聞かれたら、ちょっとまずい話もあるし」
樹「そこの…隣の女性は?神官ではなさそうですが」
園子「紹介するよ。こちらは今回の勝負を仕切ってくれる…上級巫女の上里さん」
樹「初めまして…(きれいな人だなぁ…黒髪ロングだしうらやましい…)」
上里「…樹様。ここにいる者はすべて、こちら側の人間です。つまり…囲いました。今この場にいるは我々…大赦の身内だけ。ここはもう暗い闇の中…何が起ころうと闇から闇へ…ふふふのふ…」
樹「ふーん…さすが大赦…一度脅しをかましてからじゃないと、ろくに人と話もできねえのか。圧力を背景にした取り引きは私には通じない…それがわかったら、髪をお姉ちゃんの大好きな金髪ショートにして、出直して来ることっスね。上里さん」
上里「…!」
神官たち「なっ…!」
ざわ…ざわ…
園子「イッ…イッつん…!年上だよ…!超年上…!」
上里「…なるほどですね。話に聞いた通り、面白いお友達ではないですか。園子様」
園子「え?う、うん…」
上里「あと私、そんなに年上じゃありませんから…ですが、こういう多少サディスティックな方も私の守備範囲…」
樹「そのっちさん、面倒くさいんでこの人無視してもいいっスか?」
園子「今の台詞はスルーでOKだよ~」
上里「あららー」
樹「あ…それより、ご結婚おめでとうございます。そのっちさん」
園子「ありがとう~早いよね、もう1か月前のことなんて…」
樹「そうっスね。あれから順調っスか?若葉先輩とは」
園子「うん~毎日がアツい夜だよ~」
樹「あいや、そういうのはいいんで、本題いきましょ。店員さん、マンゴージュースお願いします」
園子「…その前に。イッつんに1つだけ、聞いてもらいたいことがあるんだ」
樹「なんですか?」
園子「今回の勝負、イッつんには辞退してもらいたい」
樹「え?辞退っスか?」
園子「そう。イッつんに残された道は、これしかない。なぜなら、明日イッつんが闘う相手は、私じゃないから…」
樹「それってどういう…」
園子「若葉先輩、だよ。2か月前のあの日…イッつんは私に勝っておきながら、無理に勝負を続行しようとしたよね。あれを見てわかちゃん、ひどく怒っちゃったみたいでさ…次の勝負は私が出るって言っているんだ」
樹「そのっちさんの代わりに…ですか」
園子「うん。私は最初冗談だと思っていたんだけど…実際、わかちゃんがあそこまで本気になるなんて思っていなかった。この2か月間、特訓に特訓を重ねて…今のわかちゃんは、正直、私より強いよ。腕も運も、文句なく最強クラス…もう大赦に敵う人間はいない状態なんだよ。強さ的には…そうだね。この私より2ランク程度上と言えば想像付くかな…如何に天才的なイッつんでも、戦えば必ず負けると思うよ…」
樹「…なるほど。ゲームで例えると、クックとガルルガくらいの差っスか………」
園子「そしてその過程でどちらかが…いや、必ず両方が傷付く。私はもう、誰かが傷付く姿を見たくないんだ。だからイッつん。代わりにこれをもらってくれないかな?」
上里「樹様、これを」
樹「この封筒は?」
園子「中にあるのは…うどん小切手。使用期限はなし。観音寺市内のうどん屋さんに限り、最大30万円分まで使えるよ。ドリンクやデザートにも使えてとっても便利なんだ~イッつんには、これで身を引いてほしい」
※神世紀の30万円は西暦の貨幣価値に換算すると、300万円以上である。
樹「ふーん…うどん屋さんで使える30万円か…たしかに少ない額じゃないが…足りねえな、その程度じゃ(お姉ちゃん的に)」
園子「…そう言うと思った。今回の勝負、ある程度のお金は動くことになるだろうから、大赦に話は通してあったんだ。だから希望の金額があれば、幾らか融通は効くはずだよ。言ってごらん?」
樹「今回の大勝負、私は乃木家…つまりは大赦を取るつもりっスからね。まぁ…半分っスね」
園子「半分?」
樹「大赦という組織を動かすために必要な資金…その半分ってことっスよ。腋全開の勇者衣装、そして勇者システムを作り出せるほどの技術力と資金源…軽く見積もって、5000億円ってとこか…」
※神世紀の5000億円は西暦の貨幣価値に換算すると、5兆円以上である。
園子「5000…?」
樹「ふふ…それだけくれるって言うなら、考えてあげてもいいっスよ」
ざわっ…
上里「キエエエエエエーーーーーー!そっ、園子様の優しさをいいいいことに、対等の条件を持ち出すなんて…!このガキャあ…!」
園子「…イッつん、さすがにそれは通らないと思うよ?」
樹「いや…さすがに私も、そのっちさん個人がそれだけの大金を持っているとは思っていません。ですが、大赦なら持っている。そう思ったんスよ…」
園子「…なんで大赦が出てくるの?」
樹「話を戻しましょう。昨日勇者部に届いたメール…それがこの話の発端ですが、私にはそのときから疑問に思っていたことがありました。それは、メールを読んだ友奈さんも感じていた…決定的な違和感」
園子「違和感…?」
樹「メールの送信元と、明日勝負する場所…それには2つとも大赦が絡んでいた…そして、今日の打ち合わせにも大赦の人間がいた。これはつまり、そのっちさん…そして若葉先輩に大赦という後ろ盾がいる…ということ」
園子「…!」
ざわ…ざわ…
樹「ふふ…違いませんか?」
園子「…いつから気付いていたの?」
樹「確信を持てたのは、今日実際に会ってからっスね。はじめに引っかかったのは、メールに記載されていた…賭け金の増加です。たしか私が30億円。他の4人がそれぞれ25億円まで賭けられるという話でしたよね。この金額…私たちはもちろん、これまで賭け麻雀で稼いできたそのっちさんですら、支払うのは難しいはず…なら、この億という金はどこから出てきたのか…これはもう、大赦しかない。つまりこの勝負、裏で大赦が金を出している…影で糸を引いている証拠…」
園子「そっか…さっきイッつんが『乃木家…つまりは大赦を取る』って言ったのも…」
上里「そっ、園子様…」
樹「ふっ…その言葉…そっくり受け取ってくれてもいいんスよ。ターさん」
上里「くっ…!」
園子「何もかもお見通しってわけだね…なら、全部話すよ」
上里「園子様、よろしいのですか?」
園子「うん。イッつんには、すべてを知った上で闘ってもらわないとね。わかちゃんも、きっとそう思っているだろうから…ここには若葉派もいないしね~」
上里「私は一応…若葉派なのですが」
園子「いいからいいから~」
上里「うえっ!?私の立場…」
樹「(マンゴージュース遅いな…)」
園子「じゃあ、賭け金について話すよ。まず、イッつん本人に賭けられた30億円。察しは付いていると思うけど、この金額を設定したのはわかちゃん。イッつんが望んだ、犬吠埼家と乃木家…そのどちらかが破滅する金額に設定した………というわけじゃないんだな~これが~」
樹「…は?」
園子「イッつんは1つ勘違いをしているよ~ふふ、メールの内容からして、イッつんは私たち乃木家の財産を多くても30億円程度って踏んでいるらしいけど~…仮に私たちがそれを失ったとしても、正直痛くも痒くもないんだよね~私からすれば、今まで稼いできた分を少し吐き出すってだけだし~」
ざわっ…
樹「マジっスか…稼ぎすぎでしょ。じゃあどうして、若葉先輩は…そっちからすれば痛くも痒くもないような…中途半端な金額に設定したんスか?」
園子「せめてもの慈悲…ってやつだよ~私はよく知らないけどさ、30億円あれば一生遊んで暮らせるよ~?でもイッつんからすれば、折角勝てても私たちが破滅しないんじゃ…うま味がないよね?」
樹「それは…そうですが………」
園子「そ・こ・で!他の4人の賭け金が出てくるんだよ~!」
樹「4人の…?」
園子「イッつんの30億円に、ゆーゆ、わっしー、フーミン先輩、にぼっしー…それぞれの25億円を乗っければ、なんと130億円~!何が言いたいか、わかるかな?」
樹「なるほど。私1人の力では無理でも…みなさんにカンパしてもらえれば、一度に最大130億円の金賭けて勝負することもできる…そういうことっスね」
園子「その通り~!便利でしょ~?まぁ、私は130億円程度負けても全然問題ないんだけどね~」
樹「…でしょうね。この流れからすると…そう言うと思ったっス」
園子「でも希望はあるよ。130億円勝負をイッつんが何度も勝ち続けてコロコロ回せば~…私たちの破滅に手が届くかもよ~?もちろん、負けちゃった場合はイッつん1人に背負わせるつもりはないよ。25億円、それぞれに払ってもらうから安心してね~」
樹「私以外に賭け金が設定されていたのは、このためだったんスね…!そのっちさん…あんた、一体何百億円持っているんスかっ…!?」
園子「ふっふっ…秘密でーす☆それを聞くのは個人情報の侵害!だよっ☆」
樹「くっ…無理っスよ…!こんな生きるか死ぬかの勝負に、私だけならまだしも、お姉ちゃんや、みなさんを巻き込むなんてこと…乗ってくれるわけがない…!」
園子「だから、賭けられるのは何億円『まで』って設定しているんだ~まぁ、そこはみんなと相談してよ。いざとなれば別の支払いルートも用意しているからさ~」
樹「………」
上里「(園子様…少し…脅しすぎでは………)」
園子「(…うん…私もやりたくないんだよね、この勝負。ここは、イッつんから身を引いてくれるのがベストなんだけど…)」
樹、長考。
自分のみならず、他の部員をも巻き込んだ巨額のギャンブル。
負ければ破滅。仮に勝つことができたとしても、その勝ちを何度も重ねなければ園子たちを破滅させられないという理不尽…これは当然、14歳の樹1人が下せる判断ではない。
園子も上里も、内心そう思っていた…
樹「…わかりました。受けましょう」
園子「(えっ…!?)」
上里「(まさか!?こんな無謀な麻雀を受けるなんて…)」
樹「…ただし、55億円です。私とお姉ちゃんの合計を賭けます。他の3人は…賭けません」
園子「うぃ…イッつん!考え直さない?」
樹「え?なんでですか?急にキャラ変わっちゃって」
店員「マンゴージュース、お待たせしましたああああああー!」
樹「あ、どうも。で、何の話でしたっけ」
園子「い、いや…私としては、イッつんには破滅か否かの麻雀をしてもらうより、このまま30万円のうどん小切手で手を打ってもらった方が利口と言うか、ありがたいと言うか…せめて最初の1万円勝負にしてくれないかな?55億円一気に賭ける必要はないよ~」
樹「今更1万円なんて、やる気出ないっスよ。それに明日の勝負は乃木家か犬吠埼家、どちらかの命運を賭けた麻雀じゃないスか。それならば当然、友奈さんたちに迷惑を掛けるわけにはいかない。ここは限界まで行きましょう」
園子「うーんでもね…」
樹「そのっちさんの言う通り、たとえ今の若葉先輩が最強クラスになっていたとしても…そんなの関係ねえな、私には。ズズズー(ジュースを飲む音)」
園子「イッつん…!」
樹「私は、私の限界を試してみたい…私の血、私の運、私の命がどこまで行けるのか、どこまで通用するのか…試してみたいんス。その相手がたとえ、若葉先輩であっても」
園子「…そっか。でも死ぬよ?あんまりわかちゃんを舐め過ぎると…これは比喩表現なんかじゃない。本気なのは向こうも同じだから、最悪は………」
樹「ふふ、別に舐めているわけじゃないっスよ。私は自分の力がどこまで通用するのか、確かめてみたいだけ…ですが、参考にはさせてもらいますよ。ありがとうございまス」
園子「どうしても、勝負するつもりなんだ?」
樹「こく…(ジュースを飲みながら)」
園子「はぁー…話にならないねぇー…」
樹「…そうスか。決裂ですね。じゃあ私、そろそろ帰ります。例の物…」
園子「ああ、はいどうぞ~」
上里「園子様、そのUSBは?」
園子「PN4専用ソフト『ドキドキ☆ハンサムパラダイス学園』のゲームデータだよ。やったことあるでしょ」
上里「いやないですよ」
園子「イッつん、何を考えているのか知らないけど…そんなもの何に使うの?」
樹「んー…明日になればわかると思います。では、失礼します」
園子「また明日ね~」
上里「………」
園子「………あ、マンゴージュース代…」
上里「…私が、払います…」
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LOCATION:喫茶店前
樹「ただいマンゴー」
風「い、樹ィ!大丈夫だった?何か、危ない目に…」
樹「全然」
風「良かった」
樹「(さっき、そのっちさんから微かに感じ取れた若葉先輩の気…あれはまるで…)」
風「樹…?」
樹「いや…何でもない。卵、私の分も買いに行くっショ」
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LOCATION:商店街通り
風「それで、園子はなんて?」
樹「うん…実はね………」
???「あれ?風先輩?樹ちゃんも!」
第十九話、完