犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第二十三話 四花の思惑

LOCATION:大赦VIPルーム

 

 

樹「2人の借金…すべて私が払います!」

 

夏凜「樹…」

 

 

ざわ…

 

 

若葉「…つまりこういうことか?三好さんの借金25億円…さらにそのお兄さんの借金5億円…計30億円。それを樹…お前がすべて肩代わりすると?」

 

樹「そうっス」

 

風「うぃ…樹ィ!?なっ、なっ…何言ってんの…!?」

 

夏凜「樹!余計なお世話よ。これは私がみんなを…裏切って、勝手にやったことなんだから…」

 

樹「そうもいきません。にぼしさんは同じ勇者部の…仲間じゃないっスか!」

 

夏凜「樹…」

 

樹「それに、にぼしさんの暗い顔は…もう見たくありませんから」

 

夏凜「樹…ありがとう。でもね、これは私自身の問題よ。後輩に救われるなんて、カッコ悪いじゃない」

 

樹「…ですが、どうもそれは無理っぽいっスね」

 

夏凜「え?」

 

若葉「…ふむ、園子はどうだ?」

 

園子「私はどっちでもいいよ~面白そうな方で~」

 

若葉「展開的にこっちの方が面白そうだな…よし、飲もう。その提案!」

 

夏凜「なっ…!?」

 

 

ざわ…ざわ…

 

 

樹「マジっスか」

 

若葉「何事も読者のために…乃木家の誇りだ」

 

樹「マジっスか」

 

若葉「三好さん、たった今お前の借金30億円は樹の物になった。猫語も、話さなくていい」

 

夏凜「は、はぁ………んまぁ、ありがたいっちゃありがたい話だけど…樹、本当に良かったの?」

 

樹「半分冗談でした」

 

夏凜「え?………マジ?」

 

樹「まっ、なんとかなるっショ」

 

若葉「となると、少しややこしい話になるな。三好さんの借金30億円、そして樹本人に賭けられた金額も30億円だから、それをそっくり差し引けば+-0円…お前たちが用意できるのは友奈、東郷、風の3人の合計…75億円と減少するが…」

 

樹「ふふ…その金は、勝負が終わってから差し引くことにしませんか。勝負は私を含めた4人の合計…105億円で挑みます。30億円以上は、絶対に奪い取るつもりっスから」

 

若葉「…なるほどなるほど…面白い。いいだろう。では早速勝負を…と言いたいところだが…悪いな。これから少し用事を済まさなくてはならないんだ。私と園子は席を外させてもらう。勝負は明日からでもいいだろう」

 

樹「え…?明日からっスか?」

 

若葉「大事な用でな。本当はそれを、夕方までに片付けておきたかったのだが…」

 

園子「急ににぼっしーが来ちゃったからね~そういう事もあるよ」

 

若葉「お前たち、食事は…?」

 

樹「それはもう、済ませていますが…」

 

若葉「なら、それぞれ個室を準備させよう。今夜はくつろぐといい。勝負は明日の朝9時でどうだ?」

 

樹「…わかりました。9時っスね」

 

若葉「では上里、彼女たちに部屋を案内してあげてくれ」

 

上里「わかりました」

 

風「その前に1つ、聞きたいことがあるの」

 

若葉「ん…?」

 

 

ざわ…

 

 

風「さっきの『勝負は卓の上で』の意味…言葉通りに取っていいのかしら」

 

若葉「…ああ。明日は私と樹との麻雀になるが、数合わせのため、私の陣営には園子。そちらの陣営には風…お前に入ってもらう。構わないだろう?」

 

風「…受けて立つわ。樹…明日は、お姉ちゃんと一緒に闘おう!」

 

樹「お姉ちゃん…!もちろんだよ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:廊下

 

 

園子「わかちゃんたら、もう!止めてよね!」

 

若葉「…バレていたか」

 

園子「…マジで斬るつもりだったでしょ。もし、ゆーゆとわっしーが止めなかったら…」

 

 

園子は、若葉の腰に下げた『生大刀』を指さす。

この刀は西暦時代、若葉本人がバーテックス討伐に使用していた武器である。

『生大刀』は若葉死亡後も大赦にて厳重に保管されており、それは西暦以降の勇者の武器作成の研究やヒントに現在も活用されている。

若葉復活後、その刀は再び彼女の元に戻り、今も生前と変わらず携帯している。

 

若葉の日課は居合である。

それ故、いつ敵が襲って来ようともすぐさま対応できる抜刀術を身に付けている。

幸い、その能力が風に発揮されることはなかったが…

 

 

若葉「まさか。峰打ちで済ますつもりだったぞ?」

 

園子「ほんと~…?」

 

若葉「…それより、行くぞ。寝る前にもうひと仕事だ」

 

園子「うん~」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大赦の個室・風の部屋

 

 

上里「こちらが、最後のお部屋です。何かありましたら、お声掛けください」

 

風「どうも…」

 

 

バタン…

 

 

風「………ふぅー…」

 

 

上里に案内され、部屋に入る。

風たち各自に用意された来客用の個室…それは地下にあり、その広さは20畳ほど。

リビングにはツインベッドが1つに、高価なソファーやテーブル…タンスなどが配置されている。冷蔵庫も供えられており、お酒も嗜むことができる。※お酒はアダルトになってから。

全体的な内装は、一般的なホテルの一室とさほど変わりはない。

唯一違う点は、地下のため夜景を見ることができない点であるが…

 

 

風「(これで1人用の寝室か…贅沢って言うか、なんて言うか…天井高いし、広いし…リビングだけで1LDKくらいあるんじゃないの?1LDKの広さも、よく知らないけど…)」

 

 

風は、用意されたベッドに仰向けに寝転ぶ。

 

 

風「(…てか、なんで洋式なのよ。大赦なんだから普通和室でしょ、普通…)」

 

 

普通…か…

 

 

風「(あはは…もうその感覚は、ここじゃ通用しないわね。なぜなら明日の麻雀は、何十億って金を賭けるんだから…)」

 

 

明日は…絶対に勝たないとね…

 

 

風「(でも…よくよく考えると…そもそもこの勝負。根本的に、こっち側に有利になるってこと…あり得るのかしら。樹が園子から直接聞いた話では、向こうの資産は何百億円以上…いや、もしかしたらもっとあるかも。それに対して明日、私たちが用意できるのはMAX105億円…そりゃ乃木たちも小さな額とは言わないだろうけど、それでも向こうからすれば、失うことに怯える額じゃない。仮に負けたとしても、これまでの勝ち分を少し吐き出すくらい…)」

 

 

でも…

 

 

風「(それでも私たちにとっては、絶対に失うわけにはいかない金…もし負けたら、一体どうなるのよ…上里さんは私たちが『大赦の物になる』って言っていた…たぶんだけど、今までの生活はできなくなる。樹をはじめ…友奈に東郷、そして私と…みんな買われてしまうわ)」

 

 

生涯大赦の手駒…!買われた犬に成り下がる…!

 

 

風「(私はともかく、樹をそんな境遇にさせるわけにはいかない…!樹には、せっかく夢が見付かったのに…!冗談じゃないわ!負けたら、また樹を悲しませてしまう!)」

 

 

さら…さら…

 

 

風「(…?水の音…?そう言えば、夏凜が勝負していた部屋に入ったときも同じ音が…キョロキョロ………あ、窓の外に…庭?なんで地下に木々が…)」

 

 

足を運ぶと、そこには庭は言うよりは森に近い空間が広がっていた。緑が生い茂り、草木や花が立ち並ぶ。そしてその中央には、小さな川が流れている。その川の水は…神樹の滝の水。

神樹のすぐ近くには神聖な滝が流れており、その滝の水がここの地下まで流れて来ているのである。風も神樹の滝の存在については、幼い頃に両親から聞かされた覚えがある。

 

 

風「(そうか…ここは大赦。なら、神樹様の滝から比較的近いこんな地下にも水が流れて来るのも、当然…でも、何も地下に植物を植えることはないわ。こんなの金で自然を持て余しているだけ…悪趣味。まぁ、悪趣味なのはさっきの麻雀でもわかったけどね…)」

 

 

最初のツモが100万円で、そこから親によって200、400と倍々で引き上げられて…そんな感じで、それこそ掛け算方式で金を搾り取る麻雀だもんねぇ…―――

 

 

風「………はうっ!」

 

 

そのとき風…不意に閃く。

億万長者・若葉たちをねじ伏せる奇襲…剛腕戦略…!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大赦食堂

 

 

勝負当日。

時は神世紀300年12月25日。午前7時30分。

勝負はこれから1時間半後…午前9時に行われる。

勇者部一同は、食堂に集まっていた。

 

 

樹「あ、お姉ちゃん。おはよう」

 

風「…おはよう、みんな」

 

東郷「風先輩、味噌汁をどうぞ」

 

風「あんがと」

 

友奈「風先輩、昨日はよく眠れましたか?調子とか…」

 

風「えと…6時間くらい…かな。寝る場所が違っても、案外普段通りに目覚めるもんね。調子はまぁ…別に悪くはないわ」

 

夏凜「…そっちの身体は出来上がっているようね」

 

風「夏凜!あんたいたの?」

 

夏凜「…んなっ、何よそれ!」

 

風「い、いやー…夏凜はもう勝負関係ないし?帰っちゃったのかなーと思って…」

 

夏凜「私は、樹に助けられた身だからね…この勝負、最後まで見届けたいの。それだけよ」

 

風「…そっか」

 

樹「………」

 

夏凜「…やっぱ風、あんた元気ないんじゃないの?樹も」

 

風「えっ!?なんで…」

 

樹「私はそうでもないっスけどね」

 

夏凜「いやなんか…なんとなく………ね…」

 

友奈「夏凛ちゃん。そこは気付いても言わないって約束したのに…」

 

東郷「磔ですね」

 

夏凜「あっ…」

 

風「え…?友奈、東郷…もしかして心配してくれていたの?」

 

友奈「もちろんですよ!2人とも、きっと不安がっているだろうから、目の前で不安にさせるようなことは言わない!って決めていたんですよ」

 

風「夏凜…あんたも心配してくれていたのね…」

 

樹「にぼしさんマジ天使」

 

夏凜「とっ!当然でしょ。今は風と樹にとって…一大事なんだから!」

 

東郷「磔ですね」

 

夏凜「うっ…」

 

風「…ふふっ。ありがとう、みんな」

 

東郷「風先輩。私たちは、2人に託すと決めました。ですから、これから先何が起ころうと…私たちは風先輩と樹ちゃんの判断に従います」

 

風「東郷…」

 

樹「お姉ちゃん…頑張って何とかなる勝負じゃないかも知れないけど…頑張ろうね」

 

風「樹…ええ。そうね。頑張ろう!」

 

樹「ところでお姉ちゃん。1つ、聞いてもいい?」

 

風「何?」

 

樹「私たちにとって、今…『金』って何だと思う?」

 

風「今…?」

 

樹「うん」

 

風「…今の状況じゃ、お金に価値なんてないわ。今は単なる数字や目盛りと同じ…増えようと減ろうと、この地下から勝って出るまではある意味で無価値。そう思っているわ」

 

樹「…そっか。私も、まったく同じ考えだよ」

 

東郷「知っていますか?西暦の大泥棒・石川五右衛門は釜揚げで処刑される際、お湯ではなく油が使われたとか…その理由は…―――」

 

夏凜「東郷…あんたもしつこいわね…あ、2人とも、サプリあげる」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大赦VIPルーム

 

 

午前9時。ついに乃木若葉との麻雀が始められる。

樹たちの用意できる金は、105億円…!

神世紀の105億円は西暦の貨幣価値に換算すると、1050億円以上に匹敵する。

 

この金を失うまで行うデスマッチ…絶対に負けることが許されない闘い…!

若葉側は若葉と園子。樹側は樹と風で闘う。

金髪4人が卓を囲む…!まさに、金髪好きには堪らない光景…!

 

 

園子「実は!作者さんはこれがやりたかっただけなんよ~」

 

樹「マジっスか」

 

風「ふぇえ…」

 

若葉「…さて、勝負の席に着く前に今一度確認しておきたい。『乃木麻雀』のルールと、お前たちの勝ちと負けの基準…その明確な取り決めと、その後の処遇について…」

 

 

若葉によって、まずは『乃木麻雀』の説明が行われる。

 

 

若葉「上里から『乃木麻雀』の大体の説明はすでに受けたと思うが、基本的には普通の麻雀と変わりはない。ポーカーのように場代が設けられたものと考えればわかりやすいだろう。この麻雀は場代100万円でスタートし、最終的にその半荘をトップであがった者が供託の金を総取りできるというルール。だが、今回の勝負はあくまで私と樹のサシ勝負。他の者…つまり園子や風がトップを取ることは………まずないと思うが、仮にそうなってしまった際…金はどちらの陣営のものにもならない。その金は一時保留にし、また次の半荘で私か樹…どちらかトップを取った方が、前回の半荘の金を追加で得られる。こうすることで2人の対決という図式が、より鮮明になるというわけだ」

 

 

『乃木麻雀』では場代が存在する。

その場代は最低100万円。そして親はツモ順が来る度に倍々に場代を上げる権利を持つ。

子は場代を払いたくない場合に降りることが可能。それ以降はツモ切りのみ。

仮にテンパイしていたとしても、すでに降りを宣言している場合、あがることはできない。

半荘終了時には、その半荘でトップを取った者が供託の中の金を総取りする。

また場代とは別に幾らかの金を追加で供卓に投入することで、二度ヅモなどのある程度のイカサマも可能となる。

 

 

若葉「まぁ、この辺りはやっていくうちに慣れるさ。さて次は、勝ち負けの基準だが…」

 

 

次に樹側の勝ち負けの基準の説明。この詳細は未だ語られていない領域…

 

 

若葉「まず樹たちの勝ちの基準だが、これに明確な線はない。なぜならこの勝負は、樹たちの資金が尽きるまで続行可能な麻雀。お前たちが満足行くまで戦ってもらって構わない。そして負けの基準だが、これはその逆。樹たちが105億円分負けた時点で勝負は終了となる。昨日三好さんの件でも触れたが、このとき、そちらには2つの支払い方から選べる。現金ですぐに返すか、お前たちが大赦の物になるか…」

 

風「…昨日も聞いたわ。大赦の物って…つまりどういう意味?」

 

若葉「簡単なことだ。大赦で生活して、大赦のために働いてもらう。105億円分きっちりとな…その間、もちろん家や学校には帰さない。面会も大赦を通して行う」

 

風「…!」

 

若葉「だが私も鬼ではない。犬吠埼樹、結城友奈、東郷美森は借金のタカそれぞれ5億円分を追加することで解放しよう。だが犬吠埼風。お前の解放はない」

 

風「え…?」

 

若葉「当然だろう。最後の1人を解放してしまっては、他の勇者たちを操るコントローラを自ら手放してしまうようなもの。つまり風、お前は人質ということだ」

 

風「…!」

 

 

ざわっ………!

 

 

若葉「クッククク…」

 

風「くっ…!お前…!」

 

樹「まっ、待ってくださいっス!」

 

若葉「ん?」

 

樹「この勝負、そもそも私と若葉先輩の勝負っスよ。なら、負けたとき一番割りを喰うのは私でいいはずっショ!なんで、なんでお姉ちゃんなんスか!?」

 

風「(たしかに…)」

 

若葉「…ふふ、そう!この勝負の肝は…正にそこだ!この勝負を持ち掛ける際、私は考えた。どうすればお前が一番深く傷付くのかを…そこで気付いたのだ。仮に樹本人を捕らえても、あの人を舐めた態度に動じない性格だ…いくらダメージを与えたところで、お前は傷付かないだろう。だからお前のお姉さん!犬吠埼風を傷付ける方が最も心に傷を負わせられると気付いたのだ!樹、お前が園子を傷付けたようにな!」

 

樹「っ…!?」

 

 

ざわ…ざわ…

 

 

若葉「良かったじゃないか、樹。お前の望んだ、生きるか死ぬかの麻雀だ…何も問題はない。それに考えても見ろ。この勝負に必要な金は、そもそも我々が貸したもの…ならばこれくらいのリスク、背負って当然だろう?」

 

樹「くっ…」

 

風「樹…心配することはないわ。勝てばいいんでしょ、勝てば…」

 

樹「そうだけど…」

 

風「(それにもし私たちが負けても、最悪割を喰うのは私だけ…ふふ、案外ヌルいわね)」

 

若葉「勝負は10分後に行う」

 

 

………

 

 

樹「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」

 

風「何?」

 

樹「今回の勝負、私はお姉ちゃんに任せようと思う」

 

風「え?なんで…」

 

樹「だって、もし負けたら…」

 

風「…なーに言ってんのよ今更!勝てばいい話じゃないの!ねっ」

 

樹「…だからだよ。お姉ちゃん、本当は若葉先輩と闘いたいんじゃないの。それに、にぼしさんも言ってたでしょ。負けたときのことも考えておけって…だからお姉ちゃんには、そのとき悔いのないよう…リーダーとして…全力で闘ってもらいたいんだよ」

 

風「樹…」

 

樹「嫌なら私が降りるだけ」

 

風「…わかったわ。樹がそこまで言うなら…」

 

樹「…ありがとう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:園子の部屋

 

 

若葉「何?樹ではなく、風がリーダーに?樹はそのサポート役か…」

 

上里「はい。向こうはそう要求しておりますが…」

 

園子「おお~面白そう~わかちゃん、そうしよう?」

 

若葉「…まぁ、いいだろう(おそらく樹の差し金だな…何を考えているか知らんが…無駄なこと。幾ら策を練ろうと、我々の勝ちは動かない…!)」

 

 

ついに始められる、乃木家と犬吠埼家の麻雀決戦…!

若葉の誇りと、風の覚悟…勝利の女神は一体誰に微笑むのか…?

 

 

 

第二十三話、完

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