犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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番外編
第十七,五話① 若葉と園子…復活編


園子…1つ、訊いていいか?

 

                                          何?

 

どうして麻雀なんだ?ボードゲームなら、他にいくらでも種類があるだろう。

 

                     うーん…なんだか単純に、飽きちゃったんだよね。

 

飽きた?

 

                            それに、麻雀だとさ………―――

 

 

 

             「…なるほど。いかにも、園子らしいな」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大赦寝室

 

 

………眩しい…なんだ?この光は………光…?

窓から日の光が…これは…朝…か?

なぜ、私は寝て………それより―――

 

 

若葉「ここは…どこだ?」

 

上里「えっ…?」

 

若葉「………上里?」

 

上里「わわっ…若葉しゃん…!?ああ、いえ…若葉様!おおおお目覚めになられて…!」

 

若葉「は?上里…私が見えるのか?」

 

上里「見えるも何も………はい、手鏡を」

 

若葉「………なっ、なんじゃこりゃあ~!?」

 

上里「ああっ…!生きている間に、若葉様の肉声が聞けるなんって…!」

 

 

乃木若葉のように肉体が存在せず、精神のみが存在しているという状態は本来あり得ない。

『精神』とは肉体あっての精神であり、『肉体』とはその宿る対象であるからだ。

これは人間に限った話ではなく、すべての生ある者は、生まれたときからその両者を有している。どちらか片方でも失えば、それは生きているとは言えない。

 

 

若葉「私が、鏡に映っている…ていうか持てる。上里、これは一体…」

 

上里「若葉様は蘇ったのですよ…生前と同じ肉体を得て…」

 

若葉「どういうことだ?詳しく聞かせてくれ」

 

 

229年前に亡くなった乃木若葉を人間として再び蘇らせるには、若葉の精神と肉体…その両方を呼び出し、その2つを一体化させる必要があった。それが大赦の課題。しかし、一度死んだ人間を蘇らせることは不可能。それではなぜ、若葉は蘇えることができたのか…

 

 

上里「わかわかのまるばつ…」

 

若葉「ふむ、ふむ…」

 

 

乃木若葉は先日まで、乃木園子に宿る霊魂として存在していた。

一般的に考えられている『霊魂』というものは、肉体とは別の精神的実体として存在している。つまり己の肉体を操作するだけではなく、離脱することも可能。それが以前の若葉の状態である。

 

一括りに『霊』と言っても、それはいくつかの名称・存在に分類される。

『幽霊』『精霊』『霊魂』などと呼ばれるものだ。基本的にそれらは、質量を持たない。

霊体である乃木若葉がそれらと決定的に異なる点は、意思の疎通が可能という点にある。

つまり、園子に憑依している状態の若葉は、厳密な意味での『霊』ではない。

なぜ若葉だけが、通常の霊魂とは違う存在だったのか。その理由は至極単純。

大赦は若葉の霊魂を『召喚』したが、それは『呼び出す』程度のものではなかったからである…

 

神世紀299年…大赦は神樹の力を使い、乃木若葉の霊魂を召喚。

乃木園子の肉体にそれを定着させることには成功した。

大赦が、若葉の霊魂の定着先を園子にした理由は主に2つ。

1つは、当時暴走していた園子を制御すること。そしてもう1つは、若葉の精神と、その血筋関係である園子の肉体との相性が最適だったためである。しかし、それだけでは半分。

大赦が目的とする乃木若葉完全復活のためには、別の肉体を新たに用意する必要があった。

そこで大赦は神樹の力と『ある方法』を用い、乃木若葉復活を図った―――

 

 

若葉「なるほどな…大赦は神樹の力を使い、私の肉体を再生したと…」

 

上里「ええ。現在の若葉様の肉体は、年齢的に14~15歳前後。西暦時代…若葉様がこの国を守る勇者として活動していらした時期の身体です。ピチピチギャルです」

 

若葉「すごいな…あの頃と遜色なく動かせる。しかしなぜ、今になって…」

 

上里「若葉様はこの1年間、園子様に憑く、幽霊のような存在でしたよね」

 

若葉「ああ」

 

上里「実は、若葉様のその肉体…霊魂を宿らせるためのベースは、神樹様のお恵みによりすでに存在していました。ですが、そこからが問題でした…」

 

若葉「問題?」

 

上里「若葉様は、この世に未練がおありですよね」

 

若葉「…ああ。バーテックスをこの世から滅亡させ、奪われた世界を取り戻す。それが私の意志。やり遂げなければならないこと」

 

上里「…はい。十分、存じております」

 

若葉「なぜ、そんなことを聞く」

 

上里「現世にある肉体と、あの世の霊魂を一体化…つまり定着させるには、その者の現世に対する未練や執着…強い意志が必要なのです。この世とあの世を結ぶための架け橋と言いましょうか…ナウく言うならケーブルのような役割です。そして若葉様は十分すぎるほど、その器量を有しておりました。ですが、それだけでは足りなかったのです」

 

若葉「何?」

 

上里「若葉様のその思いだけでは、霊魂を定着させることができなかったのです」

 

若葉「…上里。それはつまり…」

 

上里「いえ、それは違います。重要なのは思いではなく…きっかけだったのです」

 

若葉「きっかけ…だと?」

 

上里「若葉様の霊魂には、現世に対する揺るぎない意志がありました。しかしそれだけでは、定着させるためのきっかけ…スイッチが働かないのです。言うなれば、常日頃から抱いている意志の他に、新たな意志が発現する必要がありました」

 

若葉「…では私がこうしていられるのも、新たな意志…それが私に芽生えたということか」

 

上里「はい。実際、若葉様は先ほどより…こうして肉体を得ています。それは若葉様に新たな目標や決意…つまりは意志が芽生えたということに他なりません。若葉様には最近、何かその『きっかけ』ができたのではございませんか?」

 

若葉「………はっ!」

 

 

犬吠埼…樹…!

 

 

若葉「…そうだった。それだ!それだぞ上里!」

 

上里「?」

 

若葉「『園子を守る』そして『樹を倒す』…!それが私の、新たにできた目標だ!」

 

上里「はっ…?倒す?」

 

若葉「あー………これは話すと長くなるな…詳しいことは園子に聞いてくれ。私は少し疲れた…」

 

上里「この後、どうされますか?肉体も戻られたことですし、お食事でも…」

 

若葉「…ああ、確かに腹が減った…が、その前に。ヘアゴムもらえないか?今の髪型のままでは、園子と見分けが付かん」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上里「園子様に似て、さらさらできれいな髪ですね。クシクシ…」

 

若葉「違う。園子が私に似ているのだ」

 

上里「性格は大きく違いますけどね」

 

若葉「はっきり言うな…だがそれだけは、私にもわからん。まぁ、血統とはそういうものだろう」

 

上里「…なるほど。ゴムお付けしますね」

 

若葉「遊ぶなよ」

 

上里「まさか」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

若葉「…うむ。ありがとう上里。きれいに整っている」

 

上里「ありがとうございます。後でリボンも用意致しますので」

 

若葉「助かる。ところで上里。この身体に1つ…問題が…」

 

上里「どこか、痛みますか?」

 

若葉「痛みはない。見た目についてだ。顔や髪、身長に関しては生前通りで問題ないんだが…この頃の私はもう少し…その…胸はあった気がするんだが…」

 

上里「詳しく聞かせてもらっていいですか!?」

 

若葉「…いや、やっぱりいい」

 

上里「そんな!」

 

若葉「…つまらないことを言って悪かった。他には何も異常はないから、安心してくれ」

 

上里「そうですか…それは何よりです」

 

若葉「…あ。そういえば、園子はどうした?まだ寝ているのか?」

 

上里「園子様は今お勉強中です。若葉様の事情は、すでに伝えてあります」

 

若葉「そうか…園子も大変だな………ああ」

 

上里「どうかなさいました?」

 

若葉「い、いや。帰りが今朝だったから、今も疲れて眠っているのではないかと思ってな。園子は、よく眠る子だから…(私が憑依していた間は私が代わりに勉強を教えていたからな…それがもうできないとなると少し…寂しくなるな)」

 

上里「園子様はマイペースに見えて、有言実行を怠らない方ですからね。寝不足な今でもしっかり勉強していらっしゃいますよ(しかし、実際半分以上は寝ているのですが)」

 

若葉「そうか…だが、あまり無茶はさせないようにな」

 

上里「承知しております」

 

若葉「園子の供物が戻ってからしばらく経つが…学力の方はどうだ?」

 

上里「少しずつですが上がっていますね。散華の間は好きにさせていましたから、現在もままならないのは仕方ありません。最近では休みの日も、自分で時間を決めて勉強していらっしゃいますよ」

 

若葉「頭の良い園子のことだ。遅れた学力はすぐに取り戻せるだろう」

 

上里「そうですね」

 

若葉「(園子もこれからのために頑張っている…では、私は…)」

 

上里「若葉様?」

 

若葉「上里…私はこれから、どうしたらいい?」

 

上里「まずは朝食を和食か洋食か選んでいただいて…」

 

若葉「そうだな朝はやはり………って、そうじゃない。今後について…だ」

 

上里「今後については、ここで時間をかけ、ゆっくり考えることにしましょう」

 

若葉「…ゆっくりでいいのか?」

 

上里「若葉様自身の今後のことですから、急ぐ必要はございません。そしてその答えを出す上で、どちらか選ばなければならないこともあると思います。もしお困りの際は、私をはじめとした大赦の人間や仲の良いお友達に相談なさるのも良いでしょう。悩んだら相談です。ですが、それでもどうしても答えが出ない…そんなときは、若葉様の好きなことを…なさってください。後悔のないように。私は、それを心から望む者です」

 

若葉「(『私の好きなことを』…か。この肉体…私が勇者だった14歳前後の頃であることは、大赦…もしくは神樹の意志。その思惑には別の思惑も見え隠れするが…今は黙っておくか)」

 

 

大赦が乃木若葉の霊魂を召喚した本来の目的は、当時の乃木園子を制御すること。

しかし制御することのみが目的であるなら、このまま若葉が霊魂のみの存在でも大赦的には問題なかったはずである。それならばなぜ大赦は、今になって若葉の肉体も復活させたのか。その方法とは何なのか。

その詳細を知る者は、大赦内のごく一部の人間に限られる…

 

 

若葉「…わかった。じゃあまずは朝食と行くか!」

 

上里「…はい!何になさいますか?」

 

若葉「目覚めて最初に食べるものと言えば…うどんだ!肉ぶっかけうどんを頼む」

 

上里「そうおっしゃると思って…もう準備してあります!(ウワーワタクシスゴイ)」

 

若葉「さすがだ上里!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大赦園子の部屋

 

 

若葉「園子の部屋か…」

 

上里「すみません、若葉様のお部屋はまだ準備ができていなくて…それに大食堂は人目に付くと思いまして、お食事はこちらで用意させていただきました」

 

若葉「謝ることはない。上里のそういう気の利いた配慮…私は気に入っているんだ」

 

上里「光栄です。あ、うどんが茹で上がったようですね。はいどうぞ」

 

若葉「ありがとう」

 

 

ずるずる…

 

 

上里「お味はどうですか若葉様…」

 

若葉「うまい…うまいぞ………だが…」

 

上里「?」

 

若葉「………私には少し、このうどんが塩辛い…ようで…」

 

上里「どうされました!?泣いて…」

 

若葉「いやっ…少し…な。『味わう』という行為が…その…懐かしく…感じてしまって…」

 

上里「若葉様…」

 

若葉「園子の身体ではなく、私の身体で『食べる』…その行為…これが、どれだけ幸せか…200数年振りに、思い知った。『生きている』という実感…それ自体が幸せである…と。ありがたい…」

 

上里「わ…若葉様ぁ…!」

 

若葉「上里…すまないが、食べるのを…手伝ってくれないか?手が嬉しさのあまり…震えて…満足に動かせないんだ」

 

上里「はっ、はい!お箸をお持ちします!どうぞ…!」

 

若葉「手間をかける…」

 

上里「いいんですよ。はい、あーん♪」

 

若葉「あーん…もぐもぐ…ああ、うまい。身に染みる…」

 

上里「もう一口、あーん♪」

 

若葉「あーん………あ?」

 

 

バタン…

 

ドアを開ける音がした。ふとそこに目を向けると、そこには…

 

 

園子「わっ…わかちゃん…!?上里さんと…ああ、そういう関係…ご、ごゆっくり…」

 

若葉「まっ、待て園子!誤解!誤解だぁ!」

 

上里「あらあら」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:園子の寝室

 

 

若葉「ふぅ…なんとかして誤解は解けた…」

 

園子「わーかーちゃん!今日は一緒に寝ようね~」

 

若葉「わかちゃんと呼ぶのは止めろと言っているだろう」

 

園子「え~でもさ~、その身体…私と同年代くらいだし~やっぱり『先輩』なんて呼びづらいよ~だから、これからは『わかちゃん』でいいでしょ?」

 

若葉「お前には先祖を敬う気持ちはないのか…」

 

園子「さてさて~!わかちゃんは~どの枕がいい~?」

 

若葉「聞いてないな…」

 

園子「お布団の中…あったかいよ~、わかちゃんも入りなよ~」

 

若葉「もぞもぞ…」

 

 

2時間後………

 

 

園子「ふぁ~…いろいろ話したけど、そろそろ眠くなっちゃった…」

 

若葉「園子…」

 

園子「なぁに?」

 

若葉「私は今朝、自分の身体でうどんを食べた。自分の口でうどんを味わうことができた。そして感じたのだ。人は、『生きている』…それこそが幸せであると…」

 

園子「うん」

 

若葉「だがよく考えれば、それは間違っていた。勇者であるお前にならば、わかるだろう」

 

園子「…うん」

 

若葉「生きているだけなら、誰にでもできる。生きているだけで幸せ…というのは、動物レベルの話だ。私たちは動物ではない…1人の…人間だ。私たち人間には、すべきことがある」

 

園子「………そうだね」

 

若葉「神世紀に移行し、私が死んで200年以上…人類は、未だにバーテックスから世界を取り戻せていない。しかし、それも当然のことだ」

 

園子「当然?」

 

若葉「現在もバーテックスを根本から根絶やす策はなく、勇者はお役目を任され、それを知る者は日々その脅威に怯えている。だが、それは今の話だ。どんなに辛くとも諦めなければ、我々はいつか…必ず勝つ。実際、大赦はこの300年で勇者システムを飛躍的に向上させ、満開と精霊を用いた攻守も完璧…とは言えないが、比較的万全だ。私の代からすればな。そして壁の向こうの奴らも、我々と同じく進化を遂げているらしいが、それでも園子たち現代の勇者は、引けを取らずに闘えている。なんと喜ばしいことだ。これからも勇者たちがバーテックスとの闘いに耐え、勝ち続けることができれば…それは、勇者間のみならず…人類全体の…大きな自信へと繋がる」

 

園子「それは…わかるよ。でも!その勇者システムを作った大赦にもいろいろ穴はあるんだよ~いろいろとね。ああもう、ふざけんな!って言いたくなるくらい~」

 

若葉「…ああ、わかっている。油断は禁物だな」

 

園子「わかちゃんは、満開と精霊システムを過大評価しすぎなんだよ~!あれは表の顔!本当の裏大赦はね~勇者を使ってピーピーピーピー!」

 

若葉「園子…私は、この愚痴を聞くのは何回目だろうか…」

 

園子「…はっ!ごめん~続けて?」

 

若葉「…300年という年月…さらには人の一生。それは人類の長い長い歴史から見れば、瞬きするような短い期間だ。その一瞬で何ができるのか…それは限られている。だが…いや、だからこそ私たちは、その一瞬に全力でいる。ある者は、夢を叶えるために。そしてある者は、何かを成し遂げるために。そう…人は、自らの望みを実現させるために生きているのだ。バーテックスから世界を取り戻すというのも、その1つに過ぎない。園子、お前の夢はなんだ」

 

園子「私はバーテックスを全部倒して、もっとわっしーたちと遊びたいな~」

 

若葉「…良い夢だ。ならば私は、その夢を全力で応援しよう。それが私の夢だ」

 

園子「え~?わかちゃん、そんなのでいいの~?」

 

若葉「いいんだ。園子の夢は、私の夢でもあるからな」

 

園子「ふーん、そういうもんかな~」

 

若葉「そういうものだ。それに私がこうして蘇ることができたのも、何かの縁だ。ならば私は、なるべくその縁を…大切な人のために使いたいと思う」

 

園子「え?大切な人って~、もしかして私のこと?」

 

若葉「他に誰がいる?」

 

園子「………う、うわ~…今の私…けっこう恥かしいかも~…」

 

若葉「な、なぜ背を向けるんだ?」

 

園子「う~、今までそんなこと言われたことないから…恥ずかしくって…」

 

若葉「そういうものか?」

 

園子「そういうもんだよ~」

 

若葉「…そのままでいいから、聞いてくれ。園子…私から1つ提案があるんだが…今後ひと段落着いたら、大赦を出て…私と…2人で暮らさないか?学校の近くに新居を買って、そこで一緒に生活するんだ」

 

園子「うん~?2人で引っ越すの?それって…」

 

若葉「ええと………つまり、あれだな…その…///」

 

園子「…わかちゃん?」

 

若葉「………結婚…しよう」

 

園子「はぅっ!?」

 

若葉「!?どうした?」

 

園子「はわわわわわ~///わ、わかちゃんったら!もうっ!」

 

若葉「え?は?何が?」

 

園子「ベッドの中で告白なんて、聞いたことないよ!こういうのは、雰囲気ってものがあるでしょ~?」

 

若葉「あっ…いや。そっ、そうだったな。すまない…」

 

園子「どうせ告白されるのなら、もっとちゃんとした形で告白されたかったな…ぷんすこ」

 

若葉「(ああ、私としたことが…また園子を悲しませて…)」

 

園子「でも」

 

若葉「?」

 

園子「…うん。いいよ。わかちゃんとなら」

 

若葉「そ、園子…!」

 

園子「ただし!今度はちゃんとしたシチュエーションで告白してもらうからね~」

 

若葉「ま、また告白するのか?」

 

園子「うふふ、わかちゃんに2回も告白されたってことになれば、みんなに自慢できちゃうよ~」

 

若葉「まったく…敵わないな。園子には…」

 

園子「ふふ、この関係は肉体が戻っても変わらないねぇ~」

 

若葉「っー…返す言葉もない。もう寝るぞ………園子?」

 

園子「………わかちゃん。今夜はちょっと寒いから…もっと近くで寝てもいい?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

園子「(わかちゃん。さっきの告白も、本当は嬉しかったんだよ。不意打ちとは言え、暗いベッドの中、お互いに身体をくっ付け合った状態で…耳元で後ろから愛の告白を囁かれるシチュエーション…吐息が耳の中に入ったのにはちょっとびっくりしちゃった。不覚にもグっときたよ~!)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

園子「おはよ~わかちゃん、おはよ~だよ~」

 

若葉「んあ…?」

 

園子「朝だよ~、朝!起きて!7時だよ!セブンオクロック!」

 

若葉「………ふぅ…」

 

園子「ぐっすりだったね~」

 

若葉「…ああ、そうか。昨日は園子と寝たのか…」

 

園子「ふふ、その言い方は誤解を生んじゃうよ?寝たことに変わりはないけど。ところで、今朝のわかちゃんの寝顔…とってもウルトラ可愛かったよ~ほら見て、この写真の幸せそうな表情…これは永久保存版だね~」

 

若葉「…ふふ」

 

園子「あれ?わかちゃん、怒らないの?」

 

若葉「…園子の行動が、似ていてな。昔の友人に」

 

園子「あれれ、わかちゃん…友達いたんだ~」

 

若葉「なっ、当たり前だろう!」

 

園子「冗談だよ~知っているよ。わかちゃんも昔、仲間と戦っていたんでしょ?」

 

若葉「…ああ。昨日は、その夢を見ていた…ような」

 

園子「実はわかちゃん、さっきまでうなされていたんだけど…怖い夢でも見たの?すごい寝顔していたよ~」

 

若葉「すごい寝顔?」

 

園子「ほら、この写真~」

 

若葉「…そっ、その写真は今すぐ消せ!ひどい顔だ…!」

 

園子「え~、嫌だよ。こういう表情はレアなんだから~」

 

若葉「何がレアだ…その顔はさすがに他人に見られたらまずい。消すんだ!」

 

園子「そこまで言うのならいいけど…でも~、こんな鬼のような形相…よっぽど悪い夢を見ていたんだね~(わかちゃんフォルダに移動して…と)」

 

若葉「(おかしいな…私が見た夢はそのような夢では………はっ!思い出した…)」

 

園子「?」

 

若葉「『犬吠埼樹』…あいつだけは………倒す。私の手で…」

 

園子「えっ…!?あの言葉…本気だったの?」

 

若葉「ああ。園子をあんな目に遭わせた樹を…許してはおけない」

 

園子「わかちゃん…あれはもういいよ…私もちょっと、悪ふざけがすぎたし…」

 

若葉「園子は良くても、私が許せんのだ」

 

園子「でも………」

 

若葉「あいつとは、麻雀で決着を付ける。だから園子、私に…麻雀を教えてくれないか?」

 

園子「私が、わかちゃんに…?」

 

若葉「私はもっと、強くならなくてはならない。西暦時代…仲間と遊びで牌をつまんだことはあるが、園子のように金を賭けた真剣勝負というのは、したことがない。だから…」

 

 

だから教えてくれ…!園子…!私に、真剣勝負の麻雀を…!

 

 

この日神世紀300年10月23日、早朝…乃木若葉は完全復活を果たす。

だがそれは皮肉にも、犬吠埼樹に対する怒りによって成されたものであった。

若葉は乃木家のプライド、そして園子を守るため、樹への復讐心を露にした…

 

復讐の炎に取り憑かれた若葉は、一体どんな麻雀を見せるのか…

2か月後に起こる激闘を、樹たちはまだ知る由もない…

 

 

 

第十七,五話①、完


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