犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第七話 悪薔薇にご用心

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

樹「そ、それは…!」

 

 

園子が懐から差し出したもの…それはチュンカード…5000円分…!

 

 

※神世紀の5000円は西暦の貨幣価値に換算すると、5万円以上である。

 

 

園子「ふふ…いいでしょ~」

 

樹「…で、でも自分…中学生ですし…課金とかまだ考えたことも…それに、そもそもそんな大金賭けられないっスよ…」

 

園子「いいよいいよ~イッつんはチュンカードの代わりにある権利を賭けてくれればOK!」

 

樹「ある権利?」

 

園子「たしか~ここの勇者部の顧問ってまだ決まっていないんだよね?生徒に任せるとかで…それでさ、もし私が勝ったら~…その権利を私に譲ってほしいんだけど~…」

 

風「(えっ…!?)」

 

夏凜「(は…?)」

 

東郷「(そのっち…!)」

 

友奈「(顧問の…権利…?)」

 

 

ざわ…

 

 

樹「(…なるほどね…)」

 

 

顧問ッ!

「ある組織に関与し、意志決定を行う権限を持たないが、意見を述べる役職やその役職に就いている者のことである」(Wikipediaより引用)

 

園子の目的。それは勇者部の顧問になること。

顧問とは、例えるなら部活の裏部長的存在。表には出ないものの、その組織を影で操る立場…

園子は顧問になり、裏で勇者部を操ろうとしていた…!

 

 

風「(なんてこと…乃木のやつ…めちゃくちゃ…これは認めるわけにはいかないわ)」

 

 

風がそう思うのも当然のこと。

いくら勇者の先輩とはいえ、ここでの園子はまだ新部員扱い。

新参者に顧問をさせれば何が起こるかわからない。

風は乃木を説得することを決意。

ここは先輩としての威厳を発揮する、まさに最後のチャンス。

 

 

園子「…どうする~?」

 

風「乃木、悪いけどそれは…」

 

樹「構いませんよ。受けましょう」

 

風「はっ…?」

 

 

ざわっ…

 

 

園子「ふふ…いいねいいね~そのノリ!」

 

風「ちょっとちょっと樹ー!?本気なの?もし負けたら乃木は…」

 

樹「確認しておきますが…そのっちさん。この勝負…もし私が勝てばそのチュンカード…もし負ければ、あなたがこの部活の顧問になる…ということでいいんですよね」

 

園子「そうだよ?」

 

樹「つまり、私が勝ったらチュンカードだけでは済まない…顧問の権利も同時に得る…ということ」

 

園子「…!」

 

風「…はぁ?」

 

樹「いきなり降って湧いて出たこの話…もともと、顧問の居ない部活…誰が顧問をするのか…その権利は誰にもないのだから、このギャンブル…そう捉えてもおかしくない…」

 

園子「(さすがだよ。そこに気付くなんて…でもまぁ、これくらいのリスクは承知の上…)」

 

風「うぃーつぅーきぃー…」

 

樹「お姉ちゃん。いいよね?」

 

風「樹…あんた…」

 

樹「お姉ちゃん…」

 

風「…ふぅ。まあいいわ。アタシは、あんたたちがちゃんとやってくれるのなら…それで」

 

樹「…ありがとう」

 

園子「決着の取り決めだけど、さっきも言ったようにサシ勝負だよ。これはトップ取りの麻雀じゃない。どちらかが0になるまでやるよ~」

 

樹「つまり、私とそのっちさんの点棒がなくなるまでの勝負ってことっスね」

 

園子「そうだよ~もしイッつんが私をハコ割れできれば~…このチュンカードと顧問の権利は君のもの~パフパフ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

持ち点は各25000点。東は樹、南は友奈、西は園子、北は風。

樹から見て右(下家)が友奈、正面(対面)が園子、左(上家)が風。

 

樹→友奈→園子→風→樹→友奈…の順番でゲームは進む。

 

この勝負は、樹と園子のサシ勝負。

しかも相手の点棒を完全に0にするまでのデスマッチ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

東郷「(つまり樹ちゃんはそのっちから直撃を取らなければならない…だけどこれが至難なはず。そのっちは大赦の打ち手の中でも相当の実力者と聞いたことがあるわ。他から満貫・跳満を取るよりも、そのっちから3900点取る方が難しいかもしれないわね)」

 

 

勝負開始。親は樹。その樹の第一打。

 

 

樹配牌…

{③③③68一二三四六八西中} ツモ{7}

 

 

樹「{③}」

 

東郷「(えっ…?)」

 

 

樹、手牌の暗刻(3枚)になっている{③}、その一牌を捨てる。

さらに樹、2巡目3巡目も{③}捨て。{③}三連打…

 

樹手牌…

{⑧6789一二三四六八九中}

 

 

風「…?」

 

 

みなその意図が分からない。

が、ただ1人…園子だけは察する。

 

 

園子「{④}」

 

若葉「(…!おいおい。手牌に2枚もある{④}を切るなんて…何をやっている…!?)」

 

風「(…はぅっ!そうか!並の打ち合いでは互いに直撃が取りにくいと判断して、樹は三種類ある数牌のうちあえて一種を消しにいったのね…まず樹が誘って…それを乃木が受けて立った…!一色消し…『絶一門』…!)」

 

 

お互いが一色を消して残った二色で手作りをすれば、必然的にテンパイ間際で溢れる牌は残った二色の何かということになり、打ち取られやすい。が、同時に打ち取りやすい。

振る公算も高いが打ち取る公算も高いという…言わば逃げない麻雀。足を止めての打ち合い…!

 

 

園子捨て牌     樹捨て牌

{④④⑦⑨⑧⑨}   {③③③西中⑤}

{西北九①4八}   {⑧⑥八95④}

 

 

若葉「(なんだこれは…2人とも筒子を無視した打ち回し。こうなると待ちは索子か萬子…)」

 

 

しかし13巡目…そろそろ手牌がまとまってくる頃。

 

 

樹「{②}」

 

若葉「(手出しの{②}?なんで今頃…いや待てよ…そうか、わかったぞ!樹め、初っ端からかましてきたのか!絶一門とは、ある一色を絶つということだ…必然的にその色は安全牌となる。だが、その基本を逆手にとってその色で待つことができれば、これほど効果的な迷彩はない…樹の{②}はそれを狙っていた…しかし上家が1枚、下家が2枚と{②}がすべて切れてしまった。それで仕方なく、樹は{②}単騎を諦めたのだ…今の樹はおそらく、索子か萬子の多面待ち!油断ならないな…自分から絶一門に誘っておいていきなり裏を取りにいくとは…)」

 

園子「{①}」

 

樹「ロン、一通ドラ1、5800点」

{一二三四五六七八九678①} {ロン①} {ドラ九}

 

園子「…{①}単騎~?」

 

若葉「({①}単騎…!なんて待ち…!2枚腰か!中盤いかにも諦めたかのように単騎の{②}を落としてみせ…その奥…!その奥にもう1枚隠していた{①}単騎待ち…!悪魔じみている…!こんなの中学生の発想じゃないぞ…!もぐもぐ)」

 

園子「(先輩~…ちょっとうるさいよ~…実況長いし…あと私の中で骨付き鳥食べないでね~)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

絶一門での戦い。

まずは樹が園子を出し抜く。幸先のいいスタート。

 

こうして―――

いつ終わるかも知れない2人の絶一門の戦いが始まった。

樹はそれからも、たびたび絶一門の裏をかく待ち…それを鮮やかに決めていく。

 

 

園子「{6}」

 

樹「ロン、タンヤオドラ1、2600点」

{三四五五六七②③④⑥⑥⑥6} {ロン6} {ドラ四}

 

若葉「(くっ…!また溢れ牌を狙った単騎待ち…!)」

 

園子「………」

 

 

こうした樹の変幻自在の打ち回しに、当初園子は翻弄されたかに見えた。

が、実は違う。園子のペースは微塵も乱れていない。

 

 

園子「ツモ~、發ドラドラ~…2000点オール~」

{四五①②③⑨⑨567} {ポン發發横發} {ツモ三} {ドラ⑨}

 

 

園子はマイペースでオーソドックス。

あがりも樹からの直撃にこだわらない。ツモもしばしば見せた。

そして絶一門の宿命、避けようのない溢れ牌を…

 

 

樹「{②}」

 

園子「ロン~」

 

 

打ち取る。

 

 

園子「平和一通ドラドラ~…満貫」

{一二三四五六七八九66③④} {ロン②} {ドラ6}

 

樹「………」

 

東郷「(…まあ、これは仕方ないわ…絶一門で打っていれば振り込むのは当たり前…むしろ精神的に痛いのは裏を取られているそのっちのはず…樹ちゃんの優位に変わりない…)」

 

 

同じ絶一門での戦い。

だが2人の打ち筋は対照的であった。

変化を好む樹に対して、基本に忠実な園子。

しかし徐々に差が付き…それは開いていった。

 

 

樹「{九}」

 

園子「ロン~、連風&対々和~…ふふ…満貫」

{三三三九九④④} {ポン東横東東 横999} {ロン九}

 

樹「………」

 

東郷「…樹ちゃん…」

 

夏凜「大丈夫よ…あの溢れ牌は痛くないわ…絶一門の必然…」

 

東郷「…それはちょっと違うわ。樹ちゃんはきっと、苦しんでいる…」

 

夏凜「え?」

 

東郷「私も最初…夏凛ちゃんと同じことを考えていたの。序盤の2枚腰トリックや絶一門の裏をかく戦法…なんとなく樹ちゃんが冴えている印象…事実そのっちは裏を取られていいとこなし…あがり方も平凡…でも、実際に点棒を制しているのはそのっち…」

 

夏凜「…た、たしかに」

 

東郷「互いに打ち取っている回数は同じだけれど、あがり手が違う…これは当然、樹ちゃんのような変則待ちは役が絡みにくいから、どうしたって安くなるわ。一方そのっちは、麻雀の王道を行く役が常に手牌に絡んでいる…たしかにあがり方に芸はないけれど、確実にあがったときの点数は大きい…そのっちはただ、偶発的にできた待ちで待っていただけ。狙ってやっているわけでもないから、振り込んだ方も『やられた』という印象は起きにくい。それにツモでも構わず牌を倒しているから、点数競争で樹ちゃんが勝てるわけがないわ…」

 

夏凜「樹…」

 

 

事実、その通りであった。樹は絶一門を意識するあまり、園子の待ちを見抜けないでいた。

 

 

樹「{7}」

 

園子「ロン~、タンピン三色ドラ1~…満☆貫」

{二三四23456②③④⑦⑦} {ロン7} {ドラ③}

 

樹「(うっ…)」

 

園子「(…ふふ…無駄無駄…絶一門で待ちを工夫するなんて不合理…そんなことをしなくても溢れるものは溢れてくるのに…まぁ、イッつんはせいぜい上手な麻雀をやるといいよ。私は下手でもいい…ただ、勝つ!華やかなことが好きなイッつんに、私は倒せないよ…)」

 

 

樹の攻めにも微動だにしない園子。

まさに、難攻不落の要塞。自らが掘った穴に足を踏み入れてしまった樹。

果たして、勝利の策はあるのか…?

 

 

 

第七話、完

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