魔法科高校に八雲紫が入学しました   作:歩く好奇心

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 続けてみました。前話を見ると恥ずかしくなってきた。
 タイトル詐欺になりそうで恐いですね。今話は藍が主人公です。紫を引き立てるために使ってみたけど、藍の方が個人的に書きやすかったり。紫が空気ですわ。
 



藍の編入

「家庭の事情で急遽編入することになった。

 八雲 藍だ。よろしくたのむ。」

 

 黒板にカッカッと音を立てて自身の名を刻むと、同級生となる者達に向けて一礼する。

 窓際に視線をやる。

 嬉しそうに笑みを張り付ける金髪長髪の女性が一人。

 目があった。

 視線の先の主は手を振るが、ここで振り返すのはおかしいかもしれん。

 心苦しいが無視するしかない。

 

「新学期で入学式も始まってばかりだというのに、こんな時期に編入だなんて大変ね。

 皆も仲良くして上げてね。

 それじゃ、藍さんの席だけど……」

 

 先生が空いてる席を探そうとする。

 新入生が来ることくらい事前に知っている筈だが。

 前もって席を用意しないとは、気が利かない学校だ。

 

「先生」

 

 先程目があった金髪長髪の女性がスッと手を上げた。

 

「私の隣が空いてますわ」

 

 となりの女子が驚きに目を見開かせている。

 何を驚いているのか。

 理解の遅いやつだ。

 彼女は人間であるからして、人語を解さない筈がないだろうに。

 

 私はツカツカと歩いて、彼女の前に立つ。

 

「どいてくれないか。私が座れんだろう」

 

 目前の彼女の顔は驚愕で固まった。

 

「いやいや、藍さんっ。

 何当然のようにクラスのお友達の席取ろうとしてるのっ。

 貴女の席はこっち!」

 

 先生の指す先は、私が座ろうとしていた席とは対極線に位置する。

 何を言っているのか、この教師は。

 私の座するべきところはここであると決定したというのに。 

 

 しかし、先生は有無を言わせず、彼女の定めた席へと私を座らせる。

 仕方ない。

 教師がそう言うならそうするしかなかろう。

 

 チラリと金髪長髪の女性を見やると、ハンカチを悔しげに噛んでは口をパクパク動かしている。

 何て高難度な動作なのか。

 自慢の視力と読心術をもって、口の動きをよく見ると、『裏切りもの~』と叫んでいるようだ。

 はて、文脈がまるでわからない。

 私は学生故に、ただ教師の指示に従ったまでなのだが。

 

 

******

 

 冒頭の通り、私の名は八雲 藍。

 金髪女性もとい、幻想郷の管理者、八雲 紫の従者としての肩書きをもつ。

 

 この度、私が外界へと足を運び、第一魔法科学校に編入したのは、私の主の命令故である。

 だが私は、主の留守を預かる役目があった。

 幻想郷の管理がある。

 なにより、その役目を与えたのが主だというのに。

 

 当然、そのことを指摘すると我が主

は「え、えっとぉ」と喉を詰まらせた。

 冷や汗も垂らしているようだ。

 しかし。

 どうやらそれは私の見間違いだったようだ。

 紫様は管理者たる毅然した佇まいをしていらっしゃった。

 

「外界は少し見ない内に目覚ましい変化を遂げました。

 魔法という分野に本格的に手を出したのよ。

 本来ならば有り得ない人類の選択によって、人間は今まさに幻想的な存在に近づきつつあるの。

 これは幻想郷の脅威になりうる可能性を秘めているわ。

 だからこそ外界の調査が必要なのよ。

 内側のことなら専門家に任せておけばいいわ。

 賢い九狐の貴女に、これ以上言葉は必要かしら?」

 

 紫様に連れられ、外界へと足を踏み入れた。

 私は目を見開いた。

 

 世界が魔力に満ちている。

 

 人間は別名でサイオンとも呼ぶらしい。いずれにせよ、人間が魔力の源、魔素を認識したということに他ならない。

 ほんの百年前までは欠片も見当たらなかったというのに。

 魔素とは妖怪という存在と同様の概念であり、人間に認識されて初めて存在することができるのだ。

 この世界の変革の始まりには一体何があったのだろうか。

 矮小な分際でありながらも、その人間という存在に謎が深まるばかりだ。

 

「なるほど。紫様のおっしゃる通り、これは看過するには些か度が過ぎるようで。

 紫様。人間共に一体何があったのでしょうか?」

「あら、話を聞かない子ね。

 これからその謎を解き明かしにいくんじゃない。」

 

 魔法。

 それは人の身にはすぎたる力だ。

 それだというのに。

 眼前の世界が、目に見える街並みが、肌に感じる雄大な魔力が、既存の考えを壊していく。

 

「…………私の知らない内に、一体人間に何が」

 

 そしてその崩壊こそが、私の胸の何かを刺激した。

 

 

 

******

 

 編入による自己紹介を終えて、筒がなく一時間目を終えた。

 休み時間。

 私の席の周りには同級生となるクラスメイト達が集まりだした。

 編入生、転入生にはお約束というやつだろうか。

 姓名が学年筆頭の八雲と同性ということもあり、様々な質問の嵐が私を通りすぎる。

 

「ねぇねぇ、藍さんも八雲さんみたいに凄い魔法使えたりするのっ?」

 

 一人の女子生徒が目を輝かせる。 

 その生徒が言うには、ある授業で紫様が火炎系の極大魔法を使用したらしい。

 そしてその余波により、司馬深雪とやらの者の氷系魔法を一掃するような事態になったとか。

 元より、私も知っている。

 我が主自身が「歴然たる格差を知らしめるため」と私に誇らしげに豪語したのだから。

 

『オホホッ。あの司馬深雪の驚愕に満ちた顔と言ったらっ。

 井の中の蛙を太平洋に放り投げてやった気分ね。

 世界を知った小娘を見るのはたまらないわ。

 これに懲りたら、今後は慎ましくして、あんなちんけな氷魔法で頭に乗らないでほしいものねぇ』

 

 あの日はとてもご機嫌で饒舌だった。 

 文脈を察するに、主は司馬深雪という人物を敵視しているのだろうか。

 

「私も、八雲さんの実力を目にしてとても感服致しました。

 魔法の処理速度に干渉規模、どれをとっても本当に素晴らしいものです」

 

 極自然に黒髪長髪の女子生徒が会話の輪に入ってきた。

 どうやら彼女が我が主が敵視していると思われる司馬深雪のようだ。

 紫様の口からその名が出てくるだけはある。

 凄まじい魔力量の持ち主であった。

 現代の人間とは、個人でここまでの力を有するというのか。

 

「いや、残念ながら私は至って平均的。

 自慢できるのは精々一般教科ぐらいだな。

 紫様と比べるなど烏滸がましいことだよ」

 

 そう。これはこの学校で計測して初めて知ったが、私はそこまで魔力が高くなかった。

 少なくとも眼前の司馬深雪は私を遥かに越える魔力量の持ち主だ。

 加えて、パッと周囲を感知してみた限り、私を同等以上のものは何人もいるようだ。

 妖力と魔力は違うということか。

 少なくともここでは、妖怪の源である妖力はあまり意味はないらしい。

 この世界と妖怪の体は相性が悪いのか、私自身本来の力が感じられない。

 

「藍さんって八雲さんと同性だけど姉妹なの?

 顔立ちは似てないけど、外人さんで同性なんて滅多にあるもんじゃないしっ」

「それに紫様って言ってるよな。

 敬称つけて呼ぶだなんて、まるで召し使いや家来って感じだぜ」

「私は養子なんだ。

 従者としての教育も受けてね、紫様は私の大切な主にあたる。

 それと義理の両親にはとてもよくしてもらっているんだ。

 魔法科高校なんていう特別な学校にも通わせてもらってる程だ」

「素敵です。いいご両親をお持ちなんですね」

「八雲って名前は初めて聞いたけど、きっと魔法の名門家なんだねぇ。憧れるな~」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 チャイムが鳴った。

 

「じゃあ、藍さん。次の休み時間も話そうねっ」

 

 次の授業を受けるべく、周囲にいた同級生達は慌ただしく自身の席へと戻っていった。

 じゃあまた、と手の合図をする者もいるので、私も同様に合図を返した。

 

 

 

*******

 

 

「どうして貴女は人間と仲良くしているのかしら、藍。

 一端の妖怪でも、もう少し矜持を持つわよ」

 

 昼食の時間だ。

 そして食堂に連れ出して開口一番にこの一言である。

 一瞬何を言われたのか理解できず、つい目をパチパチとさせた。

 

「どうして、と言われましても。

 私は外界の人間の生態、及び文明発達の程度について情報収集することを任務として承りました。

 それ故に紫様に同行していますゆえ、目標完遂のため、特段間違った行動はしていないかと……」

「そんなことを聞いているんじゃないのよ私は。

 私はね、節度の問題を指摘しているの」

 

 はて。紫様は一体何をそんなに憤慨して青筋を立てているのか。

 ただ人間と関係を築いているだけだというのに。

 有りたいに言えば、仲良くしている訳だが。

 しかしこれは、情報収集の基本である。

 学校だと尚更だ。

 

 しかし、我が主は違うと断言する。

 

「仮にも学年総代の同家であり、従者として肩書きがあるのよ。

 今の貴女には気高さが欠けてるわ。

 全く、矮小な人間風情と戯れるなんて、妖怪の風上にも置けないわね」

 

 言葉の棘が一向に収まる様子がない。

 むしろ、どんどん機嫌が悪くなっていっているようだ。

 これは説教に入る流れである。

 話題を変えたほうがよさそうだ。

 

「そういえば、紫様は放課後生徒会に呼ばれていましたね。

 一般的に学校で生徒会に呼ばれるなんて滅多にないのではないでしょうか。

 職員室や生徒指導室ならまだわかるのですが」

「……へぇ。私の可愛い従者の目には、私がそんな辛気臭いところに呼ばれるような素行がお下品な輩に見えるというのね。

 知らなかったわぁ、貴女が私をそんな眼で見てただなんて」

 

 薮蛇だったか。

 主の背に凍える吹雪が舞っているのは、私の見間違えだろうか。

 次の授業まで40分。

 これから迫り来る猛狂った稲妻に、私は覚悟を決めた。

 

 

 

******

 

 

 放課後。私は紫様の命令で生徒会まで付き添うことになった。

 ちなみに、紫様の機嫌は治ったようだ。

 

「あらあら、これは奇遇ですこと。

 司馬さんも生徒会に呼ばれましたの?」

 

 生徒会室前にて、司馬兄妹とばったり出くわした。

 司馬深雪には兄がいたのか。

 記憶を掘り起こせば、先日紫様の話にも出ていた気がする。

 校門前で一悶着あったとか、そんなことを言っていた気がする。

 

「ええ。八雲さんも呼ばれたのですね。

 というより、私は少しそんな予感はしてましたけど」

「お兄様も一緒ですのね。妹さんのお守りですか?

 フフフ。

 貴方達はいつも一緒にいますわね。

 よく噂を耳にしますが、仲のよろしいこと何よりですわ」

 

 皮肉なのだろうか。

 ふと、彼の肩口に視線をやって私は気づく。

 そうか。彼は2科生(ウィード)か。

 なら、お笑い草だ。

 ウィードの分際でお守りなど。兄など関係ない。

 またこの年齢になって妹離れが出来てないなら尚更指摘の的だろう。

 

「フフッ」

 

 今のは私だ。

 つい鼻を鳴らしてしまう。

 

 ピクリと、極微かに司馬兄の眉が動いた気がする。

 

 対する妹は「仲がいいなんてそんなぁ、私達はただの兄妹で、そんな特別な関係なんて……」と、自身の体を抱いてくねらせている。

 

 これはトリップというやつなのだろうか。

 

 美人は何しても許されるというが、それでも限度があるだろうに。

 彼女の場合は、人形染みた容貌に加えて飛び抜けた才覚も伴うことから、その許容範囲も人並み外れたものになるだろう。

 しかしだ。

 それでもやはり限界はあるようだ。

 今の彼女は誰がどう見てもすべからく引かれる。

 現に、私は引いた。

 

「なに、俺も呼ばれただけさ。

 それに、俺は2科生だ。1科生次席の深雪に俺みたいなお守りなんて必要ないさ」

「あら、そうでしたの。

 いつも一緒なんで、ついそう思ってしまいましたわ」

 

 紫様は扇子で口元を隠し、クスリと微笑む。

 我が主ながら、意地の悪い人だ。

 

「それに………

 俺達はただの兄妹さ。それ以上でもそれ以下でもない。

 これくらい距離感が普通さ」

 

 そう言うと司馬兄は、隣の司馬妹の肩をを片手でぽんと置くと、妹の体を引き寄せた。

 必然的に顔もさっきより近くなる。

 というよりも、見合わせている状態だ。

 司馬妹は頬を赤く染めて「お、お兄様、いけません」とあわあわしている。

 

 何なのだろうか、これは。

 この、普段は無愛想だが、ここぞという時のふと見せる不器用な微笑み、みたいな司馬兄の妹に向ける微笑みは。

 まさに、兄の優しげな笑みというやつだ。

 わざとやっているのか、それとも自然にやっているのかが判別がつかない。

 

 む?

 隣の主にふと目を見やると私は冷や汗を垂らした。

 浮き立つ青筋に、ヒクヒクと上げる口角。

 断言しよう。

 紫様は完全にキレておられた。

 

 当然といえば当然。 

 眼前で恋人よろしく、仲睦まじくいちゃつく二人の世界を見せつけられたのだから。

 彼ら兄妹が意図してやったかは別としてだ。

 

「……定刻は過ぎたようだ。つい油を売りすぎてしまったな。

 早く室内に入るとしよう。

 先輩を待たせるのも失礼にあたるだろう」

 

 私は三人を促すべく、扉の柄に手を掛けて、生徒会室へと足を踏み入れた。

 三人が後ろに続く。

 ……何とか紫様の堪忍袋の緒は切れずにすんだようだ。

 

 

 

******

 

「どうかしら。

 八雲さんに深雪さん。生徒会に入って頂けないかしら?

 生徒会は有望な人材を欲しています。

 二人の入試成績を拝見して、とても将来が期待できると確信しました。

 まだ会って間もないけど、受け答えもしっかりしているし、生徒会は貴方達にとってもぴったりの役割だと思うの。

 きっと損にはならないことは、私が保証します」

 

 生徒会一室。

 私は紫様の隣に座り、生徒会長の話に耳を傾けていた。

 要約すれば、紫様には新入生総代として生徒会に所属してほしいとのことだ。

 それはこの学校の伝統であり、義務でもあるらしい。

 

 伝統というなら仕方ない。

 郷に入らば郷に従え。

 私は是非入るべきだと進言したいが、紫様はどう思われているのだろうか。

 

 

「ええ、構いませんわ。

 上に立つ者としての責任と誇りをもって、生徒皆様方のため、引いてこの学校のために、学年総代としての誠心誠意勤めを果たすことをお約束致しますわ」

 

 迷いなく言い切る紫様。

 扇子を優雅にたたむ仕草も相まってか、一生徒とは思えない貫禄さが様相を呈していた。

 

 流石である。

 唖然とした生徒会共の顔を目にして、私も一従者として誇り高い気持ちだ。

 フフンと仄かな愉悦に浸る私。

 

 しかし、ふと見れば違和感を感じる。

 生徒会側の二人。生徒会副会長の服部刑部と、風紀委員長の渡辺摩利と言ったか。

 微妙そうな、やや苦い表情をしている。

 何故なのか。

 

「お兄様、私………」

「深雪、自分の意思で決めるんだ。

 ……それに、深雪はもっと自信を持っていいと思う」

「はい。

 ……私も学年次席として生徒会の任を預かりたいと思います。 

 未熟者ですが、よろしくお願いいたします」

 

 司馬深雪も入るのか。

 

「ホントに!?

 やったぁ!!二人とも入ってくれたぁ!!

 よかったぁ、これでもう、生徒会は安心ね」

 

 他者を導く指導者として素質は感じられないが、その身に内包する尋常でない力は上に立つ者の資格があると言えよう。

 

 まだ会って半日。

 しかし人望はあると断言できよう。

 彼女の周りには多くの人間が群がるのを、私は何度も目にした。

 

「あ、あの」

 

 誰だ。

 見れば、司馬妹がおずおずと手を上げている。

 そして何か決意したのか、膝の上の拳をぎゅっとする。

 まだあるのか。

 私はそろそろ夕飯の買い出しに行きたいのだが。

 

「兄の、兄の入試成績を生徒会長はご存知でないでしょうかっ」

「……深雪」

 

 なぜここで司馬兄の名前が出るのか。

 彼は冷静な面持ちを崩さないが、やや焦りを感じる。

 というより、彼はここに何をしに来たんだ?

 今までまったく話題に上がらなかったが。

 

「生徒会は有能な人材を所望していると、先程おっしゃられました。

 兄は私以上に優秀な方です。

 であるのならば、兄を生徒会に加えることはできませんでしょうか?」

 

 ………………………何だと。

 

 事前に調べたこの学校の経歴と、同級生達の話を加味するに、生徒会というのは各学年の首席が並ぶ傑物揃いと聞いた。

 生徒会役員は生徒会長が選任するとも聞いたが、毎年新入生総代を迎える校風だ。

 大方、首席か次席あたりの面子がそろうだろう。

 だというのに、そこに。

 2科生を。ウィードを加えると、司馬妹は言っているのか。

 

「そんなことは許されない!!」

 

 ダンッと机を叩き立ち上がる者が一人。

 生徒会副会長、服部刑部。

 彼は私達が部屋に入った直後から、司馬兄に対し快くない視線を送っていたな。

 

「そこのウィードが生徒会に加わるなどっ。

 その席に居座るだけでも烏滸がましいというのに。

 魔法力の低い補欠が生徒会に所属を許すなど、生徒会の威信が地に落ちます」

 

 彼は一種の選民思想をもっているようだ。

 よっぽど我慢ならないのか、かなり感情が爆発している。

 

「そんな!

 兄は入試成績で魔法実技こそは芳しくありませんが、魔法理論や魔法工学等、他の科目は満点の実績を出しております」

「服部副会長。風紀委員長である私の前で、そのような差別発言とは。

 いい度胸だな」

「事実を言ったまでです。

 現体制は魔法力の実力主義です。

 魔法力の低い者は上に立つ資格もなければ、支持するに値すらしない存在です。

 ウィードは生徒会に所属する資格はありません」

「そんなことっ…」

 

 司馬妹が悔しげ拳を握ると、声を張り上げた。

 

「服部副会長の言う通りですわ」

 

 ………え。

 

「紫様!?」

「はぁっ!?」

 

 我々は完全に部外者だというのに。

 肩入されるのが予想外といったようで、服部副会長も驚いているではないか。

 我が主の横槍で更に話が迷走しそうだ。

 ……今何時なのだ?

 

「2科生は生徒会に所属する資格はありません。

 これは規則に定められていますわ。

 秩序を管理する立場を担う私達が、秩序を乱す真似など言語道断です。

 嘘だと思うのでしたら、生徒手帳をお見えになって頂けるかしら」

「そんな……」

「八雲さんのおっしゃる通り、これは規則で定められています。」

 

 生徒会会計の市原鈴音が、八雲の言葉に肯定の意を示す。

 

「生徒会の構成部員は1科生より選任しなければなりません。

 2科生の入会を望むのでしたら、生徒総会にて規律の改定を立案し、審議を通して、多数決によって決議される必要があるのです」

「お分かりになったら、引き際を弁えなさいな。

 これ以上お兄様に恥を欠かせるものではありませんわ。

 ウィード(2科生)の面子を配慮して差し上げることこそが、兄への最大の献身ですわよ。」

「…ッ!

 貴女は知らないのですっ。お兄様の本当の実力をっ……」

「深雪、止せ。」

 

 俺は気にしていない、とでも言うように司馬兄は僅かな笑みを妹に向けている。

 司馬妹は堪えるように歯を食い縛った。

 

「お騒がせして申し訳ありません。

 立場は弁えているつもりです。

 俺はただの2科生です。

 魔法実技での力量不足については、重々承知しています」

 

 司馬兄は中々の気苦労を抱えているようだ。

 あのような重い妹をもつ兄は大変だな。

 妹の過度の期待が耐え難いに違いない。

 司馬兄が自らの力量を弁えていることが、せめてもの救いか。

 

「八雲紫。

 新入生総代であろうと、露骨に2科生を揶揄するような発言は、私の目が黒い内は許さんぞ。」

 

 もう話は済んだ。

 そろそろ帰り支度をするか。

 全く。もう5時を回っているではないか。

 

「私も生徒会長として今の発言は看過できません。

 差別発言は規則にて固く禁止しています。

 八雲紫さん。司馬達也君に謝罪して下さい」

 

 先程までやんわりとした雰囲気を醸していた生徒会長、七草真由美が無機質な口調でいい放つ。

 

 

 ……………この人間は今なんと言ったのだ?

 

「規則を重んじることを諭した手前です。

 勿論、八雲さんならしっかり謝意を示して下さいますね」

 

 

 

 

「貴様。誰にものを言っている」

 

 私は席を立った。

 我が主と司馬兄の二人以外は、全員が目を見開いて私を見ている。

 終始口を閉ざして静観していたせいか。

 だが、今の私にはそんなことはどうでもよかった。

 

「偉大なる我が主、紫様がウィードと後ろ指指される者に頭を下げろなどとは。

 笑止千万だ。

 そんな形骸化している禁則事項のために、さげる頭などあるはずがない。

 紫様の頭蓋を軽く見るなど、侮辱に値するぞ」

「……藍。素か知らないけど、貴女の方が私を馬鹿にしてないかしら」

 

 冷め止まない怒気を言葉とともに発する。

 私は規律を重んじる傾倒にある。

 郷に入らば郷に従おう。

 禁則の理屈は理解している。

 差別発言の罰として謝意を示す。

 なるほど。

 罰や償い。はたまた、許しを乞うにしろ、それで済むならなんと軽いことなのか。

 

 しかしだ。

 それには限度があり、私には役割がある。

 優先順位がある。

 紫様の従者である私は、紫様を優先する責務があるのだ。

 

「こんなあってないような禁則のために、我が主の畏怖を汚すなど、断じてあってはならんことだ」

「八雲藍さん。禁則は禁則です。

 新入生総代の八雲さんであろうと例外ではありません。

 たとえ貴女が何を訴えようと、私は意見を変えるつもりもありません」

「強者が弱者に頭を下げるなど、器が下がるっ。

 どう着飾ろうが、魔法科高校は実力主義。そして、歴然たる格差と序列があることは明らかだ。

 ブルームとウィードなどと、根強い差別意識こそがその証。

 そこの雑草に頭を下げる道理はないっ」

「今の発言、取り消して下さい!!

 兄への侮辱はこの私が絶対に許しません」

 

 この小娘の言葉には道理が見られない。

 なぜ紫様が。

 ましてやこの私が。  

 あんな少量の魔力しか感じられない凡愚に謝意を示さねばらないのか。

 紫様でない貴様が、私に指図するな。

 

「それに、兄は凄いお人なのです!

 断じて貴女なんかに咎められるようなお人ではありません。

 魔法実技だって、既存の評価基準が誤っているだけで。

 実践では兄に敵うものなどおりません!!」

 

 司馬妹は飛びかからんばかりの勢いだ。

 その瞳には凄まじい敵意が燃えている。

 

「ほとほと聞き苦しい言い分だ。

 痛々しさすら覚えるな。

 木刀で剣道はできなくとも喧嘩はできると自慢する不良気取りか。

 一体どれ程の人間が貴様の言い分に耳を貸してくれるのか、教えて欲しいものだ」

 

 しかし。

 私は止まらないし、止められない。

 止まることが許されない。

 我が主の畏怖を汚すことは、何人たりとも許すことができん。

 

「ふん。

 出来の悪い兄が、妹のおこぼれを預かろうと小判鮫の如く、すがっているのかと思えば。

 兄妹離れが出来てないのはどうやら貴様のようだ。

 その顕著な依存を見せる貴様に付き合う貴様の兄には恐れいったぞ」

「貴女のような下劣な邪推をする人が同じクラスだなんて、残念極まりありません。

 唯一の家族を。

 大切な兄を貶されて怒ることの、一体何が悪いと言うのですか!!」

「私は貴様らに払えるなけなしの敬意を示してやったまでだ。

 貴様の悪質な妄想癖に付き合う貴様の兄が、その期待にどこまで応えてくれるのか見物だな」

「貴女はッ……」

 

「そこまでだ!」

 

 

 私と司馬妹の間に第三者の手が遮る。

 司馬兄こと、司馬達也だ。

 今まで何一つ口を挟まなかった輩が、一体何の真似なのか。

 私はギロりと睨み付ける。

 

 しかし、司馬兄は私の視線など何でもないように受け流した。

 

「八雲藍さん。

 俺と模擬戦をしませんか?」

 

 突然何を言っている。

 見れば、彼の瞳は憤怒の色で染まっている。

 その言葉に、私は本気の色を感じとった。

 

「前置きもなく下克上とは。

 雑草に作法の理解は些か難しいようだ」

「格下相手ならいくら罵っても礼儀に恥じないというなら、程度が知れている。

 理解するまでもない」

「妹の尻拭いのつもりか。

 老婆心ながらに忠告しておくぞ。

 小細工で勝利を臨むのであればやめておけ。

 万に一つも勝算はない」

「いらない世話だ。

 さっさと用事を済ませたら帰るつもり

だったんだがな。

 大事な妹に妄想癖があるなどと難癖つけりたらたまったものじゃないさ。

 深雪の名誉ために、貴女を倒すまでだ」

 

 つまらない男の意地と正義感で向かってくるとは。未熟な。

 無力さを噛み締める度量もないところ、所詮子供ということか。

 

「よかろう。

 ウィードの何たるかを身をもって知るがいい。わっぱが」

 

 




 感想待ってます。今後の執筆に生かすためにも、辛口評価でもとてもうれしいです。
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