よろしくお願いします。
転生したての頃は覚えていたが、この世界に転生して早十五年。既に前世の記憶はあまりない。
俺の名はヴラド。いまの俺は人間ではなく不死身の怪物―吸血鬼―
この世界では魔族に分類される生物だ。
「若君、お時間です。」
「わかった…、すぐ行く。」
「下でお待ちしております。」
吸血鬼。怪力に魔眼、変身能力に再生能力をあわせ持つ夜の王たる種族。
俺は両親の遺伝子がよかったのか、顔立ちはまぁイケメンの部類に入ると思う。長い黒髪をポニーテールのように纏め、人間と比べると若干蒼白い顔には灰色の眼が鈍く光る。
背も高く、鍛えているため引き締まった身体を黒い衣装で包み長く伸びた爪は深紅に染まっている。
転生先としては大当たりだと思う。
今日俺は前世でいう成人式の日を迎える。
吸血鬼の成人式は人族の街へと行き、処女の生き血を飲むことだ。
殺す必要はないが吸血衝動があるため吸い加減が難しく、相手が死ぬまで飲んでまうことも珍しくないらしい。
今日俺が向かう街は人口一万人くらいで、この世界の人族の街としてはまぁまぁの規模だ。
その街の名をウィンダムという。
俺は二階にある自室をでて階段をおり、玄関まで進むと執事の老人から外套を渡される。
「若君…現在ウィンダムの周辺に眷族を複数配置しております…、万が一人間に見つかりましたら全力で街の外へ離脱してください、若君が撤退する時間を稼ぎますので。」
「…ありがとう、だが心配は無用だ、万が一などあり得ない…それに見つかった所でただの人間にどうこうされるほどお前たちの主は弱くないよ。」
すると執事の老人は腰を九十度曲げて、頭を下げてきた。
「差し出がましいことを…申し訳ありませんでした。」
「いや、いいんだ。お前は私を気遣ってくれたのだろう?…忠言、留め置く。」
俺への忠誠心からくる言葉だ、ありがたい。
俺は館の外にある馬車に乗り込むと、御者に出発を促す。
「では若君、くれぐれもお気をつけて。」
「うむ、行ってくる。」
目的の街まで歩けば二時間かかる道のりも、馬車で行けば半分の一時間で済む。
吸血鬼は人族と変わらない外見をしているので、堂々と街の正門をくぐり中に入る。
「ようこそウィンダムへ、今日はどんなご用で?」
正門をくぐると門番に声をかけられる。
正直に処女の生き血を飲みに来ましたとは言えないので、あらかじめ決めてあった話をする。
「東の港町からこの街の名産である果実酒を獣人大陸の貴族に献上するため、仕入れに来た。」
俺は馬車の窓を開けて門番に答える。
「ウィンダムの果実酒は有名ですからな、わかりましたお通りください。」
特に怪しまれることもなく街の中へ入ると、ちょうどこの街の衛兵隊が街の外へ出て行く所だった。
「街の外でブラッドウルフが出たらしいぜ」
「吸血狼が?…珍しいな、まだ昼前だぞ。」
出動する衛兵隊を見ながら道端で露店商とその客が話している声が聞こえてきた。
(…陽動はうまくいっている様だな…)
眷族達を街の外でうろつかせ、街の衛兵隊を分散させる作戦が順調であることを確認し、馬車を街の中央道の脇に場所に停める。
馬車から降りた俺は人混みに紛れて歩きだす。
事前に部下にめぼしい標的を探させていたので、俺は迷うことなく目当ての屋敷の前に到着した。
ウィンダムの真ん中を貫く大通りに面した大店。
゛バーバラ商会゛の会頭の一人娘が今回のターゲットだ。
いま俺は店の裏手にある会頭宅の、隣の家の屋根に上がり標的の二階の窓を見ている。
この時間会頭の娘は自室で寛いでいるはずだ。部下からの報告ではそう聞いている。
ターゲットの存在を確認した俺は、体内に魔力を働きかけながら標的の家に向かって飛んだ。
地面から離れた俺の身体は一瞬でカラスへと変身していた。何度やっても不思議な感覚だ。
確かに翼をはためかせ空を飛んでいるのだが、俺としては普通に歩いている気分なんだよなぁ。
更新は不定期ですのであしからず。