「心配せずとも殺しはしない、ただ少しだけ話しを聞いて欲しいのだ。」
俺はいま標的の屋敷内への侵入を果たし、部屋にいた女性を背後から拘束している。
「いま口を覆っている手を退かすが、叫んだりしないで欲しい。」
できれば殺しはしたくないが、誰か呼ばれては困るので適当に脅しておく。
彼女は最初震えていたが、こちらに危害を加える意図がないことを理解したのかコクコクと頷きを返してきた。
「ありがとう、おとなしくしていれば手荒なまねはしないと誓うよ。」
俺は彼女の拘束を解き、手を取りながら窓際へとく。
「…あ、あなたは…何者ですか…?」
「ただの泥棒です。」
「えっ…!」
一度言ってみたかった前世の有名な泥棒の台詞を喋ってみた。
彼女を椅子に座らせ目の前に跪く。
「どうかこの哀れな泥棒めに盗まれてやってはくれませんか?」
「えっ…えっ?」
彼女は困惑気味だ。無理もない、いきなり部屋に入ってきて拘束されたあげく、こんなことを言われては状況が読めないだろう。おふざけはこのへんで。
「嘘ですよ。」
「なっ…」
俺がそう告げると彼女は一瞬不機嫌な顔を見せるが、すぐにまた元のように震えだした。
俺が鋭く尖った牙をみせたからだ。
「…私は吸血鬼です。あなたの血を頂きに参上しました。」
「…ひっ…吸血…鬼……!!」
「ご安心を、先程も言いましたがおとなしくしていれば手荒なまねはいたしません。」
「でっ…でも、吸血鬼ということは…その…」
彼女はそう言うと俯いてしまった。
血を吸われる所を想像してしまったんだな。
人間が知識として持っている吸血鬼の伝承は次の通り。
怪力無双で色々な種類の魔眼を持つ
様々な動物に変身し霧にも変わる
不死身の肉体をもち満月の夜には全能力が倍加する
女性の特に処女の生き血を好み残忍な種族
魔族に分類される怪物で最強種族の一角
聖銀の武器や神聖な武具でないと効果的なダメージにならない
等々、ほかにもあるがまぁこんなところだ。
大体あっているが、種族全員が残忍なわけではないし穏健派も少なからずいる。
それに処女の生き血を好む訳ではない、成人の犠に必要とされる血が処女の生き血なだけで、普段はその辺のおっさんの血でもいいんだ。
俺は俯く彼女の耳元で囁く。
「大丈夫痛くはない、すぐに終わる。」
俺は彼女の頭に手を置き呪文を詠唱する。
「深き森の乙女よ、汝、静寂を好みし者よ、その震える右手で深き眠りに誘いたまえ。」
呪文が完了し魔法が発動すると、彼女は眠りに落ちた。
俺は懐から注射器を取りだし彼女の腕から血を取り出す。
「すまなかったな、注射痕は消しておくから。」
静かに寝息を立てる彼女をベッドに寝かせ、俺は屋敷を出た。
「お帰りなさいませ、若君。」
「ただいま。」
あれからすぐ街を出た俺は自身の館へと帰って来た。
「して若君…血の方は…?」
「うむ、此にある。」
俺は懐から注射器で抜きとった血を小瓶につめたものを老執事に渡す。
「おめでとうございます。これで叙爵も受けられますな。」
吸血鬼の貴族の子弟は成人を迎えないと爵位が与えられない。いままで俺はただのヴラドだったが、これからは父の爵位を継ぎヴラド伯爵となる。
「もう若君とは…呼べませんな、…これからは旦那様とお呼びいたします。」
「そうか…だが寂しくなるな。」
老執事と俺は静かに笑い声をあげた。
「……ん?…誰か来ているのか?」
「はい。本家からマリー様が成人の祝いに。」
「叔母上が?」
廊下を進んでいると客間から声が聞こえてきたので老執事に聞くと、本家からの客人がいるという。
俺は一度自室へと戻り身嗜みを整えてから客間に向かった。