Re:一方通行は肩を並べる   作:藤木裕太

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遅れました。
すいません。


貧民街と盗品蔵

町の外れの川をまたぐ橋の上で、その情景には不釣り合いな白髪の少年が石造りの橋に体を預けて物思いに耽っていた。

 

「──はァ」

 

ため息の後、腕に引っ掻けたビニール袋から缶コーヒーを取りだし、一煽り。

 

彼は川の水のせせらぎを眺めていた。

 

「うわー…、あれどーするよ」

 

「えっと、私はああなっても仕方ないと思うけど…」

 

「アクセラレータってああいうことを気にする方なんだね。僕はもう少し周りにさばさばした感じだと思ってたな」

 

「と言うかさ……──」

 

一方通行を遠巻きに見守る2人と1匹。

 

それに気がつかない一方通行は、ふと自分の今の気持ちを顧みて、更にため息を一つ。

 

なぜこういう状況に陥ったのか、それはこの場所へ来るまでの出来事。

 

 

 

 

 

少女やスバルが捜索として店員などに声をかけて歩いているが、結果が奮わなかった。

 

そうして無為に過ぎていく時間と、ビックリするくらい小声でしか喋らないスバルに苛立ちが募り、こう言ってしまった。

 

 

──クソ使えねェ奴らだなァ! オレにやらせてみろ!

 

 

そうして応対を譲られた一方通行が、2人を引き連れて幾つかの店に立ち寄り、自ら疑問を投げ掛けた。

 

 

『おい、オマエ。金髪のガキを見なかったか?』

 

『──ッ! ひっ…』

 

『おい、オマエ。金髪のガキを…──』

 

『──す、すすみませんでしたぁぁ!!』

 

『……おい、オマエ。金髪の…──』

 

『す、すいません何も持ってませんから見逃して─っ!!』

 

 

そこまでは覚えていた。

 

気づけば橋に寄りかかって流れる水に視線を預けていた。

 

一方通行はダメージをおっていた。

それは、自分のレッテルを知った者たちから受ける恐れよりも遥かに強い攻撃力を秘めていた。

 

──そんなに怖ェ顔してンのかよ…。

 

もしや、学園都市でも力のために畏怖されているのかと思っていたものが、もしかしたら顔のせいで怖がられていたものだったのか──。

 

自分と周囲の見解の相違に再びため息をついていると、横からの声を耳がとらえた。

 

「そんな落ち込むなよ、アクセラレータ…。例えどんなに顔が厳つくて雰囲気がおどろおどろしくて変な配色の服着てても、大事なものって──心、だろ?」

 

サムズアップで歯をきらめかせるスバルに、一方通行は射殺さんばかりの視線を向けた。

 

「あァ…?」

 

そんな視線をものともせずに、スバルは何かの感情を押し込めているかのような微妙な表情で言葉を続ける。

 

「その人間の良いところってのは、関わりの深さで気づけるもんだ。俺たちはお前の良いところをまぁ…、5個くらい? は知ってるけど偶然出会ったあいつらは全く知らないわけだから、顔からその人となりを知ってく必要があるわけで、あの反応も仕方ないことなんだよ。お前もあの人たちも悪くない」

 

スバルの言わんとしていることは、つまりは落ち込むな、と言うことなのだろうか。

 

一方通行は他人に慰められている自分、という現状に情けないとため息を一つこぼし、顔を川へと移した。

 

そんな様子を見て、何を思ったのかスバルは決心したような顔つきで一方通行の肩に手を置いた。

 

慌てて反射の適応からスバルを外した一方通行は、スバルの突然の行動に疑問を持ち、顔を向きなおした。

 

そしてスバルの一言。

 

「つまりだな…ぶふっ、お、俺が言いたいこと、は……くくっ…」

 

何かを抑えようと言葉を紡ぐスバルを見て、訝しむ一方通行は、ふと少女に目を向けると、やけに真剣な眼差しで膨らんだ口を抑えている。

パックはにへらーっと宙に漂っていた。

 

何だ、とスバルをもう一度見た時、スバルは口を開いた。

 

 

 

「お前───メンタル弱すぎね?」

 

 

 

 

「は?」

 

その言葉に思わず疑問を浮かべた一方通行だが、スバルはその一言を皮切りに耐え抜いたとばかりに笑い声を轟かせた。

 

吹き出す声が聞こえてそちらを見ると、少女もお腹を抱えて笑っている。

 

何も知らない一方通行からすると、奇妙な光景だった。

 

「…オイ何が可笑しいンだ」

 

するとスバルは興奮冷めやらぬ、と言った感じに言葉を途切れ途切れ紡いだ。

 

「い、いや、それはな? …くふふっ、いきなり俺が声かける、とか言い出したお前が…ぅぶふっ! ことごとくビビられた挙げ句センチメンタルに川なんて覗き込んでたからよ──くくくっ、ひー、疲れた」

 

少女もこくこくと頷き、パックは未だにへらーっと笑っている。

 

──つまりは、馬鹿にされていたのだ。

 

 

「────」

 

一方通行は無言でスバルに詰め寄る。

 

「…ん、どうした──だふぅっ!」

 

そして、渾身の手刀をお見舞いした。

 

その一撃に悶絶して地面を転がるスバルを無視し、少女の側にも寄る。

 

「ま、待って! 話せば分かるんじゃないかな…。 ううん、分かり合えるんじゃな──ぅきゃんっ!」

 

これまた脳天に直撃し、少女は頭を抱えてうずくまった。

 

「──うぅっ、スバルにやらされただけなのに……」

 

「ちょっと、この子はそんなノリの子じゃな──い!?」

 

少女がうずくまったのを見て、パックが一方通行に詰め寄るが、その頭を掴まれる。

 

「──オレが落ち込ンでるわきゃねェだろォがっ!!」

 

そう叫ぶと、パックを掴んだまま右に左に揺さぶった。

 

「あうあうあうあう──」

 

数秒間揺さぶった後に、パックを手放し再び橋に寄りかかった。

 

飲みかけのコーヒーを飲み干し、レジ袋に詰め込む。

 

 

異世界は、一方通行にとって初めての経験ばかりだ。

 

 

色眼鏡で見られず、自分を恐れない人間が居て、そうかと思えば顔でビビられ、こうして人とじゃれ合う。

 

いくら一方通行が冷静でなかったとは言え、スバルが本当に元気付けようとしていたことくらい理解している。

 

「ちッ、してやられた。クソが…」

 

スバルの策略に嵌まって、こうして胸のもやもやを晴らされてしまった。

 

アクが強すぎるがましな人間、と一方通行はスバルを評価し、やっぱり甘やかしすぎない方がいいなと締めくくった。

 

「おいオマエら、休憩なんざしてねェでさっさと捜さねェと日が暮れンぞ」

 

一様に、うぅー、と唸りを上げる。

全員が頭を抱えていて、ダメージが未だ抜けていないことを表している。

 

「まだ手掛かりすら掴んでねェだろうが。時間無いんじゃねェのかよ」

 

一方通行の手刀をいち早く受けたスバルが先に復帰し、よろよろと立ち上がって一方通行に向く。

 

 

「──お、お前が落ち込んでる間に、貧民街って手掛かりは掴んでるんだけどな……」

 

「────」

 

 

2度目の手刀の鈍い音と、悲鳴が川辺に響き渡った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「んで、貧民街ってとこに来てみた訳ですけどー?」

 

しばらく進んだのちに、教えられた辺りまで歩いてきた一方通行たち。

 

立ち止まる時間も、赤くなってきた空を見て、惜しく感じたのか、辺りを見回しながら貧民街を進んでいく。

 

ここから先は、本当に未知数なので再び聞き回るしかなさそうだ。

 

だが。

 

「…なんだか、私たち避けられてる?」

 

「前例もあるわけですし、アクセラレータにビビってんじゃないんですかねぇ?」

 

「あァ? そう言うのとはまたちげェ感じだろォが。触らぬ神に──ってかァ?」

 

 

出会う人々が、こちらを邪推な目で見て体を隠す。

 

何人かは特に反応を示さない者もいるが、それでも少なくない人間に拒絶されている。

 

「つっても、聞かなきゃ分かんないしなぁ…」

 

スバルは必死に人を探すが、屋内にこもっているのか

、人の姿が見えなくなっていく。

 

少女とスバルが悩んでいる姿を見た一方通行は、極小の可能性をひたすらに懸念していた。

 

──まさかこれも俺の顔かァ…?

 

それとは形質が違うと分かっていてもその事を疑わずにはいられない。

 

顔で恐れられたという現実が、一方通行の思考の邪魔をする。

 

そうして彼は、2人から少しだけ間を開けると、前方に見えてきたT字路を見据えて口を開いた。

 

 

「こっから2手に分かれねェか? 時間も無い。オレとオマエらでそこの分かれ道から別で探すほォが効率がいい」

 

 

その一言に顔を会わせる2人。

 

「いや、避けられてるのはお前の顔のせいじゃ──」

 

「──えっと、片方が見つけたらどうやって報告しあうの?」

 

タイミングを分けて話した2人の台詞は、フォローと質問。

どちらも肯定ではなかったが、少女は若干肯定的なようだ。

時間がないと言うのを理解しているのか。

 

考えていなかった質問の打開策を巡らせていると、助け船が向こう岸から聞こえてきた。

 

「僕が君たちのパスになれば問題ないよ」

 

 

少女の肩口に現れたパックは、そう言うと一方通行の方へとふわふわ漂ってくる。

 

「でも、パック…時間とか……」

 

「あと30分くらいで消えるけど、少しくらいの延長なら大丈夫。あ、危険にさらされた時はすぐに駆けつけるから、ちゃんとスバルで時間稼ぎしててね」

 

「そう…? パックが頑張れるなら、私はいいけど」

 

「ちょいちょい!? その計画だと何かあればこの俺が真っ先にどうにかなっちゃうんですけど!?」

 

「えー、やれないの?」

 

「やれるよ! 本当に何かあったらこの子を守りつつパック様を待たせていただくこと山の如しだよ!!」

 

「…俺でも意味分かんねェよ」

 

その言葉をものともせず、スバルが、やってやるぞと息巻き、少女がその様子に肩をすくめる中、T字路に着く。

 

「そんじゃまぁ、手掛かりというかもう本人見つけたら、パック携帯でこの子に知らせるって形で!!」

「私たちは北の道を行くから、アクセラレータとパックは、東の道をお願いしようかな」

 

「了解ー」

 

「さっさとっ捕まえて宿でもとらねェとなァ」

 

 

こうして、4人(3人と1匹)は2手に分かれた。

 

人に出会って、声をかけるを繰り返すスバルたちと、それをしづらいので、論理的に犯人の同行を探る一方通行たち。

 

 

犯人までは、後もう少し。

 

 

◆◆◆

 

 

 

ぼろぼろの平屋のような家が立ち並ぶ貧民街を、一方通行とパックは静かに歩いていた。

 

 

盗まれたのは宝石のついた徽章、そんな大きなものではないはずのそれが大勢の中、偶然狙われる可能性は低い。

 

もちろん偶然の可能性もあるが、宝石付きの徽章であるなら金品に換えられるかもしれないと考えるのが普通だ。

 

 

「──あらかじめ誰かに依頼されて盗んだか、はたまた偶然盗ったか、だな。後者だと、なンか返金出来るような所にでも持ってくのが普通だろォな……。前者でも、仲介者や依頼主と会う必要がある……」

 

 

まとめた考えを言葉にして、次にとる行動を改めて考える一方通行。

 

盗品を扱うような、裏の商売をやるには貧民街は隠れやすかろう。

そこまで考えて、盗品を扱う店を探そうかと方針を固めた。

運が良ければ仲介の仕事もやっているかもしれない。

 

その時、隣を漂うパックがゆるりと口を開いた。

 

「そんな物騒なところに一人で行けるの? アクセラレータ」

 

貧民街で、盗品を取引する店。

確かに字面だけ見ると、物騒なことこの上ない。

 

だが、こと一方通行に限って言えば、そのような心配など無意味である。

 

「はッ、この俺がそこいらの格下相手にどォにかなるわきゃねェんだよ。最強は俺だ」

 

ふとよぎるものがあった。それは学園都市での記憶。

 

だが、それを記憶の奥に追いやって、すっとんきょうなことを言うパックに軽口を叩く。

 

「……さっき絡まれてた時もやけに脱力してたけど、それに関係してるの?」

 

「あァ…それか。どう言ったもんか……」

 

自分の能力、『一方通行(アクセラレータ)』の説明をどうしたもんかと少しの間沈黙。

 

 

「──あー、俺の魔法(・・)はそこいらの雑魚と比べると格が違ェんだよ。文字通り傷一つつけらンねェ」

 

 

それは、先程の路地での会話を踏襲していた。

 

パックに、魔法というものや精霊というものが存在することを聞いた。

 

一方通行が学園都市の能力だと思っていた氷の力も魔法によるもので、能力開発などは知らないという。

 

いま、無駄に学園都市の説明をして、時間を潰すわけにはいかない。

 

それならば、魔法と言うことで納めてしまおう。

 

 

「ふーん、強いんだね、アクセラレータ」

 

それの答えに、パックは興味無さそうに返事をする。

まるで、一方通行の言葉を戯言と受け取ったかのように。

 

だが、そのことに一方通行はなにも思わず、むしろ掘り下げられて変に時間を使うよりもいい、とまで思っていた。

 

 

そして同時に、一方通行は焦りを覚えていた。

 

「──結局声かけなきゃなンねェのかよ…」

 

「僕は普通に声かけたらいいと思うんだけど?」

 

「ビビらねェやつを探すか」

 

これならば別れる前と同じことしかできないな、と一方通行は辺りを見回し、人がいないことに再三ため息をつく。

 

「…こりゃ本体を探した方が早く見つかりそォなくらいだな」

 

そう言うと一方通行は、貧民街でも更に薄暗い通りへと足を運ぶ。

 

そういう種類の人種とは、得てして暗い方へと居住を移していくものだ。

 

「初めてきた君が見つけられるほど浅いところにあるものなのかな~、っと……──おや?」

 

暗い路地へと足を踏み入れた2人。

入って少し歩いた辺りでパックは言葉を止めた。

 

その理由は2人の前方。

 

 

「へへっ、また小綺麗なやつが来やがったもんだ」

 

「出すもんだしな、じゃねぇと……わかるよな?」

 

 

二人組の男が一方通行を見て、怪しい笑みを浮かべていたからだ。

 

 

「……なァ。俺が見つけられねェとか何とか言ってたよな」

 

「うん。言ったね」

 

「──はッ、いきなりヒットしやがった。ゴールへの案内人がよォ…」

 

一方通行とパックは目を見合わせて笑みを作りあっている。

そんな様子をみて2人の男は、訝しげな目を向けるも、危機察知能力は働かなかったようだ。

 

「何言ってっかわかんねぇけどよ、覚悟は出来てんな」

 

「やられたくなかったら身ぐるみ全部置いてけ、兄ちゃんよぉ」

 

そのままじりじりと距離を積めてくる。

 

その様子を見つめて、深く暗い笑みを浮かべた一方通行は静かに呟いた。

 

 

「オマエらが、死なない程度に情報を持っていることを祈るぜェ…?」

 

 

「うーん、彼も乗り気だしお手並み拝見…かな?」

 

 

危なくなったら助けてあげようと言うパックの考えを無視した蹂躙が、始まった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「盗品蔵ねェ…」

 

先程であった男2人が、親切にたくさんの情報を話してくれた。

 

追い剥ぎなんてやっているくらいだから、当然盗品を捌くような店と通じていると予測したが、的中した。

 

その男たちの話に、金髪の少女の名前まで出てきたことは儲けものだろう。

 

場所についてはあながち遠すぎる訳ではない場所にあるらしく、丁寧に道順まで教えてもらった。

 

 

そしてそこに向かう道中、パックは何らかの方法で少女と連絡を取ったようで、向こうの2人も盗品蔵を目指して歩いている最中らしかった。

別れる意味がなかったとも言える。

 

しかも向こうの方が早く掴んだと言うのだから、恥ずかしさすら込み上げてくる。

 

「それにしても強かったねー、アクセラレータ」

 

「あァ…?」

 

しょげている一方通行は、パックの言葉に咄嗟に返答できなかった。

 

「石ころドーン! 手刀ズドーン! 骨ボキーッ! だもん。圧勝だったね」

 

「…アイツらが雑魚だからだろ。まァ、誰が来ようが負けねェンだがな」

 

先程の蹂躙を思い出す。

 

地面の石を飛ばし、近づいてチョップ。

これで終わった。

蹂躙とすら呼べない稚拙な一幕だった。

 

げんなりとした様な一方通行を横目で見て、パックは静かに言った。

 

 

 

 

「──これなら、リアを任せられるね」

 

 

 

 

「あン…? リア?」

 

「信じてるから、何かあればあの子を守ってよ。あとスバルも」

 

 

あの少女はリアと言うのか、と言う疑問をぶつけようとした一方通行は、パックの方を見て言葉を紡ぐのを躊躇した。

 

半透明になり、若干元気が失せているパックの姿はまさに絶命寸前、といった様子だった。

 

 

 

「──消えるときは大体こんな感じさ。それより、盗品蔵に。スバルたちが着いたみたいだ」

 

「…タイムリミットってか。まぁ寝とけ、ガキは寝る時間だ」

 

「えー、僕の方が、年上だぞー…」

 

 

 

その言葉を最後に、パックは今生の別れのように姿を消した。

それが一時的なものだと知っていても、一方通行はパックの消えた虚空を少しだけ眺め続けた。

 

 

「──…いくか」

 

 

 

眺めた虚空が夜のとばりに包まれ始める。

一方通行は能力を行使して、移動する速度を上げた。

 

 




引き続き感想待ってます。
遅れて申し訳ねぇ…。

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