ヴァレリア生まれ死者宮育ちのオウガさん   作:話がわかる男

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シリアス警報!

★前半部分の説明がやや複雑なので、後書きに三行まとめを置いてあります。


009 - Cornerstone

 王都ハイム。旧ヴァレリア王国の中心であり、バクラム陣営の本拠地でもあるこの王都では、戦火から逃れようとする住民達がひっきりなしに往来し、皮肉な事に旧王国時代に匹敵する活況を見せていた。

 その中心部にある三重の堀と城壁に囲まれた堅牢な王城は、ドルガルア王の威容を示すように王都を睥睨する。しかし、その重厚な外見とは裏腹に、城内もやはり浮足立った空気で満たされている。

 

 バクラム陣営のトップであり、バクラム・ヴァレリア国の摂政であるブランタ・モウンは、執務室の豪奢な椅子に腰掛けながらイラつきを隠せずにいた。全ては思い通りに動かない暗黒騎士団と、あの忌まわしいゴリアテの虐殺王のせいだった。

 ブランタはついに痺れを切らし、椅子から立ち上がって声を張り上げる。

 

「誰かある!」

「……はっ!」

 

 呼ばれて扉から入ってきたのは、ブランタが重用する騎士の一人。ドルガルア王の時代から王国に仕える名家、グランディエ家の嫡男であるラティマー・グランディエだ。ハイム城の第一護衛隊を率いている、忠誠心の高い男だった。

 

「まだデニムは見つからないのか!」

「はっ! カヴール卿の極秘探索隊からは、まだ連絡はありません!」

「くっ……、彼奴め、どこへ消えたというのだ……! 彼奴が『死者の宮殿』とやらを目指して単独で城を出たというのは、確かな情報なのだろうな!」

「はっ! 反乱軍内部の協力者からの情報ですので、確度は高いものかと……」

「……ぐうう! 絶好の好機だというのに!」

 

 ブランタがその情報を耳にしたのは、暗黒騎士団の首領であるランスロット・タルタロスと同席している最中だった。戦況が芳しくないにも関わらず一向に動こうとしない暗黒騎士団に、いい加減腹を据えかねて抗議していたのだ。

 『ウォルスタ解放軍』と名乗る反乱軍は、今や破竹の勢いで勢力を拡げている。気がつけば、ネオ・ウォルスタ解放同盟と合流し、ガルガスタン軍を打ち破って吸収し、一大勢力となっていた。ウォルスタなど所詮は弱小勢力にしか過ぎないと軽視していたブランタは、今や完全に追い詰められつつあった。

 反乱軍の指導者である『ゴリアテの虐殺王』、デニム・パウエルは、ブランタにとっては仇敵と言える存在にまで膨れ上がっている。まさしく、デニムの孤立は値千金の情報と言えた。

 

 この好機にタルタロスは暗黒騎士の派遣を提案してきたが、ブランタはそれを一蹴した。都合の良い時だけ動こうなど虫酸が走る。なにより、奴らの意図が透けて見えていたからだ。デニムの確保という功績による、後のヴァレリア統一王国への影響力の確保…… つまり、ローディス教国はヴァレリア内部への干渉を狙っているに違いない。

 そもそも、ローディスに助力を要請したのはブランタ自身だったが、今ではそれが完全に足枷になりつつあった。思うように動かない戦力など、役に立たないにもほどがある。

 さらにブランタの頭痛の種となっているのは、暗黒騎士団の存在によってバクラム軍内部に不満が広がりつつある状況だった。元々、旧貴族階級の多いバクラム人は選民意識が強く、ブランタ自身もそれを後押ししてきた経緯がある。外から来たローディス人など、不和の元にしかならないのだ。

 

 ブランタがこれまでしてきた事、全てが裏目となっていた。

 

「おのれ……! おのれぇ、デニムゥゥ! 裏切り者めぇぇぇ!」

 

 あの日、二十年前。

 

 当時は一神父に過ぎなかったブランタが、ドルガルア王と侍女マナフロアの間に生まれた赤子の存在を知ったのが全ての始まりだった。名をベルサリア。カチュアとして育てられる事になる落胤である。

 赤子を利用して王妃に取りいれば、司教、枢機卿、いや、大神官の地位も夢ではない――そう考えたブランタは、出産後に死去したマナフロアの元から赤子を引き取った。

 

 ブランタの実の弟であるプランシーとも共謀し、赤子を預ける事にした。プランシーは最近、実子であるカチュアを幼くして亡くしており、赤子をカチュアとして育てさせれば好都合だと考えた。

 

 そうして、ブランタは思惑通り権力を手にし、フィラーハ教トップだった大神官モルーバの排斥に成功した。さらに王妃の血縁にあたるエルテナハ家の嫡子を傀儡とし、一国の摂政の地位まで登りつめたのだ。

 あとは目障りなガルガスタンのバルバトス枢機卿を排除し、ドルガルア王の遺児であるカチュアを利用すれば、ヴァレリア王国の実質的なトップに立つのも間近だった。

 

 それなのに。

 デニムの存在によって、全ては水泡に帰そうとしている。

 

 弟プランシーはブランタとの関係を隠すため、妻の姓であるパウエルを名乗り、ウォルスタ人として港町ゴリアテに移り住んだ。そして、妻との間に一人の男児を授かる。

 男児はすくすくと育ち、血のつながりのない姉を慕う、立派な青年へと成長する。名を、デニム・パウエル。またの名をデニム・モウン。

 

 そう、デニムの父親はモウン姓を持つバクラム人であり、デニム自身にもまた、バクラムの血が流れているのだ。ブランタとデニムは、叔父と甥の関係にある。

 

「バクラムの血を穢し……あまつさえ同胞に刃を向けるなど……! なんたる不埒! なんたる傲慢! 許さぬ! 許さぬぞ、デニムゥゥゥ!!」

 

 ブランタは目を血走らせながら、机に拳を打ちつける。そばに控えたままの騎士グランディエは、その様子を見てバクラム・ヴァレリア国の未来を憂う。

 だが、高潔な騎士を理想とし、職務に忠実な彼は、何も言わぬまま佇むのだった。

 

--------------------

 

「明日、我らは出陣する! 目指すは王都ハイム! 外患を誘致し、王妃の血縁者を傀儡とし、権力をほしいままにしようとするブランタ枢機卿こそ諸悪の根源であり、この内戦を引き起こした張本人である!」

 

 デニムの演説が高らかに響き渡る。

 

「忘れるな! 我々の敵はバクラム人という民族ではない! 我々が打ち倒すべきは、既得権益に固執し、民を戦場に追いやる醜悪な権力者達なのだ! 決して無抵抗の者に危害を加えてはいけない! 決して略奪行為を行ってはならない! これは、我々が『ヴァレリア人』として一つになるための、正義の戦いなのだ!」

 

 彼の演説は堂に入っている。聴衆である兵士達は、誰もが顔を紅潮させて舞台上のデニムを見上げていた。やはり最後の決戦ともなれば、テンションは否が応でも高まるのだろう。

 俺はその様子を、少し離れた木陰から眺めていた。相変わらずフードをかぶったままなので、目立ってはいないはずだ。俺はあくまで影に徹するつもりなのだから。にんにん。

 

 それにしても、正義の戦いかぁ。そんな言葉がただの方便だって事は、デニム自身が一番わかってるだろうな。なにせ、無抵抗の同胞達を虐殺し、武力蜂起にまで追いやったのはアイツ自身なんだし……。

 でも、歴史は勝者が作るもの。地球の歴史を掘り返せば、似たような事なんて山ほど起きているんだろう。当事者でもない俺が、偉そうに上から目線で言える事など何もない。俺ができるのは、さっさと戦争を終わらせて、デニムを重圧から解放してやる事ぐらいだ。

 

「我々が確固たる信念をもって一つになれば、大国の干渉など容易に弾き返せるはずだ! ヴァレリアの未来のために、我々は一つにならなければならない! そのためには、この戦いに勝利し、ヴァレリアに平和をもたらすのだ! ヴァレリア万歳! ヴァレリアに栄光あれ!」

「ヴァレリア万歳!」

「覇王デニム万歳!」

 

 兵士達の熱狂は最高潮となった。彼らは口々にヴァレリアとデニムを讃え、万歳を繰り返している。中にはデニムを『覇王』と呼ぶ声もあった。彼らからしてみれば、このままデニムがヴァレリア王国を背負って立つ国王となることは既定路線なのだ。

 俺はそれを聞いて物凄く憂鬱になる。英雄の次は覇王か。一体、デニムはいつまで走り続ければいいのだろう。彼は己の人生を『大義の礎』とする事が運命づけられているのだろうか。

 

 わかってはいたさ。戦争を終わらせて『めでたしめでたし』とはいかない事ぐらい。ヴァレリア王国としてまとまるには、これから先も指導者が必要になる。影響力を閉めだされたローディス教国だって、黙って指を食わえて見ているわけがない。

 デニムは責任感の強い奴だ。民衆が望むなら、王として上に立つ事ぐらいやってのけるだろう。これまで大義や勝利のために犠牲にしてきた者たちのために、今度は自分自身の人生を犠牲にするだろう。

 

 でも、それでデニムは幸福なんだろうか。

 

「シケた面してんなぁ」

「……貴殿は……」

 

 ふと気づけば、すぐそばに先ほどの有翼人が立っていた。どうやら俺はよほどにショックを受けていたらしい。普段なら、気付かずにこんな距離まで近づかせる事はない。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。オレはカノープス。『風使い』と呼ばれている。あんたはデニムを連れ帰ってきた奴だろ?」

「……ああ。俺はベルゼビュートだ」

「よろしくな、ベルゼビュート。いや、面倒だな。ベルって呼んでいいかい?」

「好きに呼んでくれ」

 

 カノープスは屈託のない笑顔を浮かべている。ただの『ベル』とは、こやつできるな。俺に気づかせずに近づいてきただけでなく、俺の懐にまで入り込もうとしている。

 

「ベルはアイツの事が心配でついてきたんだろ?」

「……そうだ」

「わかるぜ。オレもよ、アイツの事は見てらんねぇ。けどよ、見てないと危なっかしくてなぁ」

「…………」

「大義のために自分を捨てて信念を貫く……か。まったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだな。……ハハッ、でもそれを黙って見てるオレが、一番の大馬鹿者ってわけか……」

 

 少し俯いたカノープスは、どこか自嘲めいた笑みを浮かべている。第一印象ではノリの軽いアンちゃんという感じだったのだが、どうも見た目より思慮深くて人生経験は豊富そうだ。

 ここは一つ、俺の考えを話しておくか。

 

「……俺はデニムを馬鹿だとは思わない。ヤツは、ヤツなりに努力している。選んだ道が間違いなら、周りが正してやればいい。だが、何が正しいかなど、結局は歴史が決める事だ。デニムが最善に導こうとしている以上、俺はそれを助けるだけだ」

 

 俯いていたカノープスは、俺の言葉を聞いて徐ろに顔を上げる。その表情はなぜか驚いているように見えた。無口キャラっぽい俺がこんなに長文を喋ったからかな?

 

「……あんた、良い奴だな」

「む?」

 

 なんだかカノープスの俺を見る目がキラキラしている気がする。

 ちょっと待って、だから男には興味ないんだってヴァ!

 

--------------------

 

 カノープスの元から逃げ出した俺は、練兵場までやってきていた。まさか自分が逃げる立場になるとは思わなかったぜ……。こんなに危機感を覚えたのは、何年ぶりだろうか。不死身だからって、何でも大丈夫ってわけじゃないんだよ! ラミアさん助けて!

 

 出撃前に最後のトレーニングをしようと考えたのか、それともデニムの演説に触発されたのか、練兵場は兵士達で溢れている。かろうじて訓練するほどのスペースは確保できているが、みんな窮屈そうだ。

 それにしても、結構使っている武器がバラバラなんすねぇ。剣や槍はもちろん、短剣や斧、鉄の塊のようなハンマー、フェンスをよじ登ってダイビングボディプレスを仕掛けて来そうな『かぎ爪』など、バリエーション豊かだ。

 変わったところでは、ピシンパシンとムチを振るっている女性兵までいる。女王様かな? あっ、そういう趣味はないので結構です……。

 

 端っこに作りつけられた射撃場では、弓や弩を打っている兵士達がいた。止まっている標的を狙ってるけど、動いている相手にちゃんと当てられるのかな。もし必要なら、俺が動きまわる標的役をやってもいいんだけど。どうせ刺さらないしな。

 俺も槍を練習しようかと思ったけど、ちょっとスペースが足りないですね……。下手すれば、周りを吹き飛ばしたり、カミナリが落ちてくるからね。仕方ないね。

 

 あきらめて戻ろうと思った時、ここ数日で見慣れた銀髪を見つけた。

 

「やっ! はぁっ! せいっ!」

「…………精が出るな」

 

 俺が声を掛けると、舞うように剣を振るっていたラヴィニスはピタリを動きを止める。次に、油の切れたロボットのようにギギギとこちらを振り返った。

 

「……ベ、ベルゼビュート殿……!」

「すまない。邪魔をするつもりはなかったのだが……」

「いえっ! 大丈夫です!」

 

 ラヴィニスはなぜか慌てた様子で、髪の毛をいじくったり、服を整えたりしている。さすがは女の子、身だしなみは常に忘れないんだなぁ。

 

「な、何かご用ですか?」

「いや、特にない。ただ、貴殿を見かけたから声を掛けてみただけだ」

「ええっ!? そ、それは……こ、光栄です」

 

 ラヴィニスは目を逸らしながら答える。全く光栄そうに見えないんですが。やっぱり、俺みたいな不審者に声を掛けられたら警戒するよなぁ。くすん。

 

「あ、あの……ベルゼビュート殿、もしお時間がおありでしたら……一手、御指南頂けないでしょうか?」

「む? 俺なんかで練習相手になるだろうか?」

「私が遥かに格下なのは自覚しております。ですが、ベルゼビュート殿の武の極みに、一歩でも近づきたいのです。ヴァレリアの真の平和のために……」

「……そうか。俺で良ければ相手になろう」

 

 うーん、俺って正式な武術なんて知らないし、ぜんぶ独学なんだよなぁ。人に教えるなんて、出来そうもない。そもそも、身体のスペック頼りなところが大きいし。練習相手には向かない気がするけど。

 でも、ラヴィニスの頼みなら聞くしかないな! ラヴィニスに頼まれたら暗黒騎士団の一つや二つ、ぶっつぶしてやんよ! ばっちこいや!

 

「では――――」

 

 ラヴィニスは中段に構えた突剣を、突き出すように放ってきた。かなり洗練された動きだったが、動体視力で捉える事ができる。

 あー、突剣ってスケルトン達が時々使ってきたな。プスプス突かれて痛かったのを覚えてる。懐かしいなぁ。あの時は確か、こんな風に……。

 

「なっ!!」

 

 俺は腕を突剣とすれ違うように突き出して、そのまま突剣を巻き込むように回転させる。俺の腕に巻き取られた突剣は、そのままラヴィニスの手から離れて宙を舞った。

 そうそう、スケルトンの突剣はだいたいこんな風に対処してたっけ。やっぱ相手の武器を取り上げるのが、一番手っ取り早いんだよなぁ。

 宙を舞った突剣は数秒後に重力に導かれて自由落下し、俺の手に収まった。

 

「……素手で……」

「突剣を使うなら、もっと隙をなくした方がいいだろう。突きは重心を移さずに、急所を連続で突かれた方が避けづらい」

 

 そう言いながら、奪った突剣を使って連続で突いてみる。もちろん、スケルトン達の剣技を見よう見まねでやってみただけだ。俺が対処しづらかった攻撃をアドバイスしてみた。まあ、素人剣技だけど、スケルトン達は俺とやる度に武器の扱いが上達していったので、参考になるかもしれない。

 

「…………おみそれいたしました」

「む? そうか」

「槍だけでは無かった……この分だと他の武器も……。一体どれだけの努力をされたのかしら……。やはり何度も死にかけたというのは、誇張ではなかったのね……」

 

 ラヴィニスは頭を下げたまま、ブツブツとつぶやいている。ちょ、ちょっと怖いんですけど。

 

 ふと気が付くと、周囲がしんと静まり返っていた。

 

「……あのラヴィニス隊長が……?」

「俺見てたけどさ、何が起きたのかわからなかったよ。気づいたら、剣が奪われてたぜ」

「相手は一体何者だ……? 顔がよく見えないが……」

 

 ザワザワと騒ぎが大きくなりはじめた。あかん。目立つつもりはなかったんや!

 俺はフードで顔を隠しながら、慌てて踵を返して練兵場を後にした。

 

 あっ。突剣かえすの忘れてたぁ。

 




敵サイドと味方サイドでした。
作者の技量不足で、どうしても説明が冗長になってしまいますねぇ……。許してつかぁさい!


★三行まとめ
・バクラムのトップ、ブランタは王様の庶子カチュアの存在を利用して成り上がった。
・デニムの父親プランシーは、ブランタの実の弟。カチュアを王女と知りながら預かって育てた。
・プランシーの実子であるデニムは、ウォルスタ人ではなくバクラム人。


【摂政ブランタ】
バクラム・ヴァレリア国の摂政(実質的なトップ)であり、フィラーハ教の有力者。
己の力量で、作中屈指の成り上がりっぷりを見せる。ぐぅ有能。
しかしデニムの登場によって全てご破算に。デニムはブランタにひどいことしたよね。

【大義の礎(いしずえ)】
デニムの父、プランシーの遺言
「おのれを棄てろ……、大義の為のいしずれとなれ……。
 現実をきちんと見すえて、よりよい選択肢をえらぶのだ……。
 おまえは……次の世代のために道をつくるだけでよい…………それを……忘れるな……。」

(作中には出せなかったので、ここに書いてみました)

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