悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件   作:Rosen 13

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愚者の末路

 時は一ヶ月前。天界。

 

「あの女、やっとくたばったか。まったく手を煩わせおって」

 

 白髪の老人がカカカと不気味な笑い声を上げながら、持っていた杖で痛快そうに地面を叩いていた。

 

「あの忌まわしき神殺しの魂が現れて苦節二十数年、色々邪魔が入ったがようやく死んでくれた。これで儂に害を及ぼす存在はもういない。結局神殺しなんぞ神である儂には勝てないのだ。嗚呼愉快かな愉快かな! 」

 

 老人――神の笑い声は止まらない。笑いすぎて転んでしまっても笑う笑う。

 

「やはりミカエルの転生は効いたのお。奴の魂の強さで神殺しも周囲の魂も歪みおったわ。結局は儂が殺したんじゃけどなケケケ。ミカエルが阿呆で良かったわい」

「ほう……誰が阿呆ですって?」

「うひゃああ! ミ、ミカエル!? お、脅かすでないわ」

 

 耳元に声をかけられた神は驚いて飛び上がる。後ろを振り向くと能面のような表情をしたミカエルが立っていた。

 

「さっきからいましたよ。それよりあなたが神殺しを殺したと聞こえましたが」

「ふん、そんなことか。相手が神殺しなんだから当然のことをしたまでじゃ。何か問題あるか?」

「問題だらけです。原則として我々天界の者が下界の生死に介入することは禁止されてます。トップであるあなたも例外ではない。それにあなたは以前から神殺しに干渉していましたね。『システム』をアクセスすれば簡単に証拠が集まりましたよ」

 

 ミカエルが証拠らしき紙束をちらつかせる。自信ありげな表情から見てブラフではなさそうだった。

 

「それを寄越せ!」

 

 嫌な予感がした神は紙束をミカエルから強奪し、中身を確かめる。

 

「馬鹿なッ、何故調べられた! 貴様のアクセス権限ではここまで調べられないはずだろう!?」

 

 紙束には神が『システム』を悪用して誕生前の神殺しの魂を削ったこと、ミカエルを意図的に東城家に転生させ神殺しの運命を歪めたこと、そして強引に因果律を歪めて神殺しを殺したことを示す内容が事細やかに記されていた。

 

「それに答える義務はありませんよ。神よ、この事は天界を揺るがす事態だ。あなたのせいでどれだけ下界に影響が出るか……」

「ふん、天使風情が偉そうに。仮にこれが事実として貴様は何を望む?」

 

(この期に及んでまだ認めないか。性根が腐っているな)

 

 不貞腐れたようにそっぽ向く神を内心軽蔑するが、表には出さないようにひたすら無表情を貫く。

 

「あなたは神としてふさわしくない。あなたの身柄を拘束してダイダロスの迷宮(ラビリュントス)に幽閉します」

「貴様が儂を幽閉させるだと? きひひひひっ、笑わせてくれる。そんな事が可能だと思っているのか。だとしたら貴様は儂を侮りすぎだ!」

 

 不意を突くように神の掌から光の槍が飛び出し、ミカエルの喉元へ向かう。

 

(証拠を出された時は焦ったが、奴は所詮天使。神である儂の攻撃は避けられまい)

 

 だが次の瞬間、神の目論見は見事に外れてしまう。

 

「不意討ちですか。あなたらしい卑劣な手段ですね」

 

 ミカエルは涼しい表情で神が放った槍を片手一本で掴んでいた。

 指先で槍の先端を神の方へ向けるとそのまま神の胸元にひと突き。

 

「馬鹿な……何故……」

 

 何故ミカエルは自分の攻撃を容易く防いだのか、そして何故自分がミカエルの攻撃を防ぐことすらできなかったのか、薄れゆく意識の中で神はこの疑問で頭がいっぱいだった。

 

「分からないって顔ですね。なに、簡単なことです。度重なる神殺しの魂への干渉の代償であなたは神としての力を完全に失っていた。神の力と相反する神殺しの魂に干渉しておいて代償がないはずないでしょう。だから神に次ぐ実力をもつ私に勝てなかった。ただそれだけです」

 

 ミカエルは沈黙した神を一瞥する。かつて天界のトップとして君臨した姿は、今では萎れた老人でしかない。

 

「自身の力すら把握できてないとは随分と耄碌しましたね。以前のあなたならこんな過ちを犯さなかった」

 

 かつての栄光を知る者として神の末路には同情できないが、憐れみの念はあった。

 

「死んではいないみたいですが、このまま放置もできませんね」

 

(現在、神の不在を知っているのは私だけ。もし最近サボりまくっていた神が消えても誰も気にしないはず。ならば)

 

「ふふっ、ちょっと利用させてもらいますか。と、その前に美波を転生させなくてはなりませんね。彼女には何の非もありませんから」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ということですよ。さて、そろそろ準備しときますか」

 

 話し終えたミカエルはどこからか人が一人入るくらいの四角い白い箱のような物を取り出した。

 

 だが白い箱に対してつっこむ気力がないほどラファエルの顔色が悪い。天界への襲撃に、『システム』の正体、そして今まで知らなかった神の悪行と情報量の多さとショックが大きかったことが原因なのか、色白だったラファエルが今では真っ青を通り越して土色に変化していた。

 

『ザー……ザー……』

 

 打ちのめされたラファエルにある連絡が届く。

 

『ザー……こちらザー……こちらガブリエル。ザー……ミカエル、ラファエル聞こえるか……』

 

 襲撃者の撃退を行っていたガブリエルからの無線だ。今まで音沙汰がなかった天界軍からの知らせにラファエルは気力を取り戻した。近くにある無線機をとると急いで話しかける。

 

「こちらラファエルです! ガブリエル、戦況はどうなっていますか。戦況はどうなっていますか」

『ザー……ザー……ザー……』

 

 回線が悪いのか雑音が邪魔してよく聞こえない。集中して耳を澄ますと、全ては拾えなかったが間違いなくこう聞こえた。

 

『天界軍壊滅。指揮官のウリエル、戦闘部隊長を務めたグレゴリは全員戦死。別地点の部隊とも連絡とれず』

 

 最悪の結末だった。よく聞くと向こう側から天界軍のものらしき断末魔の叫びが聞こえる。だが悪夢はこれだけでは止まらない。

 最期にあることをラファエル達に伝えると、ついにガブリエルからの連絡は途絶えた。

 ガブリエルがもたらした最期の情報はこうだった。

 

『敵の正体は……クトゥルフだ』

 

 身体から力が抜けて膝から崩れ落ちる。絶望でもう何も考えられなかった。

 

「嘘でしょ……クトゥルフなんて勝てるわけないじゃない」

 

 ぼそりと呟いたラファエルの一言をミカエルは聞き逃さなかった。

 

「ククク、アーッハッハッハッ! やっぱりこうなりましたか! まあ、神殺しが活躍するということは相手は神であるのは当然! むしろ天界軍がここまで粘ったのは称賛に値します。彼らが時間を稼いでくれたおかげで十分な時間を得られました。しかし神殺しの相手が邪神とはいいセンスをしていると思いませんか!」

 

 ミカエルが嗤う。その顔は天使とは思えないほど邪悪なものだった。

 

「ミカエル……何を?」

 

 もうラファエルの知っているミカエルはいない。目の前にいるのは取り出した箱らしき機械をつないだコンソールを、嗤いながら一心不乱に打ち続ける狂気の男だ。完全に目がイッている。

 

「これで……これで完成だ。……ああ、ラファエルちょっといいですか」

 

 再びラファエルに視線を向けた時にはミカエルの顔は普段通りに戻っていた。

 

「これは異世界への転送装置です。あなたにはこれを使って異世界へ飛んでもらいたいのです」

「異世界転送……信じられない、そんなことが可能だって言うの?」

 

 これまで異世界に行く方法は徳を積み重ねて転生するしかなかった。それでも転生先や世界はランダムで、一番良くても微生物に転生が限界だった。だがミカエルの装置は転生せずに異世界へ行くことができるというこれまでの常識を覆すような夢の発明だ。

 

「理論上では可能です。時間がないので簡単に説明しますね。まず対象者をこの装置につないで魂をいちデータとして変換。対象者の意識が消失しますが、それは無事にデータ化できている証拠なので安心してください。データ化を確認した後『システム』を使って確認可能の異世界に座標を固定。そして莫大なエネルギーを利用して魂ごと異世界に転送します。向こうに着いた後はデータとデータに刻まれた肉体情報をもとに再構築するはずです。……多分」

「多分!? 今多分って言いましたよね! 」

「大丈夫ですよ。実験してないだけでおそらく成功します」

「実験もしてないのにどこが大丈夫なんですかあああ!」

 

 泣きながらミカエルの襟元を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。

 

「大丈夫ですって。問題だった莫大なエネルギーも神をエネルギー源にすることで解消しましたから!」

「は?」

 

 低い声を出して、ぴたりとラファエルの動きが止まった。ミカエルは内心言わなければよかったと後悔しているが、もう後の祭り。

 恐る恐るラファエルの様子を見ると、彼女の目は据わっていた。

 

「いえ、だから本来なら天使数百体分のエネルギーが必要なところを神格を失ってただのエネルギー体だった元神をこの機械に捻じ込んで代用したんですって。具体的には抵抗されないように四肢をもいで、脳髄にドリル状のプラグを突き刺し「ストップストップ! もういいですって! 」……そうですか」

 

 何故か残念そうにするミカエル。話している最中、イイ笑顔になっていたことは指摘しない。

 

「じゃあ時間がないのでさっさと送りますね」

 

 そう言って機械を動かし始める。するとラファエルの足元から青く光る魔法陣が浮かび上がってきた。

 

「えっちょっと! 私の意見は無視ですか!?」

「ここに残ったところで死ぬのがオチですよ。邪神からは逃げられません」

「じゃあミカエルは……」

「グッドラックラファエル。さようなら」

 

 スイッチを押すとラファエルの身体が光り、やがて空気に溶けていく。

 

「いや、私を置いてかないで! ミカエル! ミカエルゥゥゥゥ……」

 

 ラファエルの叫びが空へ消える。ラファエルの魂のデータ化に成功していた。

 

「座標は……ここですか。これも何かの縁ですかね。……始めましょう、転送開始」

 

 スイッチを押すと魔法陣が光りだす。しばらくすると魔法陣は光ごと姿を消した。転送装置の画面には『転送成功』の文字が。

 だがミカエルが安堵すると同時にメキメキメキと部屋全体の悲鳴が聞こえ始めた。

 数秒後、『システム』を覆う部屋の外装が崩れ落ちる。

 

「ラスボス登場ってとこですか。なかなか面白い……」

 

 部屋を壊し、ミカエルの前に現れたのはウムル・アト=タウィル。その背後には無定形の怪物、ヨグ=ソトースの姿が。

 

 掌から取り出した槍を構え彼らに歩み寄る途中、ミカエルはある違和感を覚えた。それは以前からマークしていた英雄達の動向についてだ。

 

(英雄達が消失した? 魂ごとこの世界から消えている……)

 

 死んだことはありえない。死んだならどこかしらに魂が転がっているはずだった。

 

「まあ彼らのことは多分平気でしょう。何しろ神殺しの英雄だった妹の友人なのですから」

 

 正直勝てる気はしなかった。

 

「我々の怠慢が随分大きなツケになってしまいました。さて外なる神よ、この世界最後の生き残り、天界第二位大天使長ミカエルがお相手します! 」

 

 神へと駆けるミカエルが最期に考えてたこと、それは――

 

(ラファエルに再構築の時に服は復元されないことを言うの忘れてました……)

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「うーん……」

 

 小鳥達の歌声と木々のざわめきでラファエルは目を覚ます。

 

「……ここは?」

 

(たしかミカエルに無理矢理異世界に転送されて……)

 

 あたりは木々が生い茂っている。どうやらラファエルは森の中にいるようだ。

 気のせいか少し肌寒く感じる。

 

「え?……ええええ!? な、何で私裸なのおおおおおおお!?」

 

 スタイル抜群な自分の身体を抱きしめながら、ラファエルは悲痛な叫びを上げる。

 

(無事に転送できても裸じゃあどうしようもないじゃないのおおお)

 

 ここが森でよかった。もし街中だったら痴女のレッテルを貼られるか薄い本みたいなことになっていた。

 

「とにかく服をどうにかしないと」

 

 ゴソリ

 

 茂みに一旦隠れようとしたラファエルの背後から何かがいる。

 

(えっ、まさか人がいた? 嘘でしょ~)

 

 恐る恐る振り返るとそこには、

 

「Gumo」

 

 豚の顔をした二足歩行の生物達が立っていた。その数、三匹。

 

(オ、オークゥゥゥゥ!? しかも複数! )

 

「「「Gumoo!」」」

「イヤァァァァァァァ!!! 」

 

 一斉にオーク達がラファエルに襲いかかる。全裸で混乱したラファエルに反撃の術はなく、あっという間に捕まりオーク達の巣へ運ばれる。

 

「えっ嘘……やだ離して! 離してよ! 陵辱エンドなんてイヤァァァァァァァ!!! 」

 

 必死に助けを呼ぶが、ラファエルが巣へ運ばれるまで彼女を助ける者は一人もいなかった。

 

 




次回からはカサンドラ視点に戻ります。
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