悪役令嬢に転生したけど物理で世界最強になった件 作:Rosen 13
書庫の件がレーニャにばれてから一年が経過し、私は四歳になりました。
これから面倒だけど公爵令嬢として礼儀作法とかの教育を受けるんだろうなあ、と思っていた私に悲報。
現在、私――カサンドラ・キルシュバウムはボロい別館の一室で暮らしています……ってどうしてこうなった?
「両親のネグレクトは前から知ってたけどさあ、まさか使用人達も私を放置とかおかしいでしょう」
古びたベッドに横になりながら、思わず愚痴ってしまうのは許してほしい。正直愚痴らないとやっていけない。
私の身柄は両親が住んでいる本館でなく築数十年のボロい別館だし、使用人達は食事とか最低限の世話しかしないし、しかも実際に世話してるのが新入りのレーニャだけ。他の使用人は遠巻きに私を見るだけで何もしないし、いざ私が近づくと逃げるように去ってしまう始末。両親の指示なのか、はたまた使用人達自身の判断なのか見当がつかないが、仮にも公爵家当主正妻から産まれた長女(しかもひとりっ子)にする扱いだとは思えないね。いや、食事は質素ながらちゃんと3食出されているし、虐待されてないだけまだマシなのか?
私はもしかしたらこんな状況を過ごしたであろうゲームのカサンドラに同情してしまう。記憶が無くてこんな扱いされたらそりゃあ性格も歪むよ。
しかし、今のカサンドラは東城美波が意識の主体だ。前世であらゆる理由で何度も死にかけた私にはこの程度どうってことはない。
寧ろ前世で半年間サバンナで孤独にサバイバル体験や食人鬼が潜む呪われた孤島で殺人鬼と2ヶ月過ごしたりした方が悲惨だったわ。前者は本気で餓死するかと思ったし、後者はいろんな意味でSAN値がガリガリ削られた。両者は肉体的、精神的なトラウマになりかけたし、二度と味わいたくない地獄だったね。あれ、よく考えると今の状況ってまだ恵まれてるだと……⁉︎
いかん、まさか自分の前世がぶっ飛んでいることを今更自覚してしまうとは。思わず膝から崩れ落ちそうになるがいつまでも落ち込んでばかりじゃいられない。何とか現状を打破する方法を考えないと。
ゲームではカサンドラの幼少期について多くは語られていなかった。唯一語られていたのはカサンドラが十歳の時に第二王子と婚約したことだけだ。もし語られていないだけで実は今の状況がゲームと同じ流れだと仮定すれば、第二王子に執着してた理由は理解できる。幼少期からこのような環境で育てば精神が歪んでも不思議じゃない。その結果、多感な時期に心を許せる相手が存在しなかったゆえに、たとえ傲慢野郎の第二王子だとしても婚約者としての繋がりに依存してしまったとすればカサンドラは環境に歪められた被害者とも言えるかもしれない。
勿論この世界が乙女ゲームに似た世界ではない可能性も考慮しなければならないが、環境が環境なだけに最悪ゲーム通りの展開になる可能性も否定できない。やはり今後の参考として『トキメキ学院』の詳細を振り返る必要性があるようだ。
『トキメキ学院』の大まかなストーリーは剣と魔法が中心の世界で恋愛や友情を育む学園生活を送るという前回話した内容と同様だ。ただ入学式から卒業式までの三年間とかなり長く、イベントの数も他の乙女ゲームのそれを凌駕した。そのため全スチルを集めたいプレイヤーは辛抱強くかなりの時間を費やさなければならなかった。あまりのイベントの多さに一般プレイヤーから非難が殺到し、ついに参考書レベルの攻略本がでたほどだ。だが膨大なイベントの数の反面、攻略自体は簡単だったことで、ファンの間では攻略対象者のことを『脳内お花畑ヒーローズ』、『スーパーダメンズ』と揶揄されたりするなど散々叩かれていた。
ではその攻略対象者の詳細を確認しておこう。攻略対象者はゲーム内におけるメインヒーローで王立魔術学院があるミリム王国の第二王子であるイザーク・ローズウェンディスに宰相子息のコンラート・ベヒトルスハイム、騎士団長子息のランドルフ・ハインケス、騎士団と並び王国の主戦力でもある魔法師団の副団長子息で双子のアドルフ・ホフマン、ルドルフ・ホフマン、ヒロイン達のクラスの担任で生徒会顧問のオスヴィン・ヘラーのメインキャラ五人に加えて隠しキャラである第一王子のレオンハルト・ローズウェンディスと隣国の王族であることを隠している留学生テオドール・ヴァイスハウプトの計七人。
この『脳内お花畑ヒーローズ』の中で特に攻略しやすいのがメインヒーローでカサンドラの婚約者となっているイザークだ。周囲に甘やかされて育った傲岸不遜を地でいく俺様キャラだが、婚約者がいるにもかかわらず出会ってすぐのヒロインに惚れてしまう。乙女ゲームとは思えない攻略のしやすさと王族であることを笠に着た学院内での横暴な振る舞いからネットではゲームのメインヒーローでありながら『馬鹿王子』、『チョロい屑』など『脳内花畑ヒーローズ』より酷い評価をされた。ヒロインがイザークルートに突入すると多少性格は改善し、三年の卒業パーティーでヒロインに嫌がらせをしたといってカサンドラを断罪する。そしてそのままヒロインとの婚約を宣言してストーリーはそこで終わる。
だがヒロインがイザークのフラグを立てながら放置して他の攻略対象者のルートに進むと、スタッフは何をトチ狂ったのかなんと攻略対象者の婚約者に加えてイザーク自身がヒロインの妨害を仕掛けてくるのだ。イザークは王族の自分ではなく他の攻略対象者に近づくヒロインを許せず、あの手この手を使ってヒロインを妨害する。あまりに過激な手段で妨害してくるためイザークルートでないのにヒーロー以上の存在感を放っていた。これらを上手くかわして他の攻略対象者とイザークは最終的に改心しヒロインに謝罪するが、もしヒロインが選択肢を誤った場合はイザークに陵辱されるか攻略対象を殺されるバッドエンドが待っている。イザークの悪役令嬢を超える悪役っぷりが話題になり売り上げが伸びたのはスタッフの作戦勝ちと言えるだろう。
これらの話を聞いてお分かりいただけただろうか。私がカサンドラに転生したと気づいた時の、このトチ狂った王子が婚約者になるという絶望感を。しかも親の不正で転生した時点で悪役不可避且つ現在育児放棄気味というまさかのハードモード。まだ四歳なのに悪役回避なにそれおいしいの?な状態とか笑えないんですが……。
◆◆◆
悪役不可避の事実でいつまでも落ち込んでても仕方ないので、持ち前のメンタルの強さでなんとか切り替えるしかない。
気分転換のために私は裏庭にある巨木の目の前にやってきた。これからするのは今世では初めてになる前世でよくやっていた修業。久しぶりだけど上手くできるかな?
身体の全神経を丹田に集中させる。丹田に集まる熱を感知しようとするが、身体が前世と別物だからか中々熱を感知できない。
「集中。集中。集中。……よし、見つけた」
ようやく見つけた丹田から溢れる熱を今度は血液のように全身に巡らせ、さらにそこから溢れる熱を足裏に集中させる。足裏に集まる熱を練るように巡回させて、ゆっくりと巨木に右足を掛け、そのまま――
「よっ、ほっ、っと」
両足を乗せて
この時このまま終わらせればよかったものの、私は調子に乗って何回も登り降りを繰り返してしまった。何度目か数えなくなったあたりの登っている最中、ふと視線を感じその方向へ目を向ける。
「……⁉︎」
「あ……」
視線の先にいたのは目が飛び出さんばかりに開かれたレーニャの姿。
「お、嬢様……?」
やっばい、やっちまったぜ☆